本格的にお引越し 

February 14 [Fri], 2014, 10:33
お引越しです。

同じタイトルで、アメブロで。

またよろしくお願いします。

トップになります。 

June 09 [Sat], 2012, 11:48


初めまして。明日香のブログへようこそ

普段は普通の人(友達曰く普通じゃない)の明日香です。

ネットでのみヲタク解禁。

特にこのブログではD灰のぱっつんサン方への愛が溢れています。

神田大好き。アレンも好き。最近リーバー班長好き((


でも普通にジャニーズ好きとかそーゅー点もありですょ?((ワラ

あ、覗いていく人は以下の注意を守ってくださいね?

1.荒らし・中傷お断り。

2.変なコメントもお断り。アダルト系の人急いで回れ右。怒ります。

3.変なこと書いてても、生暖かい目で見守ってください。

4.イキナリのyapme!申請もOKです

5.なるべく素通りお断り。でもたまA来ちゃった人は全然構いません

6.特にリア友&他のところで明日香らしき人を知っている人。
 
  明日香がいつものキャラと違っていても、それは同一人物です。きっと。


7.以上のことを守って、明日香と絡んでもらえたら嬉しいです。

まとめ 後編 

December 20 [Sat], 2008, 16:53
前編からどうぞ。

ちなみに、多分24話までちまちま更新したやつの続きかと。


25
私たちは城壁に沿って裏口を目指す。
不思議なことに、1人くらいはお城の人と会ってもいいはずなのに
誰にも会うことなく私たちは裏口へと到達した。
「へぇ、死刑囚が通るって言っても少し小さめの門なだけじゃん」
「あら?シェル実はちょっとびびってたわけ?」
「うるさい」
何か姉妹立場が逆転してません?
「人の気配がする」
ユルはおもむろにそう言うと、私たちに一旦物陰に隠れるよう指示した。
「ちょっ、ユルたちはどうするの?」
ユルとエリアスは堂々と門の真正面に立っている。
「数が多すぎる。俺たちが雑魚どもの相手してやってるうちにお前たちは上を目指せ」
「数が多いのに、たった2人で向かう気!?危ないよ!」
「これでも僕たち兄弟って、人を殺してばっかりだったし、怖がられてたんだよ?」
兄弟・・・この似ても似つかないこの2人が!?
ちょっと、いきなり混乱してきたんですけど。
ていうか、私の心配してかけた声は無視ですか!?
「と言っても、エリアスは俺の両親が養子に迎えただけだから義理の兄弟だな」
だから似てないんだ。・・・妙に納得。
本能的に口をつぐんだ。
私の耳にも殺した息遣いや足音が届き始めていたから。
「なんかねー、殺傷能力が高いからって色々と変な呼び名もつけられてたんだぁ」
にこにこと笑いながら、エリアスは何気に怖いことを口にする。
「殺人人形とか、よく考えるよねぇ」
「人形って言うのは、感情がないって意味でつけられたみたいだがな」
感情が、ない。
そんなの、嘘だ。
ユルも、エリアスも出会ってからの時間はとても短い。
でも、人のことをちゃんと想える優しい人たちなのに。
「どうして・・・っ」
悲しいのかな、私。
どうしてかわからないけど、涙が頬をいくらでも伝っていく。
「由梨亜ちゃん、ありがとう。ボクたちのために泣いてくれたのは、君が初めて」
「来る・・・。俺たちが雑魚を引きつけている間に門から入れ」
最後に見たエリアスは、心の底から笑っていた。
ユルも、滅多に笑わない人だったけれど少しだけ口元をゆがめるように笑っていた。
「さっさと行け。気が乗ったら後を追ってやる」
足音が、すぐそこに迫っている。
そして、足音が消えたかと思った刹那に、敵はやって来た。
人の気配がなかった場所に、あふれる人の波。
先ほど倒した兵士さんのような(実際兵士なのには変わりないけどね)
人が次から次へと出てくる。
「どれくらいだ?」
背中合わせで敵を迎え撃つ2人。
「えっと・・・多分200くらい。ほとんどをここに寄越したんだね」
200!
思わず叫びだしそうになった。
「ここじゃ狭いし・・・俺たちの相手をするならこっちで殺ろうな」
しかも殺るって漢字違う!違うって!
「由梨亜ちゃん、今のうち。ボクたちもきちんと後始末して追いかけるから」
物陰にいる私たちにぎりぎり聞こえる声でエリアスは囁いた。
「エリアス、ユルありがとう。先行くから、絶対来てね」
そして、私たちは門をくぐって城内に体を滑り込ます。
その姿に数人の兵士が気づき、騒ぎ立てる。
「城内に侵入者だ!追え!」
半分くらいの兵士が私たちを追ってくる。
「門、閉めて」
「え、でもエリアスたちは・・・」
「大丈夫、いざとなったらエリアスは魔法使うし」
私はためらいながらも、シェルと共に門を閉める。
それでも兵士たちは門を壊して、私たちを追跡しようとする。
と、同時に大きな物音。
「お前たちの相手は、俺らがしてやるって言ってるだろ?」
冷酷な、でも懐かしく感じるユルの声を門越しに私は聞いた。
「由梨亜、早く。2人のためにも急がないと」
急かされて、私たちは城の螺旋階段を上る。
螺旋階段ね・・・。この間も上ったばかりじゃん。
久々に二重人格に住み着く妹、由梨歌の登場。
「悪いけど由梨歌、今話してる暇はないの」
ふうん・・・ま、関係ないしね。あたしとしては。
「そういうこと。わかったら黙ってて?」
でもさ、どこに向かってるかわかってるの?
「国王の、部屋でしょう?」
延々と続く螺旋階段に息を切らせながら、由梨歌の質問に答えていく。
いい加減やめて欲しい。
・・・で?その部屋ってどこよ?
「知らない・・・」
そうだよ、行く場所がわかってないのに勢いで来ちゃったけど、
これってやばい状況では・・・。
「イサ、イサってば!」
前方を進むイサに途切れ途切れの声をかける。
「国王の部屋ってわかってるの?そこに水晶があるんでしょ?」
イサは一度立ち止まると、振り返らずにまた階段を上り始めた。
止まってくれたっていいじゃない。
「部屋なら、わかってる。何度も・・・」
「え?何?最後のほう聞こえなかったんだけど」
「何でもないよ。部屋はちゃんと調べてあるから大丈夫。この城の最上階にある」
そっか、と返事を返しつつも私は不思議な感覚に陥っていた。

26
「ここ・・・最上階の部屋・・・」
「つまりは国王の部屋ってことね」
開けるよ?とシェルが目を合わせ、一気にドアを引いた。
国王の部屋って言うくらいだから、入り口から警備の人が出てくることを
想定してたんだけど・・・・。
残念ながら準備していた日本刀も、活躍の場無し。
静まり返った部屋の中に足を踏み入れる。
「やっと来たのね?待ちくたびれちゃったじゃない」
私のでもない、シェルのでもない、アニタさんでもない女性の声が、部屋に響いた。
思わず日本刀を抜刀して、辺りを見回す。
みんなも戦闘態勢に入り、背中合わせで部屋を見回す。
「こっち。一番奥の部屋にいるから、来てね?」
声は、部屋に設置されたスピーカーからだった。
ほっと息をつきつつも、どうして私たちをわざわざ奥へ案内するんだろうという疑問。
「行ってみよう」
こういうときは慎重に動くイサが、真っ先に行動を起こした。
行くって、罠かもしれないのに?
「行ってみなければ話は進まない」
「そうだけど・・・」
「奥の部屋って、どのドアから行くんだと思う?」
ためらっている私に、シェルが質問を投げかけた。
「どのドアって?」
「ほら見て。ドアが3つもある。下手にどれか開けて罠があっても困るし・・・」
そうだよね・・・どこかにヒントはないのかな?と
私たちで話を進めていると、イサは3つのドアの前にツカツカと歩み寄ると
いきなり中央のドアノブに手をかけた。
「ちょっと待ってよ!罠かもしれないんだよ?」
「このドアであってるはずなんだ」
その自信は、どこからやってくるわけ?
私の口がそう動こうとする前に、既にイサはドアを開けていた。
「ほら、合ってただろ?このドアで」
実際そういうことになるわけで、まあ言ってみればイサのお陰であって・・・
でも、やっぱりイサの不自然な行動に私は首をひねるしかなかった。

27
「こんにちは。アリアがこちらの国に遣いを寄越したのは聞いてたわ。
 ビリシャンの森にいた兵士も倒したみたいね」
どうしてそのことを・・・
色々と聞きたいことはあったけど、何故か声の威圧感だけで
私はしゃべることすら上手くできなかった。
「まだ挨拶してなかったわよね?私はこの国の王女。ルイーザ」
部屋の奥、カーテンのようなもので仕切られた部分から声はする。
シャッと音がして、そのカーテンが開かれた。
「始めまして。勇者様?」
ハニーブラウンがかった金色の長い髪に、ベビーピンクの瞳。
私はその人にどこか親しみを覚えていた。
ルイーザ、その人自身は闇の国のトップであり、私が嫌悪するべき対象。
でも、懐かしさを感じていて、親しみが沸いていた。
どこかで会ったのかな?
でもこんな美人、会ったら一生忘れられない。
「イサ、貴方もどうして光の国の味方を続けるのかしら?貴方のお祖父様も
 闇の国を治めることを願ってるはずよ?」
どうして、この場でイサの名前が出てくるの・・・?
その疑問に答えるかのようにイサはルイーザ(本来王女とか、様をつけるべきなんだけど
あえて敵ということもあり呼び捨て)に言い放った。
「お久しぶりです。しかし、僕はこの国を良くしたいとは思いません。お母様」
お、お母様!?

28
「イサ、こいつが母親ってどういうことなのよ」
シェルがいつになく不機嫌そうな声でイサを問い詰めている。
事実、イサと一番いたのはシェルだろうし、それだからこそ
少しくらい話してもらいたかったんだと思う。
全く、女心ってものがわかってないんだから。
「今までも、説明しようとは思ってたんだ」
なんとも表現しがたい表情を作ってから、イサはばつが悪そうに頭をかいた。
私の頭の中で今までの不自然に感じたイサの行動がプレイバックする。
このことを気にかけていたから、どこか落ち着きがなかったんだ。
イサはやがて決心したように真剣な面持ちで口を開いた。
「ルイーザ王女、この人は、紛れもなく僕の母親だ」

「どういうことか、詳しく話してもらえる?」
私は自分でも驚くほど淡々とした声でイサを問い詰めていた。
言葉に詰まる素振りを見せてから、ゆっくりとイサ(極たまにルイーザの説明も加わり)が説明を始めた。
ルイーザがイサの母親だということで既にショックは受けていたけど、
それ以上にイサの話はショッキングだった。
「・・・僕の父親は、光の国の先代女王に仕えていたんだ」
ここからはルイーザの説明も入ってきて、ややこしいから私がまとめて書くことにするね。
イサの父親はまだ二国の間に交流があった頃、闇の国と光の国の交流の日に、
ルイーザと出会った。
ルイーザの父親、(つまりは闇の国の王)は先代王女と仲が良く
頻繁に会っていたため、イサの父親とルイーザも必然的に顔をあわせていた。
2人は成長すると、いつの間にかお互い惹かれ合っていることに気がつき
めでたく周囲からの賛成もあり、結婚することになった。
そうして産まれたのが、イサ。
3人は光の国の国境付近に住み、闇の国にもしばしば足を運んでいた。
何故この国のことをそんなに知っているのか、イサに尋ねたときに
彼はお祖父様に何度もつれてきてもらったと言っていた。
その言葉の通り、闇の国に足を運ぶと必ずといっていいほど
イサと国王は街を散策していた。
しかし、突如その国王が亡くなってしまった。
本来なら、ルイーザは光の国の住人として扱われるので国王は別の人物になる予定だった。
そう、本来なら。
ルイーザは父親の残した財産と権力を自分のものにするため、闇の国に戻った。
たった一人の子供と夫を捨てて。
そうして周りを無理やり納得させて、現在の位置につく。
「父は、貴方が僕たちを捨ててから暫くして亡くなりました」
唐突にイサはそう言うと、睨みつけるようにルイーザを見た。
「もし、貴方が現在のこの位置についていなければ、父はまだ生きていたかもしれません」
と言った後、「まあもう過ぎてしまったことですけど」と付け加えた。
誰も何も言わない。沈黙。
その間に私は頭の中の整理をつける。
つまり、ルイーザは子供と夫を捨ててまで女王になりたかったってことだよね?
しかも、光の国も自分のものにしようとした。
・・・、彼女は他に何を欲しがったのだろう?
権力、お金、名声。申し分ないものを持っているのに、これ以上どうしようと?
駄目だ、疑問ばっかりで頭がいっぱいになりそう。
そのせいかわかんないけど、頭もクラクラしてきたし・・・。
風邪かなー。
いや、ありえないしとか自分で突っ込んでいながらも
だんだんと意識は朦朧としてくる。
こんな大事な場面で・・・私どうしちゃったんだろう?
そんな時、私は無意識のうちに口を開いていた。
「これ以上、何が欲しいの?」

29
私は仮にも王女という身分の高い人に向かって、タメ口&上から目線で話し始めた。
・・・違う。私じゃない。
由梨歌?
口を動かせない代わりに、頭の中で由梨歌に問いかける。
「あぁ、やっと気がついた?全く。由梨亜はお人よしなんだから」
お人よしなんかじゃないってば。
言い返しては見るものの、どうして由梨歌がこんなことをしたのか
少しずつ理解し始めていた。
「だって、あいつは子供と夫を捨ててまで権力を手に入れようとしたんだよ?
 人間としてできてないでしょ」
そう、だよね。
私は事故で両親をいっぺんに失って、1人になった。
でも両親は、父は、母は、私を愛していてくれた。
偶然と不運が重なって、いなくなっただけ。
なのに、この人は自ら子供と夫を捨てた。
私がイサの立場だったら、きっと怨まずにはいられない。
「「許せない」」
私の声と、由梨歌の声が重なるように耳に届いた。
実際、みんなに聞こえたのは私の中にいた由梨歌の声だけかもしれないけど。
「由梨亜・・・今、2人分の声がしたんだけど・・・」
「え?」
恐る恐る、といった様子でアニタさんは口を開いた。
「やっとこっちに来れたかな?あー疲れた」
すぐそばで由梨歌の声がした。
正確に言えば、頭の中に響いてくるはずの由梨歌の声が
少しだけ離れたところで聞こえてきた。
「改めて初めまして?お姉さん」
「由梨歌?なの?あなた・・・」
目の前に立っている由梨歌(と名乗る少女、と言っておく)は
顔のつくりは私に瓜二つ、といっても過言ではなかった。
しかし髪の色と瞳の色は、明るい栗色で暗い性格の私とは比べ物にならない、
明るい性格なのだと見た目で判断できた。
「そう。やっとこっちの世界でも実体化できたっぽいね」
「こっちの世界でも、ってことは・・・」
私はその先を想像して、言葉を失った。
それに続けるように由梨歌はニッコリ笑いながら言った。
「元の世界でも、あたしは実在してるんだよ」

