無駄に長いからボツの小説(クロ話〜会話編〜)2 

2007年01月24日(水) 23時57分
陽子は二週か三週間に一度ほど、電話をかけてくる。
それは私がメールを返さないからで、もっぱらの内容は会社の上司の話と愚痴であった。
愚痴の方は同僚などのことなのだが、上司の話は私にとっては興味を引くものであった。

陽子はその男のことを「上司」としか言わないので名前は知らないのだが、
毎日一人で酒を飲み。二日酔いのまま出勤してくるそうだ。
しかし、何か無駄口を叩くわけでもなく、黙々と仕事をこなし
陽子の不手際すらも誰も気付かないままに後始末してくれるらしい。
要するに、陽子にお気に入りの上司であった。

その上司が最近変わってきたそうだ。

「なんだか、優しくなったのよ。」

文句も言わずに尻拭いをしてくれるのだから、もともと優しいではないか。
と私が口を開く前に続けて話出した。
「この前、初めて笑った顔を見たわ。」
心底不思議そうに嬉しがる陽子の表情は私にはきっとないものだ。などと考えつつ話を聞いていた。

「でね。何で変わったのか気になったから、聞いてみたのよ。
 最近雰囲気変わりましたね。って、
 そしたら『そう。』って微笑んだのよ。
 もともと顔はいいからさ、ついつい見惚れちゃった。」

嬉しさを隠さずに話す陽子を見て、もし私がこんな表情をしたら
きっとクロは喜ぶんだろうな。などと何故かクロのことを思い出していた。

「でさ。これは噂なんだけど、女の人と一緒に暮らし出したらしいのよ。」
「へぇ。」
「へぇ。じゃないわよ!スゴイことなんだって!
 前なんか社長の秘書の有坂さんが告白したのに振ったのよ?
 そんな人が女の人と一緒に暮らしてるなんて。私てっきりあの人は女に興味がないんだと思ってたわ。」

私は有坂さんを知らないし、もしその人がとびきりの美人で仕事もデキルだとかであっても、
そんな付加価値で女を選ぶような男は嫌いであった。

そんな私の個人的見解を告げる前に
次々と惚気のような話を続けてくるので言う気も失せていた。

二時間ほど話し込んだところで陽子と別れ、
家路へと着いた。

ドアを開け靴を脱いだところで
「おかえり」
「ただいま」
クロとそれだけを交わし、部屋に入った。

中に入ると案の定行き先を尋ねられたのだが
「友達と話してたの。」
と告げれば怪訝そうな顔をして
「藤田か?」
と重ねて尋ねられた。「陽子よ。」と言えば、
あぁ。と安心したような顔をして何話してたのとまた尋ねてきた。

あらかたの内容を話しながら、私は気になっていたことをクロに話した。

「ねぇ、クロは世界が何色に見えてるの?」

困惑した表情で低く唸りながら必至に答えを考えるクロが無情に可愛く見えて、
無邪気に憧れ、恋するような、そんな瞳で上司の話をする陽子を思い出しながら、
解答例のように口を開いた。

「私はね。世界がモノクロに見えてるの。」
そう言えば余計に困った顔をするクロに、続けて謎かけをする。

「それも、ほとんどが白いのよ。
 白か灰。何の色彩もないの。それが気になったこともないのだけれど、
 クロがね、雨の中寝転んでた日。真っ黒な塊に見えたの。
 それがとても魅力的で、
 だから、拾ったの。」

私の顔を真っ直ぐに見つめて、眉間に皺を寄せながらしばらく沈黙したあとに。

「それって愛の告白?」

と母親に問うようにクロは言った。




色のある世界を一度見てみたい。
私は盲目であるとか、色弱であるとかではない。
おそらく常人と同じ世界を見ているはずである。

しかし今は。

白や黒、灰も色の一部であると気付いた。

それでも好奇心からかしら
色彩溢れる世界を見てみたいのだ。

無駄に長いからボツの小説(クロ話〜会話編〜)1 

2007年01月24日(水) 23時55分
  色のある世界を、一度見てみたい。

決して、私は盲目であるとか、色弱であるとかなどではない。
おそらく、常人と同じ世界を見てるはずである。
色とは色欲の色のことである。
そういう意味で、私は色彩の溢れる世界を見て見たいのだ。



