dahlia 外伝 第2章 06 

2006年04月11日(火) 15時40分


ツヨシは元からの潜在魔力の数値が高いらしく、あまり苦労もせずに一通りの呪文をマスターしたらしい。
ただそれは、攻撃魔法に限ってことらしいけれど。
それは本人からではなく、タクロウさんから聞いたことだった。

「へぇ・・・」
「それで回復魔法が使えたら、いうことないんだがなぁ」
「あー確かにそうですね」
「お前らは2人きりしかいないんだから、それが死活問題にならなきゃいいんだがな」
「大丈夫ですよ。 その前にオレが相手を倒せば」
「おっ! 頼もしいじゃねぇか。 でも毎回そう上手くいくとは限らねぇぞ」

その後・・・なんて答えたかは、もう忘れた。
そんな会話をしたのはつい最近のような気もするし、もうかなり経ってしまったような気もする。

「さて、どないしよ」

ツヨシが消えてしまってから、どれだけの時間が経過したのかは不明だった。
あれから暫くして、頼みの綱だったランプが最後の力を使い果たしてしまって、今コウイチは真の暗闇の中にいたからだった。
たった一人きり、それも光の届かない洞窟の奥で。
それでもこうして余裕のようなものがあるのは、そうやって明かりが途絶えてしまってから気付いたのだけれど、岩肌がところどころ薄ぼんやりと自ら発光しているせいだった。
近付いてみると少量の苔のような植物がたった数ミリ生えていて、どうもその植物自身が光の源らしかった。
なので、光を失った今でも狂わずにいられたのだ。

「でも、さすがにやばいなぁ・・・」

よいしょと腰を下ろして、自分の分身でもある細身の剣を腰から抜いて傍らに置こうとした時だった。
パラパラと顔にかかるようにして、砂が降ってきたのは。
上を向いても、何も見えない。
ただ、嫌な予感はした。
心臓がどきどきと妙な主張を始めた。

「嘘やろ・・・?」

そして、轟音が響いた。








dahlia 外伝 第2章 05 

2006年04月05日(水) 10時29分


ツヨシは心の中で大暴言を吐きながら、ずっとコウイチを見ていた。
ずっとだ。 最初からずっと。
いなくなったように見せかけて、でも完全に立ち去ることは出来なくて。
そんな自分に嫌気がしながらも、出来ないものはしょうがなく。


アホ! なんでそこで突っ込むんや!


とか。


相手の挑発に簡単に乗んなやボケ!


だとか。
ハラハラしながら眺めていて。
どうしてくれようかなんて考えていた時だった。



コウイチの肌から深紅の血が・・・流れ出したのは。



本人が全く気にしていないようなのが、腹立たしかった。
真摯な眼差しで爬虫類野郎と対峙しているのが、腹立たしかった。
助けを呼ばないことが、腹立たしかった。
剣を片手にボロボロになりながらも、真っ直ぐに勝利だけを信じて立ち上がる姿が。

「・・・・・・・・・いい加減にさらせや」

何処に何の怒りが向かっているのかイマイチ自分で理解できないままに、気が付けばコウイチの前に出てしまっていた。
驚いたような表情も、やけに腹立たしかった。
だからまた、置いてきた。
もう用事も済んだことだし危険もなくなったことだし、アイツもさっさと帰ってくるだろうと思ってのことだった。
一気に町まで跳んで、さっさと自分の部屋のベッドに潜り込んで・・・それから。
それから?
腹の虫に嫌々起こされて、階下に降りていって聞かされたタクロウさんの言葉に。
一瞬、息が止まった。




「コウイチがまだ帰ってきていないんだ。 お前、知らないか?」




それは心配から?
それとも・・・怒りから?








dahlia 外伝 第2章 04 

2006年04月04日(火) 9時09分


大きく1歩を踏み出して、そのままの勢いで相手の懐に入り込む・・・ように見せかけた。
何故か毎回、がら空きの胴体を斬り付けていた。
構えていたはずの剣はその時、いつも少し下がっていたから。
チャンス!とばかりに斬ったはずなのにその手応えはなくて、気が付けば相手の尻尾にぶちのめされている始末・・・。
それを今回、コウイチは。

「あほー! もうわかったでー!!」

下げられていた剣に照準を合わせて、思いっきり下から上へと叩き上げた。
グワン!とした堅い衝撃が腕全体にまで響いて、思わず自分の剣を落としそうになるのを寸でのところで歯を食い縛って堪えた。
ついでとばかりに、力任せに相手の大腿骨も斬り付ける。
さっきまではなかった、肉を斬る手応えが確かにあった。
絶句がトカゲの喉の奥から響き渡る。

「剣がお前の弱点やってんな!」

だから胴体だけを攻撃しても、何の意味もなかったのだ。

「あー・・・よう気付いたわオレ・・・」

トカゲのくせに。

「なんやようわからんけど、これで思いっきりいけるで」

トカゲのくせに。

「さ、これからや。 いっちょ一気に行こか」




トカゲのくせに!!!




dahlia 外伝 第2章 03 

2006年04月03日(月) 17時18分


斬り付けても斬り付けても、まるで実体がないかのように手応えすらもなく。
トカゲのような皮膚・・・というよりは、まるでアメーバーを相手にしているかのような錯覚。
こちらの攻撃は当たらないというのに、二本足で立って尻尾を打ち振るう向こうのそんな攻撃は容赦なくコウイチを傷付けた。

「なんやねん・・・」

リザードマンという名前だったような記憶がある。
弱点は火だったはずだ。

「・・・・・・・・・」

何かを考えかけて。
でもすぐにそれを否定する。
考える余裕など、今は何処にもない。
余計な思考は、すぐさまに身の危険に繋がる。
それでも。
どうしても。
考えずにはいられなかった。




ツヨシが、いてくれたなら。




喉が渇く。
目が霞む。
洞窟内での唯一の光源であるランプがジリジリと大気を焦がすと同時に、コウイチの喉や目を痛めてもいる。
あがる息。
破れた皮の鎧。
血が滲んだ肌。
体の一部であるはずの馴染んだ剣が、今日に限ってやたらに重い・・・。


あかん・・・かも知れへん?