30
「何かこっちはこっちで親子の修羅場みたいだけど、あたしたちのほうも
 それなりに修羅場なんじゃないの?」
「しゅ、修羅場?」
昼ドラっぽいーとシェルが茶々を入れて、アニタさんにたしなめられている。
「んー、やっぱり由梨亜は鈍いなー」
どうしよっか、と小さく呟いてから私にもう一度向き直った。
「こう言えばいい?あたしは、由梨亜の母親の子供なの」
「・・・嘘、そんなわけない」
やっとのことで絞り出した声は、あまりにも弱弱しかった。
「本当なんだけど・・・どうしたら信じてもらえるかな?」
もしそうだとしても、お母さんが私に隠し事をするわけがない。
だって、お母さんは私を何よりも大切にしてくれて、
何よりも人に隠し事をするのを嫌った人だ。
「正確に言えば、父親は違うよ?多分知らない人」
「でも、でもっ、それってつまりお母さんが・・・」
「不倫?」
私が言いにくそうにした途端、由梨歌は意地悪そうに笑って、言った。
「まあ、不倫ていうわけでもないか。離婚していた女が他の男と付き合っても
罪には問われないし構わないでしょ?」
不倫では、ない。
その言葉を聞いて少しだけ安心した。けど、お母さんが、離婚してたってどういうこと?
本来主役の場を奪ったはずのイサとルイーザでさえも私たちのやり取りに耳を傾けている。
「由梨亜の母親って、結婚した翌年には離婚してたし。だけど、行くあてのない
 母親は元夫に頼って同棲してたってわけ」
「じゃあ、私が今までお父さんだと思ってた人は・・・?」
「母親の離婚した元夫てわけ。でも、子供にはお父さん面してたんだろうね。
 その様子だと」
返事をする代わりに、こくんと頷く。
あまりのショックで言葉を失ってしまったようだった。
「でさ、あたしの方の父親はすぐに蒸発しちゃったわけ。でも母親は
 元の夫と子供と幸せに暮らしてた。あたしが父親に可愛がられていると信じて」
何かややこしくなってきたけど、つまり私のお母さん(まあ由梨歌の母親でもあるけど)の中で、由梨歌は父親に育てられているって設定だったんだよね。
だから、自分は私を育てたってことなの・・・かな?
余計に罪悪感と言う文字が私の肩を重くする。
「自分のせいだとか、由梨亜は考えなくていいからね?基本、あたし由梨亜のこと
気に入ってるし。それに母親のこと怨んだりもしてない。だって、あたしを父親がちゃんと育てているって、信頼してたんだもん。いい母親だった」
チャラチャラしてそうな見た目とは違って、由梨歌は芯がしっかりした人間だった。
「あたし、由梨亜の妹で嬉しいよ。たまーに強く念じれば由梨亜の体も使えちゃうし」
私も、由梨歌の姉でよかった。
そう声には出さないけど、表情で伝える。
上手く伝わってくれたかな?
由梨歌は白い歯を見せると、左手に握っていたものを私に見せた。
「そういえばこれ何?こっちの世界に来たときから持ってたんだけど」
由梨歌が見せたのは、私のと同じ日本刀。
「2人分、てことかな?よくわかんないけど」
強く念じるだけで人の体を自由に使えるという、由梨歌の特異体質は
私にだけ通用するみたいだし、どこかシンクロする部分があったのかもしれない。
「じゃあ、あたしたちの話も終わったみたいだし。そろそろ悪役退治と行きますか」
いやいや、本当はもうちょっと詳しく聞きたいことはあるんだけどね?
それは、元の世界に帰ってからのお楽しみってことで。
まずは、勇者様のお仕事でもしますかね。
由梨歌は私に近づくと、私の右手に自分の左手を重ねた。
そして人差し指をまっすぐに伸ばして、ターゲットに向ける。
「勇者が2人もいるRPGなんて、そうそうプレイできないよね?」
型破りなラストステージが、ついに幕を開けた。

31
「って言っても、あんまり無駄に戦いたくないし・・・さっさと水晶渡してくれれば
 それで終わりにするよ?」
何でそこまでこちらの事情を(今さっきまで)部外者の由梨歌が熟知しているのか、
聞きたい衝動を私は何とか押さえ込んでいた。
「水晶っていうのは、これのことなのかしら?」
ルイーザが両手に1つずつ見せた水晶。
吸い込まれるような深い紫の水晶。
対照的に光を放っているような透明な水晶。
どちらが光の国のものなのか、一目瞭然。
「あの、返してもらえません?それ」
それ、というところで透明な水晶を私はおずおずと指差す。
「これもねー、どっちがどっちかわからないようなものを作ってほしかったわ」
やはり私(というかその場にいる全員)の予想したとおりらしい。
深い紫の水晶はサイドデスクに置いてしまい、光を放つ水晶だけを
両手で包み込んでいる。
「でも、そう簡単に返すわけにはいかないわよ?そういえば、あなたたち聞いたわね?
 何が欲しいのかって。答えてあげる」
いや、聞いたのは由梨歌だけですけど?
姉妹だからって連帯責任を負わされるのは、いくらお人よしの私でも嫌です。
「私はこの世のすべてを手に入れる。じゃないと、安心して生きてられないでしょう?
 すべての人間が私の下にいて、私の下で働いていて、それでやっと安心するんだわ」
「酷い・・・」
知らず知らずのうちに、言葉は私の口から零れていた。
人に、上下もないのに。
どうして安心して暮らせないの?他の人を信用できないの?
信用してこそ、相手に好意なり愛情なりを抱くというのに。
可哀想な、人。
「貴方は、可哀想な人なんですね」
「あら。可哀想なんて下の人間に言われたくない言葉ね」
私は華麗にその言葉を無視しつつ、ルイーザに語りかけた。
「だって、信用というものがあって、安心があるものでしょう?それを貴方は自ら
 放棄して、安心と言う名の束縛をし続けているんです」
「由梨亜の言うとおりですよ、お母様」
しばらく登場のなかったイサがやっと口を挟んだ。
全く部外者の私に説教されるなんて、ルイーザにとって何の傷もつかないかもしれない。
でも、昔のとはいえたった1人の息子からそう言われ、彼女は何を思っただろう?
「イサ・・・どうして貴方・・・わかってくれないの?
 貴方のお祖父様もこれを望んでいたのよ?その意思に背くの?」
途端、おろおろと迷子のような声を出すルイーザに対するイサの目は冷たかった。
「お祖父様はそんなことを望んでなんかいない。お祖父様は、光の国と闇の国が
 仲良くお互いを思いやれる関係を望んでいた。人々の平等を何よりも望んでいた」
「そんなことは・・・」
「今すぐ水晶を返してください。僕はこの国のためにも言っているんです」
ルイーザは長らく考え込んでいた。
自分が長年追い続けてきた安心を、息子に軽蔑され、違うと言われ。
自分は可哀想だと、見ず知らずの異世界からの勇者に見下され。
「残念だけど、これは返せないわ。私のやり方は正しい。正しいんだから・・・」
まだ迷いがありつつも、ルイーザは口を小さく開けて笑った。
「でも、貴方たちの話はとても楽しませてくれたから、ひとつゲームをしない?
 勝ったら水晶は必ず返すわ」
「ゲーム、ですか?」
「そう。ルールは簡単よ?私を倒す。それだけ」
ルイーザを倒す?
こんなか弱そうな只の女性を?
正直弱いものいじめになりそうで、私は顔を歪めた。
「言っておくけど、私はこれでも女王。この国で、魔力は誰にも負けない。
当然貴方たちにも負けないわよ?」
ここは狭いから場所を変えましょうか、そう言って部屋を出て行ったルイーザ。
私たちはその背中を少しばかり見つめて、部屋の外へと向かった。

32
「ここでいいわよね。周りの損害のことは気にしないで。思いっきりやりましょう」
周りのことを気にするなどこれっぽちも考えていないので。
まさかそう言うわけにもいかないよね。
ドレスの上に羽織っていたストールを取るなり、ルイーザは呪文を唱えた。
「ディバインスペル リレミト ステルス」
悪いけど、もう1度言ってくださいなど言えるわけもなく
私はただ何が起こるのかを目に焼き付けていた。
呪文を唱え終わると先ほどまで人の手に収まっていたストールは広がっていき、
ドームのような形になって私たちを包んでいた。
「とは言っても、壊れたのを直すのって大変よね」
やはり修理する手間が惜しいらしく、私たちは1つの空間に閉じ込められた。
閉じ込められたといっても、圧迫感は全く感じない。
「じゃあそろそろ始めようかしら?ティータイムまでには済ませましょう?」
えっと、確か朝出発したのが8時頃。それから4時間くらいで到着して、
また敵さんの相手とかもしてたし、2時くらいなのかな?今の時間は。
「ティータイムはきっかり3時にはじめないと気が済まないのよ」
つまり、1時間もかからずと私たちを倒す自信があると。
なんか弱そうに思われてるのかなー。
「でね、私は貴方たちだけと戦いたいの。だから他の人には少し出て行ってもらうわね」
「出て行ってもらうって・・・」
私が言葉を失っているうちに、また先ほどの呪文を唱え始めるルイーザ。
すると、私たちを覆っていたドームは少しずつ伸縮し始めて、
中央にいる私と由梨歌、そしてルイーザだけを再び覆い始める。
「由梨亜!」
シェルの声が遠くに聞こえた。
「大丈夫だから。アニタさんとイサ、よろしくね」
「邪魔しないでよー?」
「由梨歌、そんな言い方ないでしょう」
「えー?」
由梨歌を叱っているうちに、ドームは私たちをすっぽり覆った。
「これからが本番ね」
「ん、まあそーゆーことじゃないの?」
戦う前から投げやりな由梨歌は隣で大あくびをしている。
「実体化したからかな?何か眠い」
「起きてよ」
今起きなくて、いつ起きるのだと。
「姉妹喧嘩しているところ悪いけど、始めてもいいかしら?」
姉妹喧嘩ではありませんけど。
姉妹喧嘩って言うのは、今朝の惨劇のことを差すと思う。
なんてこの人に言ったってしょうがないね。
諦めと疲れからため息が私の口から漏れる。
「で。どうやって勝負するわけ?イキナリあたしが切りかかってもOKなわけ?」
由梨歌は既に戦闘態勢に入っていて、私だけが取り残された気分。
「別に構わないわよ?それでも。貴方たちが私を傷つけられたら、貴方たちの勝ち。
 貴方たちが先に倒れたら私の勝ち。どう?わかりやすいでしょ?」
わかりにくいのは嫌いだからありがたいけど、それって普通考えたら
明らかにルイーザは不利なわけで。
でも、あの表情からするに何か勝算が・・・。
じゃあ、私たちはどうすれば勝てるのか、考えなきゃいけないってことね。
「由梨亜、相手がいいって言ってるんだからやっちゃおうよ」
短絡的な思考は私にはない思考。
何も考えず、由梨歌は突っ走ろうとする。
「ちょ、ちょっと由梨歌ストップ!」
慌てて由梨歌の洋服を引っ張って制止。
小声で2人の作戦タイム。
私の考えを早口で由梨歌に話す。
「・・・だからおかしいでしょ?あの態度」
「まあ確かにそうだけど。じゃあどうしたらいいわけ?」
そう言われると、反論する術がない。
「由梨亜は詰めが甘いんだから〜」
「由梨歌は詰めに行く前の時点で終わってるじゃない」
「また姉妹喧嘩?お茶の時間に間に合わなくなっちゃうと困るから、
 少し急いでくれるかしら?」
だからね、一方的に由梨歌が突っかかってくるんだから
姉妹喧嘩って言わない。これは。
そこんところどうして理解してくれないかなー?
「と、まあ冗談もここまでにして」
え?何?どこまでが冗談?
「こっちは2人もいるんだから、それを使わなきゃしょうがないでしょ」
見た目的には私が考える担当らしいのに、さっぱり由梨歌の言いたいことが理解できない。
「理解の遅いお姉さまのために説明しましょうか」
決して理解の遅いお姉さまなどではないが、しぶしぶ説明を求める。
「で、どうすればいいの?」
私たちに残された選択肢には、「勝つ」項目しかないのだから。

33
「あのー、もう始めてもいいですよー?」
「ずいぶんと長かったわね。でも、これからタイムは無しでいいかしら?」
「ええ、構いませんよ」
私たちはそれぞれ日本刀を手に握る。
ほんの数日前まで、あまりにも慣れないものだったけれど、今は手にフィットしている。
一番信用できる武器っていうのも、何だか可笑しい言い方だけどね。
「そちらからどうぞ?」
「じゃ、お言葉に甘えて。さっさと終わらせちゃおうよ、由梨亜」
由梨歌の作戦?というか考えとしては以下の通り。
以下の通りって、何か堅苦しいかも。
とにかく、2人で相手に隙を作って、その隙に攻撃する。
由梨歌は「切る」とか「Kill」とか恐ろしい言葉を口にしていたけど、
何とか姉としてなだめることに成功した。
とりあえず峰打ちくらいにしておいて、こちら側の言うことを聞いてもらおうと。
「由梨亜ぼーっとしてないでよね。こっちは足引っ張られたら困るんだし」
隙を作るため、多少の演技有り。
私はあまり演技は上手いほうじゃないから不安だなぁ・・・。
「ご、ごめんね由梨歌」
そっと私の横を通り過ぎていく由梨歌。
「本気で言うけど。他の事に気ぃとられすぎないでよね?」
小声で囁いた忠告が、私を更に追い立てる。
今まで私って誰かに頼られたこと、ないんだよね。
あったとしても、その仕事は私以外誰でもできること。
だから、こうして私にしかできない仕事っていうのは緊張もの。
私の違う意味での緊張を他所に、由梨歌はシナリオどおりルイーザに切りかかっていく。
まあこれはこれで、ルイーザが素直にやられてくれれば―――――――――――。
「1人で切りかかってくるなんていい度胸してるわね」
ルイーザは器用に指を鳴らすと、見えない力で由梨歌を押しのけた。
―――やはりそう簡単に行くわけない。
「今度はそっちの子かしら?」
挑発するような目つきでルイーザがこちらを窺ってくる。
そっちの子かしらと言われましても。
基本的に私そこまで戦闘とか戦いって好きじゃないし。
できれば話し合いで解決をしたいのですが。
・・・って言ってもわかってくれないんだよね?
私は盛大にため息をついて、刀を両手で構える。
どうやって使うのかすら、知らなかったこの一本の刀に頼る。
「由梨亜・・・」
台詞にはない言葉。
そこから由梨歌の心配してくれている気持ちが伝わってくる。
「大丈夫、大丈夫だから」
自分自身に語りかけるように、私は呟く。
私は地を蹴り、走り出した。

34
走り出した途端感じる、まるで由梨歌に意識を持っていかれていたときのような感覚。
水の中を進んでいくように、足に抵抗を感じ、聞こえる音は反響している。
息苦しい。
それでも進まなきゃいけない。
大きく刀を振り上げて、(もちろん刃じゃないほうね)切りかかる。
これで、終わってくれればいいんだけど。
ルイーザは由梨歌のときと同様に指を鳴らす。
水圧が上がったかのように、私はいとも簡単に吹っ飛ばされる。
力が、違いすぎる。
「やっぱり駄目か」
小さく舌打ちをして、もう一度起き上がる。
「私が隙を作るからそこを攻撃して。私よりも由梨歌のほうが上手いでしょ。
 そういうことに関しては」
そういうことって曖昧すぎるかもしれないけれど、きっと由梨歌はわかってくれた。はず。
「でも隙を作るってどうやって・・・」
「どうしよっか。でもね、私考えるのもうやめたの。その場のノリって駄目かな?」
考えてばかりで、何もできない私はもう嫌。
この非現実的な世界で、私は変わりたいと思った。
何もできない私はもういない。
私は、1人じゃない。
「いいんじゃない。その場のノリ。じゃ、信頼してるよ姉さん」

