旅の話し

September 11 [Tue], 2012, 11:28
現職をリタイアしてから4年目の夏を迎えた。
職場とは未だ、首の皮一枚程度はつながっているが、特にこの一年は仕事らしい仕事はほとんどしていない。
その分、以前にもまして、旅空の下にいる。
いわば非日常であるはずの旅が、今や日常化しつつある。
だからと言って、そのことが、私が旅の話をしない、或は旅先で日記をつづらない理由ではない。
本当の旅好きは旅の話をしないという。
少なくとも私に関しては、それは当たっている。
人に話す為に旅に出るわけではなく、土産話を持ち帰るためにあちこち見聞きして廻っているわけではない。
多い年は9ヶ月間も家を離れていた。
こうも旅空の下にいると実際、飽きてくることもある。
一つ所にじっとしていたいという欲求も起きてくる。
だが、3ヶ月間同じベッドで一人で寝ていると、何となく落ち着かなくなってくる。
この旅好きはどうやら父親譲りかも知れない。
否定しようにも説明のつかないこの落ち着きのなさを、このごろは遺伝子の中にその口実を見いだそうとしている。
父は口癖のように言っていた。
死ぬのなら飛行機事故がいいなあ。
確率は一番に高い。
保険も降りるから、あとのことの心配をしなくてもすむ。
そう言いつつ、寝たきりの状態で、にぎり寿司と餡パンをたらふく食らい、急性の腸閉塞で病院のベッドの上で大往生を決めた。
何がそうも私を旅にかきたてるのか行き当たりばったりに出かけて行って、写真も取らず、土産話も持ち帰らず、荷物をほどくとまたすぐ、次の旅先の案をめぐらす。
まるで旅に追い立てられているようだ。
かつて、時間に追い立てられていた頃のように。
私の旅はいわゆる手作りである。
事前準備は基幹となる往復航空券の手当と一年オープンとかいった類いの、長期滞在する宿泊先の手配だけ。
他は全て現地調達である。
従って、ガイドブックの類いは買ったことがない。
まず、無知で無防備な状態でその知らない土地に行き着く。
そこで見るもの、聞くもの、触れるものは新しい印象であり、鮮烈であるからこそ価値がある。
そこで感じたこと、あるいは私に向かって飛びかかってくる事ごとを、客観的かつ冷静に受け止めることなどまず、できない。
言い換えれば、一種のショック状態に自分を置いているわけである。
そうやって、長らく生きてきた為に鈍くなっている五感を呼び覚ますのである。
そのことに集中したいものだから、旅先で写真を取ることもほとんどしない。
映像は私の目の奥に焼き付けたものが、一番価値があり、そうすることが重要だと思っている。
ときどき、どうしても映像に残しておきたい事物に出あうことはある。
が、実際取って見て、それをあとで見ることはほとんどない。
パソコンのスペースを無駄にするだけで終わることの方が多い。
もっとも歳をとって動けなくなったとき、それを眺める日々が来るかもしれないが。
或はときどき、文字にして書き留めておきたいと思うこともある。
公園のベンチで歩き疲れた足を休めているときや、街路上のカフェでワインをすすっているときなどだ。
だが、書き留めた時唐ナ、それは私がたった今、見聞きしたり、遭遇した事実とは既に異なるものになってしまっていたりする。
あとで読み返してみると、つまらないことばかりが羅列されていることが多い。
旅先の情緒やセンチメンタリズムが書かせているから、それはもう、事実でも真実でもなくなっていたりする。
それならむしろ、旅から帰ってゆっくり書いた方が良いと思うようになった。
さてと、だらだらと書き綴って来たが、今の心境、本音を言えば、書きたいのである。
書きたくなっているのである、旅の話を。
それほど今回のチュニジアの旅は、文章MYコミュ 鈴木あやにしてみたい事柄にたくさん出あった。
他に向けて発信したいのか、というとそういうわけでもない。
自分の中にしまっておいてもよい。
だが、文章にしてみたいという欲求に変わりはない。
それで、とどのつまり、借り住まいではあるが、9月下旬に馴染みの古巣中国にもどったら、記憶を呼び戻しながら、彼方での出来事を綴ってみようと考えている。
文章にすることで、或はその過程で、最中にいてはただ漂い、うつろい、翻弄されていた自分に、その旅がもたらした特別な意味合いを見いだすことができるかも知れない。
そして、そのときの感動を言葉で表すことができたら、それ以上の旅の醍醐味は他にないであろう。
更には、日常にもどり、自分の中に無意識に留まった記憶の残像から、新たな物語を作り出すことができたら、これもまた、新しい旅の始まりである。
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