その日は、中学・高校と級友であった西崎陽子に呼び出されていた。
特別に仲がよかったことはないのだが、何故か今でも連絡を取り合う唯一の級友であった。

待ち合わせの時間、場所に行くと、すでに彼女はそこにいた。

とりあえず、喫茶店でも入ろうよ。と言われるがまま、近くの店に入った。
毛先だけが茶色い、中途半端に長髪の店員に珈琲を二つ注文すると。
「で。どうなのよ。」
などと意図がわからない謎掛けをしてきた。
「なにが?」
「例の彼氏とよ。」
あぁ。やっと意図は見えてきたものの、質問の意味はわからぬまま。
「まぁそれなり。」
と、店内の照明を見つめながら答えた。

まったく、もう8時になるというのに、人間は眠らずに光に集まる。
まるで蛾のようだ。

「それなり、じゃなくて。ケンカとかしないの?」

私が全く違うことに意識を飛ばしていると、
まるで喧嘩話を聞かせろとばかりに陽子が言い出した。

「それなりに、するよ。喧嘩も。」
「例えば?」
「そうね。」

少し過去のことに意識を飛ばしながら、口を開くが考えがまとまらぬのでまた閉じた。
唸り声のような音を立てながら
「そうね。この前は名前のことで喧嘩したわ。」
「どんなの?」
「俺の名前、知らないんだろう。って。」
「はぁ?」

そこで、先ほどの店員が丁寧に商品名を呼びながら珈琲を置いていった。

「それから、その前は友達のことで喧嘩したわ。」

テーブルに置いていた煙草に火を点けて声を出した。

「男友達?」
「そう。」
「やきもち焼いたんだ。」
何故か一人納得したように頷く陽子に煙をかけないよう、
横を向いて煙を吐いた。

「どういう喧嘩だったの?」
興味深々、と顔に書かれているかのように聞いてきた。
「そうね。」
そして亦、過去へと意識を飛ばす。

私はあまりメールを打たない。
しかし、唯一人だけ律儀にメールのやりとりをする人物がいる。

藤田周平。ひとつかふたつ年下であったと記憶している。

作家や、物語の流れなどの趣向が同じなので、互いに面白い本の情報を交換し合う仲であった。
とはいえ、会話口調どころか、装飾や気遣いの一つもない必要最低限の情報のみを載せたメールではあったのだが。

ある時に、クロがそのメールを打つ私を見て急に怒り出したのだ。
相手は誰だとか、どんな奴だとか、どういう関係だとかを
寝堀葉堀聞いてきたので、携帯電話を手渡し、勝手に中身を確認すればいいと伝えた。

予想していたものより簡潔な内容ばかりであったためか。
今度は、俺にはこいつみたいにメールを返してくれない。などと拗ね出したのだった。


「で、実際のとこ、どうなのよ。その藤田君とは。」

話終えると、間髪入れずに尋ねられた。

「実際も何も。ありえないわよ。」
「どうして?フミ子だって少しは気になってるからメールしたんでしょ?」

気になるも何も、本当に唯の情報提供仲間なのだ。と言おうが、
きっと陽子は信じないので、もう一つの理由を伝えることにした。

「藤田君、ゲイなのよ。」

「ゲイ?」
「同性愛者。」
言葉の意味を理解できないような顔をしたので、日本語訳のほうも教えた。
「本当なの?」
「恋人もいるもの。」
「男の?」
「当たり前じゃない。」

確かに、藤田君は私から見ても格好良い。
格好良いと言うより、人形のように美しさを持っている。
人当たりも良いし会話も巧い。器用だし器量もある。
多分、理想的な男性像であると思う。

「それはそうとして、陽子の方はどうなの。前に話してた上司。」

話すのに疲れたので、今度は聞く側に回ろうと思い、話を切り出した。


小説2(のボツ) 

2007年01月22日(月) 1時30分

 その日は雨であった。
正に「バケツをひっくり返した。」かのような雨の日であった。

(なんか、今日はだるいな・・・)

後のクロこと黒田清一はしとどに濡れたまま、ただ立っていた。
年がいもなく酷くセンチメンタルな気持ちであったからだ。

そんな中、黒田同様、濡れ鼠が如く歩く女を見つけた。
女の手には傘が握られていたのにもかかわらずであった。

ふと、一瞬。女と目が合った。
女は何も言わぬまま黒田に近付き、黒田の横に傘を置き、去って行った。

(あぁ。畜生。惚れた。)