35
2人同時に走りだす。
もう息苦しさも何も感じない。
心の中は安心感でいっぱいだった。
「ふぅん、少しは考えたわね。偉い偉い」
全く褒めていない口調でルイーザはそれだけ言うと、私たちの攻撃を待っている。
「先行くね」
隣を走る由梨歌を後ろに、私は加速する。
「信じてるから」
それは、私が由梨歌に向けて言ったものだったのか
それとも由梨歌が私に向けて言ったものだったのか、わからない。
それでも私は走り続ける。
走りながらも思考は止めない。
どうしたらいいのか、考えつつも体も動いていく。
今までに感じたことのない快感を身にしみて感じている私がいる。
この状況のどこに快感を感じるのかと言われれば、きっと答えは出ないけれども
それが私の素直な気持ちなのだから。
「そういえば・・・」
闇の国に来るとき、魔力が足りないとか言って私も手伝わされたっけ。
そのとき、何もしなくても刀が光ってて・・・。
つまり、私にも(使い方わかんないけど)魔法は使えるってことだよね?
・・・どうしたものかな。
とりあえず、念じてみる・・・とか?
もしかしたら、私の願いを感じ取ってくれるかもしれないし・・・。
この世界に来るまでの私なら、「魔法?何それ。そんなファンタジー信じてるの?」って
突っぱねたと思う。
でも、私だってやればできることがあるって気がつけた。
だったら、やってみるしかない!
刀に意識を集中する。
呪文とか、そんな洒落たものはわからない。
ただただ、念じるだけ。
ふと視線を上げると、あの無慈悲な女王、ルイーザの顔に明らかな動揺が浮かんでいた。
あの人がこんな動揺するなんて、何が起こっているの?
「まさか・・・この子が本当に・・・」

36
あたしは正直、この姉を恨んだことがないとは言い切れなかった。
優しい父親と母親に囲まれて、何不自由ない生活を送っていると思って。
気まぐれで、姉を調べ始めたのはいつのことだったろう?
一度だけ母親が送ってきた手紙には、姉の写真も入っていた。
切れ長の灰色の目、艶やかな黒髪。どこか陰のある表情さえも美人に見せている。
この人が、あたしの姉さん。
すぐさま、あたしは母親が送ってきた手紙の住所を訪れた。
そこは、白い塀に囲まれたお屋敷。
なんでこんなとこ来ちゃったんだろう。
両親を失って、高校生になる前から1人暮らしのあたし。
それとは対照的に、すべてに恵まれた姉。
馬鹿馬鹿しい。どうして姉のことなんて調べたんだろう?
回れ右をして帰ろうとしたとき、お屋敷から若い女性が出てきた。
写真の姉は1,2年前のものだから、本物を少しだけ見てみたくて
あたしは物陰から彼女の様子をうかがった。
「違う・・・」
出てきたのは、写真の姉とは似ても似つかない女。
瞳は真っ黒で、髪はいまどきの茶髪。
姉さんは、こんな軽そうな女なんかじゃない。
写真で見ただけの姉を、どうしてそんな風に思ったのか。
それはわからない。でも・・・。
あたしはいてもたってもいられなくて、彼女を問い詰めた。
「すいません、以前このうちに住んでいた人って知りませんか?」
彼女は一瞬面食らったようだったが、ここの住所から出された手紙を見せると
いとも簡単に話し始めてくれた。
彼女は、母親の姉の娘。つまり母親の姪だった。
母親はとっくの昔に亡くなって。夫も同じ事故で死んだ。
残された娘が、「1人では広すぎるので」そう申し出て、今は叔母家族が住んでいる。
「その残された娘さんは?」
「今は1人暮らししてます。たまに私も遊びに行きますけど」
口ぶりからして、たまにというのが年に数回のことを言うのだとあたしは直感した。
彼女から姉の住所を聞き出し、あたしはそこを訪れた。
ボロくて、さっき見たお屋敷とは比較にもならないアパート。
その一室に「彼女」はいた。
たまたま開いた部屋の扉は、不気味な音を立てていて、
崩れ落ちそうなボロアパートが更にボロくなった気がした。
セピア色の風景。
だけど、彼女はあまりにも不釣合いな鮮明さ。
着ている少し派手めの制服も、彼女を引き立てるただの道具。
彼女はそれ以上に綺麗だった。
自分の姉が、この人でよかったと想えるあたしがいる。
それからあたしは、姉をしばらく観察していた。調査ももちろん続行。
名前が由梨亜だということや、どこの高校に通っているのかと言うことも調べた。
そんなある日、あたしは思いつきで意識を彼女に集中させた。
テレパシーなんてそんなもの、信じていなかったけど。
もしも通じてくれたなら、話をしてみたいと思っていたからなのかもしれない。
頭の中で話しかける。
答えてくれるわけないよなー。
自嘲気味に笑ったそのとき、あたしの体から力が抜けた。
――誰?私に話しかけているのは?
頭の中に響く姉の声。直接話したことはなくても、遠くから聞いていた姉の声。
それが、今はこんなに近くから。
でも、姉は少し離れたところでキョロキョロしている。
「あたしは貴方の妹、由梨歌っていうの」
由梨歌は確かにあたしの名前。
しかも、他人として彼女と仲良くなるはずだったのに、
あたしはすぐに妹と名乗り、名前までばらしてしまった。
だけど、後悔はなかった。
どうせ姉はあたしを知らない。
だったら、想像の中だけに住み着く妹でいい。
彼女と過ごすことができるのならば。
「貴方の意識の中に住んでいる、とでも言うのかな?」
この間読んだばかりの小説の一台詞。
そんなファンタジックなこと、人が信じてくれるとは思わなかったけど
ついつい苦し紛れで出てきた言葉だった。
――つまり、別の人格みたいなものなのかしらね?
「ま、まあ。そう考えてもらえれば・・・」
姉は、全くあたしを疑うことはなく、別の人格としてあたしを受け入れた。
あたしもそのままの生活をグダグダと続ける毎日。
いつの間にか変わっていた、姉へと抱く感情に気がついた。
彼女を知る前は、恨むことで、自分が悲劇の主人公にでもなったかと思っていた。
でも、悲劇の主人公はむしろ姉だったのだから。
いつしか彼女を見守るあたしには、人に意識を集中させると、その人の意識を
のっとることが可能になっていた。
意識の使い方が上手くなったということなのか、よくはわからなかった。
それに、姉以外の意識はどうやってものっとることはできなかったし。
負けず嫌いな姉は、願望を口にすることは滅多になかった。
それでも願望を口にするときはこっそりと。
少しでも彼女の役に立ちたくて、彼女の意識をのっとり、それを実行した。
そんな時、また姉は願望を口にした。
この世界からいなくなりたい。でも、最期くらいは綺麗な景色見たいな。
あたしは急いで高いビルに登った。
姉を、彼女を楽にするために。そして、最期の景色を見せるために。
階段を上り終える。そして、意識を彼女に返す。
姉は一瞬自分のいる場所に気がついて、階段を下りていった。
「どうして?この世界に居場所を見失ったから、死のうと思ったんでしょう?」
あたしの声は、もう届かなかった。
階段を下りる姉にもう一度意識を集中する。
だけど、何かもやがかかったように意識が集中できない。
そのうち、彼女はドアを開けてしまった。
急いであたし自身も姉の後を追った。
しかし、何故かドアを開けて周りを見ても姉はいない。
数秒しか経っていないのに・・・。
それからはまた意識が集中できるようになったので、集中させながら
姉の足取りを追っていった。
というよりも、外に出てからもう一度ドアを開けたら、そこは闇だった。
多分異世界、とやらにあたしは移動してしまったらしいと
気づくのには時間がかかった。
それから必死に姉の意識を探した。
やっと見つけたときには、彼女はマシンガンを小脇に抱えた少女と
戦っている映像(ビジョン)が流れ込んできた。
もともと超能力には興味があったけど(それにちょっとだけ勉強もしたしね)、
この世界では更に力が強くなることも同時に理解した。
他に興味のあることもなかったことだし、
意識を集中させることは簡単にすることができた。
急いで姉の意識をあたしのものにした。
ひとしきり戦うと、何もしていないのに意識が離れた。
ここまで長時間意識をのっとったことはなかったから、疲れたのかもしれない。
しばらくは力も使えなくて、あたしは借りた部屋の中で膝を抱えていた。
あたし、誰かの役に立てているのかな?
そんな不安を抱いていたとき、姉が闇の国に入国したと聞いた。
彼女達がどこに向かおうとしているのかは、既に調べが付いていたから
1人隠れながら闇の国の中心部を目指した。
そして、姉との本当の出会い。
姉はいまだにあたしを二重人格の1つだと思っていたから、すごく驚いていた。
まあ、無理もないよね。
ってことを思いつつ、今に至る。
え?長々と話して何が言いたいって?
つまりはね、あたし、姉さんのためだったら何でもしてやりたいわけ。
姉さんの敵は、あたしの敵。
美しい姉妹愛・・・かな?

37
私もルイーザの視線を辿る。
すると、闇の国の扉を開けたときのように、刀は光っている。
つまりこの状態になったっていうことは、魔法が使えるってことだよね!!
呪文も何も知らないけど、心の中で祈ってみる。
殺さない程度に、あの人を傷つけて?
絶対、絶対に殺しちゃ駄目。
途端に、刀から溢れる光が倍増する。
そしてその光は、まっすぐにルイーザへと向かっていく。
「・・・っ!」
まともにその光を受け止めて、ルイーザが大きく跳ね飛ばされる。
「なぁんだ、あたしの出番、なかったじゃない」
確かに・・・隙を作るからそこを攻撃しろと言ったのは私だけども。
「まあ、倒せたんだからいいんじゃないの?」
そして、ツカツカとルイーザに2人して歩み寄る。
「ね、返してくれる気になった?早くしてくんないかな。こっちは疲れてるんだし」
「由梨歌、口悪いよ。あの、とにかく返してください」
言ってる内容としては変わりないことに気づきつつも、水晶の返還を求める。
「やっぱり、私は最後まで悪役になるしかないのよね」
ルイーザはさっきまでの上から目線とは打って変わって、
自分を嘲るように小さく笑っていた。
「私、この世のすべてを手に入れれば、失くしたものも返ってくるかもしれない、
 なんて都合のいいこと思ってたのよね。実際そんなわけないのに」
この人に会ったとき、感じた懐かしさ。
それは、イサにどこか似ていると感じるものもあったけれど実は、
お母さんに似ていると思ってたんだ。
失くしたものを追いかける一途さ。
家族を、心のどこかでは一番に思っているところ。
藁にもすがるほどになるまで、その事実に気づかないところとか。
見た目は似ても似つかないけど、その心の奥底に私はお母さんを見ていた。
「ルイーザさん、もうすべて終わったんですよ?だから、水晶返してください」
優しく、語りかける。
もう彼女に罪は無いのだから。自分にそう言い聞かせて。
「そうね、すべて、すべて終わったのよね」
いつの間にか私達を覆うドームは消え失せて、外の景色が見えていた。
まだ真っ暗、それでもどこからか光が差してきそうな清清しさ。
「約束だったものね、はいこれ」
ルイーザはあっさりと私の手に水晶を包ませた。
「すべて、終わったのよ。この国も、私も」
すべて、終わった。
うわごとのようにただそれを繰り返している。
おもむろにドレスから小瓶を取り出すと、一度私達にその中身を見せつけた。
紫色の液体がチャプチャプと音を立てる。
中身が何かなんていうことはわからないけど、明らかに毒薬っぽい液体だ。
「迷惑かけて、ごめんなさい。私はやっぱり誰も幸せにできないの」
小瓶の中身が、光を反射したかのように怪しく光った。

38
「ちょ、ちょっと待ちなさいって」
さすがの由梨歌も驚いた様子で、制止にかかる。
いくら敵だったとはいえ、目の前で死なれちゃかなわない、と思っているのかもしれない。
でも私は心の底から彼女の心配をしていた。
お母さんに似た人、そんな人を目の前で失いたくない。
「そうだわ、最期にいいかしら?あの子に、イサに伝えて。
 本当にごめんなさいと。そして、こんな女でも母親だと思ってくれて嬉しかったと」
「冗談じゃない、そんなの自分で伝えなさいよ」
少し鼻にかかったような声で、由梨歌が言い放った。
声がいつもの違うのは、涙を押さえ込んでいるから。
「あたしはそんな優しい女じゃないし、第一自分で伝えなきゃしょうがないことでしょ、
 そういうことって。人に頼るんじゃない」
私も何とか口を挟もうとするけれど、何故か口が上手く動かない。
「・・・ごめんなさいね」
紫色の液体が、静かに小瓶の中を伝っていく。
・・・止まって、お願い。
両手を強く握り締め、小瓶へとすべての意識を集める。
そして、目をぎゅっとつぶる。
パリン、と乾いた音が耳を突く。
「わっ」
驚いたような由梨歌の声が耳に届く。
おそるおそる目を薄く開けていく。
そこには、目を見開いて突っ立ているルイーザと由梨歌、
そして割れた小瓶の中から零れた紫色の液体。
「まだ・・・、生きなければならないのね」
「生きることで、変わることもあると私は思います」
張り詰めていた気が緩み、それと同時に私の意識も途端に吹っ切れる。
「由梨亜!!」
久しぶりに聞く、仲間の声。
この声、シェルかな?
あ、そういえばエリアスとユルはどうなったんだろう?
2人のことだから大丈夫だとは思うけど・・・・・・・。
集中していた意識は遠のいていく。
「私は、この世界を救えたのかな・・・?」
ありえないなんて、ありえない。
絶対なんて絶対無い。
でも、確かに言えることは、
人は絶対に死を迎えるということ。
だから、人はその瞬間までをもがいて、もがいて、生き続けていく。

39
「ねえ、どうして水晶は各国に1つずつあるの?失礼かもしれないけど、
 闇の国はこの世界に必要な国なの?」
あの後、倒れてしまった私は急遽闇の国のお城で手当てを受けている。
手当てといっても、軽い貧血みたいなものだからただベッドで横になっているだけ。
イサやシェルといった旅の仲間たちは、一足先に水晶を持って光の国へ帰国。
無事?と言うか何と言うか、とにかく敵さんを壊滅させていた
エリアスとユルも合流したみたい。まだ会ってはいないんだけどね。
ちなみに今は、何だか一気に距離の近づいたルイーザと2人で会話中。
あんまりお母さんの記憶っていうのがないから、お母さんに甘えるような感覚。
「そうね、わかりやすく説明すると・・・」
おもむろに立ち上がって、紙とペンを持ってきた。
「例えば、この白い紙に白いペンでこうして何かを書いて、貴方は読める?」
そう言いながら、真っ白な紙を私に示した。
目を凝らしてみるけれど、白いペンで書かれた文字は見えない。
「じゃあ逆に、黒い紙に黒いペンで書いたら読めるかしら?」
これも同様に、いくら目を凝らしても読めるわけが無い。
「つまりは、この世界も紙とペンなのよ」
話を一旦中止して、白い紙に黒いペンで文字を書いていく。
「白があってこそ、黒は認識される。それは白にも言えること。
 それに、光だけが闇というものを生み出せるの」
「なるほどね。つまり、どちらかに偏ってしまうともう片方は薄れていってしまう
 ということなのかしら?」
わかってもらえて嬉しいわ、と笑ってルイーザは紙とペンを戻した。
「とかえらそうに説明してても、私がその均衡を破った張本人なのよね」
結局、ルイーザは罪に問われることは無いそうだ。
それでも、本人に罪悪感が付いて回る限り、その傷は癒えない。
「少しずつでいいんで、光の国とも仲良くしてくださいね」
「まあ、今度アリアのところにも行かなきゃいけないのよね、何にしろ。
 あの子、年下のくせに偉そうなのよ」
やっぱり行かなきゃ駄目かしらね、とかグチグチ言いつつも、
楽しそうな彼女の表情に私も嬉しくなっていた。
お母さんって、こういう風に笑うのかな・・・こういう風に、私の頭をなでるのかな・・・?
他愛の無い会話、それだけでいい。
しかし。こんなことをしている間にも、刻一刻と時間は迫っている。

