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December 17 [Mon], 2007, 21:54

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 ちょうど去年の今日あたりだった。今日と同じように合格発表を一人で見に行って、落ちてるのを確認して、目に涙浮かべながら母親にメール打って、一時間に一本しかない電車に飛び乗って。2浪が決まったあの日、俺は未来に出会った。
 俺の住むド田舎へ向かう電車は、耳をつんざくような音を出しながら、ゆっくりと動き出した。その時点で、車両内には俺と、深緑のジャンパーを着たじいさんと、英単語の本を食い入るように見る女子高生しかいなかった。それもそうだ。この電車は田んぼだらけのあの町を目指す電車だ。人が少ないのはいつものことだ。各駅停車がいつもより苛立ちを覚えさせた。不合格のせいだ。不合格という現実は一瞬にして全てを嫌にさせる。
 大きく伸びをしてから前を向くと、女子高生は相変わらず本を見つめていた。勉強熱心なのだろう、きっと彼女は俺とは違って高校でも優秀で、大学にも一発で入っちゃうような子なんだろうな。そんなことを勝手に考えて(人は俗にそれを妄想と言うのだが)いたら、車内に車掌のダミ声アナウンスが流れた。目の前の女子高生は慌てて英単語の本を鞄にしまい、立ち上がった。その瞬間、彼女が着ていた紺色のダッフルコートのポケットから、赤い何かが落ちた。携帯電話だ。
 あ、と思った。あの携帯を拾って彼女に渡さないと。単純にそう思って、立ち上がり、携帯を手にして、電車を降りて行った彼女を追いかけた。
「ちょっと!」
人気のないホームに自分の声が響いて、彼女は振り返った。
「これ、落ちましたよ」
赤い携帯電話を差し出す。彼女は目を見開いて驚いた様子だった。落としたことにも気付いていなかったのだろう。
「あ、ありがとうございます」
その時、発車の笛がホームにけたたましく響いた。やばい。そう思った時にはもう遅かった。電車のドアが閉まる様子が、俺の目にはスローモーションのように映った。一時間に一本しかない電車を、逃してしまった。他人の携帯を拾って渡したせいで。
 嗚呼、なんてツイてないんだ、俺。不合格のうえにコレかよ。思わず両手を膝について、頭を下げた。電車は、寂れた駅のホームに俺と彼女を残して、ゆっくり進んで行く。
「行っちゃいましたね」
女子高生は過ぎ行く電車を見ながら、ポツンとそう呟いた。
「しょうがねぇや、また一時間待つさ」
両手で膝を叩いて、その手をコートのポケットに突っ込んだ。初めてまじまじと彼女の顔を見た瞬間だった。普通の子、というよりはちょっと可愛いくらいだなと思った。そんなことを考えていたら、彼女はニコリと笑って言った。
「一時間、寒いでしょう?お礼にお茶、奢ります」
「は?」
「だから、次の電車待ってる間寒いから、どっかでお茶しよって言ってんの」
逆ナン?いや違う。彼女は言い終えると俺のコートの袖をつかんで、半ば無理やりに改札へ続く階段へと引っ張って歩き出した。

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December 12 [Wed], 2007, 19:19


 不合格だ。そりゃないだろ神様。

 もうこれはどうしようもない。諦めるしかない。去年の今日あたりもそう思ったはずだ。なのにどうしてまた、今年も同じことを繰り返しているんだろう。何のために、誰のために。それは決して自分のためではないことを知っているのに。
 寒い北風が吹いて、思わず身を縮めた。隣を通り過ぎて行く嬉しそうな学生たち。あの子たちはきっと受かったんだろうな。友達同士で肩を抱き合って喜んでいる男子ども。あいつらも春からは大学生なんだ。母親らしき人物と手を取り合って涙を浮かべている女子高生。彼女は……受かったのか落ちたのかわからない。それでも、きっと俺よりはずっとマシな人生だ。これで3浪決定の俺よりは、ずっと。
 最終進路を決める高校2年の秋、医学部という言葉を口にしたのは、俺ではなく母親だった。担任を交えた三者懇談で、進路はどうされるつもりですかと淡々とした口調で尋ねた担任に、俺よりも先に母親がそう答えた。この子はT大の医学部に行かせるつもりです。うちの最後の切り札なんです。俺はその横で文字通り開いた口が塞がらなかった。い、がくぶ。いがくぶ。てぃーだいのいがくぶ。きりふだ……?突然の言葉に担任も目を泳がせて、あぁ、そうですか、みたいな返事をしたあたりで、俺の記憶は途絶えている。衝撃的なそのセリフが、4年経った今、頭の中を木霊して蘇る。ふと目頭が熱くなってしまった。マフラーに顔を沈めた。あの日から俺の人生はおかしな方向に転がり始めてしまったのだ。だからといって、今までそんな勝手な母親を責めることもしたことがない俺は、本当に情けないダメ人間だ。
 姉は2人の子連れバツ1、弟は中学入学後から引きこもり。その間にいる俺は、高校時代、勉強でも運動でも秀でることのない普通の学生だった。家は小さな村に唯一ある診療所で、年寄りの集会所。今なら母親の「切り札」という言葉の意味がわかる。あの診療所を継ぐ可能性が少なからずともあると言えるのは俺だけだという意味だったのだ。そんな「切り札」も、切り札と呼べるほどの威力を持たないただの札であり、いつまでたっても浪人生という肩書きを背負った21歳だ。なんてこった。ちょっとくらい微笑んでくれでもいいんじゃないか女神様。
 『ダメだったよ』。句点もついていない短文のメールを、母親宛に送る。駅の階段をゆっくりと下りていく。一時間に一本しかない電車を待つのは苦痛だ。こんな寒さの中だと特に。
 極端に人の少ない5番線のホームには人っ子ひとりいなかった。あまりの寒さに震え上がり、自動販売機で何か温かいものでも買おうかと財布を出しかけたところ、後ろで足音がした。
「遅い」
「未来か」
ミルクココアのボタンを押して、出てきた缶を手に取ってから、彼女の方を向いた。
「待ってたのか?」
未来はむすっとしたまま、錆びの目立つベンチに腰掛けた。
「そうよ。ちょうど学校帰りだったしね」
「そりゃどうも」
その横に腰掛けて、あつあつのミルクココアを口に運ぶ。
「で、結果。どうだったの?」
興味があるのかないのか、未来はニヤニヤと笑って俺の顔を覗き込んだ。
「わかるだろ?この姿を見ろよ」
「ホントに?」
「笑えばいい、3浪決定だ」
「あっはっは」
さぞ面白くなさそうに笑う未来に、俺は一瞬小さな怒りを覚えた。しかし、彼女はいつもこうだ。半分意地悪のようなことしか口に出さない、あまり他人に優しい一面を見せることのしない少女だった。
「で、何でお前はそこで待ってたんだよ」
「何って、決まってるじゃない。よっちゃんの結果を聞きに」
さも当たり前かのように言う未来に、俺は半ば呆れつつ言った。
「もし俺がこの時間にこの場所を通らなかったら、お前どうするつもりだよ。やることなすこと大胆だな、相変わらず」
一息でそこまで言い切ったところで、ふと思い出した。もし俺があの時間にあの電車に乗っていなかったら。今頃俺の目の前に彼女はいない。俺と未来は、そんな、テレビドラマに観るような出会い方だったのだ。





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