花野 

April 06 [Wed], 2005, 13:27
一行は春の野原でひと時の休息をしていた。
主である殺生丸が休息の意を示すと、邪見は幸いとばかりに一息つき、心地よい陽射しにすぐに眠りこけてしまった。
一方、りんは野に咲き誇る花々にはしゃいぎ、子犬のように駆け回っている。いつもは留守番だが、今日は殺生丸も一緒だ。りんはそれが嬉しくてたまらない。
殺生丸は木陰に腰を下ろし、どこか遠くを眺めていた。その端整な顔はいつもの無表情で、何を考えているのか読み取ることはできない。
大妖である彼には休息などほとんど必要ない。だが、甘い花の香がどこからか風に乗ってやって来たとき、足は自然とその方向へ向かっていた。
ふと、殺生丸は少女に視線を移した。

弥勒登場… 

April 04 [Mon], 2005, 13:27
「おやおや、これは……」
 弥勒は目の前の光景に目を見開いた。
 この日は殺生丸と弥勒が屋敷で仕事の話をする予定だった。そこでいつも仕事の話をするときに使う部屋へ入ると、幼い少女がソファの上ですやすやと気持ちよさそうに寝ているのを、弥勒は目撃してしまったのだ。しかもネコ耳まである――。
 高校時代からの長い付き合いで、この屋敷の主である殺生丸の性格を十分承知している彼は、突然の少女の登場に驚きを隠せなかった。
「どうしたんです? この可愛い子猫は。まさか――隠し子?」
「くだらんことを言うな」
 弥勒の戯言に殺生丸が不機嫌そうに言い放つ。
「では、何なんです?」
「……拾ったのだ」
「ほう、拾った。それであなたが育ててるわけですか」
 何やら弥勒はにやにやと楽しそうだ。
「いやしかし、羨ましいですなぁ。ネコ耳の可愛らしいペットというところですか。さぞ、可愛がってあげているのでしょうね」
「……貴様と一緒にするな」
「おや、違いましたか?」
 弥勒の態度に殺生丸は益々機嫌が悪くなる。
「さっさと用件を済ませて帰れ」
「まあまあ、そう怒らずに」
「…う…ん……」
 話しているうちに目を覚ましたらしく、まだ眠たげに目をこすりながら、りんが体を起こした。
「お目覚めのようですね」
 眠りから覚めるといきなり目の前に知らない人間がいたので、りんは少し動揺した。
「ああ、大丈夫ですよ」
 驚いている様子の少女を安心させようとして弥勒が手を伸ばすと、少女はびくりと体をすくませた。殺生丸と邪見以外の人間にはまだ慣れていないのだ。暴力を受けていたこともあってか、特に大人の男を恐れる傾向があった。
 弥勒は少女が怯えているのに気づき、頭を撫でようと伸ばした手を止めた。
「りん」
 様子を見ていた殺生丸がふいに名前を呼ぶと、りんは聞きなれた声にぱっと顔を輝かせた。
「殺生丸さま!」
 嬉しそうに駆け寄ると殺生丸の足元にしがみつく。

帰るべき場所・5 

March 30 [Wed], 2005, 9:42
「殺生丸さまぁ、怖かったよぉ……」
 りんは殺生丸の足元に抱きついた。殺生丸はりんに怪我がないことを確認すると、片手で軽々と抱き上げる。
「殺生丸さま、戻って来てくれたんだね。りんね、置いてかれちゃったのかと思ってすっごく悲しかったの」
「……そうか」
「うん!でも、もう平気だよ。だって殺生丸さまがお傍にいてくれるもん!」
 さっきの悲しい気持ちはどこへやら、りんは満面の笑みで殺生丸の肩にしがみついた。
「せっ殺生丸様〜。お待ちくだされ〜」
 ようやく追いついた邪見が息を切らしながら走ってくる。
「ななっ、り、りん!? せ、殺生丸様いったい……」
 邪見は主の腕の中で笑っているりんを見て驚愕した。
「行くぞ……」
 邪見に返事などくれてやる必要も無いと、殺生丸はまた下僕を置いてさっさと行ってしまう。
 ――はぁ〜、また殺生丸様の気紛れに付き合わねばならんのか……。
 邪見はため息をつきつつも、なにやら心の重荷が取れたような気がしていた。しかし、またりんの世話をしなければならないのかと思うと、気が重くなるのだった。

