星の話 

May 19 [Wed], 2010, 21:05

ここは、どこかの病室か?少女がこちらを見ている。
その唇が動いて何かを言っているが私には聴こえない。
やかましく時計のアラームが鳴る。夢か。
寝ぼけている眼で私は部屋を見渡すと、ギョッとした。
覚えている限りではこんな場所は知らない。記憶が曖昧なのだ。
私が私である事は理解できるのだが、私が何者なのかわからない。
家族の顔、上司の顔などは解るのだが、家族が私をなんと呼んでいたか、その上司の肝心の仕事は何なのか、が解らない。
そう、自分に関しての情報がすべて記憶から消えていた。
冷たい、コンクリートの部屋にコートを羽織った私がいて、その横にワンピースの少女が倒れている。
ひどく頭が痛い。
「君、大丈夫か。」私は声をかける。
返事はない。
念のため脈を測る。微かだが脈拍がある。生きているのだ。
私がやったのだろうか。それすらも思い出せない。
ポケットに何か入っているようだ。
メス、万年筆、栓抜き。
私は医者だったのか?物書きだったのか?はたまたバーテンか?
少女の事が気になるが、とりあえず誰かを呼ばねば。
ドアがあるが、映画や小説でいえばこのドアは開かないだろう。
恐る恐るドアノブをまわす。開いた。
なぜ何もないこの部屋に時計だけがあるのか、私はだれなのか、少女は誰なのか、ここはどこなのか。
そんな疑問を残しつつ、私は外に出た。
外に出ると、そこは住宅街であった。
私のいた部屋は物置のようだ。
とりあえず人を探す、が、この住宅街からは生活の香りがしない。
物音ひとつしないのである。
これはこれは。ゾンビ映画の世界にでも来てしまったか。はたまたタイムリープで私とあの子だけが取り残されたか?
そんな思考を半ば冗談で私は巡らせた。

私は茫然とした。本当に誰もいないようなのだ。誰もいないのでは話にならない。
先ほどの少女を起こして、話を聞いてみてはどうだろうか。
いや、無理に起こして死なせてでもしてしまったら私の人生の汚点になる。
人生?私に人生はあるのか?今、あの部屋でこの姿のまま作られたとしたら?
私と彼女は人類の残した最後の希望、人工生物ニンゲンモドキかもしれない。
いや、ここまで思考ができるのだからその線は薄いだろう。
そして記憶を失う前、私は相当の映画好きであり、読書家であったとみえる。
先ほどから状況の分析を本能的に映画や小説に例えているのだ。
そうだ、テレビやラジオは?流れていないのか?
しかしあまりここから離れて彼女に何かあっても困る。
すると、突然近くの草むらが動く。
ニンゲン、いや、ニンゲンモドキがそこにはいた。
やれやれ。これはまた夢か?
ニンゲンモドキはやけに体格が大きく、血走った眼で私を睨んでいる。
しかしそれは敵意ではないようだ。形容するなら驚き、だろうか。
「あなたは輸入人ですカ?」
輸入人?そんな言葉は聞いたことがない。
「いえ、生憎その様な言葉に聞き覚えはありません。」
私が答えると、ニンゲンモドキは
「私たちの集落に案内しまス。そこで説明しましょウ。」
やはり核戦争後の世界とか、異世界に来てしまったのか?
あの物置が核シェルターであったとか。
物置、そうだ、彼女がいた。
「あの物置の中に女の子がいるのですが、あの子も一緒に行っても大丈夫ですか?」
するとニンゲンモドキはにっこり笑って
「ええ、どうゾ。」
と言った。その刹那、何かがニンゲンモドキの頭を吹き飛ばした。
飛び散る脳漿や何やらに茫然としていると逆の草むらから男が走ってきた。
「おい、怪我はないか?」
私は何が何だかわからなくなった。あの生物は?なぜ撃ち殺した?頭が痛い。
「あんたは最近送られてきた人か。まだここを把握してないな?」
送られて・・・?
「詳しくお話をお聞きしてもよろしいでしょうか。もう先ほどから訳がわからなくて。」
男が笑いながら言う。
「だろうなあ。さて、いただきます。」
何を言っている?ホモセクシュアルではないようだ。と、言うことは。
「うーん、あんた、ブランド人だね?いい生活してきただろう。」
もう、夢なら覚めてくれ。
男が猟銃を私に向ける。
「ここはさ、食人種が集まる星なんだよ。時折、地球からたくさんニンゲンが輸入される。
 あんたはそれに当たっちまったんだなあ。かわいそうに。」
ああ、終わりだ。先ほどのニンゲンモドキは私を助けてくれようとしたのか?
何もわからないまま、私は死ぬのか。
一発、撃たれた。腕が吹っ飛ぶ。
ひどく痛い。
が、そこから触手のようなものが生えてきた。
「ひっ、あんた寄生されてるじゃねえか!やめっあっ」
触手が男を包むと、男は骨だけになってしまった。
そしてそこから私の体をも蝕み始め、私は気を失った。
次に目が覚めると、私は知らないニンゲンの肉を喰らっていた。
それは甘美な食感で、食欲と性欲が一度に満たされるようなものであった。
どうやら私はこの星の”何か”に寄生され、根元から生態を変えられてしまったようだ。
否、この星に適応した、と言えばよいだろうか。

そうだ、先ほどの少女はどうなっただろう。食べなくては。もったいない。
ジリリリリリ

また時計が鳴る。
次に目覚めると私は監獄の中で目を覚ました。
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華の男子高校生べく
わたなべからべっくんてあだ名をつけるけんすけは天才だと思います

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