40
「はぁ!?帰る時間って何のことよ」
姉、由梨亜が倒れてしまった後、先ほどまで一緒にいた仲間たちが
あたし達の方に駆け寄ってきた。
その後、姉を1人残し光の国へと帰国した。のは構わない。
むしろそうしなければいけない、のだけども。
この急な事態はどうしたらいい・・・のだろうか。
「だからー、異世界から来た人っていうのは、長時間ここに滞在することは
 できないわけ。特に、望まれてやってきた人以外は」
つまり、目の前にいるシェルと名乗った少女が言うことが正しければ
あたしは今すぐにでも現実社会に帰らなければならない。
だけど・・・
「姉さんを置いて帰れって言うの!?」
やっと、やっと、本当の姉妹として触れ合うことができたのに。
「由梨亜も回復したらすぐにもとの世界に帰ると思うし、いいじゃん別に」
「思う、ってどういうこと?」
シェルは一瞬、しまったという顔をしたがすぐに平静を取り戻した。
「由梨亜が望むのなら、彼女はこの世界に永住する権利がある。
 こっちから呼んだ訳だしね。それくらいの待遇はするさ」
確か、イサとか何とか言った闇の国の女王の息子。が、
シェルに代わって(許可無く)話し始める。
「だけどね、いくら妹だといっても君の永住まで許すわけにはいかないんだ」
そんなの、わかってる。
でも、まだあたしは諦めたくなんか無い。
「あたしだってこんな所、姉さんがいなきゃ居たくもないわ」
だから、と続けながら最上級の冷笑を浮かべる。
「姉さんもあたしも向こうの世界に帰る」

「あれ、本当に由梨亜ちゃんの妹なの?」
「血がつながってるとは思えないな・・・」
「顔はかわいいし、由梨亜ちゃんにも似てると思うけど・・・」
「あそこまで冷たくないな」
部屋の隅で事を伺っていた義兄弟のそんな会話があったことは秘密だ。
41
一方、その頃の闇の国。
「え、それってどういうことなの!?」
私は本日何度目かの、悲鳴に近い叫びを上げた。
「だから、貴方はこの国でも、光の国でもとにかくこの世界に永住できる権利があるの」
「それはわかったけど・・・なんで由梨歌はすぐに帰らなきゃいけないの?」
「招かざる者、って言えばわかってもらえる?」
要するに、望まれて来たわけじゃないってこと。
「でも、私はこの世界に残りたいなんて思ってないし。今すぐ帰れるなら帰るんだけど」
それはそうだ。と自分で言いながらも思う。
もともと私が来たくて来たわけじゃないし。
どちらかといえば、なるべく早く帰りたいという気持ちもある。
「そう簡単に、貴方を帰してくれるかしらね」
どこか憂いのある表情で、ルイーザの放った一言は
現実になろうとしていた。

42
闇の国から見事無事に帰還。
と言えば、聞こえだけはいいのかもしれない。
だけど実際は。
「あのぅ・・・私これ、着なくちゃいけないんですか・・・?」
私はおずおずと申し出た。
目の前には、きらびやかなドレス。
それも、普通の暮らしを送っている一般人には到底縁のなさそうな。
「もちろんです!この世界を救ってくださったお方ですから!」
「これくらい着飾っていただくのは当然です!」
「それに、全国民の前に立つのですから!」
着付けしてくれているのは、やたらと「!」が多いお城のメイドさんたち。
私はといえば、反論する気にもなれず、ただ流れに身を任せていた。
いつまでこんな調子なんだろう・・・。
ふと鏡越しに由梨歌を見れば、私の視線に気がついて笑顔を向けてくれる。
「いいじゃん、似合ってるんだから」
似合ってるとか、似合ってないとかそういう問題ではないのだけど。
「ねえ、そういえば私だけでいいの?由梨歌も着替えなくて」
後ろを振り返り、由梨歌を眺める。
彼女は、私の前に姿を現したときと同じ、学校の制服姿でそこに立っている。
お城にこれほど不釣合いなものは無い。
「あたしは主役じゃないしね」
「誰が主役とか、そういうの無いと思うけど?」
その人の人生、誰もが主役では。
などと、どこぞの本の引用らしく語ってしまう。
「終了しました!」
「式典は1時間後です!」
「時間になったらお迎えに上がります!」
私の着付けが終わるなり、メイドさんたちはそそくさと
部屋を出て行ってしまった。
最低限の会話はするものの、やはり余所者の私には風当たりが強いと感じる。
「別に風当たりが強いとかじゃなくってさ、どう接したらいいかわかんないだけでしょ。
 この国じゃ、由梨亜は英雄だしね」
「英雄なんて、大したことやってないのに。それに、半分以上は由梨歌のおかげだよ?」
「それはどうも。まあ、あたしは見ず知らずの人間に褒められるよりも
 由梨亜に褒められる事のほうが嬉しいし」
顔を背けながら、それも後半は消え入るような声で由梨歌は言った。
温かい気持ちになって、由梨歌を見つめ返す。
「な、別に・・・」
「ありがとう」
反論しようとする彼女の言葉をさえぎって、私は微笑みかけた。

43
「うっわ、何この騒ぎ様は」
「私に言われたって困るよ。それに、シェルのほうがわかってるかと思ったんだけど」
「あたしもよくわかんない。取り仕切ってくれたのは、アリア様だし」
大舞台の裏側、つまりは式典が執り行われる舞台の真後ろで。
「やっぱり私帰ってm「そろそろだから行くよ」」
帰ってもいいか、と尋ねる隙も与えず、私はシェルに引っ張られていく。
盛大な拍手に包まれて、壇上らしきところに上がる。
というか、強制的に上がらされる。
ふと周りを見回して見る。
イサやユルとエリアスの兄弟といった旅の仲間だけでなく、敵国だったはずの
ルイーザまでいるのに、由梨歌の姿はどこを探しても無い。
もしかして・・・
「先、帰っちゃったかな・・・」
こんな姉に愛想を付かして。
それに、元の世界に帰ったとしても一緒に居られるわけでもなかったのに。
何を期待してたんだろう、私は。
自然と視界が曇ってくる。
「・・亜、由梨亜。何ボーっとしてるの?」
「あ、あぁ、なんでもないの。ちょっと考え事」
周りを見れば、360度国民に囲まれている。
「そして、英雄でもある貴方にこの国の永住権を差し上げようと思うのですが・・・」
久しぶりに会ったアリア様は、変わらず上品な笑みを浮かべている。
私はその差し出された手を取れば、英雄と持てはやされるこの国に永住することができる。
そんな簡単なことなのに。
「ありがたい申し出、です。とても・・・」
「では、永住なさいますか?」
今なら、まだ引き返せる。
元の世界に帰らなくても、この世界に生きることができる。
ただ一言、YESとさえ言えば。

44
でも私は決めたんだ。
あの灰色の空の世界で生きることを。
「でも、ごめんなさい。私は元の世界に帰ります」
言うだけ言って、私は退出しようと試みるけれど、
周りの観衆としては私の行動が許せなかったらしい。
ありとあらゆるところから罵詈雑言が聞こえる。
まあ、それすらも無視して一刻も早くもとの世界に帰ろうともう一度試みる。
どうやらこの国の人たちからしたら、永住する権利というのは
とても貴重なものらしく、国民でも何年かごとに居住権利を争うぐらいなのだから
私がこの国に住まないことへ対する、いわゆる逆恨み的なものがあるらしい。
アリア様は戸惑いの表情を浮かべて、私をじっと見つめている。
断られるとは、思ってもいなかった。という顔で。
「本当にいいのですか?」
「ええ、待っている人がいるんでもう行きますね」
現実、待っている人なんていないのだけれども。
待っている人がいるのと、待っていて欲しい人がいるのとは、別のこと。
「そうですか・・・」
悲しそうな表情を作って、アリア様はうつむいた。
・・・何だか悪いことした気分。
さっきあれほど決意したのに、簡単に揺らぎそうになるこの心。
だから、嫌いなんだ。自分が。
だから、好きなんだ。由梨歌が。
しっかりとしたゆるぎない決意と信念を持っている由梨歌がうらやましくて。
もう、会うことは無いだろう私の妹。
脳裏に走る彼女の姿に、微笑を浮かべる。
「またどこかで、会えるよね」
そう信じて。
まっすぐに前を見つめる。

45
「ちょっと、どいてってば!」
静まり返った広場に響く、凛とした声。
あんなにも待ち望んでいた声がすぐそこで聞こえてくる。
「由梨亜、待ってようと思ったけど、奪還しに来た!」
舞台に設置された照明器具の上から、器用にも手を振っている。
「由梨歌・・・」
視界が白くぼやけてくる。
大きく反動をつけて、舞台の上に由梨歌が飛び降りる。
私は肩をつかまれ、ぐいっと引き寄せられる。
「ってことで、あんたたちの勇者様は取り返したんで」
助けられてるようじゃ、勇者なんかじゃないって。
助けてもらうのはいつもお姫様。
私もそんな存在なのかな?
「由梨亜はお姫様なんかじゃないよ。そういうキャラじゃないもん」
「ひどっ!ていうか、心の声読んでんの?」
「別に?」
別に、の意味がわからないけれど、今は何も言わないでおく。
単純に、由梨歌の言葉が嬉しかったから。
こんなにも心が熱くなるなんて、私らしくも無い。
「それよりも、帰る決心はついた?それ待ってたんだけど」
そんなの、もう・・・とっくに。
ただ、誰かにこの手を引っ張って欲しかっただけ。
「早く帰ろう、私たちの世界へ」

46
「・・・とは言ったものの、どうするよ?」
「ねえ・・・どうしよう」
帰るためには、私が初めて訪れたあの花畑に行かなければならない。
そしてそこは、この広場からまっすぐに伸びる道を、
これまたまっすぐ行くだけなんだけど・・・。
「周り囲まれてるしね」
じゃあ帰ります、と言ってそうですかと帰してくれるような雰囲気じゃないし。
刹那、張り詰めた広場に銃声が響いた。
「何っ!?」
「やっと動き出したかな」
由梨歌は想定内だと言わんばかりの顔で、飄々としている。
「この式典が始まる前に聞いたのよ。由梨亜のこと帰す気があるのかって」
「誰に?」
「何だっけ、名前。とりあえず旅のお仲間全員。面白かったよ、みんな答え同じとか」
同じ、答え。
少ない時間でも、仲間として一緒に戦ったあの人たちは
どんな決断を下したのだろう?
単純に興味があった。
「『由梨亜が帰りたいなら、そうするべきだ』って」
「・・・」
「ちょっとムカつくけど、由梨亜のことよくわかってくれてんじゃないの?」
「そうだね・・・」
今まで私はこんなにも多くの人に思われたことがあったのだろうか?
慣れない優しさに、思わず胸が熱くなる。
「っと、こんな悠長に構えてる暇は無いんだった。ひきつけてもらっているうちに行くよ」
由梨歌に手を引っ張られ、私は思わずつんのめる寸前で体勢を整える。
「いきなり引っ張らないで」
「ゴメンゴメン。でも時間もないし・・・走るよ?」
有無を言わさず強い力で引っ張られたために、無理やり走る羽目になる。
右往左往する人の波をくぐり抜け、広場の出入り口を目指す。
「このまままっすぐ。このペースで行けば5分もかからないよ」
この国に、この世界に居られるタイムリミットはすぐそこまで迫っていた。

47
「ここ、ここだよ。私が初めて来た場所」
広場の喧騒とは打って変わって、穏やかな時が流れている。
「どこかに入り口だった場所もあるはずなんだけど・・・やたらと広いな・・・」
「やっぱりこういうときに案内人、必要になるだろ?」
「そうそう、道案内ってやっぱり必要だと思うんだよね」
どこからか聞こえてきた2つの声。
私を連れさらった張本人と、この国の案内人が後ろに立っていた。
「2人とも!なんでここに!?」
私の疑問に、2人はしれっとした表情で答える。
「うん。由梨歌に言われたことはユルとエリアスに任せてきたからね」
「っていうか、しばらくあの暴走が止まらなさそうだから避難?」
暴走って・・・。
その様子が頭に浮かんできそうになったのを、必死に拭い去る。
広場の惨劇はなんとなく可哀想だけど、素直に帰してくれないのが悪い。
「まあちょっとは寂しいけど、もともとあたしが由梨亜連れてきたしね。
 送るのも役目のひとつなわけで」
「ありがとうね、2人とも」
今の私は素直に笑えていられただろうか?
作り笑いに囲まれたあの世界に帰る前に、そういう人間になっておきたかった。
「最後にもう一度だけ聞くよ?・・・本当に、帰るの?」
イサの問いかけに、私は一瞬ためらった。
元の世界に帰っても、灰色の空が待っているだけ。
だけど、私は帰らなきゃ。
たとえそこがどんな世界だろうとしても。
隣に立つ、唯一の肉親である妹を伺い見る。
「由梨亜がしたいほうにすればいいよ」
由梨歌が隣に居てくれるなら、どんな世界でも構わない。
「帰るよ、私は。どんな小説でも、世界を救った勇者は留まらないでしょ?」
私の答えに、満足そうな笑みを浮かべてイサはシェルに視線を送った。
「了解」
器用に指を鳴らすと、扉が目の前に出現した。
螺旋階段の下で見た、大きな木の扉。
「ここを開ければ、すぐに由梨亜たちの世界。ま、お別れってことだね」
シェルはそんな簡単に言うけれど、もう2度と会えないということを
切実に噛み締めている。
少なくとも、私との別れを惜しんでくれている。
目からあふれ出てくる水分は、目の淵でぎりぎり止まっている。
少しでも顔を動かしたら、泣いていると言われたら言い逃れのできない状態。
「短い間だったけど、ありがとう。みんなにもよろしく言っておいてね」
「こちらこそ、ありがとう。気をつけてね」
顔を背けてしまったシェルの代わりに、イサが別れを告げる。
「・・・行こうか」
由梨歌に手を引かれ、私達は重い扉を開く。
扉をくぐる寸前に、思いとどまって振り返る。
だけどそこに広がっているのは、もう花畑だけ。
さあ帰ろう。私達の、世界へ。

