不穏な読書

October 01 [Mon], 2012, 15:06

 不穏な読書@――記憶の中の図書館

 犯罪や深刻な事故をニュースの情報と受け取り、文明社会に守られた日常に満足している筈のわれわれは、徘徊するゾンビやシリアルキラーが跳梁する映画や、肉体の危険を垣間見させてくれるアトラクションに興じる傾向がある。
脳の快楽とはいえ、不穏な気分にさせられる物語に魅力を感じてしまうのは、どうしてだろう?
中学校に入り、馴染みのない級友たちの多いクラスの中で位置を占め、対人関係によるストレスから解放された時点で、安心して内部に向かえる。
 学校教育において文字を教えられ、読解能力を得て情景を脳内にかたちづくれる能力を磨かれてきたわれわれが、相互のコミュニケ―ションの為だけでなく、内的宇宙の創造つまり、フィクション、ミステリや、ホラー、SFに踏み入ってくる。
現実逃避と断じればそれまでだが、東西の人々古来からが炉端で語られる昔話や怪談に興じたように、書物を読む快楽は脳内に深くある不安を刺激し、危険な淵へと泳ぎ出す情動に訴える部分に惹かれるのが目的ではないだろうか。
身体に対して不相応に大きな脳を持つわれわれ人類だが、使用している領域は三〇%に過ぎず、全てを活性していないとする学説がかつてあった。
だが、人が成長するに従って余計な神経を遮断し、組み直すのが学習活動で、われわれが生活するうえで使用する脳神経細胞は、10%程度で充分だとする報告がある。
後の九〇%は、オカルティストが主張する超常能力が眠る領域ではなく、純然たる娯楽のためにあるのだそうです。
 ネアンデルタール人は現生人類よりも、明らかに脳容積が大きかった。彼らはわれわれよりもはるかに深い娯楽を楽しんだに違いない。
 夢見がちで幸せな旧人たちは、現実的で攻撃的な新石器人によって駆逐されたのでしょう。

 子供がマンガやテレビではなく、活字だけの本に親しむことを、大人は勉強の成果と見て、容認するものだが、読書自体には一種背徳的な快がある。
 小生がこの後ろめたさを体験しえたのは、中学生の頃、兄が新聞広告を見て、銀色の背表紙のペーパーバックを買ってきた時です。
 『SFの夜』という書名、ハヤカワ・SFシリーズ、著者は福島正実。SF小説なるジャンルの紹介者、少年向け読物で知る名でもあった。
 それまでも、マンガは手塚治虫から石森章太郎がSFジャンルで、TVはミステリーゾーン。ジュール・ベルヌ、H・G・ウェルズ、少年向けの『物体Xの恐怖』『ドノヴァンの脳髄』などから、親父の本棚から『日本アパッチ族』も読んではいた。
 ところがこの短編集は、まったくの大人向けの世界で衝撃的だった。

※兄が友人に譲渡して手元にないのでうろ覚えですが……青を基調とした背景に、多重露光で流れる車のヘッドライトの表紙だったと思います。

肉親を他人が化けているとしか認識できないカプグラ症候群(一種の精神妄想)を描くと思わせて、ラストでどんでん返しのスリラー。
黒人と白人、半島人と日本人の社会的地位が逆転した多次元世界で、暴力的反逆に踏み出す男。(著者の敗戦後遺症の発展版か?)
深宇宙を渡ってきた播種システムマシンによって発生した原核生物から、進化して再現された地球人類が、エラーコピーによってノイローゼになる話等々。
もちろん、少年読物にありがちな安易なハッピーエンドは求めようもなく、話しなかばで断ち切られ、確信的な筆で反世界にのめり込まされた読者は足下のステップを外され底無しの空間に宙吊りにされる。
見えざる手で操られる生物の一種でしかない人類が陥る悲劇。クールで理知的な未来怪談を読まされたわけです。
 特に異様な戦慄を覚えたのは、外宇宙の地球型惑星に立ち寄った宇宙船搭乗員たちが、その星に不法投棄された不良品アンドロイドたちによって、一方的に虐殺される短編だ。
 なにせ当時の小説なので露骨なセックスシーンは描かれぬにしろ、その背後にあるものはガキでも充分把握できます。
不埒にもその女型ロボットで(ダッチワイフなる言葉をこのとき初めて知る)つかのまの快を得ようとする男たちの行動で、性衝動を具体的にイメージした。 
その連中が狂った人造女性群に絞めつけられ、殺されてゆく末路には、思春期に入りかけた小生には、忌まわしい性の懲罰地獄を覗く思いを得ました。
文字によって書かれた内容を把握し、著者の意図どおり、ある種の感情を励起させるという能力を養わせる国語教育は、この時達成されたのです。
 
 おかげで変なことに出くわしても、この短編集のテーマに類別視でき、妙に分析、客観的になれるようになりました。
子供の私に充分以上のショックを与えてくれたクールで偉大な作家が福島正実大先生です。
彼の短編作品集は、後に同出版社のHSF文庫JAシリーズで分散刊行された際に入手した筈ですが、なぜか同じものを読んだ記憶がない。
あれは私の記憶にだけ存在する幻の作品集となったのだろうか?


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