
時は4月19日に遡る。
『32年生の8時間目』の福岡公演初日を翌日に控えた19日、仕込みも早めに終わり、20時前にはもうホールを出る事が出来る状態になっていた。
せっかくの福岡を楽しむためひとり早々にホールを出ようとしていた時、「今日、一緒に行くって言うてましたやん」と岡部尚子さんに首根っこを掴まれた。
そう言えば大阪での稽古中、曖昧に返事をしたような気がしなくは無い。しかし既に行き先を決めていたボクは、何とかその会を回避しようと策謀していた。
「決起会ですよ」。
ボク以外の全員が参加するとの事で、かなりのプレッシャーが突きつけられた。それでも、どうしても単独行動を望んでいたボクは「じゃ明日」とはぐらかしたりしながら、取り敢えず皆と一緒に一旦ホテルへ戻った。
「今日はどうしても来て頂きたいんです」。これまでに一度も見たことの無い神妙な面持ちで、同室の小池裕之さんがポツリポツリと語り始めた。
この日の飲み会をセッティングしてくれた福岡のジャスティンさんという方に空晴はかなりお世話になっており、どうしても顔を出して欲しいという。しかもミュージシャンであるジャスティンさんが、空晴だけのためにわざわざ場を設け歌ってくれるのだという。
「…行くよ」。コッキーの殊勝な目に負け、とりあえず小一時間という約束を取り付け、決起大会が行われるという場に向うためタクシーに乗り込んだ。
場に着くと、長浜のウオーターフロントにある素敵なカフェで、一気にテンションは上がった。ジャスティンさんも非常に素敵な方で、何かと話は盛り上がっていった。
「前田さんはいくつなの?」
「あ、ボク明日で42歳になるんです」
すると照明のお手伝いに来ていたちかちゃんから、思わぬ一言が飛び出した。
「あたしも明日誕生日なんです」
「えーっ、奇遇だねえ!」
ここでハタと思い起こす。どうしても言っておかねばならぬ事柄をすっかり忘れていた。極度にサプライズが苦手なボクは、予め空晴のみんなに「サプライズだけは止めてくれ」という事を言わねばならなかったのだ。
(ギリギリ間に合った)。隣にいた上瀧昇一郎さんに、ボクがいかにサプライズが苦手で、自分の劇団でもいかにそれを潰して来たかをつぶさに語り尽くした。(これで安心だ)。そう思い、ジャスティンさんのライブが始まるのを待っていた。
「お誕生日の方は…」。
山と盛られたフルーツ&スイーツタワーを両手に抱え、店員さんがそう言った。「え?え?」と狼狽えていると「ジャスティンさんからです」と、べっちが割って入った。
(明日誕生日なんて言ってしまったからだ…)。申し訳なさに苛まれながらお礼を言い、フルーツに手を延ばした。それにしても相当立派なタワーである。年齢の話が出てから数分しか経っていないのに、よくこれだけのものを作れるなぁと感心し切りだった。
そしてジャスティンさんのライブが始まった。本当に素敵な声と歌で、2曲3曲と進む毎に引きこまれていった。そうこうするうち「誕生日だと岡部さんから聞いていたんで」とジャスティンさんが宣った。
(?聞いていた???)。何が何やら分からぬうちにハッピーバースデーの曲が歌われていた。そしてようやく気づくワケである、「そういうことか!」と。
「分かるでしょ、フツー!!」。
空晴さんから誕生日プレゼントとして頂いたメッセンジャーバックを抱えるボクに、相当の非難と人差し指が刺された。確かに思い返してみればおかしい事だらけだ。
それでもボクとしては翌日の20日に全ての警戒心を集中させていたため、前日に行われるなどという発想は1ミリも頭に無かったのだから仕方ない。
兎にも角にも、この日に合わせて出演者、スタッフさん、ジャスティンさん、お店が前もって全てを段取りをしてくれたと思うと恐縮至極、誕生日だというのにボクから発せられる言葉は「すいません」「申し訳ない」の2言のみであった。
「もう少し素直に受け入れましょうね」。
こんなに気づかないんだから、超絶的に素直だろ。
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※岡部尚子さんのブログ「たまたま、素敵。」に、計画サイドからの状況が書かれています。興味のある方はコチラ(→「成功?失敗??」)をご覧下さい。
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