それが出会いであった。

しかしこの出会いにはまだ話があった。


後日に、黒田が広い大学内から女を見つけ出し傘を返すと
女はひたすらに知らぬ存ぜぬを通し、無理矢理に傘を握らせると、
平手打ちを喰らったのであった。

思いもよらぬ暴力に合った黒田は混乱したのか、
はたまた打ち所が悪かったのか、女を抱きしめて離さなかった。

その後ものの見事に蹴り倒され、女は無言のまま去って行った。

よく晴れた日のことであった。


黒田自身、何故ここまでこの女に固執するのか理解できなかった。
そして理解できぬまま、友人や後輩に聞き込み、女の情報を集めた。

 吉川フミ子。文学科。現在は恋人なし。
(加えて無口で暴力的な面有り。)
携帯電話を見つめながら、一人心中で呟いていた。

決して見間違いではない。確かにあの雨の日に見たのは吉川フミ子である。
黒田は自らにそう言い聞かせながら雨の日を思い出していた。

あの顔も、髪型も、歩き方も、手も、間違いはない。

そう考えながら、吉川フミ子のいる文学科へと足を進めた。


文学科へと到着するよりも先に、吉川フミ子を見付けることが出来た。
それは、途中の図書館の前にあるベンチであった。

伏目で黙々と本を読む吉川フミ子を見れば、自然と足が急いだ。

「吉川。フミ子。さん?」

呼ばれた本人は、読書を中断されたせいか、黒田と認識したせいか
あからさまに不快な顔をした。

「何の御用でしょうか。」
「やだなぁ。御用なんて言い切れないほどあるよ。」

更に眉間の皺を深くした吉川に向かい、言葉を続ける。

「殴られたことも、傘のとこも。ね。」

「殴ってはいません。引っ叩いたんです。」

流石、文系というか、何というか。

「うん、まぁそうだね。で、傘のほうなんだけど。」
「それは、先ほど思い出しました。
 あの傘は私の傘ではないのです。
 それに、貴方に渡したわけではなく、授業の為に会えなかった友人に
 借りていた傘を返す為に置いた物です。」



なんてこった。最初から全部、ただの思い込みだったのか。


自分の頭の中から、言いたかった言葉や、次の行動や、今朝の食事の内容など。
すべてが真っ白になっていた。
簡単に言えばフリーズした。

数分後、なんとか再起動したときには、吉川は目の前から消えていた。


情けない。心底情けない。
自分の勘違いで付き纏い、挙句の果てに平手打ちまで喰らったのは、全てなんだったのだ。

「穴があったら入りたい・・・。」

小さく呟いてしゃがみ込むと、更に雨まで降り出した。
泣きっ面に蜂とはこのことだ。

そう思いながら両手で頭を抱え、どうにでもなれ。の精神で地べたに寝転んでいた。


数分ほど、そうしていると、思いもよらぬ声が聞こえてきた。

「猫みたい。」

雨音に消されそうになりながらも、なんとか黒田の耳に届いたその声は吉川のものであった。

むくりと頭を上げて、ゆうに数十秒は吉川を見ていた。

「じゃあ。拾って、飼ってよ。」

ふてた声で投げやりにそう言うと。

「いいわ。」と言われた気がした。
雨音で聞き間違えたのかもしれない。
それか、幻聴かもしれない。

聞き直そうと口を開けると。にゅうっと手が伸びてきた。

「貴方、名前は?」
「黒田。」
「じゃあ、今日からクロね。よろしく、クロ。」



その日はどしゃ降りの雨の日であった。



駄作3 

2007年01月20日(土) 1時32分
「はい。」
『あ。高田です。窓から逃げたみたいなんですけど、そっちから見えましたか?』
「あ〜。いま追ってる。」
『わざわざガラス割るなんて馬鹿ですよね〜!黙ってそっと逃げればいいのに』
「あっそ」
『場所。どこらへんですか?』
「GPS繋いであるから勝手に追ってこい。」
『は〜い。』



あいつ、なんで電話だと毎回無駄話が多いんだ。
とりあえず、追うか。




住宅街の裏路地から猫を蹴散らして走る。
携帯の画面を見ながら、それでも足は止めない。

この追う瞬間が一番好きかもしれない。

おにごっこ。

まぁ向こうからすれば死活問題かもしれないが

おにさんこちら てのなるほうへ

そう背中で言ってる気がする。
そういえば前の新人が言ってたな。

「先輩、この仕事心底楽しんでるでしょ。」

たしか、3回目の仕事くらいで死んだんだったか。


あ。もう終わりか。





「動かないで下さい。」
男を挟むようにしてビル街の路地に立つ。
今回はまだ楽な追走だったな。
街中に逃げられると面倒だし、何より目撃されてはいけない。
これはルールだ。

