王女はまたも笑い声

August 11 [Tue], 2015, 12:38

「もういいでしょう、王女。ではその当時、私生児の父親が誰かということなど考えもしなかったというわけですな」スパーホークは相手がかっとなって口を滑らせるのを期待して、わざと冷静な口調でそう尋ねた。
 一瞬、怒りのきらめきが目に表われたが、すぐに王女は石のベンチにもたれかかり、肉感的な目蓋《まぶた》を伏せぎみに面白がるような表情を見せて、両手を緋色《ひいろ》のローブの前に置いた。
「しばらくやっていませんけれど、今でもまだ即興詩くらいは作れるでしょう。わたくしを試してみますか、スパーホーク」
「ご遠慮します」スパーホークの声は硬かった。
「おまえの一家はお上品なことで知られていますものね。恥ずかしいこと。若い騎士だったおまえには大いに興味をそそられたものでしたのに。今やおまえは女王を失い、おまえたちの関わりを示す対《つい》の指輪まで失った。

それでもまだ女王の擁護者と言えるのかしら。あるいはエラナが回復でもすれば、おまえもあの子ともっと強い絆《きずな》を結ぶことができるかもしれない。エラナはわたくしと同じ血を受け継いでいるのですよ。この身をめぐ

るのと同じ熱い血が、あの子の身体にもめぐっているのです。わたくしを試してみれば、比べてみることもできましょうに」
 スパーホークが苦々しげに背を向けると、を上げた。
「羊皮紙とインクを届けさせましょうか、王女」ドルマントが尋ねた。「ご結婚に関する噂を否定なさる文書をお作りになるなら」
「いいえ、ドルマント、それには及びません。おまえの話を聞いていると、これには教会の利益が絡んでいるように思えます。近ごろ教会は、わたくしにあまり恩恵を施してくれてはいません。ならばなぜお返しをする必要がある

でしょう。シミュラの民がわたくしについての噂を喋々《ちょうちょう》したいのであれば、させておくがよい。舌なめずりして真実を求める者たちには、嘘を楽しませておけばよい」
「それが最終決定ということですか」
「心変わりすることはあるかもしれません。スパーホークは教会の騎士で、猊下、あなたは大司教ですわね。スパーホークに命じて、わたくしを説得させてみてはいかが。わたくしは時に簡単に説得されてしまうことがあります―

―また、そうでないことも。すべては説得する相手次第です」
「どうやらもう話し合うことはなさそうだ。ごきげんよう、王女」ドルマントはそう言うと踵《きびす》を返し、冬枯れた芝生の上を横切っていった。
「お堅いお友だちを置いてまたいらっしゃい、スパーホーク。いっしょに楽しみましょう」
 スパーホークは何も答えず、大司教に続いて庭の外に出た。
「時間の無駄だったようだ」怒りに顔を暗くしてスパーホークがつぶやいた。
「いやいや、そんなことはない」ドルマントの声はすっかり落ち着いていた。「われわれをいたぶるのに熱中するあまり、王女は教会法の大事な点を見落としてしまった。二人の証人の同席を許してしまったのだよ――わたしとき

みのね。これには署名された文書と同じ効力がある。あと必要なのは、王女が言ったことについてのわたしときみの宣誓だけだ」
 スパーホークは目をしばたたいた。
「ドルマント、あなたほど狡《ずる》い人間をわたしはほかに知りませんよ」
「認めていただいて嬉しいね」大司教は笑みを浮かべた。
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