 りんは不安から解放されて安心しきったのか、すぐにすやすやと寝息を立てはじめた。
 殺生丸には何故自分がりんの元に戻ったのか分からなかった。ただ、あの笑顔が奪われるのは気に入らなかった。
 ――つくづく不思議な娘だ。大妖である自分を恐れもせず、ましてや傍にいたいなどと……。愚かで卑しい人間のくせに、己の心を惹きつける。己はこの未知なる少女の行動に興味を持っているのだ。暫くそれを楽しんでみるのもよかろう。
 人の子よ、ついてきたければくるがいい。望みどおり傍に置いてやる。だが、興味が無くなったそのときは――
「…ん……」
 殺生丸は一瞬口元に残酷な笑みを浮かべたが、りんが身じろぎすると少女に視線を落とした。りんはどんな夢を見ているのやら、むにゃむにゃと何事かを言っている。その顔は幸せそのもの。
 殺生丸は先ほどの残酷さは消え、いつもの無表情に戻っていた。だが、その瞳には心なしか穏やかな光を湛えていた。

―終―

帰るべき場所・4 

March 29 [Tue], 2005, 15:02
目を覚ますと、あの人がりんの顔をじっと見つめていた。りんの意識がはっきりするまでずっと腕の中に抱いてくれていた。
 それからも、りんがついてくるのを黙って許してくれた。虐げるでもなく、罵声を浴びせるでもなく、ただ傍に置いてくれた――それだけでりんは嬉しかった。
 ――でも、殺生丸さまはりんなんかと一緒にいたくないんだね……。
 大好きな人にとって自分は邪魔な存在でしかないのだと思うと、りんは悲しくてじんわり視界が潤んできた。泣くまいと唇をきゅっと結ぶが、意思に反して涙が溢れそうになる。
 ――ガサガサッ
 突如、草むらから物音が聞こえ、りんは弾かれたように顔を上げた。
「殺生丸さまっ!」
 しかし、期待とは裏腹に草むらから出てきたのは数人の男達だった。粗末な鎧を身につけ、腰には刀を携えている。
「んん? なんだ、人間の小娘じゃねぇか。村の生き残りか?」
 ――や、夜盗……っ
 りんは恐怖で体がすくんだ。あの日の恐ろしい光景を思い出す。
 家族が目の前で次々に殺されて、何もかもが血に染まってゆく……。
 呼吸が荒くなり、体が震えだす。りんは錯乱状態になっていた。
「……ふうん、けっこう可愛い顔してんじゃねぇか。売ったらどれくらいになるかな」
 怯える少女に男が近づいていき、手を掴んだ。
「っ! やだっ離して!」
 りんは必死に抵抗するが、少女の力では適うはずもない。
「来いっ」
「いやぁっ! ――殺生丸さまぁっ!!」
 高く叫んだ瞬間、何かが空を切った。
「ぐっぐわあぁぁっ!!」
 男の叫び声と共に、きつく掴まれていた手が離れた。
 ぎゅっと瞑っていた目を開けると、そこにはりんの大好きな人がいた。
「殺生丸さまっ!」
 殺生丸は男の手を掴み、やすやすとねじ伏せる。野原には男の叫び声だけが響いていた。
「こっ、こいつ妖怪だ!」
 夜盗達に向かって殺生丸がジロリと睨みつける。
「……失せろ」
「ひっ、ひぃぃぃ!」
 低い声で凄むと、男達は叫びながら逃げていった。

帰るべき場所・3 

March 28 [Mon], 2005, 13:10
 ――突然、殺生丸が足を止めた。
「せ、殺生丸様、いかがされました?」
「…………」
 邪見の問いかけに返事はない。
 ――血の…臭い……。それも大勢だ。人里が襲われたのか……。
 近くに妖怪の臭いはしない。ならば夜盗か何かだろう。
 そんなことなどどうでもよい。だが、殺生丸の心をざわつかせるのは、それがりんを置いてきた場所の近くだということだ。見つかれば、りんの命はどうなるか分からない。
 ――何を迷う。小娘の命などどうでもよいではないか。己の知ったことではない。……知ったことではない――
 ――殺生丸さまっ!
 自分を呼ぶ、りんの笑顔が脳裏をかすめる。
 「って殺生丸様!? どちらへ?」
 突然立ち止まったと思えば、踵を返してさっさと行ってしまう主に邪見は困惑しつつも、置いていかれまいと慌てて後を追った。