「たっ・・・・たすけてくれ!」

野太い声で懇願する男に対して、まだ仕事が残ってる。

「示談。受け取りますか?」

淡々と、抑揚を付けずに尋ねる。

「殺さないでくれ!」
「示談決裂ですね。」

最初は胸へ。
顔を蒼白にしたまま怯える男の肺を狙い、サバイバルナイフを突き立てる。
肺に血が溜まり悲鳴が出なくなるからだ。
しかし、苦しめるためにやっているわけではない。
大事なのは目撃されないこと。
即座に額に弾を撃ち込む。

失敗は許されない作業のため至近距離で撃ち込む。

視界が真っ赤に染まる。
突き出した右手に真っ赤がへばりつく。
生暖かい。が。すぐに冷えて体温を奪う。

視界にあるのは少年と赤だけだった。





「おい。おい。高田。」
「あ・・・はい。すいません。今行きます。」

死体の処理は別の部の担当のため、事後報告の電話をかける。
場所、時間を報告して、電話を切った。

空腹を覚え、時計を見る。
丁度昼時だった。

「ハルキさん。今日飯どうします?」
「適当に食ってから会社戻るか。今日はお前も調子いいみたいだしね。」
「じゃ、飯行きますか。」

ハンカチで簡単に血を拭き取り歩き出す。


繁華街の近くを歩くが、時間が時間のため人通りがうっとうしさを引き起こす。

「あ。ちょっと待って。」

ふと足を止めたハルキに呼び止められて振り返る。

「買い物。待ってて。」
そう言って入っていったのはCDショップ。
こんなことは初めてだったので驚いたのだが、すぐにハルキは袋を片手にすぐに出てきた。
「何買ったんですか?」
「CD」
そりゃあCDショップなんだからCDだろう。内容を聞いてるんだ。
「なんのCDですか?」
「音楽」
こちらを見もせずに答えた。
わざとなのか至って本気で答えてるのか・・・
「誰の?」
「人間」

この糞餓鬼。


それでも、今日も空は青い。

駄作2 

2007年01月20日(土) 1時31分
「で。今回の相手は?」

時刻は朝の8時半。
これでも予定から2時間押しているのだが、
この人にそんなことは関係ないようで。
不機嫌であることをまったく隠さずにいる。

「あ・・・はい。今回は―――。前科2犯の出所から3ヶ月。
 任意同行が少し前にありましたね。男で52歳。
 ・・・・ってハルキさん書類見てないんですか?」
「あ〜。見てない。」

当たり前か。
俺が入社してから一度もまともに書類関係を確認してるところを見たことが無いからな。
というか。デスクワークをしてるとこすら見たことないか。

そんなことを考えながら2時間押しの仕事に向かう。

話は朝に戻る。
今日は示談があるのでいつもより早く出社して
身支度をする。
各人の宗教などにあわせて体を清めて護身用の武器を身につける。
あくまでも護身用。しかし実際のところはこれが示談執行に存分に活躍することになるのだが。

身支度を終えても同行するハルキは全く姿を見せず。
8時ごろになってやっと出社してきた。

「・・・オハヨーゴザイマス。」

あきらかに眠気を瞼に乗せたまま。
俺のような身支度をせずに、拳銃を一丁腰に挟むだけで出発した。

最初のころに尋ねたことがあるのだが、
宗教には興味がないらしく、死んだとしても身元受け取り人すらいないらしい。
「俺は生きた生ゴミみたいなもんだから」
淡々とそう答えられてそれ以上何も聞けなかった。


