はじめの一歩03

July 12 [Thu], 2012, 9:09
(やっぱり……走るの……疲れる……)

 元々、走るのが遅くすぐ疲れるためにバドミントンを選んだのに。これでは本末転倒。そんなことを幼い武は分かっていない。久しぶりに由奈と一緒にいれると思ってはしゃぎ過ぎている自分に何故か分からないが恥ずかしさがこみあげてきた。

「たけし君、大丈夫?」
「うん……だいじょうぶ」

 由奈の問いかけに武は笑って答える。実際、最初が辛かっただけで今は落ち着いていた。既に上級生たちはラケットを持って素振りに入っている。それを見て、次は武達の番というわけだ。武は由奈と一緒に見学をしている同級生の列に並ぶ。
 号令と共に一回、ラケットを振っていく上級生。その時に起こる風切音が武の耳にも届く。鋭く、ぶつかれば痛そうな音だ。

(痛そうだな……)

 痛い思いをしなくてすみそうなバドミントンを選んだのに、やっぱり痛そう。
 ことごとく思い通りにならず武は既に萎え始めていた。このまま続けられるのだろうかと不安になる。

「あんな風にラケットふれたらかっこいいよねー」

 由奈の目線が上級生に行って輝いていた。隣でそれを見ていた武は心臓のあたりがむずがゆくなり、軽く掻く。一体何かと思ったが、武にはどうしても分からなかった。ただ、由奈に微笑みかけられたり、由奈が他の人に目線を移す時にむしゃくしゃしてくる。

(むー。ゆなちゃん……)

 その視線を追って自分も上級生を見る。
 そして、そこにある綺麗なフォームに武は心を奪われていた。幼い武にはそういう言葉は分からない。しかし、由奈のことが気にならなくなるくらいに、上級生のラケットスイングに釘付けになる。
 上級生が行っているのはただのオーバーヘッドストローク。しかし、一つの構えが続けて行われることで滑らかに移動していく。それが、とても綺麗で、武は由奈と同じように目を輝かせていた。

「はーい。じゃあ、次は君達もやってみようか」

 コーチの寺坂に言われて、武達も各々立ち上がる。そして等間隔で並んでから寺坂の言葉を一つ一つ実践する。

「まずはラケットをこうやって……背負うようにしてみて。その時、体重は後ろの足にかけてね」

 武は右足を後ろにしてラケットを背中に回し、体重を右足に集中する。すると前に出している左足が浮いて斜め上が見えた。

「それから左手を上げて、掌を上にしてね。その左手でシャトルに狙いを定めるようにしてみてねー」

 どこにもないシャトルをイメージする。好きなロボットアニメで武器で攻撃する前に動く丸いものに似ていた。それがぴたりと止まったところで攻撃するのだ。

「はーい、じゃあ、そこから思い切りラケットを前に振ってみてください。その時に勢いで後ろ脚が前に出るように」

 寺坂の号令に一斉にラケットが振られる。子供によっては上半身だけでラケットを振ったり、よろけて倒れてしまっていた。由奈もラケットの反動に体を支えきれずに前につんのめってしまう。
 その横で、武はラケットを振っていた。
 ラケットを前に押し出すように。そして反動で自然と後ろにあった右足が前に出る。前につんのめろうとした体を、右足がしっかりと支えていた。

「あらー。たけし君! 上手じゃないの!」
「え……えへへぇ」

 武は誉められたことで気分がよくなり、またラケットを振る。しかし、今度は上手く振れずによろめいてしまう。
 次以降は十回素振りをしたが一度も最初のように綺麗なフォームにはならなかった。

「はい、終了。次は基礎打ちに入りますね。慣れていけばみなさんすぐうまくなりますよ」
『はーい』

 一斉に答える中で武もいる。
 その声は先ほどまであった憂鬱な感情などない。
 一度できた理想のフォームを体現できなかった悔しさ。新しいことを知る嬉しさに満ちている。

(バドミントンって……楽しいな)

 その思いが、始まり。
 武のバドミントンの始まりだった。






 
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