ニーチェと古代ローマ 

March 14 [Wed], 2007, 22:27
フリードリッヒ・ニーチェの本を最近、まとめて読んでみた。
昨年、『アンチクライスト』を読んだことがあったので、本格的に読んでみた。

『ツェラトゥストラはこう言った(上・下)』
『善悪の彼我』
『道徳の系譜』
『この人を見よ』
の5冊を短期集中で読んだ。
全て岩波文庫。

まず、ニーチェを読む際に考えるべきは、
当時のキリスト教会の社会的な影響力、支配度であろう。
ニーチェは『ツェラトゥストラはこう言った』の中で
「神は死んだ」と述べており、この発言は当時の社会的には
とても容認されない発言であった。

しかし、中世のキリスト教の圧迫から逃れ、近代における
自己意思の価値を確認したニーチェの思想は革命的であった。

徹底的に、キリスト教的なる物への批判をニーチェは繰り返したが、
上記のようなキリスト教支配の背景だけでなく、
ニーチェの生家が牧師の家であり、出自への過剰な反発もあったのではないか。

彼の著作の根底は、ドイツ的な物への極端な反抗を示している。
逆に外国への憧憬がやたらに強い。
フランスへの賛美や、仏教への賛美などは度を越しているといえるほどである。

仏教とキリスト教を比べ、仏教は哲学的な宗教であり、
キリスト教に対する優位をといている。
般若心境などは「色即是空、空即是色」といっており
信仰や偶像、一神教か多神教かなどということを超越した
哲学だといってよく、唯一神への崇拝を説く、
ユダヤ教やキリスト教、イスラム教徒
一線を画している。

また、ニーチェはキリスト教が、古代ローマを腐敗堕落させた説く。
私は古代ローマという文明は他に比類の無い優れた文明であり
近代文明以前では、圧倒的な優れた文明であると考えている。
古代のローマと、中世の暗黒時代、ルネサンス以後の近代と比較すると
ローマの偉大さが際立つ。
古代ローマ人の著作を読むとその知的な力量に魅了される。

しかしながら、キリスト教が古代ローマを堕落させたという論法は
若干強引であろう。

ニーチェによると、キリスト教は「弱者の宗教」である。
つまり、迫害されてきた民であるユダヤ人から生まれたものであるため
劣等感、鬱屈感情(ルサンチマン)が弱者の救済の思想につながっているという。

日本の歴史は、西欧賛美の中で、一緒にキリスト教を美化しすぎる傾向があると思うが、
日本人は、キリスト教が生まれた背景というものを理解する必要があるだろう。

処女が妊娠するなどということがあれば別だが、
ユダヤ人であるイエスが説いたのは
支配者であるローマ人との対決ではなく、
寛容であったことは当時の社会的状況を見れば必然であった。

これは、仏教における諦念に共通するものがあるかもしれない。

それに対して、ニーチェは意思による自己の克服、超人の思想を生み出した。
近代というのは宗教ではなく、科学、哲学により
信仰による救いではなく、力による克服が可能であるという考え方といってよいかと思う。

もっとも、歴史書やローマ人の著作を読むと、五賢帝最後のマルクス・アウレリウス・アントニウス
亡き後のローマにおいて、ローマが没落したのはキリスト教がどうこうというよりも
彼ら自身の道徳的退廃によるものが大きい。

古代ローマにおいて指導者とはまさしく、noblesse oblige ノブレスオブリージュすなわち高貴な責任を持つ人々であった。

しかし、時代が下るに従い、私利私欲に走り自滅していった。
古代ローマ人の著作を読むとなぜ、ローマがローマ足りえたのかが分かる。

結局、滅亡は彼ら自身の問題であり、キリスト教の普及、蔓延というのは結果的に
滅亡と機を同じくしたということに過ぎないと思う。

事実、アメリカと大英帝国が世界を制したが、彼らはまぎれもなく、キリスト教徒の国である。
しかしながら、彼らは同時に、中世のキリスト教徒とは違い、
むしろローマの継承者といってよい。

悪い点、良い点ともに、アメリカという国はローマに酷似している。

個人的にはキリスト教、そしてユダヤ教にとってローマとは、ユダヤ人を迫害したエジプトのパロ(ファラオ)と同じく不倶戴天の敵であった。後世、ローマは何かと、退廃と堕落の民として
悪役として描かれることが多いが、それは事実に反しており、文明のローマに対して
当時のユダヤ教・キリスト教徒は宗教原理主義的な人々であり、マサダの砦での集団自害の例を引くまでも無く、ローマという文明社会にとって危険な宗教集団だったということであろう。
P R
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