伊作@死にネタ(伊作以外)+年齢操作5年後 

2012年02月05日(日) 14時49分
「最期に食べるならおばちゃんの―――が良かったなぁ」

 誰かがつぶやいた言葉に弾かれたように顔を上げた。
 三つ巴の城が入り乱れた戦場。その内、どこの城の忍がどこの城から機密を盗み出したのか。更にはそれを横取りしようとしているのがどの城であるかなど、偶然この戦場に居合わせた伊作にはわかる筈もない。けれど、確かに聞こえたその言葉にこの血生臭い暗闇に確かに自分の先輩か後輩が居るのだろう事だけを理解する。
 せめて見知った同輩や後輩でないことを願いながら目の前に落ちてきた忍の体に白い包帯を巻きつけた。学園を卒業してからもうずっと、戦場で敵味方なく治療を施しながら生きてきた。お蔭で恨みも多く買ったが幸いにしてタソガレドキの後ろ盾を得たことで、特別害なされることもなくやってこられた。
 雑渡さんに感謝しなくちゃなぁ。
 ため息交じりにそう思って、次の怪我人に手をかける。忍同士の争いだから傷の殆どは裂傷と打ち身だ。しかし気を付けなければならないのは、毒が用いられているか否かだ。毒の種類は多い。一見して毒とわかるものならばいいが、気づかずに傷口を塞いでしまうと必ず後で体に障る。見落とさないように丁寧に相手の体を見分していけば、今しがた負ったであろう腕の裂傷の他に見覚えのある傷痕が目に入った。
 利き腕側の肩背にある矢傷の痕。
 ざわりと肌が泡立つ。まさか―――不安に刈られて伊作はぴくりとも動かない相手の口布に指をかける。相手も自分もまがりなりにも忍だ。普段ならば頭部に外傷を負わない限り素顔を暴くような事は絶対にしない。してはならないことだ。だがこれで思っていた人物だった場合――瞬間の葛藤を堪えて口布を引き抜こうとしたところで、誰かに手首を捕まれた。冷たい指の手だった。
「雑渡さ・・・」
「何をしてるの」
「何って、治療を・・・」
 しているんです。そう続く筈だった言葉は最後まで続かなかった。
「もう死んでるよ」
「え?」
 口布にかけたままだった指が膝の上に落ちる。さっきまでまだ僅かな息があった相手の頸動脈に指を添えて、彼の言葉が正しかったことを知った。まだ頭の上では戦いが続いているというのに、この場所だけそこから切り取られたように静かだ。
「いくらうちの後ろ盾があるって噂を立てたところで、こんなところでぼんやりしてたらあっという間に死んじゃうよ?この、後輩くんみたいに」
 立ち上がるように促す手に引かれたまま伊作は大きく目を見開いた。視線が合うと大の大人が不思議そうに小首を傾げてくる。
 わからないの?そう問われたような気がした。
 見覚えのある背傷、頭巾からこぼれる長い黒髪。何より頭巾からのぞく男にしては随分と特徴的な長い睫。どうして一目で気が付かなかったのか自分でもわからない。
「……ち、」
 名前をつぶやいた筈なのに喉がひりついたように声にならない。頭の中に蘇るのは学園で時折みかけた彼の満面の笑みだ。豆腐が好きで、天才肌であり、火薬委員会の委員長代理としても頑張っていた黒髪の少年――。
「久々知」
 ぼろりと熱いものが頬を伝い落ちる。
 そうだ、さっき聞いた声は少し低くなってはいたけれど確かに彼の声だった。背の傷は夏休みの宿題が入れ違ってしまった時に負ったものだ。そう、夏休みの間中放っておいたのだと彼の級友たちが慌てふためいて自分のところに連れてきたあの暑い日のことはまだはっきりと思い出せる。涙をぬぐうこともままならないまま、今度は躊躇わずに口布を引き抜いた。血の気の引いた丹精な頬に落ちた涙が伝っていく。
「残念だったね」
 大きな手が坊主姿の頭を二度三度と撫でた。
「雑渡さん…」
「彼も忍で、私も仕事だからね」
 歪んだ視界の中で汚れた包帯にまかれた指が、久々知の胸元から一本の巻物を引き抜く。僅かに血で汚れてはいるがその巻物には三つ巴で争っている城の印が描かれていた。久々知は、三つ巴の城のどこかに従っていたのだろう。そうしてプロ忍としても優秀だった彼は巻物を盗み出すことに成功しのた。
 だが、それを狙っていたのは盗んだ城と棚ぼたの好機を狙っていた残りの城だけではなかったのだ。この辺りでは恐れるものさえないと言われるタソガレドキもそれに目を付けていたのだろう。
 たった一本の巻物に幾つもの城が群がるとは一体どんな秘密が書かれていると言うのだろうか。興味はあれど伊作の知る範疇ではない。ただ、目の前でこと切れている後輩と自分を見下ろしている男にとっては酷く重要なものだったということが伊作にわかる全てだ。
「…膠着状態が続いていた三つ巴を煽ったのは、タソガレドキですね」
「だったらどうしたと言うんだい?伊作くん」
「戦が始まる前には教えてください。薬を作る準備も要りますから」
 固くなってしまう前にと兵助の手をしっかりと組んでやる。戦場で死んだ忍に死に装束を用意してやることはできない。でもせめてと小銭を一枚だけその手の間に滑り込ませてやる。三途の川の渡し賃くらい、先輩後輩の好で持たせてやりたいというものだ。
 その行為を冷えた視線で見守っていた雑渡ではあったが、特別何かを言ってくる訳でもない。あまいとは思ってはいるだろうが最近のこの人は忍にむいてないと笑って言うことさえなくなっていた。まぁ今の僕を見て忍だとは自分でだって思ってやしないけれど。
「これからどうするの?」
「治療しますよ。タソガレドキの怪我人は居ないようですし、粗方ここに倒れている者たちの治療をしたら―――学園へ」
 久々知が亡くなったことを報せてやりたいのだが、生憎と伊作は同窓どころか学園時代の友人知人とは連絡を取っていない。
 戦場を生業としているから誰かがこちらを見かけることはあるかもしれないが、大方相手は忍務中である。相手が声をかけてくることも自分がかけることもない。そんな誰かと出会う偶然を待つよりも学園に伝えておけば、どの学年にも誰か一人くらい居るはずの皆のことを不思議と知っている人物へと情報は伝わるだろう。
 そうなればこのことが彼を待っている相手にきちんと届く筈だ。相手は家族かもしれないし、妻か子どもか、恋人だったり仲の良かった同窓の友かもしれない。
「学園に行くのなら伏木蔵くんによろしく言っておいてよ。最近忙しくてね」
 その言葉にこくりと頷けば、また硬い手のひらが伊作の頭を優しく撫ぜた。
「じゃぁ戦がはじまりそうになったら連絡を回すよ」
「…お願いします」
 視線を合わせることもないまま最後の会話を切り上げて、伊作はまた新しい包帯に手を伸ばした。