 りんは野原に独りぽつんと佇み、いつものように花を摘んでいた。辺りはすでに暗くなり始めている。
 ――殺生丸さま、もう帰ってこないのかな……。やっぱり、りんのこと嫌いなのかな……。
 りんの問いかけに返事がないのはいつものことだ。それでも今までは必ず戻って来てくれていたのに……。
 りんは自分があの妖怪達にあまりよく思われていないのは分かっていた。殺生丸が人間を嫌っていることも、邪見がいつも口にしていたので承知している。
 それでもりんは殺生丸が大好きだった。
 一人ぼっちになってから、りんを気に掛けてくれる人は誰もいなかった。村の者からは煙たがれながら暮らしていた。たいした働きもない小娘一人に食べ物を与えてやる余裕など、村には無かったのだ。だから村人達はりんを働かせた。幼い少女には辛すぎる厳しい仕事もやらせた。しくじれば必要以上に殴られた。
 あの日も、殴られて顔を腫らしていた自分に、あの人は声をかけてくれた。 
 ――嬉しかった。
 自然と笑顔がこぼれた。家族がいなくなって初めて笑った瞬間だった。
 それから、村が狼に襲われ、りんもまた狼に追いかけられた。森の中を逃げながら、あの人にもう一度会いたいと思っていた。そこで意識は途切れた。

帰るべき場所・2 

March 27 [Sun], 2005, 11:50
 ――翌朝になっても、殺生丸達は戻ってこなかった。
 昨夜りんは遅くまで起きて殺生丸の帰りを待っていたが、とうとう姿を見ることなく、いつの間にか眠ってしまっていた。
 朝になり、はっと目を覚まして辺りを見回してみても、大好きな人の姿はどこにもなかった。
「殺生丸さま………」
 りんの声が切なく響いた。

 殺生丸はりんを置いた場所から数キロ離れた森の中を進んでいた。
 邪見はりんの所に戻る気配のない主に、内心ほっとしているような、困惑しているような、複雑な心境でおろおろと主の後をついていく。
 殺生丸はそんな邪見のことなど一向にお構いなしに、ただりんから遠ざかるように森を突き進むだけだった。
 ――殺生丸様はいったいどうするおつもりなんじゃ……。まさか本当にりんを捨てていく気か? ……いや、これが主の本来あるべき姿はないか。人間の小娘なんぞを連れ歩くなんて殺生丸様らしくもない。
 邪見は長年殺生丸に仕えてきたが、最近の主の行動には驚かされっぱなしだった。あれほど人間を忌み嫌っていた主が、人間の小娘を助け、さらには連れ歩くなど……。
 ――ふん、小娘がいなくなればせいせいじゃ。あんなうるさい小娘の世話などやってられるか。 ……しかし、――
 邪見はこれまで下僕として主に従い続けてきた。その努力もむなしく、主には足蹴りにされたり時には殺されかけたりと、ろくな扱いは受けていない。
 だが、少女はそんな自分に敬意を持って接してくれた。「邪見さま」などと呼ばれたのは何百年ぶりだろうか。
 ――殺生丸様……。
 邪見はただ主の意思に任せることしかできなかった。

