このせつ未来SSパートVです。
なーんか長くなったので分割しました。
*初めて読む方はまずはこちらを一読ください。
気の毒な背中にバイバイと手を振った。
〜ある台所の風景〜
ある程度の準備はできた。
完成品をしばらく眺め、やっぱり浮かぶのはあの子たちの笑顔だった。
思わず頬が緩む。いけない。ぱん、と軽く頬を叩く。
ラップをして冷蔵庫の中に入れる。
エプロンを外し、そそくさと寝室への廊下を走る。
パタパタとスリッパの音が軽快に鳴り続く。
扉を開けるといつもの光景が目の前に広がっていた。
誰に似たのか、床に二人は眠っていた。
ベッドから落ちたのか、それとも降りたのか。
それでも起きない二人は凄いと思う。
絶対自分の遺伝子ではないと信じたい。
まずウチは起こしやすい方から起こす。
「ゆうちゃん、そろそろおっきしぃ。もう夕方なるえ?んもう、またお腹出してぇ…
風邪引いたらどないすんの」
「……う、みゃ」
随分長い間寝かせてしまったせいか、ゆうちゃんは少し怠げに薄く目を開けた。
いつもならなかなか起きないのはこの子の方なのだが、今日は思う存分寝かせた。
もう十分だろう。
ペシリと真っ白なお腹を叩くとこそばゆそうにゆうちゃんの顔がくしゃりとなった。
「やー」と嫌がる声を出しながらも嬉しそうだ。
そのままわき腹もくすぐってやるとキャハハと大声で笑った。
よし、これで一人は完了。
問題はあともう一人。
「こうちゃん」
ゆうちゃんとは違った意味でくしゃりと顔を歪めた。
こうちゃん、もう一度小さな肩を揺らした。
「ふぇぇ……」
涙声でうめいた。ウチは苦笑した。
そう、こうちゃんは寝起きが悪い。
すんなり起きるときもあればそうはいかないときもある。
今日はそうもいかないときだった。
「……ママ、」
こうちゃんはぐずるとウチのことをママと呼ぶ。
普段であればすぐ抱き上げてあやすのだが、今日は違う手でいこうと
決めていた。これもしつけの一環。夕べ、せっちゃんと話して決めた。
いつもならすぐ訪れるママの感触がいつまで経ってもこない。
そんな風にしてこうちゃんの眉間にますますしわが寄った。
泣く寸前、ウチは尋ねた。
「こうちゃん、今日何の日?」
「ゆうちゃんとこうちゃんのたんじょおび!」
代わりにゆうちゃんが叫んだ。
そう、夕べせっちゃんは二人に「お姉さんになる日」だと告げた。
それを聞き、二人はウチらの予想以上に気を引き締めたのが分かった。
それを証拠に涙ぐんでいたこうちゃんがピクリと肩を震わせた。
こうちゃんはぱちぱちとまばたきをし、それから小さな指で何度か目を
こすった。
「おはよ、こうちゃん。立派なお姉ちゃんやな」
自分で起き上がったのでそう言うと、こうちゃんはへへ、と照れくさそうに
もう一度目をこすった。
「ゆうちゃんは?ゆうちゃんは?」
「はいはい。ゆうちゃんも立派なお姉ちゃんや」
そう言うとゆうちゃんは鼻の頭をかいた。
朱に染まった二人の頬に触れ、ぬくもりを分けてもらった。
今度は二人とも、同じようにくしゅっとはにかんだ。
冬と春の境目にこの子たちは生まれた。
二十歳のあの日、初めてせっちゃんに思いを告げた。
冗談めかして言ったのに、彼女はウチの気持ちに気付いたのか真剣に
受け止めてくれた。
私も望んでいたことですから。
彼女はそう言ってあの子たちと同じ笑顔を見せた。
しかし、「今はダメです」とせっちゃんはウチを見据えた。
彼女は真面目だから、ウチ以上にいろんなことを考えていた。
ウチの家のこと、自分の身の上のこと、そして自分の本当の気持ち。
もっともっと、時間が必要だ。
本当は、信じられなかったのではないだろうか。
魔法でそんなことができるなど考えられない。
これは自分で調べなければ、とせっちゃんなら思っていてもおかしくはない。
実際、ウチも半信半疑だった。本当に自分たちの子どもをつくれるのか。
でも、ウチは必死だった。
彼女との絆を何らかの形として残したかった。
そうして月日は巡り、ウチらの卒業後の進路が決まった。
ウチは兼ねてからの夢だった栄養教諭、せっちゃんは魔法先生と退魔の仕事
との兼任だった。学園長、おじいちゃんから直に頼まれては断ることなどできまい。
それに、せっちゃんはウチのそばにさえいられればいい、将来についてはそう
考えていたらしい。せっちゃんにしては何て楽観的なんだろう。
そのときはそう思ったが、今はこう思う。
いつでも守れるようにそばにいたい。
言わばあの頃からの夢だったのではないか、と。
それから卒業までの間、ウチは卒論に勤しみながら研究に明け暮れた。
今にして思えば何を焦っていたんだろうと疑問に思う。
早く会いたかったのだろうか、あの子たちに。
