冥の短編・その7 

November 04 [Wed], 2009, 0:39
「たったひとりで背負わせてすまなかった」


うつむいていた幽、冥に顔をあわせる。


「許してくれ」


冥、突然の父の言葉に感情を押さえきれない。
しゃべりたくても口元が震えて何も言葉がでない。


ドアがノックされ。
2人ともはっとする。

医者が礼をする。

幽と冥もゆっくりと礼をする。

医者が気の毒そうな目で冥を見やる。

幽気づいて
「冥。
百合の花を買ってきてくれないか。
母上は百合の花が好きだから
沢山あれば母上は起きるかもしれない」



「…わかりました!」



半刻ほどたって百合の花束に埋もれながら廊下を歩いている冥。

看護婦がまぁと驚いては話しかけようとするが
悲痛な表情の冥に遠慮して話しかけない。


部屋の前まで来るとまだ医者との話し声がする。

人気のない待合室に座る。
古ぼけた漫画と小さなテレビ。

再放送なのかやけに画面が古かった
冥は漫画など詳しくもないのでそれがなにかは分からない


主人公らしき親父のキャラクターが警官に追いかけられ家族があわあわとみている。

傍若無人な親父のドタバタ劇。
最後は親父が満足げに胸をはり言う。

「これでいいのだ」と

冥ふっと笑ってしまう。
気持ちが少し晴れた気がした。



「冥ちゃん、お父さんがお呼びよ」看護婦が話しかける。

「ありがとうございます!」

パタパタと母と父のいる部屋へ戻る



夕日が二人を赤く染めていた
気持ちよさそうに眠る母と母の手を祈るように握る父。

二人の時間を取り戻すかのように



「待とう。母上は帰ってくるよ」


百合の花一輪一輪に願いをこめ
2人で母の帰りを待ち続けた。



その日、
わたしの家族と引き換えに
富士の麓ではひとつの家族が消えたそうだ。


それは
私の家系では愚かな風景


でも

その日
私たちは
たしかに家族だった。






おしまい

P R
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