DEPOTのおすすめ度:★★★★☆公開日:2007年4月21日
配給:東宝東和
監督:ピーター・ウェーバー
出演:ギャスパー・ウリエル,コン・リー,リス・エヴァンス
鑑賞日:2007年5月19日
MOVIX三郷 シアター2(座席数141)
【ストーリー】
1944年リトアニア。名門家の血を引くハンニバル・レクターは、ドイツ軍の爆撃により両親を失い、幼い妹とともに山小屋でひっそりと暮らしていた。そこへ、脱走兵のグルータスらがやって来て、山小屋を乗っ取り、妹を連れ去ってしまう。終戦後、ハンニバルは孤児院へ送られるが、そこはかつてのレクター家の古城で、難なく脱走に成功。長旅の末、パリの叔父を訪ねた彼を迎えてくれたのは、美しい日本女性レディ・ムラサキだった。
【レビュー】
本日2本目の鑑賞は「羊たちの沈黙」「ハンニバル」「レッド・ドラゴン」でお馴染みハンニバル・レクターの若き日を描いたサイコ・サスペンス「ハンニバル・ライジング」です。アンソニー・ホプキンスが天才精神科医にして冷酷な殺人鬼ハンニバル・レクターを怪演し、一世を風靡したレクター・シリーズの最新作にして原点となる作品ですが、なかなか鑑賞する機会に恵まれず上映終了間際になってようやく鑑賞して来ました。ハンニバル・レクター=アンソニー・ホプキンスというイメージが定着しているだけにギャスパー・ウリエルがどう演じるのか?そして、狂気の天才ハンニバル・レクターはいかにして誕生したのかに興味津々です。
今日1本目に鑑賞した「リーピング」が期待以上の“瓢箪から駒”的な作品だとしたら、この「ハンニバル・ライジング」は期待通りの“牝馬から駒”的な作品です(あっ、こんなことわざはありませんから良い子の皆はテストに書いちゃダメだぞ)。初めからある程度の期待を持って鑑賞する作品だけに期待値を大きく上回るようなこともありませんが、逆に大きく期待を裏切られるようなこともありません。まぁ、言ってみれば安定感のある優等生的な作品といったところでしょうかね。それでも、裕福な家庭に生まれたハンニバル少年が第二次世界大戦の混乱の中、両親と妹を失い、冷静にして冷酷な復讐鬼へと変貌していく様は、狂気というよりもどこか物悲しく、これまでハンニバル・レクターに対して持っていた印象や考え方に少なからず変化をもたらす作品となることでしょう。
湖の畔で妹のミーシャと楽しそうに遊んでいる少年ハンニバル・レクター。美しいリトアニアの風景から始まるこの映画は、その直後に響き渡る轟音と共に暗転しダークな世界へと突入していきます。戦火を逃れるために山小屋へと非難したレクター一家ですが、ソ連軍の戦車が給水のために立ち寄ったことでドイツ軍の戦闘機の爆撃に合い、幼い兄妹の目の前で両親は爆死。後に残されたハンニバルとミーシャはたったふたりで過酷な生活を送っていくことになりますが、ここに追い討ちを掛けるようにグルータス率いる脱走兵たちがやって来ます。彼らは幼い兄妹たちから僅かな食料を奪うが、そんなものはすぐに底がつき、吹雪の中では狩りも満足に行えない。極限状態の飢餓の中で彼らが目を付けたのは目の前にいる幼い兄妹たちだった…。どんな拷問にも屈しない屈強な人間も空腹には勝てないと言いますし、雪山で遭難した人が数人の犠牲者を出しながら下山、又は救出された時に多くを語らないのは…みたいな嘘か真か判らない逸話も耳にしたことがあります。ましてや、このような戦争という時代の中では自らが生き残るために相手を殺すということが当たり前の様に行われていた訳ですから、ハンニバル少年のような体験をした人は本当に居たかも知れませんし、その人数はデポが考えるよりも遥かに多いものなのかも知れません。
こんな壮絶な幼少期を過ごしたハンニバルも青年へと成長し、いよいよ物語も盛り上がりの様相を見せてきます。叔父を頼って施設を脱走した彼は、すでに叔父が他界したことを知りますが、妻であるレディ・ムラサキにやさしく受け入れられ人としての生活を取り戻していきます。しかし、市場で肉屋の主人ポールがレディ・ムラサキを侮辱したことから彼への怒りが憎しみに、更には殺意へと変わっていく。すでにレディ・ムラサキによって日本の“剣道”を身に付けていたハンニバルは、後日釣りに来ていたポールの首を日本刀によって切り落とす。更に成長したハンニバルは医学生となり解剖学にも精通していく一方、山小屋で彼を襲った悪夢に毎夜うなされミーシャへの思いとグルータスたちへの復讐心を高めていく。この辺りから見え始めるギャスパー・ウリエルの妖艶な魅力は、ハンニバルが行う“復讐という儀式”を時に美しく、時に優雅に脚色してくれます。殺人という残虐な行為をピアノでも弾くかのように静かに冷静に、それでいて大胆に行うハンニバル・レクターへの彼のキャスティングは大正解だったと言えるでしょうね。
さて、この「ハンニバル・ライジング」でデポが特に印象的だったのは、ハンニバルが追うもの、ハンニバルを追うもの、そして、ハンニバル自身、この3者がすべて戦争によって人生を変えられ結び付いているという事です。裕福だったハンニバルは戦争によって両親も家も財産も失い、唯一生き残った身内である妹のミーシャもグルータスたちによって殺されてしまいます。幼少期にこのような体験をした彼は、後の人生を殺人と復讐に費やしていく訳ですから戦争が幼いハンニバルに残した心の傷はとてつもなく大きなものだったと言えるでしょう。また、このハンニバルに大きな心の傷を与えたグルータスたちもある意味、戦争という大きな時代の流れに飲み込まれた犠牲者だったのではないでしょうか。戦時下に於いて彼らが行った行為は決して許されることではありませんが、現在の彼らは良き夫として、また、良き父親として普通の生活を送っている平凡な人々です。まぁ、一部、そうでない人もいますが…。そんな彼らが狂気の行動に走ってしまった理由もまた戦争という特別な時代のためであり、彼らもまたこのことによって心に傷を負っていたのではないでしょうかね。そして、ハンニバルを追い続けるポピール警視ですが、彼もまた戦争によって家族を失っています。そのことにより、彼はハンニバルに対し親近感や同情心を抱いたのではないでしょうかね、捜査のツメに甘さが目立っています。戦争さえなければ、彼らが出会うことさえなかっただろうと考えると戦争の恐ろしさと愚かさ、そして、罪深さを改めて考えさせられます。
ハンニバル・レクターという人物の誕生と共に戦争という愚行についても鋭く描いたこの「ハンニバル・ライジング」。かなりメッセージ性も高い作品だったと思います。現在でも世界のあちこちで昔と変わらず戦争が行われ、ハンニバルと同じような境遇を辿っている子供がいるのかと思うと悲しい気持ちになってしまいます。
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