002 

May 09 [Wed], 2007, 23:17
 もういい。こんな家未練も無い。
 そう思って正月早々家を飛び出した。向かった先は大学のキャンパスがある街。私の一番の理解者、光輝のいる場所でもある。
 《家出した。今電車乗ってる。光輝の家行っても良いよね?》
すぐに返信が来た。
《マジで?!来ても大丈夫だよ、狭いけど。駅まで迎えに行こうか》
《じゃあお願いする!38分に着くよ》
《分かった、いつもの所で待ってるよ》
 一通りメールをし終えて、ふと窓の外を見た。通学で見慣れた風景も、今日は少し違って見える。
「家出って簡単なことだったんだな」
小さく呟いた。自分の行動力……よりも、事の単純さに呆気に取られていた。
 携帯電話に着信が入る。父親からだ。とりあえずそのまま放置する。やっと気付いたのね、置手紙。
 きっと今頃家はパニックに陥っているのだろう。品行方正で通してきた娘が家出して彼氏の家に行くなんて、ありえないものね。
 彼らが悪い。純粋にそう思っていた。両親の融通のきかなさは閉口してしまう程で、大学生になってバイトをするのに1ヵ月も説得しなければならないなんて、考えられない。バイトが終わって真っ直ぐ帰宅しているのにも関わらず、帰りが遅いと文句を言われ続けて数ヶ月。私のせいじゃないってば! 何度言っても無駄だった。
 昨日もその話題から口論になった。結局家にほとんどいないことが気に食わないだけの内容には付き合いきれなかった。年越しまでこの話題か、と思った。
 目を覚まさせるには家出しかない。理想の娘では無いことをはっきりと示すしか、彼らを納得させる方法はなかったのだ。実際は、これで納得するかどうかも疑問符ものだったが……

001 

May 09 [Wed], 2007, 23:14
 こんな思いはもう充分だ。終わりにしなければならない。これ以上は必要無いのだから……
 念入りに調べた。管理人さえ常駐していない様な、今時珍しい、私には好都合な、セキュリティシステムの悪いマンション。
 吸い込まれるようにエレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押す。屋上だけは鍵がかかっていて入る事が出来なかったが、それでも最上階は20階。エレベーターが止まり、ドアが開く。右手の方に進む。静かだ。誰もいない。前回来た時決めた場所へ着くと、手すりから少し顔を出して下を覗いてみた。剥き出しのコンクリート。それを見て安心するなんて、私くらいだろうか。
 持っていた鞄を足元に置いた。一番のお気に入りで、大切に使ってきたものだ。何年も共に過ごしたが、地面に置くのは今日が初めてだ。
「ごめんね、こんな所に。でも許して。」
ヒールの高いパンプスを無造作に脱ぎ、適当に鞄の横に並べる。準備は出来た。思い切り手すりにのぼり、座り込む。当然だが不安定だ。足をばたつかせたらバランスを失いそうだ。
 「桃子!」
 来た。ジャストタイミング、狙った通り。私の名を呼んだ彼は明らかに動揺していた。
「近付いたら確実に落ちるから」
感情のこもらない少しトーンの低い声。言い終わるか終わらないかで彼は口走った。
「桃子、何考えてる」
「あっはは、何だろうねぇ」
こらえきれず笑ってしまった。死のうとしているに決まっているじゃない。人間って、本当に訳の分からない生き物だわ。やっぱり、選んで正解だったのね。
 「大好き」
真剣な目で彼を見つめてそう言った。
 そして、手すりから滑り落ちた。
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