土井きり@年齢操作六年 

2011年08月15日(月) 23時11分
「土井先生、」

聞きなれた声に呼ばれてゆっくりと振り返る。季節は春だ。どこかで鶯が春を告げ、淡い桜がつぼみをほころばせる季節。
あたたかな陽気に誘われるま微笑めば、学園お仕着せの忍び装束ではなく最近誂えたばかりの袴姿の少年が立っていた。
「どうした?」
「どうしたじゃないっすよ。今日が最後なんすから、見送りくらいしてくれたっていいじゃないですか」
長い黒髪が風に揺れる。
拗ねた目線は自分よりも幼いけれど、まだ成長の余白を残している。
「みんなとワイワイ行くんだと思っていたから」
小さかった彼らが揃って、ありがとうございました!と頭を下げに来たのはもう半刻も前田。だからきっとあの後、銘々に別れを惜しんで、別々の道に手を振ったとばかり思っていた。
なのに目の前の少年は、みんなと別れた後にもう一度学園の中に戻ってきたらしい。
「俺、個人的にすごい土井先生には世話になったし…ちゃんと巣立つところ見て欲しかったんですよ」
「そうか」
ぽん、と頭に手を乗せてこぼれるままに笑う。

「私もちゃんと見送らせてもらえるなんて思ってなかったから、すごく嬉しいよ」

どちらともなく並んでゆっくりと正門に向かって歩き出す。
校庭に教室、忍たま長屋――――脇に消えていく景色を追いかける瞳が忙しない。まるで全てを焼き付けようとでもいうかの様。
ぶらり、と風をきるだけの手のひらをそっと取って握りしめた。
「なっ、土井先生?!」
「手をつなぐなんて何年ぶりだろうなぁ。知らない間に大きくなっちゃって」
「し、知らない間じゃないでしょう!学園でも家でも一緒だったんだから!」
「そうだなぁ。でもやっぱり知らない間だよ。私が知っているのは、お前たちの人生のほんの少しでしかないんだから」
握りしめられたままの指が幽かに震えている。
見下ろした子どもの表情は見えないけれど、意固地なつむじが見えた。
長い永い時間の中で、『今』はほんの少しでしかない。六年も過ごした学園でさえ、生涯という終わりから見れば些細とさえ思える程占める割合は小さいものだ。
見えてきた正門の先でこれから繰り返す出逢いの方が遥かに長い。
でも、

「忘れそうになったら、また来ればいいじゃないか。幸いお前が行くのは学園と懇意にしている城だ。たまの休みにくらい、私に顔を見せに来たって罰は当たらないだろ」

言い終わるか否かの刹那に空気が震える。
気が付いた時には、やっとの思いで涙を堪えた瞳が胸に押し付けられていた。
「俺…」
「うん」
「俺…先生に逢えて良かった。みんなにも逢えて良かった…」
「うん」
形のいい頭を撫でようと手のひらを伸ばせば、ひらりと体を交わされてしまう。一歩、二歩。後ろ跳びに離れた顔はまだ、幼さと涙を残している。
「土井先生、俺もう行かなくちゃ」
「…そうだな」
宙に残った手を戻してひとつ頷く。
彼はもう頭を撫でて慰めて欲しいと思うほど幼くはないのだ。そのことが、誇らしいような寂しいような複雑な気分だ。
「それじゃ――」
「きり丸!」
たっ、と走り出そうとした背中が止まる。まだまだその線は細いが。彼がそれなりに優秀な忍びになれるであろうことを自分は知っている。
だから信じよう。またお前に逢えることを。

「いってらっしゃい」

「…行ってきます」
かすかに声が震えていたのはきっと気のせいではなくて。小さな足音ひとつを残して子どもの姿は掻き消える。
まるで――
「本物の忍者みたいだなぁ」
噛み殺した笑いは、抜けたような青空に溶けた。
P R
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