48
「・・亜、・・梨亜、由梨亜ってば」
「あと5分・・・」
「ふざけんな」
頭に受けた衝撃に驚き、慌てて跳ね起きる。
「・・・おはよう由梨歌・・・」
「ほら、早くしないと遅刻するよ?お弁当は代わりに作っといてあげたから」
食卓の上に可愛らしく乗っている2つのお弁当箱を見て、自然と笑みがこぼれる。
しかし、すぐにまた頭に鈍い衝撃。
「痛い・・・」
「遅刻するって言ったでしょ?姉さん」
あの不思議な世界から帰ってきて。
私達は2人で慎ましく(?)暮らしている。
こうして平和なときが流れていけば流れていくほど、
あの数日間は本当に夢だったんじゃないかな、と思う。
だけど、まぶたを閉じれば浮かんでくるあの世界。
私はそこで成長した。
あの人たちも今このとき、元気にしているだろうか?
「あぁ、もうこんな時間になっちゃったじゃん!」
由梨歌は1人時計を見てわたわたしている。
「由梨亜笑ってないでよ!!」
「ゴメンね。行こう?」
月の見えない、灰色の空。
だけどこの灰色の空が広がる世界、貴方とならば青空の下のように
深く、深く、心は澄み渡っていくんだ―――――――――――。
Fin

まとめ 前編 

December 20 [Sat], 2008, 16:52

一心不乱に階段を下りる。
くるくる回る螺旋階段。
上ってきたときは、こんなに長くなかったのにな・・・
今更ながら気がつく。
遅いくらいだった。
まあ、戻れなくたっていいか。
最期くらい美味しい空気が吸いたかったけど・・・。
完全に諦めているはずなのに、心のどこかでは出口を探してしまう。
死にぞこないの、こんなヤツでも。
ふと下のほうを真ん中の吹き抜けから覗いてみれば、出口らしき大きな扉。
外の空気が吸える!!
喜び勇んで、足を速める。
変なところに生きがい見つけたな。
てか、明日から、これからどうしよう。
そんなことを考えているうちに、螺旋階段は終わりを告げた。
代わって大きな木製の扉が出現。
ん?入ってきたとき、こんな扉あった?
疑問には思うが、0,05秒も経たないうちに
ま、いっか。
一件落着だ。
思い切って扉を全開。
あー、空気が美味しいー。
それに足元も何だか綺麗な花畑だし。
・・・・・・は!?
ここ、都会のど真ん中じゃないのかー!?
「あっ、やっと来てくれたね!」
ますます混乱している所に、鈴が鳴るような声。
「ずっと待ってたんだからー。え?だーかーら、今見つけたから連れてくってば」
声の主は上にいた。
どこからか飛び降りると、目の前にたってニッコリ笑う。
可愛い・・・
多分、12,3歳くらいの女の子。
あんまり女の子と接する機会がないから、美人の女の子にドキドキ。
「初めまして」
「あ、どうも」
少女はスカイブルーの美しい髪を持っていて、瞳の色は左右で違っていた。
右目は燃えるような紅。左目は深い海のような蒼。
オッドアイってゆうんだっけ?
とにかく、すべてのバランス、パーフェクト。
「いきなりだけどね、一緒に来てほしいんだ」
あなたとだったらどこへでも行きます、とまでは言わないが、小さくうなずく。
「よかったー。でも、ちょっと道中いろいろあるだろうし、とりあえず寝てて?」
寝てって言われても。
夜型の生活を送っているからか、全く眠くない。
というか3日寝なくたって全然平気。
「じゃあ、しょうがないな」
少女が悩んでいる表情を見せたのは一瞬だった。
距離を詰めると、いきなり首筋に強い衝撃。
「おやすみなさーい♪」
おやすみなさいって・・・永眠させる気か、こいつ。
と言ってる間にも、意識は・・・薄れていく・・・。
お父さんお母さんゴメンナサイ。
親不孝者でしたが、先に逝きます・・・。


「シェル、このまま起きなかったらどうするつもりなの?」
不意に、そんな声が頭の中に響いてきた。
いや、実際にはすぐ近くで聞こえる。
あー・・・天国にでも来ちゃいましたかー。
でも最期にあんな可愛い子に会えて幸せでした・・・・・・。
「大丈夫。もう起きてるよ。ね?」
思わずギクッとする。
なぜなら、とっくに眼は醒めていたわけだし、
こっそり聞き耳を立てていたと思われるのも嫌だったから。
「あ、はい、えぇ。えっと・・・」
寝ていたところに手をついて起き上がる。
ふわふわとして手が沈み込んだ。
眼を開けると、そこは白い壁に囲まれた清潔感のある部屋だった。
唯一見える窓の外は、真夜中のように暗い。
え・・・真夜中?
あの螺旋階段のある建物に入った時は夕方。
たっぷり寝たような満足感から、数時間しかたってないわけはないだろうし。
じゃ、まる1日以上も寝てたってこと!?
「この子が手荒なまねをしてしまったようで・・・すみません」
「あっ、気にしないでください」
目の前にすっと現れて、謝罪した女性。
見たところ、20代前半って感じ。
シェル、と呼ばれた少女も可愛かったけど、この女性は可愛いと言うよりも綺麗系。
大人の気品みたいなのもあふれ出してる。
「私はこの国の女王、アリアです」
「そうでございますか」
あれ、日本語間違ってないよね。うん。
じゃあ、感じた違和感って・・・
・・・・・・・・・?
「あの、今何とおっしゃって・・・」
「この国の女王、です。こんな私でいいのか不安ですけれども」
そう言って彼女は恥ずかしそうに
口元を押さえながら(それでもやっぱり上品だ)笑った。
今更かもしんないけどさ。
日本じゃないよなー・・・だとしたら。
ここ、どこだよ。


「シェル、説明してから連れてきてくれたのではないのですか?」
「んー、説明めんどくさい★」
ただただ目の前のやり取りに眼を奪われる。
日常からかけ離れすぎ。
あぁそうか。これは夢だな。
ナイスな思いつき。
うん、それが真実だ。いつか眼が醒める。
でも・・・・・・・・・・・・・・。
もう醒めなくたって、いいか。
どうせあそこにも死に場所を求めに行ってたわけだし。
「あのー・・・突然で申し訳ないのですが、お願いをしてもよろしいでしょうか?」
「はいっ!もちろん大丈夫です」
こんな美人に頼まれて、断る馬鹿はいないでしょう!!
「私たちのために、戦ってくれませんか?」

「・・・は?戦う?」
「えぇ。勇者として、あるものを取り返しに行って欲しいのです」
わぁ。勇者だなんてとってもファンタジー。
でもさ−。普通・・・
「私、女ですよ?」
「もちろん承知しています」
女の子は戦わないでしょ・・・。
「大丈夫、あなたは勇者様ですもの。何とかなりますわ」
シェルも後ろでうんうん、とうなずいている。
「悪いけど、元の世界に帰っていいですか」
たとえ夢だとしても、冗談が過ぎる。
「ゴメン、言い忘れてたけど。アレを取り返してくれないと、多分帰れないよ?」
シェルは悪びれる様子もなく言い放つ。
アレっていうのは気になるけど、それよりも前に。
私の選択肢は、どこに・・・。
「とりあえず、行ってきてくれません?」
逝ってきてくれません?の変換ミスですか?おい。
死んじゃうだろ。
「じゃ、早速ですが」
「ちょ、ちょっとタイムー!!!!!」
事は決まったとばかりに、話を進める女王様(アリア様だっけ)を
あわてて制止する。
「普通、女の子は戦いませんから!!!」
「あら。この国では実力主義ですよ?性別なんて関係ありません」
槌谷 由梨亜(つちや ゆりあ)。17歳。
さっきまで、自殺志願者。
たった今から、勇者決定。


「・・・で、来ちゃったのが私な訳?」
「そうです。だから、あなたが勇者様なんですよ?」
このぶっ飛んだ世界についていけない部分がほとんどだけど、
私はとりあえず話を聞くだけ。と言って詳しい話を聞いていた。

この国は、光の国と言って人々が昔から住んでいた。
平和なときが長らく過ぎたが、ある問題が出てきた。
いつの間にか人々の間には闇が生まれてきてしまったのだ。
やがてそれは大きくなっていき、闇の国が誕生してしまった。
しかし、闇の国と言っても悪さをするわけでもなかったので
前代の国王はそれを放置していた。
それに闇の国との交流も少なからずあり、お互いの国王同士はとても仲がよく
また平和な時間が過ぎようとしていた。
変化がおきたのは、そんなときだった。
闇の国の王が、倒れたために違うものが王に上り詰めたのだった。
それからは悪さばかりするようになった闇の国は、ついに
この世界すべてを闇の国に包んでしまおうと思い出した。
それには、各国にある水晶を2つそろえればいい。
そう言って、光の国にある水晶を闇の国が奪ってしまった。

「それからです。この世界の均衡が崩れだしたのは」
「あ、そうですか」
均衡が崩れたとか、国語の時間でも使ったことないよ。
てか、漢字で書けませんから。
話は聞いたんでもう帰してもらえません?オーラを出してみるけど
全く気付いてすらもらえない。
「んじゃあさー、例えばぁー、勇者サマは今何時だと思う?」
今までベッドの上に寝転んでいたシェルが口を開いた。
「えっと・・・少なくとも夜中の10時は過ぎてるよね・・・」
「不正解。ただいまの時刻は朝の8時でーす」
シェルの楽しそうな声。
「はぁ?嘘つくんじゃないの。どう見たって朝なわけないでしょ」
外は真っ暗。闇の中に沈んでいる。
「ですから、均衡が崩れだしたと言いましたでしょう?
 もうかれこれ10年間は朝が来ていません」
「そうそう。だから、あたしたちって本物の太陽って見たことないんだよね」
それは・・・ちょっと可哀想かも。
朝日が昇るところとか、感動ものだよ?
「ですから、私たちは貴方に頼るしかないのです」
「てかさ、何で私なの?他にもこの国に来た人がいるならその人が勇者でしょ」
そうだそうだと、心の中の自分も応戦。
「予言、だよ」
・・・話はまだまだ続いているらしい。


「予言というのは、少なくとも私の先々代の王がいた時代よりも前から
 この国に伝わっている本の中身なのです」

光が闇に侵食される
そして世界が闇に包まれたそのとき
光は消え失せ、希望がなくなる
しかし花の平原の中心に
勇者が舞い降りる

「で、その勇者がこの国の均衡を正してくれるってゆーわけ」
「無理」
私はキッパリお断り。
「第一に、私はただの女の子です。戦えません」
「そう言うなら、1度手合わせしてみない?」
シェルがいつになく・・・って、今日初めて会ったばかりだけど
とにかく、見たことのない鋭い目つきを見せた。
「ちょうどいいわね」
ちょっと、アリア様!?止めろよ!!
「あたしのミニミ持ってきて」
「ついでに勇者様に準備していたものも」
2人はうやうやしくやって来たメイドらしき人に
なにやら頼んでいる。
シェル、何だミニミって。
「ミニミってゆーのは簡単に言えば、軽機関銃」
機関銃・・・見たことは、ない。
普通の人はそれが普通か。
つまり、私も普通な人間なわけでして。
しかもそれと戦える物騒なものを私に使わそうとしてない!?
「お持ちしました」
1分も経たないうちに、物騒なものがそう狭くないこの部屋に運び込まれた。
シェルが持っているのは、確かに機関銃っぽい。
本物をじっくり見たことはないけど、そういえば前何かのドラマで見たっけ。
それよりも・・・
「これ、何ですか?」
私は手渡されたものを見てから、アリア様に尋ねる。
「これも、予言に書いてあったものです。勇者様が使う武器として」
武器っていうか・・・武器だよ。まるっきし。
これを渡してきたメイドさんは大剣とか言ってたけど、
これはどう見ても。
「日本刀というのでは?」
「何ですか、ニホントウというのは?」
逆に聞き返されてしまう。
でも、手の中に収まっているのはお宝鑑定とかで
名刀なんとかって名前が付きそうな鞘に入った刀。
試しに鞘から抜刀してみる。
おぉ。錆ひとつないきらびやかな・・・って、鑑定してる場合じゃない。
「悪いですけど、私、刀なんて使ったことないし・・・無理です」
刀を使ったことのある人がいたら連絡求む。
とりあえずは日本刀を押し付けて、拒否しまくり。
「大丈夫ですよ。きっとその剣があなたの力を引き出してくれます」
だから。
これは日本刀です。
This is a ニホントウ。
「シェル、始めて」
こんなときばっかりは無視ですか。
突っ込もうと思ったものの、そんなことをしている暇がないことに気づく。
「手加減はしないからね?」
私は慣れない手つきで、刀を構えた。


「遅い」
シェルは容赦なく機関銃(ミニミなんとかってゆー詳しい名前あるらしいけど)から
弾丸を飛ばしてくる。
私はそれを器用にひとつずつ避けていき、たまに刀ではじく。
自分でもここまでできるとは思わなかった。
もともと運動は得意なほうだったし、その応用感覚。
距離を一気に詰めると、刀を振り上げる。
そういや、手加減しないで私が死んだらどうするつもりだよ。
一瞬考えた隙に、シェルのミニミはまっすぐに私を捉えた。
「んー・・・もうちょっと強いかと思った」
ふざけるな。自分が連れてきたくせして。
何だか無性にいらついてきた。
脳内でアドレナリン大量分泌中。
「もうちょっと強いかと思っただと・・・?」
頭の中で何かが切れる音。
「ふざけんなーッッ!!!!」
豪華なじゅうたんが敷いてある床を蹴り、2mから50cmに距離を縮める。
シェルが驚いた表情を見せつつも、途端白い歯を見せた。
笑っていた。
「笑っていられるのも今のうち」
私の口調も途端に変わる。
やばい、抑えられなくなってきた・・・。
駄目だって・・・由梨歌・・・。
私自身の意識は、またも消え薄れた。


「勇者サマ・・・?」
眼をうっすら開けると、シェルが心配そうに覗き込んでいた。
紅と蒼の目にはうっすら涙さえ浮かんでいる。
「びっくりしたんだからー!あたしのミニミ切り刻んだと思ったら、
 そのまま倒れこんじゃったんだもん」
「そっか・・・でも、シェルに切りかかっていったのは私じゃないんだ」
「え?でも、勇者サマが切りかかってきたんだよ?見間違いなわけないって」
・・・由梨歌だ。
「何か言った?」
「それは、私じゃないよ。私の名前は由梨亜だけど、それは由梨歌。私の妹」
いつからか、私の心の中に住み始めていた。
私をお姉ちゃんと呼び、自分のことを由梨歌と言った。
「えっと・・・それでは、勇者様は由梨亜様でさっきのは妹さんということですか?」
「一応ね。見た目は同じって言うか、体は私のものだけど」
眼が醒めると、体中傷だらけになっているときもあった。
由梨歌は、私が思ったことや願ったことを実現しようとしていると
私がやっと気がついたときには遅かった。
こんな世の中から消えたい。
そう思ったときには、リストカットをした傷跡が。
友達と話すことが嫌だと思えば、
携帯から友達のデータは消え、真っ二つに携帯が折れていた。
そういえば。ここに来る前も。
ちょっと嫌なことがあって、自分なんて死んじゃえばいい。
でも、最期くらい綺麗な場所で迎えたいな。
そんな言葉を呟いた途端、意識を失った。
実際には由梨歌に意識を持っていかれたというのが正しいけど。
とにかく、また眼が醒めると高い建物の上にいた。
扉を開けたり階段を上っているときに少しずつ意識は戻ってきていたけど、
体は由梨歌が動かしていた。
きっと由梨歌はここから飛び降りて、死ぬつもりだったのだろうけど、
最期の景色を私に見せたくて意識を戻してくれたんだと思う。
でも、私は結局怖くなって下に下りた。
そしたらこれだもん・・・。
しばらく由梨歌は出てこなかったけど、私が窮地に陥ったから
突然出てきたみたい。
「ということで、今のは私じゃないの」
別に由梨亜の体でやったんだし、由梨亜の手柄でもよくないー?
頭に響く、由梨歌の声。
駄目。私これから戦わされるの嫌だし。
こんなところにいないで、帰ろうよ。
帰るって、どこに?由梨亜の居場所はもうないんでしょ?
「だからって・・・」
私以外には聞こえない、由梨歌の声に反抗する。
「由梨亜、どーかしたの?」
名前を教えたら早速呼び捨てにしているシェルが、眼を丸くしている。
「ちょっとした姉妹喧嘩。私には、もう居場所がないって言うからさ・・・。
 本当のことなんだけどね」
しぃんとした沈黙の音、と表現するのにぴったりの音が耳をつく。
「あ、それじゃ帰ります。よくわかんないけど、私には何もできないんで」
帰るとは言ったものの、どうやって帰ろうかと困惑。
どうやってここに来たかもわかんないしね。
「でも、この世界の均衡を戻さない限り」
「戻さない限り?」
アリア様の言葉に、脅しですかと思いつつ、おうむ返し。
「多分もとの世界には帰れないかと・・・」
「ぇ!?で、でも、私はこっちに来れたんだから帰るのだってできるでしょ!?」
予想外の言葉に驚きを隠せない。
だって、そんな話聞いてないよ?
「えぇ。しかし、世界のつなぎ目が不安定な今、必ず帰れると保障はできません。
先ほどもシェルが言いましたが」
ちょっと・・・笑顔でそんなこと言わないでよ・・・。
後ろから黒いオーラも見えてるし。
何気に一番怖い人だよ・・・。
「やって、くれますよね?」
「はい・・・」
どうやら勇者に決定権はないらしい。
学習しましたとも。