コンコン
軽くドアをノックして家主が出てくるのを待つ。

「・・・はい。」

低い声で薄く扉を開き、こちらを覗くように男は出てきた。

「示談代行で参りました。こちらが書類です。
 示談に応じるのでしたら書類をよく読んで、サインをして下さい。」

とだけ告げて、書類を手渡す。
無駄な話はしない。質問も受け付けない。名前を聞かない。
これがこの仕事の基本だ。
なるべく、示談対象と関わらない。

「・・・わかりました。」

男はそれだけ言うと書類を受け取り、ドアを閉じた。

今はこれだけ。猶予時間内に結果を出さないか、あきらかな拒絶を起こしたとき。
示談執行となる。

被告人には一週間前には示談書類が届く。
最終通告として示談執行が行われる。

とりあえず。時間を潰すのが次の仕事になる。
ふう。とため息を吐いて、肩の力を抜いた瞬間。

ガシャンッ!とガラスが割れる音がした。

あぁ。やっぱりか。

半分納得したような気持ちで走り出す。
男の家の裏には最初からハルキさんが回っているはずだから。
とりあえず電話だ。

畜生。今日も空が青い。

駄作1 

2007年01月20日(土) 1時31分

「・・・あ〜あ。殺っちゃった。」
真っ赤に染まった自らの手を呆然と眺めながら男は呟いた。

これで何回目だろう。この仕事をこなしたのは。

「ぼーっとしてないで。さっさと行くよ。」

後ろからそう促され、無造作にズボンに血を擦り付けて歩き出す。
声の主の横に並び、細路地から五月蝿いネオンがざわめく大通りに向かう。

横に並ぶのは、少年。
未だ青年の域に達していない。少年だった。

そして俺。高田陽司。しがない会社員の32歳。

黒いズボンに擦り付けた血は生乾きで気持ちが悪かったが。
まぁそこまで気にはならなかった。

「いつまでぼーっとしてんの。初めてじゃないでしょ。」

鬱々とした気持ちでいると。気遣いとも批判ともとれるような言葉を投げつけられた。

「あ。すいません。ええっと。今日はこれで終わりでしたっけ?」
「うん。だから今日はそのまま帰っていいよ。会社には俺が行っとくし。」
「はい。じゃあ。失礼します。」

そう告げて少年と別れた。

少年はハルキというらしい。
苗字でも名前でもなく、ただのハルキ。
どういった経緯かは知らないが、俺がこんな仕事を始めたときにはもう会社に勤めていた。
歳は知らない。外見的には13〜16といったところなのだろう。
とにかく、俺の先輩、兼、教育係であった。

まぁ。先ほどの俺の台詞からわかるだろうが。
俺の仕事は人間様のお命を頂戴することだ。
ただし、殺し屋ではないのだが。

示談始末屋。
少し前に法律が変わり、法的な刑罰とは別で
民事的な訴えによって被告人と原告人の間を取り持ち、示談を行う。
しかし、被告人が示談を受け入れない場合。殺人許可が出される。

問題はこの示談ってやつだ。
原告が要求するのは被告人の人生。言い換えれば生命がほとんどなのだ。

大昔で言うところの仇討ちってやつだ。

示談請求ができるのは、殺人を犯した人間にのみ。
それも自己防衛や業務上過失致死、交通事故を除く
殺意を持っての殺人を犯した人間に限定される。

人間性、責任能力、社会復帰後の行動などを別の部が調査、
査定して合格基準に達してから初めて示談開始となるのだが。

ややこしい話は新人の俺には関係ない。
俺の仕事は示談を行い、拒否されればそれなりの行動に出る。
それだけだ。

俺がいうのもなんだが、世の中腐ってる。







翌朝。会社に出勤すると案の定報告書の催促をされた。
(先輩・・・会社行くって言ったじゃん・・・)
悪態の先であるハルキは会社にはまだ出勤しておらず、渋々報告書を書き出す。

昼過ぎにやっと提出し、調査書類に目を通していると、ハルキが出勤してきた。

「オハヨーゴザイマス」

セキセイインコのように棒読みに挨拶をして机に向かった。

「先輩・・・昨日会社行くって言ってましたよね?」
「あ〜、忘れてた。」
「報告書、もう出しましたから。」
「はいはい。」

社員は5人。内、示談執行委員が3人。
俺とハルキ先輩。もう一人はずっと出張中。
実質、示談を行うのは新人の俺とハルキ先輩だけだった。

今日は示談はない。
だいたい、示談を行うときには最低でも一ヶ月前に連絡が入る。
それも個人的な携帯電話にメールが一通のみ。
そして示談通告が来ること自体も、3ヶ月に1度あるかないか。

