登場人物 

2005年12月01日(木) 15時26分
神谷春奈(かみや・はるな)
 このお話のヒロイン
 上手く自分を伝える事が出来ず悩む

須藤啓太(すどう・けいた)
 啓太の全ては優しさで出来ている

川村友華(かわむら・ともか)
 啓太の彼女

江田睦美(えだ・むつみ)
 春奈の友達。相談相手

市川崇(いちかわ・たかし)
 4人の通う高校の社会科の教師

1.私の位置 

2005年12月04日(日) 21時47分
学校での強制的な夏期講習の後、私は友達を巻き添えにして進路指導室である人を待っていた。一方的に。
ガラッ
 「あれ?神谷、帰ったんじゃなかったの?」
 そう言いながら指導室に入ってきたのは隣のクラスの啓太だった。
 「啓太こそ。まだ部活に顔出してるの?受験生なのに余裕だねぇ・・・」
 啓太は、片方の腕にバックを持ち、もう片方にはテニスのラケットを抱えていた。私達は大学受験を控えた高校3年生。夏休みを前に部活はみんな引退したはずだった。
 「息抜きだよ。息抜き」
 重そうな荷物を床に置きながら微笑む彼。
 「神谷一人でココに居たの?」
 「啓太〜?」
 本に埋め尽くされた棚の間から、分厚いファイルを抱えながら出て来たのは巻き添えの被害者の睦美だった。
 「お、江田も一緒だったんだ」
 啓太は、言いながらわざと椅子に崩れ落ち、目の前に座る私の大学案内を手に取り
「神谷と志望校やっぱり違うんだな〜」
 そう何気なく言った。
 ズキッ
 やっぱり噂は本当だったんだ。怖くて本人に聞けずにいた卒業後の進路。
 「私と睦美は同じとこだけどね」
 「そうか〜。俺県外だしな。やっぱり女の子は地元がいいよ」
 彼がうんうんと頷きながら話している。睦美も何か彼と話している。
でも、私の頭の中にあったのは『卒業したら逢えなくなる』
それだけだった。
私の位置は啓太の隣じゃない。彼女でもない。ただ好きなだけ。そう、それだけ。

2.啓太の彼女 

2005年12月22日(木) 17時23分
啓太を好きだと気付いた時、その隣には髪の長い可愛らしい彼女が居た。
 二人はいつも一緒。
 名前は川村友華。誰もが守ってあげなければと思ってしまいそうな華奢な感じ。彼女は体が弱いらしく、学校は休みがちだった。
 毎日取られる彼女の分のノート。もちろん啓太が書いている。持っていくのも啓太。
 私は学校に来ないと、姿を見ることも出来ないのに、『彼女』というだけで逢いに来てもらえる。
 そんなのずるい。ずるいずるいずるい。
でも、きっとそれだけ川村さんのことが好きなんだね。
私の入る隙間はなさそうだ。

3.二人の想い−1 

2006年01月05日(木) 0時22分
卒業まであと少しに迫った2月のある日、私は意を決して啓太を呼び出した。
『話したいことがあります。学校の前の公園まで来て』
突然の私からのメールはあっさりと啓太の了承を得る事が出来た。
『30分だけ待って。必ず行くから』
すでに公園のベンチに着いていた私は、彼が来るまでの間人も疎らな公園を眺めていた。今日は日差しもあり暖かいとはいえ、まだ寒い冬。こんな所に一人で居るのは私ぐらいなもんだろう。
「ごめん。待った?はいこれ」
そう言いながら啓太が差し出したのは暖かい紅茶の缶。
「ありがと。・・・あったかい」
蓋も開けずにぎゅっと握り締めた紅茶は、指先からじんわりと私を暖めてくれる。

「で、話したいことって何? 何かあった?」
自分の紅茶を一口啜って、啓太が切り出した。
呼び出したものの、言ってしまって良いのだろうか。来てもらった以上話さないわけにはいかない。
足元の地面とにらめっこをしながらやっと話し始めた。
「あの・・・ね・・・。私、ずっと啓太に伝えたい事があったの。聞いてくれるだけで良いから」
そこまで言って彼の方を見る。
「うん」
彼もこっちを見ていた。真剣な表情。
「でも、聞いたら忘れてね」
ちょっとおどけて慌てて予防線を張る。
「なんだよそれ。内容によるなぁ〜」
啓太の硬い表情もちょっと崩れて笑みがこぼれる。
横に並んで座っていたけれど、やっぱり正面を向いて伝えたい。そう思って彼の前に立ち上がった。
「啓太。私、ずっと啓太のことが好きだった。彼女が居る事もちろん知ってる。邪魔しようなんて思ってないから。ただ、春になって逢えなくなる前にどうしても言っておきたくて。返事はもちろんいらない。解ってるから・・・」
そこまで一気に早口で言ってしまった。目の前の啓太はじっと動かない。きっと驚いてるんだろうな。玉砕覚悟の告白。お願い何か言ってよ啓太。