そんな弱気がチラリと脳裏を掠める。
それを自らが認めた時が、敗北の時だったけれど。


それにしても・・・。


このトカゲ野郎は最初から、“こんな体” だっただろうか?
いつからこんな得体の知れない物になった?
本来は見た目通りに、ガチガチに堅い表皮なはずじゃないのか?
実際にコウイチにぶつけられる感覚は、まるで岩石のようなものだ。

「見た目通りやないってことにしても、わけわからんっちゅーねん・・・」

もう1度隙を見て、鎧も何もない相手の胴体に斬り付ける。
やはり期待通りの手応えはなく、ぶにょんとした何とも嫌な感じが手のひらに伝わってきただけだった。
トカゲが嘲笑う。
右手に持った剣がそれにあわせて、小さく上下する。

「・・・ん?」

何かが、ひっかかった。
もう1度、コウイチは剣を構え直した。
トカゲも腰を落としてコチラを見据えている。
地面を重々しく叩く尻尾が壁に反響して、今にも何処からか落石しそうだ。







dahlia 外伝 第2章 02 

2006年03月10日(金) 10時12分


ここ最近のツヨシは、溜め息をよく零していた。
そんな様をコウイチはただ、黙って見守っているしか出来なかった。
側に行こうとすると、するっとかわされてしまうのだから、どうしようもないというものだ。

「ツヨシはどうしたんだぁ?」

タクロウさんの言葉に首を振ることでしか返事を出来ないことに、当のコウイチも悔しくもあった。


なんでオレに何の相談もないん?


もとより率先して喋る方ではなかったけれど、あまりにもひどい。 水くさい。
コウイチのそんな視線に気付いているのかいないのか、ツヨシはただ、窓から眺める少し高めの青い空に、鼻から抜けるような吐息をひとつ・・・吐き出した。








「あんな、オレ、当分、仕事せぇへんから」

それから暫くして、何かを吹っ切ったかのような・・・いや・・・何かに思い詰めたような暗い顔をして、コウイチの部屋へと訪れたのは、深夜を過ぎようかとした時間で。
彼には似つかわしくはない時間でもあった。 コウイチならともかくとして。

「こないな時間にどないしたん」
「そんなことはどうでもええやろ」
「どうでもって・・・」
「お前には関係あらへん」

関係ない、といわれて、コウイチの顔が少し強張った。
それに気付かないのか、気付いていて尚かつ・・・いっているのか。

「とにかく、そういうことや。 勝手に仕事を取ってくるんはそっちの勝手やけど、オレを巻き込まんといてくれ」


パーティを解消したい、と、いわれなかっただけ・・・マシなんやろか。


ツヨシのあまりにも身勝手な一方的な発言に呆然としながらも、心の片隅でそんなことを考えてもいた自分自身に対して、コウイチは自虐的な笑みを方頬に浮かべた。





dahlia 外伝 第2章 01 

2006年02月01日(水) 15時37分


どうしてこんなことになっているのか・・・。
けれども今は、ただこの絶対的に不利な状況を打破することが先決だった。

例え今、自分一人しか・・・いなくとも。







最初はそんなことはなかった。
とはいえ、もう、何が最初なんだかコウイチにはわからなかったし、それを当の本人に聞こうともきっと。

「別に」

と、必要最低限の返事しか返してくれないのだろう。

いつから・・・? とか。
なんかしたんかなオレ・・・、とか。

色々考えてみるものの、さっぱりわからなくて。
ただいつからか気が付けば、ツヨシの視線はコウイチのそれとは重ならなくなっていて。
気持ちもわからなくなっていて。





だから、こんなことになっている。





「えーい、うっとおしいねんて! ええ加減倒れろや!!」

何度も何度も斬りつけるものの、相手の表皮に掠り傷さえつけられていないことに、コウイチは次第にことの重大さに舌打ちをつきたくなった。
ぬめりとした色を不気味に晒すトカゲのような皮膚をもったその相手は、そんな焦りをちらりと見せたコウイチの言葉を理解したかのように、喉の奥でグフフっと・・・笑った。
ゆらゆらと妖しく揺れるのは、洞窟内の遠近感を狂わせるようなランプの光。
ツヨシが置いていったものだ。 それだけだ。
たったそれだけをして、ツヨシはコウイチを残して出て行ってしまった。

「やっぱ、気、乗らんわ」

そう、言い置いて。
今まさに相手の懐に飛び込もうとした、その時になってだ。
しかもその声によって、こちらの存在も気付かれてしまったというのにだ。

「じゃあ、まぁ、適当に頑張りぃ。 お前やったら一人でも充分やろ」

そんな言葉だけを投げ捨てて、ツヨシの姿は忽然と消えてしまった。
太陽の光を拒んだ暗闇の深淵の中で、慌てて振り返ったコウイチの視線の先には既に何も・・・なかった。

影すらも何も。








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