そう頻繁にやってこられても困るのだが。
仕事の幅が狭くなって気が滅入るときもある。

まぁ。なんだ。
今日も空は青い。

小説2 

2007年01月20日(土) 1時30分
 フミ子は猫を一匹飼っていた。
 名を「クロ」という。もちろん黒猫であった。


フミ子が二十歳になったとき、クロと一緒に暮らし出した。
クロは喋る猫であった。そしてフミ子よりも年上であった。

「フミ子。今日の晩御飯、何がいい?」
クロがそう問うてきたので、なんでもいい。とだけ返し。テレビを眺めていた。
「フミ子、俺のこと好き?」クロはよくそう尋ねてくるのであった。
「うん。クロのこと好きよ。」と、抑揚のない声で答えるのが常であった。

クロは黒猫なので頭がよかったが、寂しがり屋の甘えん坊であった。

フミ子が疲弊しているときにばかり甘えてきて、フミ子がたまに甘えれば、
「ごめん。今日は疲れてるんだ。」と言い放ち、さっさと寝てしまうのであった。

更に言えば、人前では決して甘えてこない性質であった。

大学内で顔をあわせようものなら、フミ子の頭をポンッと叩くだけで、
目も合わせずに去っていく猫であった。

なのにその後に、「さっき顔が見れて嬉しかった。」
と、電子に乗せた手紙で伝えてくるような気まぐれであったのだ。
そう。とだけ返事を送れば、「冷たい。」などと返ってくる。
答えるほどでもないし、答えられる内容でもないので、バチッと電話を閉じる。

フミ子にとっては、どうでもいいことであったが。クロにすれば大事なことなのであろう。
家に帰れば「もうちょっと俺のこと考えてよ!」と泣きついてくるのがいつもの風景であった。


クロは猫であった。気まぐれに家を出て、一・二週間帰って来ない時もしばしばあれば、
数ヶ月外に出ない時もあった。それでも大学にはキチンと通うのであったが。
フミ子にしてみれば「まぁ、猫だし。」程度のものだ。


フミ子は情事の際にすら「クロ」と呼ぶので、
一度「俺の名前、知ってる?」と尋ねられたが、質問の意味がわからず。
「クロでしょ?」と答え、喧嘩をしたこともあった。


ある時、クロが外に女を作っている。という噂を耳にした。
なので、「クロ。女がいるの?」と聞いてみた。するとクロは「うん」と答えた。
へぇ。すごいね。とだけ言って、いつものようにテレビを眺めていれば
「何で。怒らないんだよ!」と叫んできた。
フミ子が。わけがわからない。という顔をしていると。

「こういう時は、泣いて、怒って、殴ったり、すがりついたり、するもんじゃないの!?」と言う。

「だって、クロに女ができようが関係ないもの。」

「・・・。どっちの意味だよ。」

「言葉の通りじゃない。」

「フミ子は、俺が浮気してても平気なのかよ。」

「浮気?あぁ、それって、浮気なんだ。」

フミ子がそう言うと、クロは大きなため息を吐いて、黙ってフミ子と並んでテレビを見ていた。

その後は、クロに女がいる。という噂はめっきり聞かなくなった。


余談ではあるが、クロはモテる。
外見のせいかもしれないし、成績のせいかもしれない。
それは、飼い主であるフミ子には喜ばしいことであった。


「なぁ、フミ子。いつか、黒田フミ子にならないか?」
クロは時折、そう呟いていた。
「言葉の意味がわからないわ。」
そう言うフミ子をクロは抱きしめるだけであった。
フミ子は抱きしめられた意味すらわからず、ただ黙ってクロの体温にうとうとしていた。



「なぁ、フミ子。お前の為に世界を変えようか。」

大学からの帰り道で偶然出会ったクロはそう言った。

「うん。変えてみせて。」

するとクロは道端の小石を拾い上げ。悪戯をする前の少年のような笑顔をして、
小石を投げた。

「ほら、世界の形が変わった。」

フミ子はあまりにもクロが可愛く見え、耐え切れず大声で笑い出してしまった。




 フミ子は、クロネコを一匹飼っている。
 名を「黒田 清一」という。もちろん人間であった。

小説1−2 

2007年01月20日(土) 1時29分


ある朝に、私が目を覚ますと女の姿はそこにはなかった。
まぁ、いつかはこうなるであろう。とは思っていたので、私はいつものように身支度を整え
会社に向かい。そうやって数日を過ごしていた。

