秘書のカガミの説明

January 06 [Sun], 2013, 21:36
それから、大里君、君とは、時間さへあればゆつくり話したいことがある。話してどうなることでもないが、やつぱり話さないと気がすまんといふやつさ。君には、公私の生活に亘つて、ずいぶん世話になつた。こつちも、多少、世話をやかされはしたが、それもこれも、お互だからできたのだ。お礼を言ふのは水臭いといふなら、よす。それはよすが、僕の葬儀委員長は、君のところへもつて行くだらうと思ふから、迷惑でもこいつは是非引うけてくれ、そして、できるだけ簡素に、無宗教葬にして、式場があればその式場で、僕の好きなバッハでも、レコードでやつてくれるといい。
 次ぎに、細木君、だいたい君は、この僕を買ひかぶりすぎてる。君のやうに、僕の後ばかりついて来たのでは、学者として物にならんよ。僕の非才は誰よりも僕自身が知つてゐる。辛うじて大学教授がつとまり、危なつかしい雑誌論文がやつと書けるやうな哲学者は、もうこれからは出なくてもいいのだ。今だからはつきり言ふが、君を助教授に推薦した時は、君が誰よりも僕のそばにゐてくれさうな気がしたからだ。言ひかへれば、君が誰よりも僕の忠実な弟子だと思つたからだ。僕の眼鏡に間違ひはなかつた。しかし、君を、ただそれだけの人間にしてしまつた責任は、僕にもあるやうに思ふ。僕はもうゐないのだ。
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