その間にせっちゃんが一人、事を進めていたことなどウチは気付きもしなかった。
「何で一人で会いに行ったん!?それは二人でせなアカンことやろ?」
知らぬ間に京都まで足を運んでいたせっちゃんに帰ってきて早々ウチは
怒鳴り散らした。
そんなにも頼りないのだろうか。ウチは自分にも腹を立てた。
せっちゃんが肩を竦めて言った言葉は今も覚えている。
「私のけじめでしたから。ただ護衛として守るのではなく、これからはお嬢様の
そばで、家族としてあなたを守るために」
せっちゃんのくせに。
ウチは彼女の胸の中でちょっぴり泣いた。
そうして冬と春の境目、ウチらが望んだ命がようやくこの世に咲いた。
驚いたのはそれが二つであったことだ。
なんとなくどちらにも似たような子が生まれればいいな、とは思っていた。
だから双子がちょうどいいのだがそうもいくまい。
まさか冗談で言っていたことが現実のものとなってしまうだなんて。
でも、願いが叶ったのだから何も文句を言う必要はない。
二人に対面したとき、せっちゃんは今までにないくらい泣きじゃくっていた。
ウチの身に何かあったらどうしよう、とずっと心配していたようだった。
そして、それ以上に彼女をあれほどまで感動させたのは小さな小さな二人
だった。
昨夜、小さな二人の柔らかい髪を撫でながらせっちゃんはつぶやいた。
「もうこんなに大きくなったんですね」
ベッドの上ですやすやと眠るウチらそっくりの天使たち。
せっちゃんは静かに、そっと布団をかけ直してやった。
そして「残念だなぁ」とも言った。
「やっぱり、明日は休んで」
「アカンて、仕事なんやから。それに真名ちゃんに迷惑かかるやろ」
「ですが……」
「ですがも何もない。大事な仕事犠牲にして来られてもこの子たちが悲しむ
だけや」
ウチは彼女の隣に腰掛け、その落ち込む肩にそっと寄り添った。
「大丈夫。ゆうちゃんもこうちゃんも、せっちゃんの気持ち痛いほど分かっとるえ。
ウチの子やもん」
「ですが、私の子どもでもあるんですよ?」
「んー……そこはウチの遺伝子が勝っとることを祈るわ」
はは、と小さく笑ってせっちゃんは立ち上がった。
「行ってきます」
「ん。気ぃ付けてな」
見送ったその背中はいつもよりずっと小さく見えた。
つづく
なーんか長くなったので分割しました。
*初めて読む方はまずはこちらを一読ください。
気の毒な背中にバイバイと手を振った。
〜ある台所の風景〜
ある程度の準備はできた。
完成品をしばらく眺め、やっぱり浮かぶのはあの子たちの笑顔だった。
思わず頬が緩む。いけない。ぱん、と軽く頬を叩く。
ラップをして冷蔵庫の中に入れる。
エプロンを外し、そそくさと寝室への廊下を走る。
パタパタとスリッパの音が軽快に鳴り続く。
扉を開けるといつもの光景が目の前に広がっていた。
誰に似たのか、床に二人は眠っていた。
ベッドから落ちたのか、それとも降りたのか。
それでも起きない二人は凄いと思う。
絶対自分の遺伝子ではないと信じたい。
まずウチは起こしやすい方から起こす。
「ゆうちゃん、そろそろおっきしぃ。もう夕方なるえ?んもう、またお腹出してぇ…
風邪引いたらどないすんの」
「……う、みゃ」
随分長い間寝かせてしまったせいか、ゆうちゃんは少し怠げに薄く目を開けた。
いつもならなかなか起きないのはこの子の方なのだが、今日は思う存分寝かせた。
もう十分だろう。
ペシリと真っ白なお腹を叩くとこそばゆそうにゆうちゃんの顔がくしゃりとなった。
「やー」と嫌がる声を出しながらも嬉しそうだ。
そのままわき腹もくすぐってやるとキャハハと大声で笑った。
よし、これで一人は完了。
問題はあともう一人。
「こうちゃん」
ゆうちゃんとは違った意味でくしゃりと顔を歪めた。
こうちゃん、もう一度小さな肩を揺らした。
「ふぇぇ……」
涙声でうめいた。ウチは苦笑した。
そう、こうちゃんは寝起きが悪い。
すんなり起きるときもあればそうはいかないときもある。
今日はそうもいかないときだった。
「……ママ、」
こうちゃんはぐずるとウチのことをママと呼ぶ。
普段であればすぐ抱き上げてあやすのだが、今日は違う手でいこうと
決めていた。これもしつけの一環。夕べ、せっちゃんと話して決めた。
いつもならすぐ訪れるママの感触がいつまで経ってもこない。
そんな風にしてこうちゃんの眉間にますますしわが寄った。
泣く寸前、ウチは尋ねた。
「こうちゃん、今日何の日?」
「ゆうちゃんとこうちゃんのたんじょおび!」
代わりにゆうちゃんが叫んだ。
そう、夕べせっちゃんは二人に「お姉さんになる日」だと告げた。
それを聞き、二人はウチらの予想以上に気を引き締めたのが分かった。
