越えたい壁04

September 26 [Mon], 2011, 20:53
「まあ、悩んだ数だけ強くなれるんじゃない?」
「田野は悩んでるんだ」
「寺坂や竹内くらいは外には出してないけどね」
 田野の言葉に棘を感じるのは俺だけか……と目の前を見たら寺坂が不機嫌そうに田野を見てた。俺は間違ってないようだ。でも、多分それも図星だからなんだろうが。
 なんで努力しても追いつけないのか。それより、何でこんなにいらだったりやる気無くしたりするんだってほうが気になる。経った二週間前にやる気を出したばかりだというのに。それが切れかかってる。
「俺は。なんでこんなやる気なくなるんかなって悩んでるけど寺坂は? 一人で悩んでるん?」
「一人でっていうか……なにそれ、私友達いるよ?」
「いや、いないって言ってないし」
 会話はあまりかみ合わない。田野はスペシャルドリンクを飲み干すとトイレに立った。わざわざ「トイレ」とか断って。その時、話をしとけって目線を受けとった。どうやら席を外してくれたらしい。
 トイレに行ってるって口実なら、早めにすまさないといけなさそうだ。
「しゃーねーから、相談に乗ってやるよ」
「……竹内に言っても解決にならないし」
「こういうのは話すだけで解決になる」
 いつの間にか俺の悩みを解決というより、寺坂の悩みを聞く会になってる。でも、それまで悩んでたことがなんか薄くなってるのは確かだった。
「んー、やっぱり止めとく。竹内の悩み聞いてあげる」
 ……前言撤回。さすがにいきなりは無理か。
 考えてみれば、こうして女子と二人で話すとか中学入ってからなかった。ずっと部活だったし、部活ない日は特にやることなかったから田野とか他の友達と遊んでたし。女子となんてクラスで掃除の時とかちらほら話しただけだ。
「俺の悩みはやる気がなくなることだけどな」
「それって理想が高すぎるだけじゃない?」
「理想、か」
 うすうす気づいてるっていうか、まさにそれなんだよなと改めて思った。結局、相沢先輩と吉田先輩のペアは俺らにとっての理想で。三年の金田先輩達が引退する前にはいたけれど、やっぱり目標は相沢先輩達だった。でも相沢先輩と俺は全然違うし、吉田先輩とも少し違う。何が理想なんだろう。
 一瞬、思い浮かんだ顔に驚いて頭を振る。綺麗な髪とか顔とか思い出したら顔が火照ってきた。
 寺坂は良く分かってない顔をして俺を見てくるだけ。とりあえず、今ここで言えることはないみたいだ。
「理想は、確かに高いかもな。多分、あと一年以内に結果出したいからだろうな」
「一年なんだ」
「そうだな」
 そう。一年後には、きっとあの人はいなくなる。だから、それまでに相沢先輩達に追いつきたい。出来れば追いつきたい。それが、無理だって心のどこかで分かってるからやる気がなくなるんだ。
「一年で、結果を出すなら、やっぱり頑張るしかないんじゃない?」
「分かってる」
「出来るか出来ないかは一年後にしか分からないし。でも、やらないと一年後は確実に駄目だろうし」
「分かってるって」
 すでに頭の中では答えが出てる。やる気がなくなろうが、何しようが。一年で追いつくのは無理だと思おうと。
 結局、どうやって一点を取るかを試合中に考えるってことに収束する。
 グダグダ悩んでも仕方がない。分かってても戻ってきたくなる。
「ま、分かってるんならいいんじゃない?」
 寺坂は立ち上がって伝票を持った。ラケットバッグを背負って歩いてく後姿をぼーっと見る。引き止める理由なんてない。
「また今度ね」
 寺坂はそう言って会計して出て行った。その場に取り残される形になって、なんとなく店員の目線が痛い。
 しゃべってる間にパフェのソフト部分が溶け出して、慌ててスプーンで掬い取る。
 ……また今度?
 ってことはまたなんか話すのかな。
「寺坂帰ったんだ」
「田野。どこから見てた? ずっとトイレ?」
「意外と話してる時間短かったぞ?」
 そこまで言って田野は向かいに座ってスペシャルドリンクを手に取る。底に残ったかすかな量を口の中に入れて、店員におかわりを頼んだ。もうしばらくここにいるのか。
 パフェを食べながら思い出す。
 さっきよぎった、早坂先輩の顔を。
 一目ぼれでもないけど、やっぱり綺麗だし強い。憧れかもしれないけど惹かれてる。でもきっと、早坂先輩は俺なんて視界に入っていない。だから、視界に入りたくなる。
 あと一年以内に入らないと、来年の今頃は引退してるだろう。
「まー、お前が何悩んでるのか知らないけど」
 田野の声がいままでと違うのに気づいて前を見る。真面目な視線を当てられて、息が詰まった。
「とりあえずさ。相沢先輩達に勝ちたいって思うのは同じだから、一緒に強くなろう」
「……ああ。悪かった。焦っても仕方がないよな」
「焦って強くなれたらいいよな」
 残ったパフェを思い切り口にかきこむ。食べながら自分の中の想いも飲み込む。
 恋愛感情っていうよりも、憧れだ。あんな強い人に注目される男になりたいってほうが大きいと思う。
 だからこそ、立ち止まってる暇はない。
「うし、とりあえず帰って寝る」
「まだ日は高いけど」
「比喩!」
「意味わからん」
 田野が笑ってるのを尻目に伝票を持ってレジに向かう。
 ひとまず休む時は休む。そして、やる時はやる。
 追いつけないとか追いつけるとか、それは追いついてから考えてみよう。
 でもこうやって思ってもまた同じように凹むんだろうが。
「まあ、また凹んだら寺坂に聞いてもらえば」
「……そうだな」
 さっきの「また今度ね」を思い出しながらお金払って外に出た。まだ明るい空が店に入る前よりも高く見えた。
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