3.二人の想いー2 

2006年01月05日(木) 0時26分
ほんのちょっとの沈黙だったのかもしれない。1時間にも2時間にも感じられた沈黙の後、啓太が口を開いた。
「…ごめん。あいつを今一人にするわけにはいかないんだ」
予想通りの返事だった。もしかしたら私の方を向いてくれるかもしれない。そんな淡い期待も見事に散ったはずだった。
「でも、俺は神谷のこと好きだよ」
耳を疑った。
「え?……冗談でしょ…だって…」
啓太が私を?何で?彼女がいるじゃない。
驚いて彼に聞きたい言葉が頭の中でぐるぐるするだけで、外に出てこない。
「自分勝手な事だって判ってる。でも、神谷からメールが来た時今日言わなきゃって思ったんだ。神谷の言うように会えなくなる前に」
もう理解不能。どうすれば良いのか解らない。
じっと彼を見つめる。彼も私を見つめる。
「神谷のこと好きだけど、川村を捨てることは出来ない。もし別れたとしてもすぐに神谷のところには行けない。二人とも大切なんだ」
きっと彼の言葉は嘘じゃない。嘘じゃないけど今の私にはつらい言葉だった。
「…そう…振られるのは解ってた。でも、好きだなんてどうして今言うの!今日告白して振られて思い出にしようと思ってたのに!そんなこと言うから…出来なくなるじゃない…」
「ごめん。でも、どうしても言っておきたかったんだ」
そしてまた二人を沈黙が包んだ。
何か言わなくてはと思うほど言葉は見つからなくて、初めに貰った紅茶はもうすっかり冷え切っていた。

「よし!この話は終わりにしよう!」
沈黙の中私が見つけた答えは『現状維持』。大切な友達のままでいよう。
「さっき言ったでしょ?忘れてねって。私も忘れるから啓太も…ね…。今まで通り友達でいられるよね?メールしてもいいでしょ?」
いきなり明るく話し出した私に啓太は驚いたようだったけれど
「あぁ。そうだな」
短く答えて微笑んでくれた。
それで十分だと思うことにしよう。

「なんかあったら相談に乗るから。俺よりいい奴見つけろよ!」
公園を出て帰り道、そう彼が手を振りながら言った。
何か返そうかと思ったけれど、言葉が見つからなくて小さく手を振るだけで私は彼に背を向け歩き始めた。

4.知らない所で二人は 

2006年03月09日(木) 15時29分
「ねぇ啓ちゃん?友華のお願い聞いてくれる?」
また友華の「お願い」が始まった。どうせ「嫌だ」と言ったところで大人しく黙るはずが無いので「あぁ」とだけ返事をする。
「あのね。今度の日曜は――――」
今日は調子が良いのか饒舌な友華の横で、俺の頭の中では神谷の言葉が響いていた。
『忘れてね。私も忘れるから』
そう言われて、思わず同意してしまったけれど本当にこれで良かったのだろうか。友華は俺にとって本当に大切なたった一人の相手なんだろうか…。
「啓ちゃん?聞いてる?」
隣に座る友華が俺の服を引っ張って、上目遣いで見つめていた。
「ごめん。やっぱり今日は帰る」
ぎゅっ
友華の手に力が入るのが解る。一人にされるのを嫌うのを俺は知っている。
「なんで?・・・この前、急に出掛けてから啓ちゃん変だよ。何か隠し事してるんでしょ。言ってよ」
真剣な友華の表情に俺は覚悟を決めた。
「このままずっと友華と付き合っていけない。終わりにしたいんだ」
「なんで?………友華の事嫌いになったの?…まさか……誰か…他に好きな人…できたの?」
友華の大きな瞳に涙がじわじわと浮かぶ。そして、それはやがて頬を伝いだした。零れだした涙は俺の服を掴んで放さない友華の手の甲へと落ちた。
「ごめん」
そうとしか言えなかった。
下を向いたまま静かに泣く友華の手をそっと握って服から放した。握った手が震えていた。
「……ごめんなんて言わないでよ」
パシッ
乱暴に友華が俺の手を払いのける。そして、今までに見たことが無いような怒りの視線で俺を見つめた。
「出てってよ!!帰るんでしょ!早く!」
そう言いながら、ぐいぐいとドアの方へ押しやられた。
バタン!
勢い良く俺の目の前で友華の部屋のドアが閉まった。
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