それを証拠に涙ぐんでいたこうちゃんがピクリと肩を震わせた。
こうちゃんはぱちぱちとまばたきをし、それから小さな指で何度か目を
こすった。
「おはよ、こうちゃん。立派なお姉ちゃんやな」
自分で起き上がったのでそう言うと、こうちゃんはへへ、と照れくさそうに
もう一度目をこすった。
「ゆうちゃんは?ゆうちゃんは?」
「はいはい。ゆうちゃんも立派なお姉ちゃんや」
そう言うとゆうちゃんは鼻の頭をかいた。
朱に染まった二人の頬に触れ、ぬくもりを分けてもらった。
今度は二人とも、同じようにくしゅっとはにかんだ。
冬と春の境目にこの子たちは生まれた。
二十歳のあの日、初めてせっちゃんに思いを告げた。
冗談めかして言ったのに、彼女はウチの気持ちに気付いたのか真剣に
受け止めてくれた。
私も望んでいたことですから。
彼女はそう言ってあの子たちと同じ笑顔を見せた。
しかし、「今はダメです」とせっちゃんはウチを見据えた。
彼女は真面目だから、ウチ以上にいろんなことを考えていた。
ウチの家のこと、自分の身の上のこと、そして自分の本当の気持ち。
もっともっと、時間が必要だ。
本当は、信じられなかったのではないだろうか。
魔法でそんなことができるなど考えられない。
これは自分で調べなければ、とせっちゃんなら思っていてもおかしくはない。
実際、ウチも半信半疑だった。本当に自分たちの子どもをつくれるのか。
でも、ウチは必死だった。
彼女との絆を何らかの形として残したかった。
そうして月日は巡り、ウチらの卒業後の進路が決まった。
ウチは兼ねてからの夢だった栄養教諭、せっちゃんは魔法先生と退魔の仕事
との兼任だった。学園長、おじいちゃんから直に頼まれては断ることなどできまい。
それに、せっちゃんはウチのそばにさえいられればいい、将来についてはそう
考えていたらしい。せっちゃんにしては何て楽観的なんだろう。
そのときはそう思ったが、今はこう思う。
いつでも守れるようにそばにいたい。
言わばあの頃からの夢だったのではないか、と。
それから卒業までの間、ウチは卒論に勤しみながら研究に明け暮れた。
今にして思えば何を焦っていたんだろうと疑問に思う。
早く会いたかったのだろうか、あの子たちに。
その間にせっちゃんが一人、事を進めていたことなどウチは気付きもしなかった。
「何で一人で会いに行ったん!?それは二人でせなアカンことやろ?」
知らぬ間に京都まで足を運んでいたせっちゃんに帰ってきて早々ウチは
怒鳴り散らした。
そんなにも頼りないのだろうか。ウチは自分にも腹を立てた。
せっちゃんが肩を竦めて言った言葉は今も覚えている。
「私のけじめでしたから。ただ護衛として守るのではなく、これからはお嬢様の
そばで、家族としてあなたを守るために」
せっちゃんのくせに。
ウチは彼女の胸の中でちょっぴり泣いた。
そうして冬と春の境目、ウチらが望んだ命がようやくこの世に咲いた。
驚いたのはそれが二つであったことだ。
なんとなくどちらにも似たような子が生まれればいいな、とは思っていた。
だから双子がちょうどいいのだがそうもいくまい。
まさか冗談で言っていたことが現実のものとなってしまうだなんて。
でも、願いが叶ったのだから何も文句を言う必要はない。
二人に対面したとき、せっちゃんは今までにないくらい泣きじゃくっていた。
ウチの身に何かあったらどうしよう、とずっと心配していたようだった。
そして、それ以上に彼女をあれほどまで感動させたのは小さな小さな二人
だった。
昨夜、小さな二人の柔らかい髪を撫でながらせっちゃんはつぶやいた。
「もうこんなに大きくなったんですね」
ベッドの上ですやすやと眠るウチらそっくりの天使たち。
せっちゃんは静かに、そっと布団をかけ直してやった。
そして「残念だなぁ」とも言った。
「やっぱり、明日は休んで」
「アカンて、仕事なんやから。それに真名ちゃんに迷惑かかるやろ」
「ですが……」
「ですがも何もない。大事な仕事犠牲にして来られてもこの子たちが悲しむ
だけや」
ウチは彼女の隣に腰掛け、その落ち込む肩にそっと寄り添った。
「大丈夫。ゆうちゃんもこうちゃんも、せっちゃんの気持ち痛いほど分かっとるえ。
ウチの子やもん」
「ですが、私の子どもでもあるんですよ?」
「んー……そこはウチの遺伝子が勝っとることを祈るわ」
はは、と小さく笑ってせっちゃんは立ち上がった。
「行ってきます」
「ん。気ぃ付けてな」
見送ったその背中はいつもよりずっと小さく見えた。
つづく
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