夕暮れ時にアラベスクを

June 24 [Thu], 2010, 18:44
この家で夕暮れ時をすごすことは、ほぼない。
ふだんは朝から夜遅くまで働き蜂みたいにせっせと働いているし、
休みの日は休みの日でどこかへ出かけてしまう。

久しぶりの晴れ間、
久しぶりの暑さに耐えかねて、今日は早めに帰ってきた。

買ってきた朝顔の香りのする蚊取り線香と、
100均の風鈴を縁側に飾って、
ふう、とひとやすみ。

することもなくてテレビをつけてみるけれど、
どのチャンネルもくらいニュースやサッカーのばか騒ぎを伝えるだけで、面白くない。
ラジオをつけても、お気に入りのトーキョーエフエムも、ジェイウェーブも、
くだらない番組しかやっていないことを知っている。

テレビもラジオも、嫌いなわけではないけれど、
なんとなく、今日の気分とは、
ちがう。


あー、クラシックが聴きたいなあ。
できれば、ドビュッシーかサティ。
「美しい夕暮れ」なんて聴けたら最高なのに。

あいにくうちには、ドビュッシーのCDもないし、プレイヤーも壊れてる。
そんなことを考えながら、ソファでうとうとしはじめた。
あたたかいという表現が適切なのか、涼しいという表現が適切なのか。

そんな微妙な季節の夕方午後18時。
部屋の中は無音。
時計のちくたくという音と、庭でむしがごそごそと動く音、
家路へ急ぐ鳥の声、遠くで子供の遊ぶ声。











18時35分。
わたしはドビュッシーの「アラベスク」で目を覚ました。
夢うつつの中で、ついに幻聴が聞こえるようになったかと思った。

音が流れ出すようなアラベスク。
あまりに流麗で、誰かがCDをかけているのかとも思ったが、
どうやら違うようだ。


この住宅街のどこかの家の誰かが、
この夕暮れ時に、私と同じことを考えて、ドビュッシーを演奏している。


私は縁側へ出て、耳を澄ました。
音が伸び詰めて上り詰めて、そしてさいごの鍵盤が叩かれたとき、
私は小さな拍手を、見えない誰かへ送った。






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