「で、私は1人でその闇の国ってとこに乗り込まなきゃいけないわけ?」
「いえ、ちゃんとお供をつけさせていただきます」
だよね。
こんなか弱い(?)女の子1人で乗り込ませるわけにもいかないでしょ。
「大丈夫。あたしがついてくし」
シェルはポンポンッと私の肩を叩いていく。
では早速出発の準備をとか何とか言い始めたアリア様とともに、
部屋を出て行こうとする。
「ちょ、ちょっと待ったーッ!!!」
2人は驚いた顔をしながらも振り向く。
「シェルが強いっていうのは、さっきので十分わかったけどさ、
 2人で行かせる気?」
少なくとも、見た目にはか弱い女の子×2だよ?
なめられますよ、敵に。
「そのことなら心配しなくても。途中途中で他の者も待っています」
あぁ、あれですか。
よくあるRPGの展開ってやつですか。
しかしながら、私はRPGってやったことないんだけどー。
やったことのあるゲームはどう○つの森だよ。
「とりあえず時間がないから、さっさと行ってさっさと終わりにしようよ。
 そうすれば、由梨亜も帰れるんだよ?」
だから、呼び捨ては馴れ馴れしいって。
でも、いままで私のことを呼び捨てにしてくれるような深い友達はいなかった。
友達では、ないにしてもそう呼んでもらえて少し嬉しかった。
「そう・・・だね。私がやるしかないんだもん・・・行くよ」

旅立ち。
とは言ったものの、準備するものも大してないらしく
アリア様に半ば追い出されるような形で闇の国へ向かう。
ちなみに、さっきまで私たちがいたのが光の国のお城。
外から見ると圧倒的な大きさに感動すら覚える。
しかもすべてが白でまとめられていて、いかにも、という感じだった。
「それじゃー出発」
シェルに言われて後を追う。
「そういえば、行き方はわかってるの?」
「ううん、知らない」
「そっか、知らないのかーって、えぇ!?」
行き方も知らないのに私を連れて行こうとしてるわけ?
「そのへんは心配ないよ。専門家も同行するし」
「専門家?」
そんなものに専門も何もない気がするけど。
「うん。あたしの友達なんだけどね。この辺の地理にはめっぽう強いの」
シェルの友達・・・美人なのかなー・・・。
頭の中には大人っぽい美人の女の子登場。
微妙に期待大。
「この道をまっすぐ行ったところに蒼い屋根の家があるの。そこにいるはず」
いるはずって、またまた無責任な。
ほらあれ、とシェルが指差した先には確かに蒼い屋根。
そこそこの大きさ。でも比較対照が、さっき見たお城しかないから
そう思っちゃうのかもしれない。
「イサ?起きてるー?」
私の横ではシェルが大声で家に向かって叫んでいる。
近所迷惑だと言ってやりたいけど、あいにく回りに家はない。
「うるさいな、シェル。今日は起きてるって」
蒼い屋根の家、その2階部分にあたる窓から私たち以外の声。
「珍しい。今日はお客付き?」
「お客っていうか、とにかくイサに仕事」
シェルが返事を返すと、窓からこちらをのぞきこんできた。
「こんなところからどうも。案内人のイサです」
寝癖だらけの髪の毛をかきむしって、私に笑いかけたその人は、
私の予想像(美人の少女)をガラガラと音を立てて崩した。
「言っとくけど、これでも男だから」
由梨亜はダメージを100受けた。
瀕死状態になった。
って、RPGっかつうの。
「とりあえず、上がってよ。お茶でもしながら話をしよう」
・・・見た目は悪いけど、良い人かもしれない。
この国に来て、初めて出会った紳士にいろんな意味で期待を込める。


「それで、僕に案内をしてほしいってこと?」
「そう。てか、してほしいっていうかしろ、絶対」
「あれ・・・?命令形・・・?」
私は出された紅茶を飲みながら、目の前のやり取りに気をとられていた。
ちなみにちょっとしたイサの見た目紹介。
髪の毛の色はハニーブラウン。さっきまで寝癖がひどかったけど大分落ち着いている。
瞳の色は薄い黄緑色。
こうして見ると結構な美形さん。
「あの、えっとイサさん?」
「イサでいいよ。それで、何?由梨亜」
何で私の名前知ってるんですか。
それが今のところ一番聞きたい質問だったけど、何とか抑える。
「えっと・・・イサ、は案内人って言ってたけど、今までにも案内したことは
 何回かあるの?」
「無いけど」
しょーげきの告白。
「え?何、初めてなのに私たちを案内するわけ?」
それじゃ案内人の意味ないし、シェルで十分だし。
「いやいや、僕たちの家系は代々案内人をしているんだ。
 いつの日か、予言の勇者が現れたときに案内するように。だから、案内自体は初めて」
そっかー・・・良かった。
せっかく出会った紳士的な人を見過ごせるかって。
「じゃあ紅茶も飲み終わったことだし、出かけよう」
「えー・・・」
やっぱり出かけなきゃいけないわけ。
がっかりしている私の耳元で、シェルが囁く。
「イサは怒ると怖いから支度は早くしてね」
ちょっ、意味深な発言残してかないでよ!
「由梨亜?早く、出かけるよ」
「は、はいっ!」
私たちは慌しくイサの家を出発した。
旅の仲間ただいま3人。(含 主人公)


「でもさー、その水晶っていうのを取り返してくれって簡単には言うけど
 私何したらいいの?」
「そうだなぁ・・・、とりあえず向こうの国の城に乗り込む?」
「だよねー。あたしも頑張るー」
シェルとイサはこれから遊びに行くかのように笑ったけど、
よくよく考えると、いやよくよく考えなくてもおかしい。
だって、敵のところに乗り込んでいくんだよ?
「言っておくけど、あたしたち3人で乗り込むわけじゃないからね?
 そんな子供なまねしないから」
「へ?そうなの?良かったぁ・・・」
でも他に誰が付いてきてくれるんだろう?
何人くらいかなー・・・まさか1桁じゃあるまいし。
「確か僕たちも入れて5人ぴったり」
「そんなに来るわけ?」
「女王様は心配性だからね」
ちょっと待った・・・ッ!!??
私たちを入れて5人ってことは?
はい、計算してください。他の仲間の人数は?
・・・。・・・。・・・。
答えは5−3で2人です!できたかな?
って・・・馬鹿なことやってる暇はないんだった。
「あと、2人しか仲間がいないわけ・・・?」
「あと2人も、の間違いでしょ?」
そうだよね、と言わんばかりにイサも微笑んでいる。
すいません?私これでも勇者なんですけど?
こんないじられキャラじゃないでしょ、普通。
「もう面倒臭いし、残りの2人は集めておいたから」
「どうも・・・」
どういたしましてーと笑うイサは可愛いけど(いや、可愛いって言われても イサ談)、
そんなこと急に言われたって、すぐに戦えるってわけじゃないからね?
「あぁ、やっと見えてきた」
さっきまで歩いていたのは、その人たちの所へ向かっていたわけか。
教えておいてくれても良かったのにね。
「由梨亜、あそこ。彼らも来ていると思うよ」
「あそこは、普段何に使われているの?」
イサが指差したところには、ログハウス風の小さな小屋らしきもの。
「もともとは個人の別荘だったんだ。今は僕らの集会場所みたいなものだけどね」
「そういえば最近は集まってなかったね。みんな元気かなぁ?」
ツカツカと2人はそのログハウス風の建物に近づいていく。
で、またもや私はその後を追う形。
こんこんっとノックをすると、イサはゆっくりとドアを開ける。
「もう揃っているかい?」

10
「・・・」
「とっくに。もうずっと待っていたんだからね」
高い声、男の子のような声がイサに返事をする。
「やっぱり、やっと予言通りになったから俺らが集められたのか?」
次に聞こえてきたのは、低めの、バリトンくらいの声。
渋い・・・大人の男性って感じ。
「2人ともよく来てくれたね。久しぶり」
「ホント久しぶりー♪」
「おぅ」
イサは親しげに話しかけている。
気がつけば、シェルも大人っぽい男の人と話している。
イサが集会場所のような所って言ってたし、いつも会ってるのかな?
親しげにひとしきりの会話を終えて、イサとシェルは同時に振り返った。
そして私の顔を見てニッコリ笑うと、もう一度私に背を向ける。
「紹介するね。この人が予言の勇者サマこと、由梨亜でーす」
「ということで、やっと出発の日が来たんだよ」
司会者かお前ら的なノリで2人はまたもや微笑む。
そして一瞬の沈黙のあと、せききったように
それぞれが話し始めた。
「うっそ、この子が!?うわー意外だなー」
「・・・」
あ、1人しかしゃべってないや。((笑
「由梨亜?だっけ、君」
「あ、はいっ」
声の高い子供風な男の子が先に声をかけてきた。
「自己紹介しておくね。ボクはエリアス。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
「ユルは自己紹介しないのー?あ、ゴメンね、あんなだけど本当は優しいんだよぉ?」
はぁ・・・とつれない返事を返しつつ、そのユルと呼ばれた男性を見る。
こげ茶色の長髪を後ろでひとくくりにしている。
細めている瞳の色は綺麗なワインレッド。
格好いいなー・・・同じ学校とかにいたら絶対もてる。
あ、でもエリアスも綺麗な顔してるんだよね。
エリアスは可愛い系って感じだし。
ちなみに髪の毛は薄い黄緑。瞳は髪より少し明るめの黄緑で。
スカートをはいてその辺歩いていても不思議はないくらい。
「俺の名前はユル。好きに呼んでくれていい」
「よろしくお願いしますね」
私が急いで頭を下げると、ユルは一瞬驚いた表情を見せてからそっぽを向いてしまった。
私、怒らせるようなことしちゃったかな・・・?
「由梨亜ちゃん、大丈夫だよ。ユルは人間らしい扱いを受けたのが久しぶりで
 ちょっと嬉しいんだよー」
「は?人間らしい扱い?」
何かさっきまで怖そうな人としか思わなかったユルが一気に不憫になってくる。
「それ以上は言わなくていい」
ユルの表情からして、多分この3人にいじられてるんだろうなーと思う。
そして多分それは正しい。
「はいはいー。自己紹介はそこまででいい?」
シェルが私たちの間に割ってはいる。
「そろそろ本題に入らないといけないしね」
「本題?」
本題、入る気はあったんだ。

11
「で。さっさと話してくれないか。どうせ時間がなくなってきたんだろ」
丸いテーブルを囲むようにして座る。
そのうち、ユルはしびれを切らしたように催促し始めた。
「ユルは察しがいいね・・・その通りだよ」
「え、でも・・・。闇の国にある水晶を1つ取り返せばいいんでしょ?
 時間て、あまり関係なくない?」
「それが、そうでもないんだよねぇ・・・闇の侵食の関係でしょ?」
エリアスが食べ途中のケーキをこぼしながら、話に割り込んでくる。
(その間シェルはエリアスとおやつ。のんきなものだよね・・・。と言いながら私も
ケーキをもらいながら話を聞いている。)
「闇の、侵食?」
「うん。あのね、この国は闇の国から闇が侵食してきちゃって、
 一日中真っ暗になっちゃったの。まあ、一部分はまだ光があるんだけど・・・」
「それすらも侵食しそうだということ?」
正解、と言う代わりにイサは手で丸を作る。
「早く水晶を取り返さないと、光を戻すのが簡単には行かなくなってしまうからね。
 ということで、今すぐ出発」
えぇ〜ッ!?と悲鳴にも近い叫びがこだまする。
「まだケーキ食べ終わってないのにぃ」
エリアスはケーキを抱えながら唇を尖らせる。
「じゃ早く食べることだな。急がないと置いていくぞ」
そう言うユルはすでに支度済み。
いつ支度したんですかお宅は。
「さ、乗り込むよ。敵国サンに♪」
シェルはちゃっかりいいとこどり。
えー・・・乗り込みたくない・・・もうここから動きたくない・・・
やる気0の勇者様。
そんな勇者様をシェルは片手で軽々と引きずっていく。
外にはイサとユルが待機していた。
そういえば、乗り込むって言ってるけどイサたちって強いのかなー・・・
武器も持ってないみたいだし。
「何思ってるか知らないけどさ、みんなあたしよりかは強いと思うよ」
「べ、別に何も思ってないけど・・・へぇ、強いんだ」
意外だという言葉は飲み込む。
まあユルは見た目的にも強そうだとは思うよ?
で、100歩譲ってイサもそれなりだとするけどさ・・・
「もう、ケーキはゆっくり食べたかったのにぃ」
あの人は、エリアスは、戦えるのかな・・・。
「もっと言っておくとね、エリアスって1,2を争う強さだよ?この国では」
「嘘でしょ・・・」
背中を嫌な汗が伝っていく。
「いつだったかなー、どこかの集落、結構大きかったんだけどそこを
 1人で滅ぼしたとかどうとか」
「怖すぎでしょ!?それ、嘘でしょ!?フィクションでしょー!?」
「ノン・フィクション」
この現実から眼を背けさせてください。
「ほら、2人とも遊んでいる暇は無いんだって。行くよ」
遊んでるんじゃないって、イサ。それくらい察せよ。
「まずは、預けてあるものを取りに行かないとな」
「預けてある・・・もの?」
「俺たちの武器だ」
ユル・・・武器持たないで欲しいかも。
多分日本であなたが武器を持っていたら速攻警察のお世話だよ?
ヤのつく自由業だよ。
「んー・・・あそこ行くのボク嫌なんだけど・・・しょうがないなぁ」
エリアスが嫌がるなんて・・・一体どんな場所なんだろう?