気付くと、亦、私の寝所に女は居た。

流石に少々気になったので問うてみれば

「旦那の借金の問題に片が付いたのです。」

と言うではないか。ならば、貴女は貴女の家へ帰り、平穏無事に過ごせばよいではないか。と言うと、女は。
「貴方はきっと、私がいなければ貴方の平穏無事を取り戻すのでしょうけれど、私には、もう、ここにしか居場所がないのです。」
と答えてきた。そうですか。とだけ答え、
私はいつものように眠気に身を任せ、床に就いたのであった。


それからというもの、女は毎日私の家に居続けていた。

私には、女が居るということよりも、私自身、何故この女に性的欲求を覚えないのかが不可思議であった。

淡白といえばそれまでなのだが。私はあまり色恋沙汰に夢中になる性質ではなかった。

それでも、毎日帰れば美しいと形容するに値する女がいるのであるから、
多少なりともそういう感情を覚えてはよいのではないかと思いだしていた。

しかし、女の顔を見ると、そのような考えなどは、最初から持っていなかったかのように、
綺麗さっぱり消えていたのであった。

女がいつ帰ろうが悲壮な顔をしていたためかもしれない。
それか
あまりに美しすぎて、そのような感情が芽生えなかったのが一番正しいのであろう。

整った面立ちも、流石に芸者であっただけはある立ち振る舞いも、
全てにおいて美しかったのである。

それは、優れた芸術品に落書きをするものがいないような感覚であった。

その内に女は私に向かって言ってきたのであった。

「何故、私を抱かないのですか?」

私には答える術がなかった。
私自身がわからぬことを、どうやってこの女に伝えることが出来るであろうか。

「そう、思わないだけですよ。」

と、それだけを返し。私は、亦、床に就いた。

そうやって、数週間を過ごすと女は言った。

「私は貴方のことが好きなのです。愛しているのです。」

私にはそれに答える術がなかった。

「私は貴女をどうの、こうのとするつもりはありません。」

と、それだけを返し。私は亦、床に就いた。
事実、私は女を愛してはいなかった。

それなりの家庭に育ち、それなりの教育を受け、それなりの男女の交遊もしてきたが。
私は常に無感動な人間であった。
女を付き合うときは、女の方から言われるままに付き合い。
別れるときにも、女が言うままに別れてきた。
好きだとか、愛などという感情に触れたこともないし、興味を持ったことすらなかった。

興味や感動がなかった過去から比ぶれば、この女を美しいと思えた点においては、まだ、進歩したのかもしれない。

「好きなのです。愛しているのです。」

女は私が帰る度にそう伝えてくるようになった。
その度に私は、そうですか。とだけ答え床に就いていた。

全く、私自身薄情だとは思う。しかして、真に愛していないのだから、
こればかりは仕方のないことだとも思う。

「どうか。どうか。嗚呼。私に触れては頂けませんか。」

突如として、女はそう言ってきた。
好きだとか、愛しているなどと言われても、何も出来るわけがなかったが、
触れてくれと言われれば。それならば出来る。

私は女の髪を撫でていた。

すると女は心底嬉しそうな顔をした後、
私の肩に頭を寄せて、そのまま眠ってしまった。
私も、また毎夜の眠気に襲われ、そのまま眠ってしまった。


深夜に、ふと男は目を覚ました。
本来であれば、まだ日も昇らぬこのような時間に目覚めることはないのだが、
今日は少し常と勝手が違っていた。
男の肩に女の頭があったからだ。

女を起こさぬように、そっと抜け出し。
女の体を万年床へと横たわらせ。煙草にジジっと灯を点けた。

ふいっっと煙を吐き出し、見るわけでもなく女の方向を眺めていた。
窓の外に月と街燈の灯だけが見え。
女の横這いの体は、何かの黒色の塊のようであった。

その内に、うとうとと眠気が襲ってきたところに急に声が聞こえた。

「起きて、しまわれたのですか。」

女は瞳だけを開き、こちらをぼんやり眺めながら言った。

「起きて、しまわれたのですか。」

私は、漆黒に溶ける黒猫の双眸のような瞳を見つめ、言った。

女はしばらく私の目を見つめ返しながら、徐ろに口を開いた。

「私のせいで御座いましょうか。私がここに居るから落ち着かぬので御座いましょうか。」

緩く眉根を寄せながら、私が帰ってくる度に見せるような、悲壮な微笑を湛えながらそう呟いた。
私は吸い込んでいた煙をふっと短く鋭く吐き、

「いいえ、そんなことではないのです。」

と呟いたのだった。


翌日は珍しく休日であった。
常ならば、否、女がここに居る前であれば、
何をするわけでもないので、街を徘徊し、一升瓶と煙草を三ダースほど持って帰り、
平時よりも早い時間に眠るのであったが、
その日は違っていた。

