壱番 序章

December 10 [Wed], 2014, 19:31
年末も残りわずかな12月某日。

痴漢にあった。


自分は男である。漢ではなく、男である。
ある漢に痴漢されたのだ。
類稀な例であるに違いない。
そこからこの青天の霹靂というか、もう日常に辟易するというか、訳の分からない日々が始まるのである。


とある金曜日。
年末真っ只中で仕事も忙しい。
遅くまで必死に残業し、ようやく1週間が終ったと言う開放感と、1週間の疲れが一気に押し寄せる疲労感が入みだりながら、帰途につく。

週末の夜の熱気に包まれた電車にのりこんだ。下車駅は各駅停車の電車だけがとまる小さな駅である。
しかしながら、電車の種別も気にせず乗り込んだのが運の尽きである。後々気づくことになるが、下車駅に停まらない電車に乗り込んでしまったのである。
乗車してまもなくドア横の空間に立ち位置を取る。
電車内は、かなり混んでいた。

1週間の出来事やら、一日あったこと、残してきた仕事のこと、週末の予定などを考えているうちに、眠気に襲われる。
さけ酒は一滴も飲んでいないなかで、立ちながら居眠りをはじめた。
途中の停車駅で人が入れ替わるが、電車の壁に背をつけてへばるように立っていたので人に押されることもなく、逆に乗り込んできた人がこちらに押されてくるのが何となくわかった。

かなりなすし詰め状態ではあったので、どこかしらに人やかばんが体にあたっていた。
そもそも電車に乗るときは、痴漢冤罪に巻き込まれるのを防ぐために、手持ちのかばんを腕にかけて、高い位置で腕組みをしている。こうしておけば、自分の前面は人につくことはないし、手も見えるところにでている。裏を返せば、自分の下半身付近は無防備な状態である。痴漢なんぞ自分は標的対象外とあると思ってた。

何かが下半身に触れている・・・

さしあたりだれかのかばんだろう、、眠りの世界と現実世界をいったり来たりしながら考えていた。
下半身の違和感がありながら、ふと自分が降りるはずだった駅に似た風景が通りすぎていくのを車窓から見えた。


あ、乗るべき電車間違えた・・

そう感じながら、一気に現実世界に引き戻される。


あれ・・・


下半身触られてる


しかも、チャックあけてるし、生で触ってるし。


何事だ。
っていうか、なんで?どうして?
夢?
ここどこだっけ?
だ、だ、誰?

自分が男であるのを必死に思い出す作業もあり、現実を現実として受け入れる作業もあり

会社いかなくちゃ
いや、帰るんだ!


要はパニックなのだ。
なにも考え付かない。


ふにゃふにゃしたわが息子が、得体の知れない人物に弄ばれてる。


痴漢だ

こいつが犯人か。
背の小さい、マスクをした中年のサラリーマンが立っていた。
ごく普通の、どこにでもいるような普通のサラリーマンだ。

こいつが触ってる

こう断定するまでに時間を要した。
動ける範囲で少し身を翻すが息子を離さない。左手でしっかり捕まえてる。

わが息子が、誘拐されるんだろか

調子こいて右手でケツも触ってるよね。



身を翻す以外に何もできない。次の行動が思い浮かばない。


オロオロ・・・


いよいよ停車駅が差し迫る。

捕まえて警察につきだそう。
そう思い至ったのは駅でドアが開くギリギリのところだ。

犯人の左手をわが息子から引き剥がし、
何やってるの?と一言かけ、腕をつかんで駅にひきずりおろした。


かくして、長い夜が始まった。
プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:とかりー
読者になる
2014年12月
« 前の月  |  次の月 »
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
最新記事
最新コメント
ヤプミー!一覧
読者になる
P R
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
http://yaplog.jp/charitokara/index1_0.rdf