偶然の法則
2005年11月18日(金) 11時11分
偶然という出来事が自分自身のみに起きて、その言葉の意味をやっと重く感じられる。夏が終わり、秋に入るこの心地のいい時期に私は9年間勤めていたホテルが、
他のホテルと合併されるという事で、朝から新しいホテル経営の企画会議に出席していた。
少しの休憩時間を使って、外の空気を吸いに中庭へ出て背伸びなどをしていた所、後ろからタバコの煙の匂いがする。
自分で吸う訳ではないのだけれど、その匂いが昔懐かしい匂いだった。
ふと振り返る。
一瞬息が出来ない位に驚いた。
「拓海だ・・。」癖のあるタバコの持ち方、サービス業らしくない長髪。
9年間という空白が無かったかのように彼は変わっていない。
前髪の隙間からこちらを覗く仕草も変わっていない。
「瑤子?」彼も驚きを隠せない様だった。
どちらからともなく歩き出し、歩み寄った。
お互い差障りの無い程度の挨拶をし、その場を離れた。彼も会議が始まるという。
午前の会議が終わり、午後は合併するホテル側からも会議に参加をすると言う事になっていた。
軽い昼食をとり、午後の会議に臨む。
私達が入って行くと、相手のホテルの方々は深々とお辞儀をして迎えてくれた。
視線を感じその視線を辿ると、拓海がいるではないか。
彼は相手ホテルの支配人補佐をしていたのだ。
会議の間中お互い落ち着かず、視線をぶつけたり、ソワソワしてしまい、会議どころではなかった。
2時間程たっただろうか?会議は終了し、会場を後にした。
「瑤子、これから時間はあるかい?」
「ええ、もう他に仕事も入っていないし。」
「じゃあ、久しぶりに食事にでも行こう。」
私達は昔よく2人で行ったレストランへ入り、そこで色々な話をした。
「どうしてた?この9年間?」
「色々あったわ、企画のマネージャーをしたり、大きな仕事を任せられたりね。」
「そうか・・・。結婚したって聞いたけど・・・。」
「・・・。まあ、人並にね・・・。だってもう35よ。売れ時はとっくに過ぎたわ。あなたは?」
「僕は変わらないさ。」
とりとめのない話をした。私は大学を卒業し、ちょっとした有名なホテルへ就職した。そこの先輩が拓海だった。
お互い気になり出し、付き合い始めて2年、彼は私を置いてアメリカへ旅立って行ってしまった。
私の知っている彼は、アメリカへ渡りサンフランシスコの大学でホテル学を学んでいた・・・と言う事までだった。
それからの彼は、サンフランシスコの有名なホテルを渡り歩き、日本へ帰って来て、今のホテルへ落ち着いたと言う事らしい。
「拓海らしい生き方ね。前と全然変わっていない。いつになったら落ち着くの?」彼がかつて私に向けていた、優しさを含んだ眼差しに
心地良くなって、それを覚られまいと遂言葉に出てしまった。
「・・。久しぶりに会ったのに御小言かい?」
「違うわ。感心しているのよ。自分を貫いているってね。前の私なら怒っていたでしょうね。でも今は違うのよ。大人になったわ。
色々な事を色々な意味で許せるようになったのよ。」
「女の人は強いね、変われるから。それに比べて男は弱い。歳を重ねる毎に孤独になっていくよ。だから日本へ帰って来た。」
「あの頃の私達って、お互いを束縛しあって、お互いの悪い所しか目に入らなくって、相手の隙を攻撃して・・・。私達って、お互い牙を向け合って睨み合っていたものね。
そんな事で上手く行く筈無かったわ。心に大きな傷を負って、血を流していた。あの時は本当に心が痛かったわ。」
「僕も同じさ・・・。もう僕も若くないし、本音は落ち着きたいよ。心も穏やかで平和に暮らしたいと思っている。」
「笑えちゃうわね、あなたがそんな事言うのって・・・。ガールフレンドはいるの?」
「・・・。ここ1年近く居ないな。君より2歳も上だし、乾いちゃっているかな?」
顔を見合わせて、笑う。
彼とこんなに穏やかな時間を過ごしたのは、初めてかもしれない。
「・・・。僕は、決して君が嫌いになって別れた訳じゃない。どうしてもアメリカで勉強したかったんだ。その事をどうしても君に伝えたかった。
ずっと心残りだったんだ。あんな別れ方だったから。」
「・・・。わかっていたわ。でも私にどうする事が出来た?泣きながら行かないでって言った方が良かった?そんな事する私ではない事はあなたが十分解っていたでしょう?」
約束をしていた空港へ行かなかったのは、自分なりにけじめを付けたかったから、そして仕事を変えたり、引っ越したりしたのは、私の心の悲しみのあらわれよ。」
「・・・・。」
「でもよかったわ。こうしてあなたに逢えて、偶然ってあるのね。」
「僕も君に逢えた事、良かったと思っている。本当は恐かった・・・。」
「そろそろ行かないといけないだろう。ご主人も待っているんだろ?」
「そうね。心配しているかも知れないけど、今日は会議で遅くなるって伝えてあるから大丈夫よ。それより近くに素敵なカフェバーがあるのよ。行ってみない?」
