陽だまり(続き2) 

2005年09月28日(水) 19時32分
「も、もしかして…」
「もしかして?」
陸遜の首が可愛く傾いた。


「…聞いてたのねー!?」
「さあ、何のことでしょう?」
 『仰る意味がさっぱりです』爽やかに笑む姿はこれ以上無い程に胡散臭さをそこら中に振りまいた。
 尚香の疑惑が確信へと変わり、恥ずかしさに耳まで朱に染めて肩や握りこぶしが怒りにわなわな震える。高い空に叫び声が上がった。

「あああああああもう最っっ低っ!」



 事実、彼女の生来持ち合わせた明るい性格と可愛らしい容姿は殺伐とした戦場の中で荒んだ武将含め兵士達の心の潤いはたまた活力源ともなっていた。個人的には面白くもなんとも無いが。


それで先程のことでいつもの仕返しと云わんばかりだったのだ。 

 が、しかし。

少々苛めすぎたか。思ったときには時は全くもって遅かった。
怒りのまま踵を返した尚香が、風を切るようにして歩き去っていくところだった。



「尚香様。」
「………」
「尚香様、」
「………」
「…尚香様」
「…何よ」
「先日は本当に申し訳ありませんでした」





「尚香様はそれから一週間口を利いてくれませんでした」

陽だまり(続き) 

2005年09月28日(水) 19時29分
 私は、この国は、この人にどれだけのものを背負い込ませているのだろうか。
きっとそれは普通の人が持つには簡単に潰れてしまう程のもの。
思って尚香は胸がきつくなるのを感じた。

 それは、彼だけに言えることではないことだと知っている。戦場で共に戦う戦友、同志達にも言える事。けれどそのなかで幾分年近い彼に、一層その思いが強くなるのも彼女は知っていた。
 そして、自分が彼らの為に出来ることなど、ほんの少しの小さな事でしかない事も。自分の無力さが疎ましい。


「私はどうして皆の役に立てないのかしら。」



 その声があんまりにも気弱に聞こえたので、尚香は渇を入れるように軽く頬を叩いた。
 
 ― 気弱になっちゃ駄目。


 もう一度空を仰いで空気を吸う。
秋の澄んだ空気が鼻をくすぐった。


 その時、隣で横たわっている人物から聞こえる寝息がぴたりと止んで、薄く目を開けた。

澄んだ瞳が尚香を映してまだ寝起きのあどけない表情で薄く微笑む。

「あれ、此処におられたのですか」
「まぁね」
「またお城を抜け出して、殿に叱られても知りませんよ?」
「そんな事言って自分が抜け出してた癖に。あなたばっかりずるいわ」
 頬を膨らませてみせる尚香に陸遜は苦笑する。
むくりと起き上がり空を見上げて紡がれた言葉は、まるで天気の話をするかのように気軽なものだった。






「尚香様は、ちゃんと皆の役に立ってらっしゃいますよ。」
 髪をかき上げ、にっこりと笑んだ。

 …え!?もしかして…

 嫌な予感が尚香の胸に押し寄せる。
陸遜の笑みが深まったのに一層不安が膨らんだ。

陽だまり 

2005年09月28日(水) 1時09分
 尚香は閉じられた瞼、栗色の睫をしみじみ見つめる。髪と同じ色の色素の薄い睫が長く、頬に陰を落としている。
 
 もしかしたら、私のよりも長いんじゃないかしら。

 いつも見慣れているとは言え、間近で見ればやはり整った顔だとはっきりと分かって、少し羨ましいとさえ思う。どうしたらこんなに綺麗な造作に生まれるのだろうと頭を巡らし、遠い記憶の断片に、きっと母君が美人であったのだろうと思い至る。

 彼の父は、綺麗とは無縁の顔だったな。それは遠く昔のこと。

 尚香は流れる雲に遠く思いを馳せた。

 穏やかな風に絹糸の如き栗色の髪が揺れる。それは寝息と共に上下する肩と同じにまたそよそよと揺れた。尚香は隣に眠る人物の前髪をそっと梳く。

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