tenkou 

2005年09月15日(木) 21時48分

ケンの斜め後ろを付いていくユキヒロは煙を肺の奥まで沈めて空を見上げた。
太陽は薄雲に隠れながらも
確実に、冷えきったアスファルトを暖めていった。
初秋とはいえ、早朝の室外は独特の肌寒さを感じる。
ケンはユキヒロの胸から吐かれた紫煙が
空高く上っていくのを見た。

「…実は俺、遅刻魔なんやで」

ユキヒロの顔が自分に向いているのを見てから、ケンは続けた。

「今日会えたんは運命かもな」

まじめな顔になってしまわないように
思い切り笑顔を作って見せた。

「だといいね」

ユキヒロはまた口だけ緩ませて笑う。
ぎこちない笑顔。
喋り続けていないと壊れてしまう気がして
ケンは続けた。

「…にしても、なんでこんな朝早くに出て来たんや?転校生は遅れて来るもんやし」

ケンは左肩にかけていた鞄を右肩にかけなおした
左後側にいるユキヒロと少しでも距離が埋まれば…
そんなケンの気持ちを知ってか知らずか
ユキヒロはケンの背中に一歩分近付いて笑った

「迷うと思って」

ユキヒロは振り返ったケンの顔を見た。

「親は」
「知らない」

知らないの意味が分からなくて
何よりユキヒロの顔が曇っていくのを見て
ケンは視線を前に戻した

「一人暮らしなん…」
「ううん、違う」

ケンの表情が固くなっていくのを見てユキヒロはわざと明るい顔をした
…今まで人の機嫌なんて気にしてなかったのにな…
ふとそんなことを思って
微笑を含ませた目を地面に向けた。

「一応一緒に住んでるやつはいるけど」
「?」
「あ…ルームシェアみたいな感じで」
「そか」

ケンはユキヒロの顔が元に戻ったのを見て小さくため息をついた。

「俺は一人暮らしやからなぁちょっと羨ましいわ」

ケンの苦笑を笑顔で返したユキヒロは
自分も似たようなもんだから
と付け加えた。
ケンは不思議そうな顔を瞬間的に見せたが
ユキヒロの笑顔を見て口をつむった。

通りを挟んだ向こう側に校門を見つけた

「あ…着いた?」
「きっとだーれもおらんで」


ケンは腕の時計をちら、と見て
思っていた以上に早く着いてしまったことに気付いた
寒いわけだ…
文字盤の針が6時半を告げた所だった

転校生 

2005年09月05日(月) 23時01分
「『今度転校してきた男の子』ってあんたの事か…」
「そうらしいね、期待はずれだろ?」

ユキヒロはふふふ、と俯いて笑い
ポケットに突っ込んでいた手を出して煙草の灰を払った。

「いや、そんな事…」

手慣れたその手つきを隣で眺めながら
ケンは出会ってまだ数分のユキヒロを
詮索したい気分でいっぱいになった胸を押し込める。

何かを訊いてはいけない気がした。

そんな雰囲気が背中に伝わってきて
ケンはまだ長い煙草を落ち着かない指で道端に捨てた。

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2005年09月04日(日) 23時27分
「ふーんユキヒロっていうんや」
「何?ありきたりだろ」
「"ユキ"ってなんや可愛いな思って」
「…そんなこと言われたの初めてだ」

ユキヒロは可愛いと言われてうれしいとは思わなかった。
さっき出会った細身の男
後ろを通った時、ほのかに煙草の匂いがした。
そのとき
それだけで自分と同類だと思ってしまった自身の思考回路を
ユキヒロは閉ざす事に専念した。

「あのさ…」
「ケン」
「なに」
「俺の名前」

と前を行くケンが振り返る
さっきからずっと笑顔を崩さない

「…覚えとく」
「ありがと、で何?」
「煙草…」
「ああ、悪い、気になった?」
「ううん…一本欲しいなって思って」

ケンはきょとんと一瞬顔固まらせた後
箱をとん、と叩いて煙草を一本取り出した。
ユキヒロは煙草とライターを受け取って慣れた手つきで火をつけた。

「いつも吸ってんの?」
「うん、学校では吸わないけど。家で」

前の学校厳しかったから
とユキヒロが付け加えたのを聞いて
やっぱり、とケンはユキヒロが転校生であることを確信した。

ネタ帳になるのね 

2005年08月25日(木) 23時04分
「あつっ」
「夏だから」
「こんなん死ぬわー」
「死ねよ」

憎まれ口ばかり返したが
ユキヒロも人間だ
暑いものは暑い
ケンがさっきから暑いしか言っていないから
いい加減いやになる



「エアコン壊れた?!」

ケンの素っ頓狂な声が部屋にこだました
分かりきっていた反応だが
もう数人目であったせいか、ケンだからだろうか
ユキヒロはきつく眉を寄せた

「なくても生きていけるだろ?」


ユキヒロの意地っ張りから今に至る
ケンは汗をだらだら流しながら
フローリングの冷えた所を移動し続けている
ユキヒロは平気なふりをしながらも
やっぱり暑いようで
カラカラと耳障りな音をたてながら回る扇風機の前で座り込んだ
じめじめとした空気が部屋をどんより曇らせている

「だー!暑い!」
「じゃあ家帰れよ…」
「嫌や」
「何で」
「今日はユッキーと一緒に過ごすって決めたんやもん」

ユキヒロはもう一度ため息をついた
バカだ
まず頭で思って
それから恥ずかしくなって
顔をタオルで隠した

「そうや!水風呂入ろ!」
「はぁ?」

ケンはユキヒロの頭のタオルを取り上げた

「水風呂とか懐かしいなー」
「何で俺まで…」
「暑ないん?」
「それとこれとは話が別…」

取り上げたタオルを振り回しながらケンはユキヒロの腕を引く
もちろんユキヒロは抵抗して腕を引き戻すのだが
ケンにはそんなこと関係ない

「おい…一人で入れよ…」
「何で」
「その間にエアコン買ってくるから」
「嫌や」

ずるずるといつの間にか脱衣室前へと来ていた
会話が途切れることはなく
一方的にケンが話を進めた

「…ケンちゃんのばか」
「自分の決めた事に忠実なだけや」
「は?」

繋いだ手(というよりケンが強引に掴んだ手)がだらりとおりた

「言うたやろ、ユッキーと一瞬に過ごすって」

ユキヒロの表情筋がかすかに緩んだ
頭の片隅で「今日エアコンを買い換えるのは無理だろうな」と思いながら



「あのさぁケンちゃん」
「ん?」
「エアコン一緒に買いに行けば一緒過ごす事になるんじゃないの?」
「んーーー思い付かなんだ」
「…嘘下手」
「うるさい」
P R
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