『秘密。―私と私のあいだの十二話 』読みました
2008.03.03 [Mon] 12:49

エッセイではなく短編集ですが、日本テレコムShortTheater「心をつなぐ言葉たち」ほかをまとめたものとのことです。 一人の作家が2編ずつ書いていて2つで1セット。2名の登場人物の視点から同じストーリーを描いています。例えば、はじめの吉田修一さんの作品は運送会社の配達人と荷物を受け取る人。異なる話が交差していたり、違う視点で描かれたり、とてもおもしろい趣向です。 個人的に好きなのは(どれも好きですが)森絵都さんの「彼女の彼の[彼の彼女の]特別な日」かな。男女の出会いが描かれています。
 

『すべてがFになる―THE PERFECT INSIDER』読みました
2008.03.03 [Mon] 12:45

孤島の研究所の中。しかも外界との接触を制限された個室で天才工学博士・真賀田四季は生活を送っていた.ゼミ旅行として、その島を訪れていたN大学助教授・犀川創平とお譲様女子学生・西園萌絵は真賀田博士に会うために研究所へ.しかし、彼女達が出会ったのは両手両足を切断されウエディングドレスを着た真賀田博士の姿であった.唯一、博士の部屋につながる通路は監視カメラで録画されていて、10年以上もの間他人の出入りが無いというのに殺人が起きた.犯人はどのようにして殺人を犯したのだろうか?密室殺人ミステリー. 多少工学系の知識を知っていれば分かりやすく読める作品だと思います.知らない方には、少し難しく思えるかもしれません. 西園萌絵のお嬢様キャラが作品を明るくしていて良かったと思います.
 

『黄昏の百合の骨』読みました
2008.03.03 [Mon] 12:28

恩田陸の名作長編「麦の海に沈む果実」の続編。 前作は物語の中のような(まあ物語なんですが)学園の中での幻想的なミステリで、ファンタジー色も強かったが、今作はグッとミステリ色が濃くなり、随所に散りばめられた謎や伏線が、一癖も二癖もある色とりどりの人物によって紡がれる。 誰が味方か、誰が敵か、何を考えているのか、事件の真相は…?ラストのラストまで気を抜けない、静かなミステリ。聡明な主人公・水野理瀬にシンクロしながらも諸処のキャラの目線に立って読み進めてください。 前作からの継続キャラが少ない上、ストーリー上の内容もそれほど関連していないため、前作を見なくても十分楽しめるが、やはり目を通しておいた方が面白い。 恩田陸はスピンオフや予告編などは目にするが、このシリーズほど地続きなシリーズは珍しい。構想段階と言われる完結作「薔薇の中の蛇」にも期待! 「悪は全ての源なのだ―善など、しょせん悪の上澄みの一部に過ぎない。悪を引き立てる、ハンカチの縁の刺繍でしかないのだ。」 本文197ページより
 

『夜のピクニック』読みました
2008.03.03 [Mon] 12:25

前の職場では 同じような行事が行われていました。 ただ、日中40キロほどの行程でしたけど。 だからここまで大変ではなかったんだけど、 少しはその辛さは分かる。 でも、辛いだけじゃなくて歩き終えた爽快感は 何物にも変えがたいものがあった。 そんな複雑な思いを久々に思い出させてくれた作品でした。 そして本作。 貴子と融の関係は誰にも秘密の関係で、 お互いにお互いのことを意識しながら無意識を装っている。 そんな二人だけど、周りの人間はこの二人の微妙な関係に なんとなく気付いている。 でも二人は意識しないように意識しないように努めている。 無意識下の意識。心の中では意識しているはずなのに、 無理して意識から消そうとしている二人。 なんか切ないですね。 そんな中、伝統行事の歩行祭を通して お互いの気持ちに変化が・・・ 最後は読んでもらうとして、こういう風に終わってよかったな、と。 高校生の男女の複雑な心理。 そこが見事に描かれています。 歩行祭という非日常の中で、日常を振り返るとき、 そこで真実の想いを口にすることが出来たのではないかと。 ただ歩くだけなのに、何故こうも特別なんだろう。 それは本当に歩いた人にしか分からない、永遠の謎だと思いますよ。
 

