薄桜鬼 碧血録 第二十二話「夢幻の薄桜」

August 04 [Thu], 2011, 14:08
蝦夷地の雪解けを待って、新政府軍が攻め込んでくる。それを迎え撃つことになった旧幕府軍。部下たちに「命だけは無駄にするな」と げる土方は、かれが指揮をとった今回の戦が順調に進んでいることもあるかもしれないが、非常に穏やかで優しい。
二手に分かれていた大鳥の舞台が突破されたことによって退却を余儀なくされたあとも、苛立ちや不満を表に出すようなことはしない。副長であったときならまだしも、部隊の指揮官が感情に任せた行動をとるのは士気に関わる。ここまで共に戦ってきた仲間に対して、責めるつもりもないだろう。再会した途端に詫びる大鳥を宥めて元気づけ、 更には「弁天台場を頼む」と自ら手を差出した。初対面の大鳥が差出した握手を、不審がって無視した土方が、握手を求めた。土方が時代の流れに非常に柔軟であること、大鳥を信頼するに足る、任せるに足る人物と認めたことがありありと描かれている。
会うなり「土方局長!」と駆け寄ってくる島田の相変わらずの忠誠っぷりも見事。今となっては一番古くから、近くで土方を見てきた男となった島田は、新しい仲間たちと談笑する土方を感慨深そうに見つめている。「かつての鬼の副長があんなにみんなに慕われて」と言うかれの声に、嫉妬も皮肉もないところがいい。
しかしあまりに穏やかな土方の様子に不安も募る。発作を起こして、「ガタがきてる」と笑う様子などは、単に丸くなった・穏やかになったというのとは違う。いやに儚い笑顔は、色々なことをすでに諦めているようにも見えてしまう。終わりを悟ったものの笑顔のようだ。

蝦夷地に向かう新政府軍の船に、風間は同乗する。いきなり現れて、乗せろ、というだけだ。そんなかれの性格も、拒んで敵に回したときの強さも知っている薩摩藩は、二つ返事で了承した。
このとき乗せた「クロダ」はK田清隆だろう。別に名前を呼ばなくても薩摩訛りの男を出しておけば良いシーンなのにこの細かさ…!

最後の夜。仕掛けてくるなら明日だろう、と土方は確信している。こういうかれの勘は決して外れない。明日にはこの辺りが戦場になる。 そうなれば自分はおろか、千鶴もどうなるか分からない。それが分かっているからこそ土方はどうしても躊躇ってしまう。「本当にお前」 と、おそらく何度も繰り返したやり取りをはじめようとしたかれの言葉を千鶴が掻き消した。傍にいます、と言う彼女に、土方が折れた。そもそも千鶴が蝦夷地に来たとき、彼女の「江戸の女」の強さに一度大きく譲歩している。あそこが最後の分岐点だったはずだ。そこで彼女を帰せなかったのが土方の愛情であり、弱さでもあった。傍にいたいと主張する千鶴の気持ちに押し負けたのは、そのことをかれ自身が望んでいたからだ。
それでもここへ来てもう一度千鶴の今後を考えてしまうのは、彼女だけでも死なせたくないという土方の愛情だ。そして多分、千鶴の答を半ば分かった上で何度も彼女の心を聞きたがる弱さだ。
最後まで決して迷わなかった千鶴に、土方は本音を明かす。千鶴の存在が、死んでもいいと思っていた土方に、「生きたいと思う理由」を 与えたと。

戦いの朝。銃弾に撃たれて落馬した土方を必死に運んで止血する千鶴は、一度五稜郭へ退く事を提案する。いくら羅刹で常人の回復力の比ではないとしても、千鶴の血を与えられたとしても、前線に出て戦えるような状況ではない。
彼女に肩を借りて五稜郭までたどりついた土方は、大きな桜の木の前で立ち止まる。桜を前に思い出話をする二人の前に、風間が「全ての決着をつけに」現れる。どう見ても土方が大怪我をしていることは明らかだし、そんな状況のかれと戦うことは卑怯だ。たとえ勝ったとしても、本来の実力ではないと感じられる。
けれどそんなことは、風間だって分かっているはずなのだ。なのにかれは今ここで、決着をつけようと決めている。そして一人で歩くこともままならなかった土方は、風間の胸のうちにある覚悟を見透かした。鬼であることに大きな誇りを抱いていたかれが、それすらも投げ打って挑んでくるのだと分かったから、戦いを受ける。桜の下で喋る土方が、一瞬過去の、羽織を羽織った長髪の土方に重なる。

