「嘘吐きは真実の始まり」最終回
2008年12月24日(水) 15時00分
不意に彼女の視線が動いた。辿ると30メートルばかり離れた所にユキがぽつんと立っている。不安そうな色を浮かべてこちらを窺っていた。
微笑んで手招きをしてやる。表情を変えずに娘は駆け寄ってきた。
「ユキちゃん、どうして去年サンタさんに会ったことを黙っていたの?」
そっと抱き寄せるように頭に触れる。
「え、でも……」
とユキはサンタを気にする。
「だから本当にサンタさんだったんだよ。ちゃんと朝にはプレゼントを届けてくれたでしょう?」
「だって……」
「あ、そうか。ベランダから現れたから疑っているのね。それはママがお願いしたの。お仕事でいないから玄関に届けてもらっても受け取れないでしょう? だからベランダから入ってユキの枕元に置いてくださいと頼んでおいたんだ」
「そうか」
ユキの笑顔が弾けた。
彼が何をユキに話したかはよく分かっていた。「サンタがウチにやってきた」は一度しか見たことがないけれど、一番好きなWCのネタだ。きっとあの台詞を使ったに違いない。
「そうだよ。ユキは本物のサンタさんに会ったんだよ」
「……お母さん、どうして泣いているの?」
ユキに言われて初めて自分の頬を涙が濡らしているのに気付いた。
「どうしてかな。泣くなんておかしいね」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。そんなことより、今年はサンタさんは忙しいから、代わりにこのお姉さんが来てくれたんだって」
「夜は暗くて怖いからちょっと早く来ちゃったんだ」
サンタが合わせる。「びっくりさせてごめんね。さぁ、プレゼントだよ」
袋から出された包みよりユキは私に伺いの目を向けた。頷き返してやる。
怖々と受け取りながらも娘は「開けてもいい?」と、サンタに尋ねた。
「どうぞ」
「――わあ、チェキアクアのお勉強セットだ。すごぉい、よくユキの欲しいのが分かったね」
「サンタクロースだからね」
「あ、そうか」
ユキは完全に上機嫌だ。ブレーキが効かなくなって中身を出そうとする。
「なくすといけないからおウチに持っていて箱から出しなさい」
たしなめると「はぁい」と言って走り去った。
「ユキの頼んだ物が本当によく分かりましたね」
「サンタですから――なんて。当たって良かったですよ。こっそり下調べをさせてもらったら、相変わらずチェキアクアのファンみたいだし、コマーシャルで盛んに宣伝しているのを選びました」
「本当にサンタクロースになれそうですね」
「あ、でも、ダブっちゃいますよね。元々はあなたがサンタなんだから用意していますよね?」
「いいえ、実は聞き出すのに失敗しまして……サンタさんへの大事なお願いだから内緒だそうです。だから用意したのはチェキアクアでもアナライズクリスタルでした。私はサンタ失格です」
「それはそれで喜ぶでしょう。ママからのプレゼントということでいいじゃないですか」
「あなた、お子さんは?」
「結婚もしていません。家族がいたらここでこんな格好はしていませんよ」
「それもそうですね」
やけにおかしくて大笑いをしてしまった。
ひとしきり笑い終えるとしみじみした感じに包まれる。
「それにしても不思議ですね、真実を知らないままあの人と娘が出会っていたなんて」
「出来すぎた偶然だけどそれくらいあってもいいですよね、クリスマスなんだから」
サンタは「それじゃあ」と言って立ち上がった。
「待ってください」
私は咄嗟に呼び止める。「あの人はどうして亡くなったのですか」
「……不慮の事故です」
彼女は背を向けたまま答えた。
「事故って?」
「9月の新聞を探せば載っています」
やはり振り向かない。
「やはりしっくり来ません。サンタの衣装を着ているのはユキの父親の代理で納得できます。でもそれ以前のあなたが代理を引き受ける理由はまだ説明されていません」
彼女は無言のまま歩き出した。