「ああ、瑤子がいいなら・・。」
私達は歩き出した。
綺麗な夜景の見えるカフェバーで、乾杯しよう。これから始まるであろう2度目の偶然に。
そしてその時に伝えよう、私達の結婚はもう3年前にとっくに終わっているって事を・・・・。
どちらからともなく歩き出し、歩み寄った。
お互い差障りの無い程度の挨拶をし、その場を離れた。彼も会議が始まるという。
午前の会議が終わり、午後は合併するホテル側からも会議に参加をすると言う事になっていた。
軽い昼食をとり、午後の会議に臨む。
私達が入って行くと、相手のホテルの方々は深々とお辞儀をして迎えてくれた。
視線を感じその視線を辿ると、拓海がいるではないか。
彼は相手ホテルの支配人補佐をしていたのだ。
会議の間中お互い落ち着かず、視線をぶつけたり、ソワソワしてしまい、会議どころではなかった。
2時間程たっただろうか?会議は終了し、会場を後にした。
「瑤子、これから時間はあるかい?」
「ええ、もう他に仕事も入っていないし。」
「じゃあ、久しぶりに食事にでも行こう。」
私達は昔よく2人で行ったレストランへ入り、そこで色々な話をした。
「どうしてた?この9年間?」
「色々あったわ、企画のマネージャーをしたり、大きな仕事を任せられたりね。」
「そうか・・・。結婚したって聞いたけど・・・。」
「・・・。まあ、人並にね・・・。だってもう35よ。売れ時はとっくに過ぎたわ。あなたは?」
「僕は変わらないさ。」
とりとめのない話をした。私は大学を卒業し、ちょっとした有名なホテルへ就職した。そこの先輩が拓海だった。
お互い気になり出し、付き合い始めて2年、彼は私を置いてアメリカへ旅立って行ってしまった。
私の知っている彼は、アメリカへ渡りサンフランシスコの大学でホテル学を学んでいた・・・と言う事までだった。
それからの彼は、サンフランシスコの有名なホテルを渡り歩き、日本へ帰って来て、今のホテルへ落ち着いたと言う事らしい。
「拓海らしい生き方ね。前と全然変わっていない。いつになったら落ち着くの?」彼がかつて私に向けていた、優しさを含んだ眼差しに
心地良くなって、それを覚られまいと遂言葉に出てしまった。
「・・。久しぶりに会ったのに御小言かい?」
「違うわ。感心しているのよ。自分を貫いているってね。前の私なら怒っていたでしょうね。でも今は違うのよ。大人になったわ。
色々な事を色々な意味で許せるようになったのよ。」
「女の人は強いね、変われるから。それに比べて男は弱い。歳を重ねる毎に孤独になっていくよ。だから日本へ帰って来た。」
「あの頃の私達って、お互いを束縛しあって、お互いの悪い所しか目に入らなくって、相手の隙を攻撃して・・・。私達って、お互い牙を向け合って睨み合っていたものね。
そんな事で上手く行く筈無かったわ。心に大きな傷を負って、血を流していた。あの時は本当に心が痛かったわ。」
「僕も同じさ・・・。もう僕も若くないし、本音は落ち着きたいよ。心も穏やかで平和に暮らしたいと思っている。」
「笑えちゃうわね、あなたがそんな事言うのって・・・。ガールフレンドはいるの?」
「・・・。ここ1年近く居ないな。君より2歳も上だし、乾いちゃっているかな?」
顔を見合わせて、笑う。
彼とこんなに穏やかな時間を過ごしたのは、初めてかもしれない。
「・・・。僕は、決して君が嫌いになって別れた訳じゃない。どうしてもアメリカで勉強したかったんだ。その事をどうしても君に伝えたかった。
ずっと心残りだったんだ。あんな別れ方だったから。」
「・・・。わかっていたわ。でも私にどうする事が出来た?泣きながら行かないでって言った方が良かった?そんな事する私ではない事はあなたが十分解っていたでしょう?」
約束をしていた空港へ行かなかったのは、自分なりにけじめを付けたかったから、そして仕事を変えたり、引っ越したりしたのは、私の心の悲しみのあらわれよ。」
「・・・・。」
「でもよかったわ。こうしてあなたに逢えて、偶然ってあるのね。」
「僕も君に逢えた事、良かったと思っている。本当は恐かった・・・。」
「そろそろ行かないといけないだろう。ご主人も待っているんだろ?」
「そうね。心配しているかも知れないけど、今日は会議で遅くなるって伝えてあるから大丈夫よ。それより近くに素敵なカフェバーがあるのよ。行ってみない?」
「ああ、瑤子がいいなら・・。」
私達は歩き出した。
綺麗な夜景の見えるカフェバーで、乾杯しよう。これから始まるであろう2度目の偶然に。
そしてその時に伝えよう、私達の結婚はもう3年前にとっくに終わっているって事を・・・・。
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- 短編小説 |
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