12
テクテクといった効果音がぴったりのようにゆっくり歩く。
「着いた」
先頭を切って歩いていたユルはそれだけ言うと、建物に入っていく。
「あ、ユル待ってよぉ」
「はぁ・・・仕方ない。2人とも、ここで待っててね」
続いてエリアスとイサも。
今まで見てきた建物って、どこかメルヘンチックだったけど
ここは何だか無機質。
グレーの壁に囲まれた、それこそ立方体に入り口や窓をつけただけのような。
「シェル、ここって何なの?」
「あたしもよくわかんないけど、確か由梨亜のいた世界ではえっと・・・
 ケイサツショって言うんだっけ?」
警察・・・確かにあの3人なら警察のお世話になっていそう。
「あたしと戦ってたらさ、いきなり変なおじさんが来て武器没収しちゃったの。
 あたしだけはアリア様の直属で、免除してくれたけど」
そのおじさんって、警官ではないだろうか・・・。
「で、アリア様が予言のこと心配して武器を預かるだけにしてもらったわけ」
さすが女王様。権限はあるんだね。
「お待たせ。普通に返してくれたよ」
「アリア様のお手紙持ってたからかなー?」
「だろうな」
みんな手に手に武器を持っている。
私の食い入るような視線に気がついて、みんなは武器の説明をしてくれる。
「僕のは、普通のナイフ。もっぱら投げる用だから数多いんだよね」
そう言うイサの指の間には、いくつものナイフが挟まれている。
怖いから。見せなくていいから。
「ボクはねー、これ」
エリアスが見せてくれたのは、ファンタジー小説に出てきそうな木の杖。
持つ部分には、黄緑色の宝石が埋め込んである。
「まさか・・・これで撲殺・・・」
「じゃなくてねぇ、ボクは武器として魔法を使ってるの」
へへーと微笑むエリアスに、何故か癒される。
あー・・・平和・・・。
「・・・?俺のか?」
ふと視線をユルに移せば、手にしていたものを私に見やすくしてくれる。
「薙刀?」
「さあ?名前はよく知らない」
薙刀・・・本物見たこと無いんだけどね。
確かこの間呼んだ小説に出てきたし。
でも、日本刀にしても薙刀にしても日本文化的。
「まあ、これは武器のひとつだけどな」
「ま、まだ他にもあるの・・・?」
「あたりまえだろ?」
それが普通だといった顔で小さく首をかしげている。
悪いけど、その動作が似合わない人今のところナンバー1だから。
「さてと、やっと武器を返してもらったことだしそろそろ行かないとね」
私は思わず、真っ暗な空を仰ぎ見ていた。
この空に、朝をもたらすことはできるのだろうか・・・?

13
「じゃあ、まずは国境を越えたいと思いまーす」
引率の先生的に目の前でイサは説明を続ける。
「そこで、ひとつ気をつけてもらいたいことがあるんだ」
「気をつけること?」
「そう、それを守らないと、命の保障がちょっとできかねません。みたいな?」
みたいな?じゃねーよ。
何とかしろー!案内人―!
「この門をくぐると、そこはすぐに闇の国。ここよりも更に暗い」
道中イサが話してくれたことによると、この大きな門があるから、
まだそこまで闇が濃くならないらしい。
「つまり、闇が光の国にあふれ出してくる。その闇の量を最小限に抑えるために
 1秒でも早くここをくぐらなければいけない」
闇が、あふれ出す。
あやふやな表現だけども、それが尚更に恐怖心を煽る。
完全な闇に包まれる世界・・・想像もしたくない。
「でも。扉はとても厚いから開けるのにも閉じるのにもすごい力が必要なんだ。
 普通の人1人では到底開けられない」
「だからね、ボクが魔法でお手伝いするんだけど、それでもちょっと力が足りないの」
エリアス割り込み。
今はイサの説明にすべてを任せようと思うんだけど。
え?だって、余計ややこしくなりそうでしょ。
・・・それは置いといて。話を戻す。
「でねー、由梨亜ちゃんの力も借りないといけないのー」
ニッコリと笑うエリアスを横目に、イサに説明を頼む。
「どういうことなの?」
「由梨亜に渡されている剣があるだろう?」
あぁ、剣って日本刀のこと?
お城を出発したときから腰に差してあるけど?
「その剣には光の国の魔力が込められている。その魔力とエリアスの魔力が
 合わされば、闇をほとんど出さずに僕たちは闇の国に行ける」
この日本刀に、魔力?
実感が無い言葉に私は大きく90度首を傾けた。
「もし、もしだよ?これに魔力があったとしても、私はどうすればいいの?」
エリアスみたいに簡単に魔法が使えるならまだしも、私は魔法なんて
使ったこともないんだから。
「それなら大丈夫。何もしなくても、剣を掲げるだけでいい。多分」
多分って何だ、おい。
「まあぶっつけ本番だけど頑張ってみて」
自分がとてつもなくプレッシャーに弱いということを、
最悪なタイミングで思い出してしまうのだった。

14
「時間もないんで、さっさと行こうか」
さっさと、ってそんな言葉にまとめられるようなもの・・・なのかな?
それに・・・。
「あと失敗した場合は、闇に体をのっとられちゃうこともあるらしいから
 一応気をつけておいてね」
体をのっとられるってなんですか!?
日本にいる人でそんな状況に陥ったことがる人いますか!?
いたら教えていただきたい。
「開けちゃうよ?」
エリアス、早い早い。
まだこっちの心の準備がー!!
私の心の声は届かず、エリアスはブツブツと呪文を唱え始めた。
仕方なく身構える私。
刀を掲げるだけでいいって言ってもなぁ・・・。
「開け」
さっきまでケーキがどうとか叫んでいたエリアスからは想像もできないような、
真剣みのある低い声だった。
目の前の門に眼をやると、ぴったりとしまっていた門が少しずつだけど
開きかけている。
「由梨亜、やってみて」
やってみてって言われても、何をどうしたら((混乱中
掲げるだけって、掲げるってどういうことですか。
そんな中でも、私は無我夢中で日本刀を掲げた。
「意味わかんない・・・」
わかんなくても、やらなきゃいけないことがある。
だって、それは私にしかできないことなんだから。
「光ってる・・・」
私の隣に立っていたシェルがつぶやいた。
視線の先を辿ってみれば、私の持つ刀。
ふと掲げているその先端を見ると、白っぽく光り輝いていることに気がついた。
何かに反射していると言うよりも、それ自身が光を発しているように見えた。
「本当だったんだ・・・光の国の魔力が込められているって」
重く厚い門はゆっくりと、スピードを増しながら向こう側に開いていく。
やっと人が通れそうな隙間が開くと、私たちは体を滑り込ませた。
「早く閉めないと」
回りを真っ黒なものに包まれつつも、急いで門を閉める。
というか、私は何もしてないんだけどね。
刀から出る光が収まるころ、私たちはやっと暗闇に眼が慣れ始めた。
「真っ暗・・・本当に闇の中なんだね・・・」
闇。
どこを向いても暗い、黒い世界。
真夜中ですらこんなに暗くないはずなのに。
すると、近くで明かりがついた。
「これで少しは歩きやすいだろ」
ユルが手にしたランプをこちらに向けた。
準備いい・・・何かお兄ちゃんみたいな感じだよね。
面倒見いいところとか。
「多分闇はほとんど光の国には出ていないはずだから、僕たちも先を急ごう。
 あまりにも長い時間闇の中にいると、危険だしね」
「ちょ、ちょっと待って。危険ってどういうこと?」
さっさとここを立ち去ろうとしているイサを制止する。
「言ってなかったっけ?」
「言ってません」
イサがごめんねと言いながら微笑んで・・・いるのかな?
雰囲気がそんな感じ。真っ暗すぎて光が照らしている所しか見えないしね。
「闇は、人の心の中に入り込む。長い時間こういうところにいると、闇の国の住人に
 なってしまうこともあるんだ」
人の、心に入り込む?
闇が入り込み、それと同化するように黒く染まる心。
考えただけでも気分が悪い・・・
「まぁ・・・そういうこともあるし、少しは安全なところに行こう。
 頼んであるものもあるし」
私の表情を読んでから、イサは柔らかく言った。
試しに空があると思われるほうを見上げてみるけれど、そこにも
黒い世界が広がっているだけだった。

15
「やっと抜けた・・・かな?」
闇の濃い部分から何とか抜け出し、私たちは周りを見回す。
明るくなった・・・とは言っても周りは真夜中並に暗い。
「今、午後8時だから泊まる場所も考えないとね」
やっと案内人らしく案内を始める。遅いくらいだ。
「こっちに知り合いが何人かいるんだ」
「闇の国に、何回か来たことあるの?」
イサは少し困ったような、それでも少し笑ったような顔で答えた。
「お祖父様に連れられてね」
イサのお祖父さん・・・想像も付かない。
今気になることは多すぎるくらいだけど、イサのさっきの表情が
いつまでも喉につかえたように気にかかっていた。

16
「ここであってるの?」
私たちが案内されてたどり着いたのは、一見豪華なホテル。
周りが暗いから、ホテルの照明が際立っている。
「あってるよ。もう部屋は予約しておいてもらったから、鍵をもらって
 部屋に行って。由梨亜はシェルと同室だけどいいよね?」
予約だなんて、いつの間にしたんだろう?
そんなことを聞く前に、イサたちは連れ立ってホテルの中に消えていく。
「あ、待ってよ」
あわてて追いかけ、フロントらしきところで鍵をもらう。
部屋に向かう途中、何故かエリアスを背負ったユルが私とすれ違う。
この2人の取り合わせって、親子みたいだよなぁ・・・。
その瞬間、周りには聞こえないような極小さな声でユルは囁いた。
「俺たちが向こう側から来たということは、何があっても言うなよ」
「え・・・どうして・・・?」
「自分の身を守りたければ、だけどな」
結局私の質問には答えてくれないまま、2人は去ってしまった。
自分の身を、守りたければ。か・・・。
よくわからないけど、余計なことは言わないユルがそう言うんだもん。
しばらくはそうしておこう。
「由梨亜、部屋行こうよー」
いつの間に出したのか、大きな荷物を持ったシェルが階段を上がっていく。
私はあわててその後ろを追いかける。
一応これでも主人公だし、勇者なんだけど・・・
何か扱い悪くない?
ふと疑問に思ったりもするのだった。

17
部屋は思ったよりも広くて、2人で使うにはもったいないくらいだった。
適当にお風呂を済ませると、疲れ(肉体的&精神的に)も溜まっているし、
今日はすぐに寝ることに。
シェルはまだ起きてると言って、部屋を出て行ったし・・・
1人だと余計に広く感じるな、この部屋。
いつも、私は1人だった。
両親がいなくなってから、部屋にはいつも1人。
家に帰っても「おかえり」と言ってくれる人もいない。
「寂しい・・・か」
心の中に渦巻く感情は、その一言で片付けられるのかな?
「もう、寝よ」
無駄なことは考えたくなくて、私はベッドに潜り込むとスイッチを手探りで探して
照明を消す。部屋は、完全な暗闇の中へ。
どれくらいの時間が経っただろう?
のどの渇きを覚えて目が醒めた。
時計を見れば、まだ午前2時すぎ。
水でも飲んで、また寝よう。
電気はつけないまま、勘で洗面台に行き、コップに水を注ぎ込む。
キュッという蛇口のしまる音が響いて、水が止まる。
ベッドに歩み寄ると、また潜り込む。
眠い・・・やっぱり今日は疲れてるんだなー・・・。
まぶたを閉じて、もう一度眠りの世界に入ろうとしたとき、
部屋に誰かの気配を感じた。
「シェル?」
もうこんな遅い時間だよ、と続けようとした途端、照明の白い光が目をさす。
「電気つけないでよ・・・まぶしい」
「あ・・・れ?イサ、ではないよねー・・・?」
声のするほうを見ると、これまた何度目だというくらいの
美形のお方が立っているわけでして・・・。
夜中の不法侵入者に、私は言葉を失った。
18
「ゴメンねー部屋間違えちゃったみたい。夜分遅くすいませんでしたッ」
それだけ言うと、その美形さんは窓から飛び降りようとする。
「あ、危ないって!!」
あわてて飛び出し、その人を何とか部屋の中に引きずり込む。
「あの、貴方は一体誰ですか・・・?それに、さっきイサって言ってたし」
イサの知り合いかな?
とりあえず相手が話し始めるまで、人間観察。
薄いピンク色のショートカットの髪に、同じ色の瞳。
そして何より整った顔つき。
でも、どこかで見たことあるような・・・ないような。
「私は、イサに雇われて以前からこの国に潜入しているの」
急にその美形さんは話を始める。
どうやらこの人はスパイか何かそういう類だと。
「格好いいですね!!」
「はぃ?あ・・・ありがとうございます」
ついつい口にしてしまった賞賛の言葉に、美形のスパイさんタジタジ。
「あ、そういえばお名前はなんていうんですか?」
「私?私はアニタ」
「アニタさん?ですか。いいお名前ですね!」
この国はじめじめしてるし嫌いだけど、アニタさんは闇の国に
長くいたとは思わせないほど明るく、純粋。
いくら同じ美形といっても、シェルなんかとは大違いだなー。
特に性格。主に性格が。
いきなり人を気絶させないし、攫わないし。
機関銃でむやみやたらに撃ってこないし、口悪くないし。
大好きだよー!アニタさん!
今あったばかりだけど、第一印象最高。
「どうやら部屋を間違えたようで・・・。イサの部屋は隣ね」
「多分そうだと思います」
「まあ、今日は遅い時間し・・・もう帰りますね」
「もう帰っちゃうんですか?」
残念そうな私の声が口から漏れる。
「本当はシェルに挨拶をして帰ろうと思ったんだけど、あの子また
夜遊びしてるのね・・・こんな時間まで」
突然関係のなさそうなシェルが話に出てきて、正直驚く。
「あの、シェルとはどういう関係で・・・」
「ん?あの子かイサが話しておいてくれたと思ったのに・・・。案外冷たいのね」
アニタさんは口角を上げて軽く笑うと、少し首を傾けた。
そして半分ほど口を開きかけたとき、部屋の扉が乱暴に開いた。
「シェルお帰り。遅かったね」
シェルが何だか眠そうな目で部屋に入ってくる。
こんな時間まで何をやっていたのかとか、聞きたいことはあるけど
それよりもアニタさんのこと説明しないとね。
そう思った刹那、シェルが私よりも早く口を開いた。
「あれ?お姉ちゃんなんで部屋にいるの?」
・・・お姉ちゃん?