「まさかあなたがあの人を……」
それ以上はどんどん離れていく背中に投げ掛けるのが憚られる。
Merry X'mas
微笑んで手招きをしてやる。表情を変えずに娘は駆け寄ってきた。
「ユキちゃん、どうして去年サンタさんに会ったことを黙っていたの?」
そっと抱き寄せるように頭に触れる。
「え、でも……」
とユキはサンタを気にする。
「だから本当にサンタさんだったんだよ。ちゃんと朝にはプレゼントを届けてくれたでしょう?」
「だって……」
「あ、そうか。ベランダから現れたから疑っているのね。それはママがお願いしたの。お仕事でいないから玄関に届けてもらっても受け取れないでしょう? だからベランダから入ってユキの枕元に置いてくださいと頼んでおいたんだ」
「そうか」
ユキの笑顔が弾けた。
彼が何をユキに話したかはよく分かっていた。「サンタがウチにやってきた」は一度しか見たことがないけれど、一番好きなWCのネタだ。きっとあの台詞を使ったに違いない。
「そうだよ。ユキは本物のサンタさんに会ったんだよ」
「……お母さん、どうして泣いているの?」
ユキに言われて初めて自分の頬を涙が濡らしているのに気付いた。
「どうしてかな。泣くなんておかしいね」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。そんなことより、今年はサンタさんは忙しいから、代わりにこのお姉さんが来てくれたんだって」
「夜は暗くて怖いからちょっと早く来ちゃったんだ」
サンタが合わせる。「びっくりさせてごめんね。さぁ、プレゼントだよ」
袋から出された包みよりユキは私に伺いの目を向けた。頷き返してやる。
怖々と受け取りながらも娘は「開けてもいい?」と、サンタに尋ねた。
「どうぞ」
「――わあ、チェキアクアのお勉強セットだ。すごぉい、よくユキの欲しいのが分かったね」
「サンタクロースだからね」
「あ、そうか」
ユキは完全に上機嫌だ。ブレーキが効かなくなって中身を出そうとする。
「なくすといけないからおウチに持っていて箱から出しなさい」
たしなめると「はぁい」と言って走り去った。
「ユキの頼んだ物が本当によく分かりましたね」
「サンタですから――なんて。当たって良かったですよ。こっそり下調べをさせてもらったら、相変わらずチェキアクアのファンみたいだし、コマーシャルで盛んに宣伝しているのを選びました」
「本当にサンタクロースになれそうですね」
「あ、でも、ダブっちゃいますよね。元々はあなたがサンタなんだから用意していますよね?」
「いいえ、実は聞き出すのに失敗しまして……サンタさんへの大事なお願いだから内緒だそうです。だから用意したのはチェキアクアでもアナライズクリスタルでした。私はサンタ失格です」
「それはそれで喜ぶでしょう。ママからのプレゼントということでいいじゃないですか」
「あなた、お子さんは?」
「結婚もしていません。家族がいたらここでこんな格好はしていませんよ」
「それもそうですね」
やけにおかしくて大笑いをしてしまった。
ひとしきり笑い終えるとしみじみした感じに包まれる。
「それにしても不思議ですね、真実を知らないままあの人と娘が出会っていたなんて」
「出来すぎた偶然だけどそれくらいあってもいいですよね、クリスマスなんだから」
サンタは「それじゃあ」と言って立ち上がった。
「待ってください」
私は咄嗟に呼び止める。「あの人はどうして亡くなったのですか」
「……不慮の事故です」
彼女は背を向けたまま答えた。
「事故って?」
「9月の新聞を探せば載っています」
やはり振り向かない。
「やはりしっくり来ません。サンタの衣装を着ているのはユキの父親の代理で納得できます。でもそれ以前のあなたが代理を引き受ける理由はまだ説明されていません」
彼女は無言のまま歩き出した。
「まさかあなたがあの人を……」
それ以上はどんどん離れていく背中に投げ掛けるのが憚られる。
Merry X'mas