帰るべき場所 

March 25 [Fri], 2005, 14:36
 それは殺生丸がりんを連れて間もない日のこと――

「殺生丸さまっどこ行くの? ねぇ、りんも行っていい?」
「うるさいぞ小娘っ。殺生丸さまはお忙しいのだ。おまえなんぞがついて行っていいわけがなかろう!」
 邪見が騒々しく怒鳴りたてる。
「じゃあ、りんここで待ってるねっ」
 りんは邪見の小言にはめげずに殺生丸に一生懸命伝えた。
 殺生丸はそんなりんの声が聞こえているのかいないのか、いつもと変わらぬ無表情でりんを見向きもしない。
 りんを拾ったのはだたの気紛れだった。他に意味などない。気に入らなければ、そのか細い喉を己の鋭い爪で一裂きにしてやればいい。だがりんはそんな自分の考えなど知るはずもなく、一心に慕い好意を向けてくる。
――愚かな娘だ……。
 殺生丸は少女を嘲笑った。
 己が他からどれほど恐れられている存在か知りもせず、妖怪のあとを好んでついてくる。この身を取り巻く凄まじい妖気に、誰もが恐怖し逃げてゆく。自分の命を守る術さえ持たぬ非力な人間の小娘。
 妖怪の傍に寄ってきては話しかけてくる。長年己に仕えている邪見でさえ、むやみに近寄ろうとはしない。
 怖いもの知らずとはこのことか。それとも少女はたんに頭が弱いのか。殺生丸には理解し難い存在だ。
 だが、そんな取るに足らない人間の小娘を連れ歩いている自分自身を図りきれないでいるのも事実であった。そのことが殺生丸を不快にさせる。
 殺生丸は密かに苛立っていた。それが、少女に対してなのか己自身に対してなのかは分からなかったが、この不快な気持ちをさっさと消してしまいたかった。
 そう、この少女がいなくなりさえすれば、また元通りの生活に戻るはずだ。この不快感もなくなるだろう。いちいち少女の元に戻る必要もない。
 さっさと捨ててしまえばいい――
「殺生丸さま………?」
 りんは殺生丸のいつもと違う不穏な様子を感じ取ったのか、大きな瞳を不安げに揺るがせながら見上げてくる。
「いくぞ…邪見」
 殺生丸はそんなりんを振り切るように、足早にその場をあとにした。
「殺生丸さまぁー、戻ってきてねーっ」
 後ろでりんの必死な声が聞こえてくる。
 りんはまるで捨てられた猫のような顔をして、遠ざかる殺生丸の後姿を見つめていた。

猫りん・6 

March 24 [Thu], 2005, 14:47
「ニャホニャホタマクロー」……妙にツボにはまって思い出しては笑いこけてました。トリビア見た人は分かるはず。あの猫キャラかわいいよっ!昨日はいつの間にか歌を口ずさみながら皿洗いしてましたよ。恐るべしニャホニャホタマクロー……。
でわ。


「りん……おまえは今日からここで暮らすのだ」
 りんは驚きと嬉しさが混ざったような表情をしていたが、やがて不思議そうな顔をして、まだ話すことに慣れないのか途切れがちに尋ねた。
「どうして…殺生丸さま…は…りんに…優しくしてくれるの?りんが…気持ち悪くないの?」
 殺生丸はたどたどしく言われた問いに虚をつかれ、怪訝そうな顔をした。
「なぜ……そのようなことを聞く?」
「だって、りんは…フツウじゃないから……。バケモノ…だから……」
 幼いりんから発せられた言葉に怒りが小さくこみ上げた。
「……誰が…そんなことを言った」
「りんをいじめる人達は……みんな言う…よ?」
「あ……ご、ごめんなさい……」
「なぜ謝る?」
「殺生丸さま…お、怒ってない……?」
 不安そうに見上げてくる少女に、殺生丸は密かに溜息をつき、その柔らかい頬に手を掛けて上向かせた。
「おまえはバケモノなどではない」
 ――こんな幼女を傷つける奴等のほうが、ずっとバケモノに近いではないか――
 りんはその言葉を聞いてから殺生丸の手に頬を摺り寄せ、
「ありがとう……殺生丸さま。大好き――」
 そう言って、殺生丸の胸に顔をうずめた。
 殺生丸は両腕で小さな体を優しく包み込み頭を撫でてやった。
 りんは暖かさに包まれながら、昔同じように母親に抱かれ、頭を撫でてもらったときのことを思い出していた。
 知らぬ間に泣いている自分に気づいた。家族がいなくなってから、今までどんなにつらくても泣いたことはなかった。家族や今までのことを思い出すとますます涙が止まらなくなった。
 孤独になってから安心して過ごせた日などなかった。りんはこのとき、初めて心から安心して誰かに身を任せることができた。
 
 小さく泣いていた少女は、今はすやすやと腕の中で眠っている。幼女特有の体温の高さに少々驚いたが、そんな暖かさも上下する体の感触も、規則正しい穏やかな息遣いも、何もかもが心地よかった。

