ハンドクリームの話

February 17 [Sun], 2013, 19:46

ハンドクリームの話




スーパーの惣菜売り場で買ったコロッケは僕とデンジ君とで一つずつ食べて残りはお皿に移して明日にでも食べることにした。パンに挟むのもいいかもしれない。
色々な種類のコロッケをちゃんとわかるようにしなきゃだめだよと言ったのに適当に透明のパックに詰めていくものだから、どれがどの味なのかと聞いても「さぁ」と首を傾げられてしまうだけだった。結局5つ程買った中から2つ選び、それを半分こして食べた。
炊飯器の食べきれなかった分のご飯は冷凍して彼が一人の時にでも食べればいいと冷凍室を開けたが、先日訪った時と同じ状態で先日も同じように入れた冷凍ご飯が入れてあった。新しいものを入れるスペースはない。最深部にあるのはいつのものだろうか。
胃が受け付けないと朝食を食べない彼に無理やりにでもご飯を出さなくてはいけないなと思った。

「っ、」

そんなことを考えながら残りの皿洗いを済ませていると指にぴりっとした感覚が走った。うっかり茶碗を落としてしまいそうになる。危ないところだったと息をつき、痺れるような右手の指を見るとじんわりと血の滲んだ真新しいあかぎれが出来ていた。
冬の季節病というのだから仕方ない。だけれども思わずため息が出る。気をつけてもどうしても出来てしまうそれは今に始まったことではなかった。治りかかっているものも含めて両手にいくつかできてしまっている。
ぼんやりと指を見ていると、ソファに寝転んでテレビを見ていたはずのデンジくんが肩ごしから僕がしているように指を覗き込んできた。

「うわぁ、びっくりした」

「怪我してる」

驚いた僕に構わず彼はそう言って僕の手首を掴んでまじまじと見つめた。それから困ったようななんともいえない表情を浮かべる。

「あかぎれだよ、冬だからキリがないんだ」

「痛いだろ」

「痛いよ」

彼は唇を噛んで、押し黙る。こういう表情をしているときは何か考え事をしているのだとわかるようになった。
最初はあまりにもしかめっ面だったものだからてっきり怒っているのだと慌てたが。

「あっ」

「えっ?」

長い沈黙のあと「あとは俺がやるから」とだけ言い彼は踵を返して居間に戻っていった。棚を乱暴に漁るような音がする。あとはと言われてもやることは濯ぐだけであるが、きっとこのまま続けると彼の機嫌を損ねてしまう気がして手を止めた。彼を追いかけようと居間に戻りかかったところでふたたび彼がこちらに来る。

「手」

「手?」

「手、出せ」

彼はそう言い終わると僕の手首を右手でもう一度掴みそれからもう片方の手で器用にチューブの蓋を開け中のクリームを僕の手に塗ってきた。量が多かったのかすこしべとべとする。

「……ハンドクリーム?」

「あぁ」

「あ、ありがとう」

「皿洗うの、これから俺がする」

「えっと……できるの?」

「馬鹿にしてるのか」

「そういうわけじゃないけど」

両手にまんべんなくクリームを塗ると満足したのか彼はうんと頷いた。こういう仕草に少し子どもっぽいなと感じてしまう。


「デンジ君にあかぎれができたらどうするの?」

「そのときは」


同じようにしてくれ、といたずらっぽく微笑まれた。




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