桜の下での戦闘シーンは、一部バッター振りかぶって打ったー!状態にも見えたけれど、おおむね迫力があって、美しくてよかった。銀色の髪で赤い瞳をした鬼が、この上なくきれいなシチュエーションで命をかけて戦う、というのが醍醐味。
どこまでも羅刹を自分達純血の鬼の下に見ている風間は、しかし土方のつよさに心を変える。剣の腕のつよさと、心のつよさ。羅刹という紛い物の名は、土方の生き様にふさわしくない、もはや一人の鬼だ、とかれは言う。土方にしてみれば、本人が言っていたとおり「鬼として認められるために戦ってきたわけじゃない」ので、風間に鬼と認め られようが紛い物と罵られようがたいした問題ではないだろう。けれどこれが風間にとってこの上ない賛辞であること、は分かる。鬼であることを至上としていた男が、鬼でないものを鬼だと認めたのだ。
そして風間は土方に「薄桜鬼」という名をつける。あとあと考えてみると、鬼としての名と言ったって、風間も不知火も天霧も普通に姓名を持っているじゃないか、という気もするんだけれど、そういう有無を言わせない力がこのシーンにはある。風間はこのシーンのために存在しているのだ、とすら思う。
そして最後の一太刀。土方の刀は風間の胸を貫き、決着がつく。

かつて土方は「紛い物も貫けばまことになる。俺がお前を倒せば本物になれるってことだろ」と風間に言った。まさにかれは今風間を倒し、かれから本物の鬼だと言われた。そこまで分かっていて風間は土方を「一人の鬼」だと認めたのだろうか。自分が負けると分かって?それとも勝つ意味がないと分かって?
風間が何を考えていたのかは分からない。これ以上深入りすれば鬼のコミュニティから排除されてしまうというようなことを天霧は言っていた。それを分かった上で風間は土方との決着をつける道を選んだ。 選んだ以上は、なにも「今」でなくても良かったはずだ。けれどかれは、このときしかない、と思いつめていたようにみえる。
土方の寿命が終わりに近いことに気づいていたのか(実際に終わりに近いかどうかはさておき、本人は大分ガタがきていると自覚していたようだし)とも思ったけれど、あくまで推測のひとつの域を出ない。
最後に土方の刀を受けたときも少し嬉しそうに笑っていた風間は何を思っていたのか分からない。けれど、かれの戦いは千鶴への愛情や鬼の頭領としての人間への復讐のようなものに影響されない、純然たる戦いへの欲求であったように見える。誰かのための戦いではなく、自分のための戦い。それがいい。

そしてエンデイングは、これまでの仲間たちとの別れのダイジェストで始まる。しかしこれ、千鶴に向けている言葉のところもあれば土方に向けての言葉のところもあって、いまひとつどういう視点で選んだのか分かりづらい台詞もあった。けれど一期で死んだ山崎・井上が出てきたのには興奮した。山崎さんの手足の台詞すごいすき。
そして回想は出会いのシーンへ戻る。千鶴が事情を話した直後に近藤が言った、「はるばる江戸から大変だったなあ」というシーンが切ない。江戸からひとり京都までやってきた少女は、新選組について仙台 まで流れ、好きな男を追って蝦夷地までやってきた。優しい言葉や意地悪な言葉で迎え入れてくれた仲間は誰もいない。
こんなに遠くまで来てしまった。
青空に誠の旗が浮かび、だんだら羽織をまとった隊士たちの背中がひとり、またひとりと増えてゆく。自分の膝で目を閉じている土方に、「見えますか」と千鶴は呼びかける。彼女の目に浮かんだ涙を拭う手は現実のものか、それとも幻か。彼女の名前を呼ぶ声は現実のものか 、それとも。

土方が生き残ったとも、死んでしまったともつかないラストだった。史実では五稜郭の戦いで亡くなっているので、それをこういうかたちで踏襲したとも考えられるし、休んでいるだけとも考えられる。
薫や綱道が、故郷の清水の話を一切出してこなかったので、最後はどうなるのかと思っていたのだけれど、こういう終わり方になった。寿命を急激な速度で消費することで強さを得る羅刹という設定と、乙女ゲームのハッピーエンドを擦り合わせるためには、羅刹の効果を薄める清水というある種反則技のような設定が必要だった。原田と風間を除いたキャラは羅刹になるので、戦いを終えても寿命がろくに残っていない・使いきったではハッピーエンドにはならない。薄桜鬼が多くのひとにとって後味の良い、乙女ゲームであるためには必要なことだった。そんなばかなと思いつつも、かれらが生き残って主人公と幸せに暮らすエピローグに一安心したのも事実だ。
けれどアニメはその技を使わなかった。過剰なまでに歴史の要素を詰め込んで、武士の生き様や在り方を描いたアニメらしい終わりだった。個人的にはこっちの方が好きだけれど、それは「原作」であるゲームがそうじゃない終わりを迎えたから言えることなのだろう。斎藤の離隊と同じく、この道もある、というのがいい。

原作を理解して丁寧に誠実につくられたいいアニメだった。色々なアニメがある中で、薄桜鬼のアニメがこのチームでこういう風に作られて幸せだなあ。
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