猫りん・5 

March 23 [Wed], 2005, 11:22
 殺生丸は自室のソファに座って書類に目を通していた。
「殺生丸様、娘を連れてまいりました」
 扉の向こうから老僕の声がして殺生丸は「入れ」と一言返答した。
 ガチャリと扉が開く音がして書類から目を離すと、ぴょこりと猫耳を覗かせおずおずと部屋に入ってきた。
 汚れの落ちた面は、本来の透き通るような白い肌を取り戻してほんのり桜色に色づき、邪見が用意したのか、レースを多く使った小綺麗なドレスは恐ろしいほど少女によく似合っている。以前の小汚くみすぼらしかった姿が嘘のように、少女は愛くるしかった。
「来い」
 落ち着かない様子の少女を自分の方に呼び、「座れ」と一言促した。りんはそのままペタンと絨毯の上に座り込んだ。
 そんな少女の様子を一見して、殺生丸はりんの脇に手を掛けると、すくい上げて膝の上に置いた。りんは少し驚いたような顔をして殺生丸を見つめ返した。
 殺生丸がその長い指をりんの頬に当てて軽くなぞると、りんは可愛らしく小首をかしげた。
「痛むか……?」
 りんはきょとんとしていたが、傷のことを言っているのだと分かると、ほんわりと微笑み首を小さく横にふった。
 ――また……――
 数日前に、ぼろぼろの少女が自分に向けたあどけない笑顔が、再び自分の目の前にある。この花が咲くような笑顔を、自分の傍に留めておきたいという衝動が、どこか心の奥底に生まれた。
「……せ……しょ………」
 突如発せられた声に、殺生丸は意識を少女に戻した。
「せっ…しょ…ま……さ……」
 殺生丸は必死に声を出そうする少女を黙って見守った。
「せっしょう…まる…さま……」
「ああ……」
 頭を撫でてやると、りんは嬉しそうに擦り寄ってきた。
「名を言えるか……?」
 すると少女は満面の笑みを浮かべ、
「りんっ!」
 はっきりした声でそう答えた。

猫りん・4 

March 21 [Mon], 2005, 17:47
 翌朝になって、りんはゆっくりと目を開いた。
 暖かい日差しが眩しかった。
 ぽーっとしたまま辺りを見回すと、りんの見知らぬ空間が広がっていた。
 広い部屋には見たこともない豪華な家具が置かれてあり、自分の横たわっているベッドも大きくてふかふかと心地よい。
(ここ、どこだろ………りん、どうなったの?
 恐い人たちにに追いかけられて、捕まっちゃって………)
 その時、カチャリと音がしてドアが開いた。
(あ………)
 入ってきたのは、傷つき動けないでいるのを見つけ、りんが手当てをしたあの綺麗な人だった。突然いなくなってからずっと気になっていた。もう二度と会えないだろうと思っていたのに、また会えるなんて………これは夢じゃないだろうか。
「気がついたか」
 驚いた様子でりんが目を見開いていると、低くてよく通る声が少女に呼びかけた。
「まずは風呂に入れ」
 りんは全く状況を呑み込めず、ぽーっと殺生丸を見つめていた。
「………よもや耳も聞こえんか」
 殺生丸が怪訝そうな顔をしたので、りんは慌ててベッドから飛び出たが、着ていた殺生丸の大きなシャツにつまづいて、びたーんと前のめりにこけた。
 顔を上げると殺生丸が見下ろしていた。ふいに手を伸ばしてきたため、りんは反射的にびくりと身を硬くした。殺生丸はそれに気づいたが、そのまま片手でりんの小さな体を抱き上げた。
(え………?)
 りんはふわりとした感覚に驚いて、目の前にある綺麗な顔を、まんまるの大きな瞳で見つめた。やがて、暖かい体温の心地よさに安心して、腕の中にすっぽり納まった。
 殺生丸はりんを風呂場まで連れて行くと、あとは邪見に任せてどこかへ行ってしまった。
「まったく。なんでわしがこんなことを………」
 殺生丸様はいったい何を考えていらっしゃるのか、などとぶつくさ文句を言っている邪見に世話をしてもらい、りんは風呂に入った。
(せっしょうまるさまって言うんだ、あの人………)
 お湯が傷にしみて痛かったが、りんは殺生丸の名前を知ることができて、なんだか嬉しくなった。
P R
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