砂丘の桜

April 16 [Mon], 2012, 18:20
一見、物静かな地味な女性。
無造作に下ろした髪の隙間から見つめる眼は、どこか一筋の信念があり、でもどこか弱く、何かにすがるような寂しさを感じる。
彼女は独身42歳。
右の乳房を10年前に切除し、今は膠原病とも闘う。
リンパ節のない右腕のむくみを庇いながら、看護師として働き続けている。
彼女の夢はわからない。
見えて093877こない。
ただ一つわかるのは、私の前で本気で笑ったことがないこと。
疑心暗鬼だった無口が少しずつ自分を話し始め、本当はおしゃべり好きで、おいしいものを食べるのが好きで、かわいい小物が好きで、綺麗なものが好きでつい、衝動買いしてしまったりすること。
本当はお酒の席も好きで、でも最近2回目の手術をしているから控えなければならないこと。
そして女性として美しく居続けたいと、私の目の前に居る。
一見、バリバリ仕事をこなすキャリアウーマン。
彼女はバンカーとしての責務を全うする33歳。
受け答えのハッキリした白黒の明暗を感じる早口が、それを物語る。
頭のきれる彼女の鋭い眼の奥には何かを達観したような強さ、しかし何かにすがるような弱々しさ。
彼女は6年前に左の肺の半分を摘出。
その翌年、大切な父親を心筋梗塞で亡くした。
母親との2人の生活は、大きな失意と渇望感に困惑し、仕事に自分の心を紛らしている。
彼女の夢はわからない。
見えてこない。
ただ一つわかるのは、私の前で本気で笑ったことがないこと。
本当はおしゃべり好きで、美味しいものを食べるのが好きで、お洒落が好きで入院していた時、たくさんの人に励まされたことに力が湧き、生きる意欲を持ったこと。
そして、やはり女性として美しく居続けたいということ。
ずっと、ずっと輝いていたいと、私の目の前にいる。
女性の美とは偉大なもの。
かつて、世界で最初に美の技術を提供したフランスエステティックの創始者は、この偉言を残した。
女性の美世界共通のフランクでセクシャルな色を見せるこの言葉に嫌悪感を持ったこともあったが、何かを失くした彼女たちは、世界中の誰よりもこれを強く求めている。
決して自分をひけらかすためではなく、社会にもっと強く関わっていたいから。
もっと、自分の力を出し切って生を感じていたい、と。
美貌を求めるその意欲で、その強い意志で、生命力で、時に人は、理ナは説明のつかぬパワーを発揮することがある。
自分を諦めない。
自分を信じる心。
今日の鳥取は快晴。
満開の桜の花が日本海の潮風にそよぎ、薄紅色の木漏れ日が街を歩く人の足もとに踊っていた。
長い長いトンネルを抜けると、そこは一面に広がる大砂丘。
青い空と果てし無く碧い日本海。
私は、彼女たちの前に居る。
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