※「電車」にまつわるSSS連作集。さりげにアスランの出現率が一番高いです。
「電車で、」(シンとアスラン)
電車に乗ると、
そこはがらがらの車両でした。
シンは適当に、
誰もいないからとだらしなく座りました。
だからアスランも隣りに腰掛けようとすると、
「これだけ空いているんだから、わざわざ隣りに座らなくてもいいでしょう」
などとシンはそっけなく言いました。
仕方がないので少し悩んでから、アスランは向かい側のシンとは対角線上の端に座りました。
シンはビニール袋からお菓子を取り出して黙って食べています。
アスランも黙っています。
そうすると躊躇いがちにシンは話し掛けてきました。
「あんたどうして俺の真向かい側じゃなくて、そんな向かいの一番端にいるんだよ」
「隣りに座られるのも嫌がられるのに真正面に来られてもお互い困るだろう」
「ふーん。まぁ、端っこに座るのはあんたらしいけど」
シンは何気なく付け足したか、アスランは眉をひそめた。
「お前は座席のスペースをとりすぎだ」
アスランの指摘に、シンは自分の周りを見渡してみました。
最初はそれなりに端の方に座っていましたが、だんだんと真ん中よりに座ってきていました。
おまけに大量のお菓子が隣りに広げられています。
食べていたポテトチップスのカスがポロポロとこぼれてもいます。
「あ」と思いましたがシンは自分の失態を認めたくなくて、
「空いているからいいじゃないですか」
と言いました。
「確かに今は空いているかもしれないが、次の駅では違うかもしれないぞ」
「……」
「次の駅では来ないかもしれないが、その次の駅はどうだ?」
「……」
「その次の次の次は?」
シンはいいかげんしつこいと思いました。
「次の次の次の次」とか、馬鹿みたいにくり返してくる男に、あんたの小言の方が俺より迷惑だと言ってやりたくなりました。
でも口に出たのはこんな言葉でした。
「じゃあ、あんたがこっち来て下さい」
言ったあと、後悔しました。
おまけにアスランが笑って隣りに来たときは、もっと後悔しました。
悔し紛れにシンは、
「ポテチのカスが落ちてるところを他の人に座らせることできないし」
などと言いましたが、これは嫌がらせというより身内宣言みたいで、自分で自分が嫌になりました。
次の駅でルナマリアが、
次の次の駅ぐらいにレイが、
次の次の次ぐらいにメイリンが、
シンたちの車両に乗り込んできました。
お菓子はみんなに振舞われて、
ポテトチップスのカスはレイが全部綺麗に座席から取り除いてくれました。
車両の座席は、次の次の次の次の次の次の、えーと、とにかくいつかは埋まりそうです。
「電車で、」(シンとステラ)
車両と車両の繋ぎ目の、
窓と窓で、
僕と君は、
顔を寄せて、
窓ガラスに息を噴きかけて、
そこに下手糞なラクガキをしていた。
くすくすと、
声も、
息も、
届くはずがないのに。
どうしてこんなに近くに感じるのだろう。
「電車で、」(ファントムペインの皆様)
「ネオ」
「ネオ」
「ネオ」
電車に乗るとステラ、スティング、アウルがそれぞれ独得のニュアンスで話し掛けてきた。
ネオはその辺の座席に座ろうとしたが、3人はこっちだとやたら引っ張ってくる。
ネオはしょうがなく、手間のかかるが可愛い子どもたちについて行った。
「ネオ、座って!」
「どうぞ。座ってくれ」
「ほらよ!ネオのための席だろう?」
妊婦でも、けが人でも、障害者でもないネオにここを勧めると言う事は、つまり3人のうち2人は確実に嫌がらせとしてこう思っているということだ。
ちなみに2人のうち1人は意味が理解していないか、間違いなく騙されている。
少女は、ニコニコ。
少年たちは、ニヤニヤ。
座席の窓に描かれた腰の曲がった老人が杖をつくマークがやたらと目に沁みた。
3人がネオを案内した場所は優先席だった。
「電車で、」(旧ザフトレッド3人)
電車は動いている。
そんな当然のことがわからない人間がどうもいるようだ。
イザークとアスランは電車の中で落ち着ける場所を探して口喧嘩をしている。
そもそもこの2人が揃っていて、どこにいても落ち着けるわけがない。
イザーク一人でも騒がしいのに。
だからその喧嘩は無意味だ。
あれ?喧嘩するから無意味になるのか。
「だからお前ら隣りに座るなよ。そんな近いからイザークが掴みかかるんだって」
「うるさい!うるさい!うるさーい!」
「ならイザークは、あっちに座ったらどうだ」
「そうそう。向かいなら手は届かないし、何かあったときは最低限はしゃべれるし。まぁ、はっきり言って俺的には会話もあまりして欲しくないんだけど」
「フン!公共の迷惑だから退いてやるんだからな!貴様に言い負かされたわけじゃないからな!!覚えておけ!!!」
「はい。はい。アスランは3つ後の駅に降りるまでの間に今の事を忘れるほどボケじゃないからな」
ようやくイザークを宥めて2人を引き離せた。