日本語教えます・ドイツ語教えて

October 21 [Wed], 2009, 22:24
町にあるマンモス大学に貼り紙を出した。

「日本語教えます。ドイツ語教えて。交換個人授業求む」
「当方日本語教授の経験あり。」

これにケータイ番号を添えた。
1週間経っても、2週間経っても、誰からも何とも言ってこない。
同じ掲示板には、私よりひと昔もふた昔も後に生まれた日本人大学生(女性)が
同じように日本語とドイツ語の交換個人授業募集の貼り紙を出していて、
専攻学部や趣味や好きな食べ物、音楽、などなどが書かれていた。

それに比べて私の張り紙には味も素っ気もない。
日本語専攻の若い男の子が日本人のガールフレンドを欲しがっていたら、
まず私の張り紙などは真っ先に敬遠するのではなかろうか。
こんなふうに考えて少し気落ちしているところへ、ケータイが鳴った。

私の予想どおり、電話してきたのはドイツ人男性だった。
まず、ケータイ番号を確認し、私本人が電話に出ていることを確認し、
それから日本語・ドイツ語交換授業の張り紙の件を確認し、
町のまんなかへんでまずは一度会おうということになった。
声の感じから、若くはなさそうだということ、
それに、とても言葉遣いが丁寧だということがわかった。
彼自身もドイツ語の先生なのだという。
見知らぬ人に会いにいくのは緊張したが、
語学習得という真面目な目的で一致した者どうしが会うのだから、
ブラインド・デートのようなドキドキもなければ当たりハズレもなさそうだと考え、
とにかく待ち合わせ場所に行ってみた。

町の東はずれに住む私と西はずれに住むこのドイツ人の待ち合わせは、
必然的に町の真ん中ということになったのだが、
中央駅という雑然とした大きな建物の中で
唯一私が待ち合わせ場所として識別できたのは、
駅の入り口のバーガーキングなのだった。
ひと足先に待ち合わせ場所に着いた私は、
バーガーキング内のトイレでまず用を足してから入り口の外に立った。
10秒と経たないうちに私をめがけてまっすぐに進んできた人影があり、
それは確かに私と待ち合わせをしていたG氏なのだった。

のっけからすべてがドイツ語になり、私は彼の日本語力はどの程度なのだろう?と思った。
駅の雑踏から少し離れたところに庶民的な食堂があり、
そこに腰を落ち着けてからも話題は私のことに集中した。
ドイツ語暦、ドイツに至るまでの経緯、子供のこと、夫のこと、
日本食のこと、日本経済のこと...

飲み物が運ばれて来て、空腹だった彼は夕食を注文したが、
緊張のせいで食欲が麻痺していた私は炭酸入りリンゴジュースを飲みながら
とにかく上達させたいドイツ語をしゃべりまくった。
私の語彙や文法の間違いを彼はときどき直してくれたが、
会話のスピードを落としたくないという無意識がはたらき、
私はメモをとるのも忘れていた。
ジャガイモとソーセージとザワークラウトの盛り合わせを注文した彼は、
空になったお皿が運び去られたあとも強烈なザワークラウトの匂いを漂わせていた。

ひととおり自分のことを話してしまってから、私は彼のほうに話題の中心を移した。
「日本語学習の目的は何ですか?」
その次に読み書き中心か聞き取りと会話中心か、
今のレベルとめざすレベルはどの程度かが話せると思ったのだが、
彼の返答は以外な展開をみせた。

まず、彼は日本語入力が可能なソフトをネットでダウンロードしたことを話し、
日本語入力でGoogleが使えるようにしようとしているところだと言った。
私は、今自分が使っているワード(英語仕様)で日本語入力が問題なくできていることを告げ、
日本語入力がそう難しいものではないはずだと言ったが、
実際のセッティングを自分でやったわけではないのでやり方の説明はできなかった。
G氏は今週末にコンピュータに詳しい人にやり方を聞いてみると言い、
彼の計画についてさらに話しはじめた。

彼が望んでいるのは、実は日本語学習ではなかった。
ドイツ人女性に失望していて、それに比べてダントツの魅力を感じる日本人女性と結婚したいので、
日本人女性を紹介してくれるサイトで相手を見つけたいというのだ。

予想外の展開に私は驚いた。
日本人女性とヨーロッパ人の男性の仲立ちをするサイトは見たことがある。
実際のところ、ヨーロッパ人の男性を探している日本人女性のほうが、
日本人女性を探しているヨーロッパ人男性よりも
数の上では圧倒的に多いという印象を持った。
サイトに出ていたプロフィールの数がそうなっていたのだ。

「ヨーロッパ人男性を対象にしているのなら、
なにも日本語で検索する必要はないんじゃないですか?
英語で検索できなかったらお客さんが来ないでしょう?」
私は過去に見たことのあるサイトを思い出し、
自宅のコンピュータで探せばまた出てくると思う、とG氏に言った。
そして、日本人男性が外国人の女性と結婚するため
ネットの仲介業者に斡旋を頼み、悪質な業者のカモになって被害が出た例も告げ、
G氏も業者選びには注意が必要だと付け加えた。
彼は本気で驚いている様子で、「ホントにそんなことがあるんですか?」と言った。

ネットのバーチャル世界と現実の世界とのギャップは
理屈の上では誰でも知らされているリスクなのに、騙される人は後を絶たない。
望むものが現実に存在してほしいという気持ちが切実なほど、
現実には存在していないかもしれないものの存在を信じたくなってしまう。
モノを売るとき、人はその物体やサービスそのものだけでなく
それにまつわる夢も売っているのだが、
売り物の内訳の大部分を夢が占める商売を「インチキ」というのだろう。

ネットのお見合いサイトなどは、
相手の選択、相手本人に会える段階までの準備など、
丁寧な仕事をすればとてつもない時間がかかることを商売にしている。
特に、国や文化が違う者同士の結婚を考える場合、
ひとりひとりの国の事情や歴史、社会の構造などに熟知していなければ
どんな人がどんな相手とくっつけばうまくいくのか、予想は全くできないのではないか。
結婚相手を探す本人自身も、
外国人の相手に何を求めているのかわかっていないケースが多いのではないか。
事情や文化をよく知らない国の人を求めているのだから、
その国の社会がどう動き、どんな生き方が理想とされ、
どんな生き方をする人が多いのかを知らずして、
とにかくその国出身の人と結婚したいというのは無茶な話なのだ。

その上、そんな未知の国の女たちが
何を根拠にヨーロッパ人男性に魅力を感じるようになり、
何を求めてヨーロッパ人と結婚したがるのか?
それを知らずして、幸か不幸か日本人女性を妻に迎えたとしても、
お互いが相手に求めていたものが本当に得られる確率はいかほどのものだろうか。

G氏と話している間、私は自分のドイツ語のことで頭がいっぱいだったので
ネットの国際結婚斡旋業者について考えたのは帰りの電車の中でのことだった。
次回もまた、中央駅のバーガーキング前で会う約束をして分かれたが、
日本人妻を迎える計画への協力者(私)を得て無邪気に喜ぶG氏の顔を思い出すと
彼の計画を疑問視する自分に早くも罪悪感を感じ始めた私である。




プロフィール
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  • アイコン画像 ニックネーム:まり子様
  • アイコン画像 性別:女性
  • アイコン画像 誕生日:8月31日
  • アイコン画像 血液型:O型
  • アイコン画像 現住所:国外
  • アイコン画像 職業:自営業
  • アイコン画像 趣味:
    ・語学
    ・音楽-ピアノ
    ・ダンス
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