孤独な少女

June 19 [Wed], 2013, 18:52
皇后エリザベートは部屋に閉じこもったまま、いつまで
も喪服を脱がなかった。生来の美貌には憂愁の影が深く刻
みこまれ、笑顔を見せることもなく、人前に出ることも稀
になった。
時々、ルドルフの妹、ヴァレリーとひそひそ話しこむが、
話題のほとんどは、ルドルフの思い出とその遺書にあった
帝国崩壊への不吉な予言についてであった。
やがて皇后は、哀しみが癒されないまま、旅から旅への
放浪生活をはじめる。気に入りの侍女を連れて、エジプト
に、イタリアに、地中海の島々に、名前を変えた匿名の旅
は果てしなくつづいた。旅先から時々、孫のエリザベート
に手紙を書いたが、幼い孫には、まだよく理解できず、皇
后はいつも遠い存在だった。
皇帝は毅然たる態度をとっていた。ドイツ皇帝の葬儀参

加を拒否し、とどこおりなく葬儀を終えると、ただちに政
務に精励した。皇帝が弱みをみせると、帝国全体に大きな
心理的動揺を招く。早朝三時半に起きる日課は前といささ
かも変えず、皇帝の強固な意志は政府、宮廷人を感動させ、
国民にとっても讃嘆の的となった。
しかし実際は、皇帝の心はこなごなに打ち砕かれていた。
ルドルフは皇帝にだけ遺書を残さなかった。父は最後の瞬
間に見捨てられたのである。そのことが皇帝を絶望感に追
いやった。
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