19
「ほんっとうに似てない姉妹ですね」
私はアニタさんが入れてくれたこれまた美味しい紅茶を飲みながら、
2人を何度も見比べていた。
見た目は、似てなくも無いけど・・・
「性格がね・・・」
「何か言った?」
すぐに鋭いシェルの視線が突き刺さる。
「別に・・・」
ほら、ここでも性格の差が。
私たちのやり取りを聞きながら、これまた可愛らしくアニタさんは笑っている。
「さてと、今日はシェルにも会えたし帰るわね」
「ん。さっさと帰って」
「シェル、そんな言い方無いでしょ」
むしろ私はこのままいて欲しい。
「それと最後に1つ。あなたたち、絶対に光の国から来たことは
 黙っておくのよ?わかった?」
「あの、聞いてもいいですか?」
さっきユルにも言われた言葉。
何で素性を隠さなきゃいけないのか。
「何で隠さないといけないのか、ってことよね?
 はぁ・・・イサったら何にも話してあげてくれないのね」
わざとらしく大きくため息をついて、アニタさんは話し始めた。
「多分これは聞いてると思うんだけど、闇の国は光の国の住人から生まれたの。
 そして、闇は光を見つけるとそこを侵食しようとする」
「すいません、話難しいです」
できの悪い生徒、挙手。
「そうね・・・もう少し簡単に言うと・・・。
 闇の国の住人は、光の国の住人を見つけると体をのっとろうとしちゃうわけ♪」
なるほど!大変よくわかりましたとか言うよりも・・・
「それってかなり危険じゃないですか!?」
「言われてみればそうかも?でも、気づかれなければ大丈夫。多分」
今の、台詞を聞かなければその笑顔がとても爽やかです。アニタさん。
「やっぱ今日はもう眠いし、このままここで寝ちゃってもいいー?」
突拍子も無くアニタさんは言い始め、先ほどまで私が潜り込んでいたベッドに
大の字になって寝転んでいる。
「おやすみなさーい」
「んじゃ、あたしも寝るね。あー・・・眠」
「ちょ、ちょっと」
この部屋って、2人用なのね?
つまり、アニタさんが押しかけてきた以上、1人寝れない人が出てくるわけで。
「電気消してね」
シェルのその言葉を最後に、ぱったりと物音は消えて
その代わり2人分の寝息が聞こえ出してきた。
「はぁ・・・」
これが日本なら、夜明けでも待ってようかとか考えるんだけど、
ここでは朝日が昇らないんだもんね。
そっと立ち上がり、電気を消すと私は、部屋に設置されたソファの上で
(+首が痛くなることは覚悟の上で)体を丸めるようにしてもう一度眠りに落ちた。
外では、唯一この世界を照らし出す小さな小さな月だけが
優しくこの世界を照らしていた。

20
「何やってるんだ」
翌日、私たちの部屋にやってきた男性陣は部屋の中を見るなりそう呟いた。
ついでに一番はじめの台詞はユルのもの。
「何やってるって言われても。私は何も?強いて言えばあの姉妹が暴走しているだけ?」
後ろを振り返れば、何だかよくわからないものが行ったり来たり宙を舞っている。
「朝うるさいから目が醒めて・・・気がついたら喧嘩してた」
「どうしようもないね・・・あの姉妹は」
多分どっちの知り合いでもあるイサは無駄にため息をつくと、軽く目を閉じる。
「ねぇ、シェルと喧嘩してる人って誰?ボク見たこと無いんだけど」
「あの人はアニタさんって言って、シェルのお姉さんなんだって」
ふぅん、とエリアスが可愛く納得。
「お姉ちゃんの馬鹿!あれほど言ったでしょ!」
「寝てる間のことなんて何にも知らないわよ!」
寝てる間に何があったんですか。
「はいはい2人とも。そんなくだらない喧嘩に付き合ってる暇ないんだからさ」
間に割って入るようにイサがなだめる。
反論がないところを見ると、くだらない喧嘩だと自覚はあるらしい。
「今日にもお城へ乗り込まなきゃいけないんだからね」
「やっぱり行かなきゃ駄目なのかー・・・」
落胆する私を横目に、朝から暴走していた姉妹喧嘩は終了を迎えていた。
勝手に終わらないでくれるかな。
私は本日何度目かになるため息をつくと、2人は無視してイサに向き直る。
「で、行くんでしょう?すぐにでも」
「よくわかってるね」
そりゃあ、今までこれだけの扱いを受けてきたら。
先読みする能力でもアップするって。
無駄な能力ばっかり付いちゃうよ本当に。
「じゃあ早く支度してね。下で待ってるから。・・・それと、そっちの2人も
何とかしておいてくれると助かるんだけど」
イサの視線を辿ると、せっかく終末を迎えていた姉妹喧嘩、再び勃発中。
「由梨亜ちゃん頑張ってねー」
エリアスは微妙に顔を引きつらせつつ、一足先に部屋を出る。
ユルもかわいそうな人を見るような目つきで私を見たあとに
イサと一緒に部屋を出て行ってしまった。
「じゃあ30分後に下でね」
取り残される私と馬鹿姉妹。
朝っぱらから私は1日分のエネルギーを消費しそうな勢いだ。
「2人とも・・・」

21
「朝からお疲れ様だったね」
「ううん・・・そんなことないよ。ね?2人とも」
「「はぃ・・・」」
先ほど部屋であった乱闘騒ぎは・・・ここには詳しく書かないことにするね。
何があったかは、この2人の態度で察してもらうとして。
「出発、でしょ?」
強張った顔でうなずくと、イサは踵を返す。
「急がないと・・・あの人のところへ」
「イサ、何か言った?」
「ううん何も。それより急ごう。武器とかはすぐ出せるようにしておいてね」
ちなみに私の今の格好は、この世界に来た時と同じ制服姿。
その腰部分に刀を差している様子は、なんともコメントしがたい。
他のみんなは、民族的って言うのかな?まるっきしRPGに出てくる登場人物な服装。
少なくとも制服と刀の組み合わせよりは数段マシ。
あ、もう説明する場所がないと思うから言っておくけど
アニタさんも私たちに同行してくれることになりましたー!
女の子があの性格悪くなってきたシェルしかいないから、すっごい助かる。
「一応今日中の到着を目安に歩こうか」
「到着って、まさかもう闇の国の中心部へ行くつもり?」
私の質問には答えず、笑顔で答える。
あぁ、そうですか。
突入しちゃうんですか!?
「多分歩いて3、4時間くらいかな?」
いつも思うんだけど、3,4時間の間には1時間という大きな時間の狭間が
あると思わない?1時間は大きいよ?
しかも4時間とか歩けないから!
「1時間の差は大きいとか思うかもしれないけど、歩いてね」
そのどす黒い笑みに何も言い返せず、私はただうなずいた。
「言っておくけど、冗談じゃなくて本当にこれから気をつけて」
さっきまでの明るい言葉とは打って変わって、重みのある言葉が
これから先を表しているようだったと今の私は思う。

22
「この道でいいの?」
不安になって確かめる言葉を何度も何度も繰り返し口にする。
「あってるよ。その証拠に闇も濃くなってきてるでしょ?」
案内人のイサがそう言うのだから、信じるしかない。
また口をつぐんで、黙々と歩き出す。
不意に、前方を歩いていたイサが立ち止まって、振り返る。
おかげで鼻から顔面を突っ込んでしまうはめに。
「アニタ、今この国の地図って持ってる?」
「持ってるわよ。でも、何で使うの?道は覚えているんでしょ」
「まぁ、そうなんだけど」
言葉を濁すと、アニタさんから受け取った地図を広げる。
イサは私たちを地図の周りに集めると、妙に堅苦しいしゃべり方で話し始めた。
「今僕たちがいるのは、ここ。マゼンタ広場。で、闇の国の城は国の中心、つまりここ」
イサが次々と指差す場所を目で追っていく。
「直線距離ではあと3キロもない。だけどね、こっちを見て」
かばんからごそごそと半透明の紙を取り出すと、地図に重ねる。
すると、城を囲むように半径2.5キロほどの円形に近い図形が道に沿うようにできる。
よく見てみると、それらはすべて赤い点で、いくつも連なって
ひとつの図形を作っていた。
「この赤く見えるところに、闇の国王は兵を配置している」
「まさか、ここを正面突破・・・」
「というわけにもいかないだろ?」
ほっとする反面、じゃあどうするの?といった疑問が浮上。
「なるほどな」
今までいたのかどうかも怪しいくらいに口を開かなかったユルが、重い口を開いた。
「ここ・・・ビリシャンの森」
「そう、その森は色々と不気味な噂があって少しだけ警備が手薄になっている。
 そこを突っ切れさえすれば、城に突入するのも難しくない」
地図上で、私たちがいると言うマゼンタ広場とビリシャンの森はほとんど離れていない。
歩いて・・・大目に見積もって15分くらい。
「その噂を流した張本人はボクなんだけどねー」
無邪気に笑うエリアスは、私を見つめて更ににこやかに。
思わずつられて笑っちゃうけど、エリアスもこの国に来たことあるんだ、という驚きと
警備が薄くなるほどの噂って、何だろうという好奇心が胸を覆っていた。
「夕暮れまでには城に入りたいし、急ごう」
広げた地図を急いでたたみ、乱雑にかばんに押し込める。
ふと、首筋に感じる視線・・・・・・・・
「どうかしたの?由梨亜」
シェルが私の異変に気がついて、声をかけてくれる。
「ううん・・・何でもない」
気のせいだよね、と口の中でつぶやいて私はみんなの背中を追いかけた。
私たちの立ち去ったあとに、黒い影が現れたのにも気がつかないで・・・。
23
ビリシャンの森には、10分とかからず到着してしまった。
木陰から警備の状況をうかがう。
「森には兵が6人。交代の時間はもうすぐらしいから、交代したらすぐに突っ込もう」
武器となる日本刀を握り締める私の手は、強く握りすぎて白くなっている。
それに震えも止まらない。
シェルと戦ったときは、正直命の危険なんて感じなかった。
でも今はどうだろう?命の危険がすぐそこにある。
「来たわよ、交代の兵」
様子を伺っていたアニタさんとシェルが合図を送ってきた。
「何か異常はあったか?」「いえ、特に何も」
簡単なやりとりのあと、さきほどまで警備をしていた兵は立ち代って
森から一目散に抜け出していった。
「これならすぐには戻ってこない。行くよ」
イサの掛け声とともに、走り出す。
私とシェルは右側の兵たちに。
ユルとエリアスは中央の兵たちに。
イサとアニタさんは左側の兵たちに。
汗で湿る手のひらを、鞘に押し付ける。
兵が私たちに気づいたのと同時に、抜刀。
一瞬の、出来事。
目の前にいた2人は目から火花を散らすと、膝の力が抜けたように崩れた。
「峰打ちとはいえ、痛いでしょ。かわいそー」
シェルが私の峰打ちによって倒れこんでしまった兵を見て、可哀想なんて
これっぽちも思ってない顔で言うのだった。
「シェルもミニミで頭殴ったんでしょ?そっちのほうが致命的になるよ」
「死なないよう手加減はしてある」
突入する前、イサは私たちに言った。
「犠牲者は出さない。誰かを殺すことは、絶対ないように」
1人を殺せば、殺人者。多くを殺せば、英雄となる。
そんな戦争の時代を送ってきた、この世界の住人からの警告ともとれる言葉だった。
「由梨亜ちゃんたちは終わったぁ?」
妙に緊張感のない、この甲高い声でエリアスが確認を求めてくる。
「終わった。イサとアニタさんのほうは終わったかな?」
「ちゃんと終わらせたわよ」
乱れた髪をかき上げながら、セクシーにアニタさん登場。
「でも、イサが1人は気絶させるなっていうから悩んじゃったわよ」
イサがあの黒い笑みを携えて、ついでに兵の1人も携えてやってくる。
「色々と配置とかも教えてもらおうと思ってね。ついでに口止め?」
総勢6名に取り囲まれて、すっかり戦意喪失の兵士さんは
顔を真っ青にしながらも、私たちの(実質イサの)質問に着実に答えていった。
「よし、これで大体大丈夫」
「もういいの?じゃあ、ちゃんと口止めしてもらおっか」
だから、その無邪気な笑顔で怖いことは言わないでって。エリアス。
「あのね、ボクたちがここに来たことは内緒だよ?言ってもいいけど・・・」
「エリアス、そのくらいにしておけ」
ユル、正直言ってフォローにも何にもなってないし。
余計怖いから。介入しないで。何もしなくても怖いんだから。
「あの、お仲間を怪我させてしまってすいませんでした。でも、本当に
 私たちのことは黙っておいてくれませんか?」
仕方なく、座り込んでしまった兵士さんに私は問いかける。
少しばかり首をかしげると、何故か真っ青だった顔が今度は赤くなっている。
忙しい人だなー・・・。
「由梨亜、先行っちゃうよー?」
シェルが2,3歩進んだところで私を振り返っていた。
「由梨亜も黙ってれば美人だよね・・・」
「ん?何か言った?」
「別に?」
何かニヤニヤした顔でこっちを見ているのは気になったけど、急がないといけないし、
気にすることも考えることもやめた。
「えっと、それじゃあよろしくお願いしますね」
何がお願いしますだ。自分で言いながら思った。
一応私たち敵だし、兵士さんも黙っていてくれはしないだろうなー・・・。
「だ、大丈夫です!絶対言いません!」
やっぱりエリアスの脅し(?)が効いてるのか、兵士さんは断言してくれた。
「ありがとうございます。それじゃ、行かないといけないので」
私は親切な兵士さんにお礼を述べてから、みんなの後姿を追う。
「ちょっと、待ってよみんな」
忘れてるかもしれないけど、(作者忘れてるし)私、勇者様だよ?
そんな勇者様を置いてくってどうよ。
この世界を救うんだよ?
多分ね。
24
「案外あっさりと来ちゃったね」
「まあね。さっき越えてきた警備網さえ通っちゃえば人はいないし」
最近って言っても、会ってからまだ1日くらいしか経ってないけど。
イサの様子がおかしい。
何だか、隠し事をしているような。どこか、よそよそしいような。
「ここが、城門か?」
数m先を行っていたユルとエリアスが、見上げるほどの城門を前に立ち止まっていた。
確かに、城門かと問いたくなるような、
光の国の城門とは全く違ったつくりになっている。
城門、と言うよりも刑務所の高い塀のように威圧感がある。
「でも鍵とかかかってるだろうし、どうやって入るわけ?」
待ってましたとばかりに今度はアニタさんが地図を広げる。
先ほど見たものよりも詳しい、城の見取り図。
「城壁はずっと続いていて、入るには城門しかないんだけど、裏口があるの」
「裏口って、普段は何に使うの?」
「普段はあまり使わないというか、年に2、3度くらいかしら?使うのは」
年に2、3回しか使わないのに、わざわざ裏口を造るなんて、それなりの理由があるのかな?
「城内で行われる裁判で、死刑が確定された人は裏口から出て、そのまま執行所へ
 連れて行かれるの」
「し、死刑っ!?」
「うん、そう。あ、もしかして由梨亜のいた国ではそういう制度はないのかしら?」
「いえ、制度としてはありますけど、そんな身近には・・・」
身近には感じないよね?・・・それが普通だよね?
「とにかく、そこなら人もあまり寄り付かないだろうし。というか、そこしかないわ」
死刑になった人が通る裏口・・・知ってしまうと一気に行きたくなくなる。
「いいでしょ、イサ?」
アニタさんが承知されるとわかりながらも、イサに確認をとる。
「イサ、聞いてるのか?」
アニタさんの呼びかけに答えなかったので、ユルがしびれを切らして
代わりにもう1度言った。
イサ、どうしたんだろう?
闇の国に入ってから本当に様子がおかしい。
いつも考え事をしているようだし、前より笑わなくなった。
「あぁ、ゴメン。少し考え事があって」
イサはやっと気づいたようで、少しだけはにかむように笑った。
「まあいいわ。それより早く行きましょう?」

後編へ。

小説について。 

December 20 [Sat], 2008, 16:48
初めに言っておきます。

AKATSUKUIのまとめつくりました。

まとめって書いてある記事です。

というか、区切ると50話近くなって、年内のお引越しができなさそうなので

この形を取ります。

できれば前編、後編で行きたいですが無理な場合中編入ります。

読んでくれてる(主にリア友)人への感謝を込めて。


管理人 明日香
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    ・マンガ-D灰大好きw神田への愛溢r((
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