まみのこと

November 23 [Wed], 2016, 15:37


 まみがどっかいった。
 おかげでいろんなひとたちが、いろんなかたちでびっくらこいてる最中だ。
 僕は身体じゅうがバラバラになって、それぞれ別のことをしゃべっているって感じで、ちっとも気分がまとまらない。
 もやもやしたまま夜になり、闇のなかに沈みこもうとしても、たのしい思い出がすぐにかなしみをつぶしに来るので、うまくいかない。
 そうしていつの間にか朝になり、まみのいなくなったこの星の、うつくしすぎる朝焼けを、ひとりでながめるはめになる。
 せっかくだから、気持ちの整理もかねて、いくつか思い出を記録しておこうと思う。

 まず、友達とみんなでたらふくイタリアンを食べたあと酔っ払って、渋谷の路上でラインダンスを踊ったこと。
 それがあんまりたのしかったので、きちんとバレエ教室に通ってみようという話になり、いろいろ準備をしていたにもかかわらず、一日目からいきなり休講になったこと。
 まみと僕は、それに気づかず朝イチで教室に行ってしまって、がっくり肩を落としながら、世田谷の住宅街をとぼとぼ歩いた。
 朝のひかりのなかで、立派な家や、おしゃれなアパートをながめていると、がっくりしていた肩がどんどん解けていって、まるでウインドウショッピングをしているみたいな気分になってくる。
「わたし、あの家がいいなーー」
「えー、ドアの色がへんだよー」
 勝手なことを言い合いながら、気ままに歩いているうち、ふたりの好みがぴたりと重なる家があった。
 ここで、みんなで暮らしたらたのしいねとか、酒飲みのくみちゃんが、きっと父親がわりになるんだろうね、とか笑っていたら、どんどんたのしくなってきて、かわるがわる家のまえで、我が物顔の写真を撮りあった。
 そのときの写真が昨日出てきたけれど、まみ、すごい調子に乗ってる。
 満面の笑みで、顔がちぎれそうになってる。

 深夜にとりとめのない会話をしていたら、突然エヴァンゲリオンの話題がヒートアップし、ふたりしてコスプレ衣装を衝動買いしたこともある。まみは綾波レイ、僕は碇シンジをえらんだ。
 けれどいざ届いたものを着てみたら、全身タイツのように股間が浮き立ち、そのくせお腹まわりだけ妙に生地がたるんでいて、まるで発情したムーミンみたくなってしまった。
 ちなみにまみは、巨大な白イルカになっていた。それはそれで似合っていたけれど、綾波レイかと言われたら全然ちがう。
 ふたりで写真を交換し、膝から崩れ落ちるほど笑った。

 まみの誕生日にディズニーランドに行く途中、みんなで東京駅で買ったお弁当があまりに美味しそうで、どうしても我慢できなくなり、ガラガラの電車のなかで食べてしまったこともある。
 もぐもぐと小ぶりな天むすを頬張りながら、こんなこと、いまどき小学生だってしないよねーって笑う目尻のしわがすごくきれいで、でも着ていたのはバラみたいに真っ赤なワンピースで、怪しげなサングラスまでかけていた。
 ランドに着いてからは、誕生日のひとにだけ配られるメダルをうれしそうに首からさげ、クルエラ・デビルの派手なかぶりものをかぶり(一日いたけれど、あんなのまみしか買ってなかったぞ)、ほかの誰よりもおおきな声で笑う。
 いつも、いつもそうだった。浮かれるということも、派手に装おうということも、全力で、まっすぐにやろうとするひとだった。
 そういうまみの笑顔につられて、みんなも笑顔になる。
 照れとか、戸惑いとか吹っ飛ばして、すごくピュアなところに、みんなを連れていってくれる。
 そこにいったら楽しいかもって、強く信じさせてくれる。

「おかしくって、涙がでそう」

 キャンデーズが、「微笑がえし」のなかでそう歌っていたけれど、いま直面しているまみとの別れは、まさにそういう感じだ。
 史上初というくらい泣かされているし、さんざん心を掻き乱されているけれど、どうしてもたのしい思い出に、涙が回収されてしまうのだ。
 いったい僕にとって、まみってなんなのだろう。もちろん、最高の友達であることに間違いはないのだけれど、もっとしっくりくる言葉がある気がする。
 仲良くなって以来、実はずっとそのことを考えつづけていたのだけれど、ここ数日、まわりの大人や友人たちが託してくれた言葉から、やっと答えをみつけることができた。

「まみさんはね、あなたのことを、いつもいつも気にかけていたんだよ」

 年下であり、書き手としては後輩でもある自分と、つねに対等であろうとしてくれていた彼女の姿勢に甘えないように、こっそり背伸びをしたり、わからないことでも知ったふりをしていたこともあったけれど、もう認めないといけない。
 僕は東京では、自分がまみの弟なんだと思ってた。
 そしてそういう関係性を、とても気に入っていた。

 ニュアンスが難しいのだけれど、なにもかもを包みこむ、聖母のような姉ではなくて(そんな聖化、きもすぎるし)、わんぱくなサザエさんみたいな感じだ。もしくは、ちびうさから見たうさぎちゃんかな。ああ、こっちのほうがしっくりくる。
 照れくさいからはっきりと確かめあったことはないけれど、葛藤していることの根元がたぶん似ていたし、書くことで越えたいものの正体も、やっぱり似ていたように思う。そういった血の流れによって、深いところで繋がっているんだと、すくなくとも僕のほうは感じてきた。
 もちろん僕は、まみほど真摯じゃないし、きれいでもないんだけどね。パニくるとすぐにうんことか漏らすし、それに対する罪悪感もない。おまけに人望もない。
 そしてまみのまわりには、同じくらいにピュアでまっすぐな、最強の仲間たちがついていて、その輪のなかにすっぽりとおさまっているまみの姿にいつもあこがれていた。
 自分もはやく、そんなふうにならなきゃと、どこか焦っていたくらいに。

 こうして書いていると、喪失感が、現在認識しているよりもずっとおおきいことに気がつく。けれどぽっかりあいたその穴にだって、いまは笑いが吹き荒れるんだ。
 作り笑いなんかじゃないよ。むなしい笑いでも、くるしい笑いでもない。
 ほんとのほんとの、大笑い。
 そのうち、なぜ逝ったーーっ!と叫びたくなったり、ズーンと落ち込んだりするのかもしれないけれど、関係ない。すくなくとも、いまこの瞬間の自分には。
 
 まみ、まみって最高におもしろかったよ。
 きっと人間が滅んだって、地球が爆発したって同じ。おもしろかった。超たのしんだ。誰にも奪えない、変えられない、消えていかない事実。そして、価値。
 これはちょっと、すごい財産だと思うんだ。

 ちなみに、形見分けにはいくつかのアクセサリーと、机にあったケータイ大喜利のボールペンをもらっといた。
 聞きづらいんだけど、もしかして投稿してたの?
 そんときの記念品なの?

 うけるなあ。ほんと、超うけるよ、まみって。
 
 


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