『さや侍』を観賞しました。

July 21 [Thu], 2011, 18:40
綺麗な幕切れの映画だなあと思いました。前二作の実験的色合いはかなり弱まり、劇場内の反応も悪くなかったです…ア、すすり泣きの音もチラホラありましたよ。

元々、松本人志の笑いはウェットな要素が強く、人間の哀れや情けなさや滑稽さ、カッコ悪さを浮き彫りにさせる事で笑いに繋げる傾向があり、ややもすると、観てて辛くなる時もあるくらいです。

個人的には笑いとは、人や物や現象等がぶつかり合っての化学反応だと考えています。
最初から笑わせますよ、笑わさなくてはならないなどという高いハードル設定は、作品的にはかなりの足枷になるのではないでしょうか。

殿様の子供を笑わす事が出来ないのなら自害、という映画の設定は分かりやすいけれど、実際の芸を観てみるとやはり笑えないし、映画が足踏みしているように感じます。
勿論、その芸ネタを考える際の父娘のドラマはありますが、情感的に盛り上がった分、笑えない芸で観る側のテンションは迷うばかりです。

映画『さや侍』は、まさに刀の無い『さや』だけの笑いに包まれた映画です。

オープニングの、主人公が刺客達に襲われるくだりは、どこか懐かしくも新しいテンションの映画の予感がしたのですが、結局、そこだけでした。

情感という部分では、確かにウルウルさせられました。
特に、芸を披露する最後の日(つまり切腹の日)、覚悟を決めた父が力強く娘の手を握り、父娘二人で前を向いて歩こうとした矢先
、娘が心底嬉しそうに後ろを(カメラを)振り向いた時の、それまで一度も見せなかった子供らしい笑顔は今でも忘れられません。

賛否両論はあったようですが、父の死後、坊主が亡き父の残した「娘に捧げる詩」を唱える(?)くだりは、悲しくも素敵でした。

映画のオチとなるギャグも、ネタふりが効いていて気持ちの良い笑いとなり、観ている側にとっても救いになり、近年の日本映画にはない素晴らしい幕切れだったと思います。

同じ有名芸人監督として、北野武が引き合いに出される記述をネット上でも頻繁に見かけますが、余り意味があるとは思えません。まあ、はじめから批判ありきのコメントを意図する場合、選択しやすい材料には違いありませんが、北野監督の場合は、お笑い芸人・ビートたけしではなく、映画監督北野武として作品を撮っています。勿論、長年培ってきたキャリア等からくるセンスは、彼の映画の随所に生かされてはいますが、しかし基本は「映画」を撮ろうとするスタンスは感じます。
松本人志の場合、お笑い=自身の生きざまとして、芸人・松本人志が偶々、映画という表現手段に出会ったという印象を受けます。勿論、笑いの表現が困難になってきているTVの世界からいずれ飛び出すのは自然な流れという捉え方も出来ますが、舞台ともTVともDVDとも違う、映画という独特の空間&リズム世界を必ずしも上手く操っているようには見えませんし、そういう意図すら感じません。

ただ一方で、本人が意識するしないに関わらず、処女作『大日本人』からでもそうですが、所々に垣間見られる、数多ある凡庸な「プロの映画監督」達には出来ない、映像や空気のドキドキ感、独特のリズム感などは、本気で映画というものに取り組んだら、相当面白いものが出来るんじゃないかとも思います。

今作品においても、主人公野見の壮絶な切腹シーンなどは、最近の映画では見れない「スクリーンが揺れる」感があり、確かなセンスと演出力を感じます。
まあ、当人はあまり映画というものに執着心はないようですが…

私的な主観の結論として、松本人志映画は常に分裂しています。
お笑いに執着する松本人志と、可能性を秘めた映画監督松本人志とが、融合せずに互いに足の引っ張り合いをしているような気がします。結果、どうにも複雑な感想を持たざるを得ないのです。

ただ、頑なに批判の為の批判をする気にもなれない。こき下ろすのは簡単ですが、盲目的に誉めるのと同様、どちらにしてものど越しの悪さを感じてしまいます。つまり、何かが常に引っ掛かってしまう厄介な映画…それが松本映画なのかも知れません。


●…余談ですが、先日、40年に渡る歴史に終止符をうつ事が決まった『水戸黄門』を何年かぶりに観ました。
映画『さや侍』の主人公の娘を演じた子役女優が出ており、何となく最後まで観てしまいましたが、何ともダルい演出に、お遊戯のような緊迫感の無い立ち回りにはガッカリしました。あれは学芸会です。

…番組が終了するのは時代の流れとも言えますが、それを抜きにしても終わるべくして終わるドラマだと思います。作り手の情熱が全く感じられない。長年続いたから取り敢えず惰性で作っているという印象です。

里見浩太郎さんは『背中から断ち切られた思いだ 』と、無念さを語っていますが、私には勝手に自害、いや、自害する気力も無いくらいに萎んでしまって、自然消滅したかのように思います。

時代劇は基本的に好きなので、かえすがえすも残念です。






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