目覚めれば食事が用意されており。それを平らげた後に
「少し、外へ出てみませんか。」と女を誘ったのであった。

女はただ黙って私の後ろを歩き、時折、犬や猫や鳥などを見つけては微笑を見せた。

私は常時のように街を徘徊し、一升瓶を煙草を三ダースほど購入した。

夕方ごろにアパートへと戻り、購入したばかりの一升瓶と煙草の封を切り。
グラスと湯のみを出してきて、酒を注いだ。

「ところで。貴女のお名前は?」

その後、しばらくして
またいつものように眠気に襲われ。
その日も床に就いたのであった。

小説1 

2007年01月20日(土) 1時25分
男はアパートに暮らしていた。
いや、暮らしていたというにはあまりにも堕落した生活を送っていた。
仕事もそこそこに深夜まで酒に溺れ
眠気が襲ってきたところで帰り眠るだけの場所でしかなかった。
後輩の若い女に言われるがまま持った携帯電話ですら
着信履歴は3週間前の会社からの着信で止まったままであった。
発信履歴などは購入した当初から変わっていないままだった。

男の家には女が一人住みついていた
その日もいつものように眠るために帰ったところ
女が一人座っていたのだ

事情を問うべきであったが
それよりも眠気が優先されたために
その日は何も言わずにいつものように万年床に体を横たえ眠りについた

明くる朝も女はそこにいた
昨夜は気付かなかったが、なかなかの容姿をしていた
一瞬だけそんなことを考えたが
会社に向かう時間であったので
また、何も言わずにアパートを出た。

そうやって数週間が過ぎたが
女は動くことなくアパートに居続けた。

時折、布団が干されていたり。
手狭な部屋が片付けてあったりはしたが。
何を言うわけでもなく女は居続けていた。

女が居てからどのくらいが経ったのだろうか

その日は珍しく酒に酔うことなく、必然早い時間にアパートに帰った。
いつもなら何をするわけでもないためすぐにアパートを出るのであったが
そういえば女の声を聞いたことがない。などと思い、唐突に声を出してみた。

「いったい、どうしてこのような場所にいるのですか?」

なぜこんなことを聞いたのかすら己ですらわからぬ問いかけをしてしまった。

「借金取りから逃げているのです。」

初めて聞いた女の声は無意識に予想していたものよりもずっと澄んでいた。

「それにしても、いくらか長い間ここにいるのですね。」
「はい、貴方様が何もおっしゃらないので、てっきり私のことが見えていないのかと思っておりました。」

それから、しばらく、男がいつものように眠気に襲われるまで女の話を聞いていた。
女はもともと芸者であったらしい。
中学を卒業とともに舞妓になり、芸者になった後
女を退かせた大旦那が病死し本妻は早くに死んでおり、
女が知らない大旦那の借金を取り立てられているらしかった。

その後も話を聞いていた気はするものの
途中より毎夜の眠気に襲われ己でも気付かぬうちに眠っていた。

しかし、昨夜は酔っていなかったために早い目覚めとなった。
そして初めて知った。

女は布団にすら潜り込まずに畳一枚の上で猫のように丸くなって眠っていたのだ。

まぁいつもより幾分か早く起きたものの
テレビもラジオも娯楽機材も食器や冷蔵庫の中身ですらまともに揃えていない部屋であったので、することもなく。
ただ、無感情なまま、煙草の煙を燻らしながら、女の顔を眺めていた。

そうする内に女が目を醒まし。
私を一瞥した後に、流しで顔を洗い、私自身気付かないまま用意されていた冷蔵庫の中身を取り出し。

「今日は朝ご飯を食べられますか?」

と問うてきたのだった。

そこで初めて私は、女の名前すら知らぬことに気付いたのだが
それにすら興味を持てず。

「今日は早くに起きたので頂きます。」

とだけ返し。また、いつものようにアパートを出て会社へと向かった。


もう何もかもわからない 

2006年12月19日(火) 2時53分
初めまして。黒井ディスポールです。
変な挨拶ですね。
それなりによろしくお願い致します。
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