『サウスバウンド 上』読みました
2008.03.03 [Mon] 12:20

相変わらず埼玉と東京と横浜を行ったり来たりしているので、電車に乗っている時間がそこそこある。DSばっかりやっていたのだけれど、最近ちょっと読書欲が出てきたのでとりあえず奥田英朗の「サウス・バウンド」を読んでみた。 まず読んで思ったのは、中島みゆきの新譜(といっても、今となってはもう半年ぐらい前なわけだけど)を聞いたとき、もっと具体的には「宙船」を聞いたときと同じような感想なのだけれど、「この本を読んでも、共感できる日本人というのは実はほんのわずかだよな」ということ。作者はラスト近くで主人公に次のように語らせている。  警察や企業に楯突く一人の男を、痛快に感じ、面白がりはするものの、  我が身に置き換えたりはしない。テレビの前の大人たちは、一度も戦っ  たことがないし、この先も戦う気はない。戦う人間を、安全な場所から見  物し、したり顔で論評する。そして最後には冷笑する。それが父以外の、  大多数の大人だ。 この言葉はこの本を読む読者自身にも向けられている。でも、多くの読者はそのあたりの皮肉にはあんまり気がつかないんだろう。あぁ、面白い本を読んだな、でおしまい。 僕は中島みゆきの新譜が出たときはその歌についてブログで全曲感想を書こうと思っていたのだけれど、この間の『ララバイSINGER』ではそれを見送った。なぜかといえば、「宙船」がたとえ高校野球の行進曲になろうとも、 すべての港が灯りを消して黙り込んでも その船を漕いでゆけ おまえの手で漕いでゆけ おまえが消えて喜ぶ者に おまえのオールをまかせるな という歌詞を、自分で漕いで行く立場で歌うことができる人間、自分の我が身に置き換えることのできる人間がどの程度いるのか、甚だ疑問だと思ったからである。「メロディが好き」「歌詞が好き」と、この曲を評価する人の考えはいくつかあると思うのだけれど、「一人で自分で自分の道を進んで行ける人間」がその中にどの程度いるのかといえば、僕はほとんどいないと思っている。そういう中で、この曲を論評しても意味がないよな、と思ったわけだ。 冒頭に書いたように、同じようなことをこの本を読んだあとにも感じた。しかしまぁ、こち亀の両さんや、ゴルゴ13に自分を置き換える人はいないわけで、その程度のものかもね、とも思う。 以下、いくつか「!」と思ったフレーズ。  嫉妬深くて極端な同質社会である日本には、誰かに犠牲になっていた  だいても、嫉妬しきれない、手の届かない存在が必要だと思います。そ  れが皇室です。  日本の学校って人それぞれっていう考え方が通用しないから、やりにく  くって  おれは、あんたらみたいな運動屋にはもうシンパシーを抱いていない。  左翼運動が先細りして、活路を見出したのが環境と人権だ。つまり運動  のための運動だ。ポスト冷戦以降、アメリカが必死になって敵を探して  いるのと同じ構造だろう  もしも疑問に感じたり、これはおかしいと思うようなことがあったら、それ  を忘れないでいてください。そして、大人になったとき、自分の頭で判  断し、正義の側につける人間になってください  人の物を盗まない、騙さない、嫉妬しない、威張らない、悪に加担しな  い、そういうの、すべて守ってきたつもり。唯一常識から外れたことがあ  るとしたら、それは、世間と合わせなかったってことだけでしょう これらのせりふを、さまざまな登場人物にさらっと言わせているところが楽しい(上の引用は同一人物が語っているものが一組だけあるけれど)。 ところで、この本は第一部と第二部がほぼ完全に独立した別の話になっている。第一部では親父はただのぐうたらで、主人公の学校生活が中心で進んでいく。一方の第二部は親父は北の国からの五郎さんみたいな感じでかなりの働き者になる。話も大人の世界がかなりの割合を占める。どちらが楽しいかと言われると主人公がご飯ばかり食べている前者だが、台詞に赤線を引いたのは後編の方が多い。 個人的なこの本の評価は☆3つ。それにしても奥田氏の書く文章のリズムが好きだ。こういう相性の良さを感じる作家はあまり見つけられない(東野圭吾、宮部みゆき、夏目漱石、宮本輝、野田秀樹、村上春樹、殊能将之、真保裕一くらい?)なので、これからもがんばって欲しい。