バイブルB 

March 27 [Thu], 2008, 1:55
翌日会社に出社する。
目は少し腫れていて、体調が悪くて休んだ人のように見えるだろう。

出社しても、彼の事ばかり考えてしまう。
なんで?あんな最低な奴なのに。
今ごめん、って言って戻ってきたら、許せてしまうのだろうか。
きっと今の私なら、許してしまうんだろうな。
そして一緒にこの子を育てようって言うんだ。

頭がおかしいのかって思うけど、仕方ないね。
惚れた弱み。


でも、そんなこと絶対あり得ない。

思考はその繰り返しで、常にフル回転。
頭が破裂しそうな感じがする。


「大丈夫?」

昨日メールをくれた同僚から声をかけられる。
今の私は声をかけてもらうだけで泣けてきそうだ。

「うん。昨日メールありがとう。もう大丈夫だから。」

「そっか、無理しないようにね。」

「うん。ありがとう。」

「・・・・ねぇ。」

「うん?」

「あのさ・・・違ったらごめん・・・。なんかあった・・・?」

「何かって?」

「いや・・・プライベートで何か・・・あったのかなぁーって。」

その言葉を聞いたとたん、張り詰めていた物がほどけるのがわかった。
涙が溢れ、こらえきれず目からこぼれ落ちる。
いったん溢れたものは止めるのが難しい。
止めたくても止まらない。
感情も涙と一緒に溢れてくる。

もう、ダメだ・・・・。

溢れた物を止められず、うずくまって泣いてしまった。







休憩室で同僚から話を聞いてもらった。
誰にもいうつもりはなかったのに、言わずにはいられなかった。
彼は親身になって話を聞いてくれた。
質問攻めにするでもなく、彼のことを悪く言うのでもなく、
ただ傍にいて、私の言葉を聞いてくれていた。
その彼が一言だけ口を開いた。

「人はどん底に落ちても、絶対再生する力があるんだ。
どんなに辛くても、命は待ってくれないから。」

うつむいてた頭を上げ、彼の顔を見る。
彼は遠くの空を見ながら、笑っていた。
頑張れという言葉は一つも言わなかった。
なのに、背中を優しく押されている気がした。


今の私は一人じゃないんだ。命が宿っている。
今の私の置かれている状況なんて、この命には何ら関係ないこと。

同僚の言葉を聞いて、強く生みたい、そう思った。


同僚は駅まで一緒に歩いてくれた。
とても安心した。
きっと家に帰って、彼との思い出、彼と彼女のこと、彼に言われた言葉、
色々思い出してまた泣くんだろうなと思うと、自然と足取りが重くなる。

同僚がゴソゴソと通勤鞄の中から一冊の本を取り出す。

「はい、これ。」


「月のしずく」  浅田次郎


「なに?これ。」

「俺のバイブル。」

「バイブル?」

「そう。俺のバイブル。読めばきっと俺の言ったことわかるよ。」

と彼は笑った。

「ふーん。バイブルかぁ。」

帯付きの綺麗な文庫本には【再生の祈りに満ちた珠玉の短編集】と書いてある。


再生・・・・。


「月のしずく。居酒屋みたいだけど、いい本なんだ。」

「居酒屋?そんな風には思わなかったけど。・・・綺麗な題名だね。」

彼のささいな冗談で私も久しぶりに笑った気がした。












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