はじめに
2020.01.01 [Wed] 00:00


昭和20年代後期―――。
終戦後の日本にあまたの才能が送り出されようとしていた。ここ東京都豊島区のとある建造物の中でも、明日を夢見る青年たちが日々の創作活動に汗している。
夢と恋と友情と、挫折と別れとすれ違い…。

「手塚先輩みたいな漫画家に、きっとなってみせるんだ!」

その建物の名は「トキワ荘」。
石ノ森章太郎、藤子不二雄、つのだじろう… のちに天才と呼ばれる事となる彼らもまだ、幼い漫画家の卵に過ぎなかった。

これは彼らがすごした、二度とない青春の物語である。

※注意※
この物語はフィクションです。事実を少し参考にしただけの脳内ファンタジーとなります。
実在の人物や作品には一切関係ありません。

第1話:悩める天才
2007.03.08 [Thu] 03:38

由恵姉さんへ


 姉さん、お元気ですか?
 僕は元気ですよ。心配しないで。

 こっちではもう梅のつぼみがほころびはじめ、空気にも春の色と気配が感じられます。姉さんの作ってくれた鳶色の外套を昨日、着て散歩してみました。暖かく、とても具合もいいようですよ。

 3月に入ってからこっち、雪が降る日はほとんどない。狭い日本、少し南下するだけでこうも違うのかと、びっくりでしょう?それどころか、僕なぞ、今日に入ってから鶯の声を3回も聞いたわけで。
 宮城はまだまだ厚い雪化粧なんでしょうね。寒い、寒い、と手をこすりあわせる姉さんを思い浮かべながら、苦笑を持ってこの手紙を書いております。(また体を壊すのだから、あまりおんもに出ないでくださいね?)

 暖かいのはなにも気候だけじゃない。東京の人たちは、姉さんが言ったほど冷たくはなかったよ。みんな優しくしてくれる。
 とくにトキワ荘のみんななんて、最高さ。赤塚先輩みたいに愉快な人物には、今生出会ったことがない。姉さんもきっと気に入るだろう。言ってることとやってることがいちいちおもしろい。そうしてお酒がホントに好きなんだ。
 でも、お酒以上に漫画を好いている。
 素晴らしいギャグ漫画家にして、尊敬すべき先輩さ。

 尊敬といえば、姉さん、素晴らしいよ。
 手塚先生は。

 いつか姉さんと2人で言ったよね。この人は天才だって。そう、先生はまさに天才さ。
 僕が宮城の田舎から東京に出ていくことを、姉さんは最後まで心配したね。けど僕は、こうして手塚先生の近くにいられるだけで、来た甲斐があったと痛感しているところだよ。
 紙面からは読みとれなかった天才性が、こうして一つ屋根の下に暮らしているとなおさら感ぜられるんだ。
 毎日が全く素晴らしい体験の連続だ。手塚先生の仕事ぶりを、姉さんにも見せてあげたいよ。恥ずかしながら、僕も描く早さにはなかなかの自信があったんだ。でも、あの人の早さは半端じゃない。それも、てんでタイプの違うお話を次々と生み出すんだ。まさに漫画の宝箱、というわけで。

 一年の半分を冬将軍に支配される宮城では、漫画だけが楽しみだったね。雪に閉ざされて、姉さんと漫画だけが僕の遊び相手だったからね。でも僕にとって漫画という存在は、腐敗と享楽の街ここ東京に来てなお褪せない輝きを持つまでに至った。
 なぜだと思う?姉さんならわかるよね。そう、手塚先生の漫画だよ。ページを繰る手がふるえたのは、何も寒さのせいだけじゃない。手塚漫画が僕を戦慄させたんだ。

 毎週毎週、僕は手塚先生の漫画によって、世界中を旅することができたんだ。宇宙、過去、未来、怪獣やロボット、僕は特にヒーローに魅せられた。いつしか姉さんと二人で漫画を書き始めたよね。鉛筆も持てない頃だった。夢中で漫画をぶっ描いたな。懐かしい思い出さ。どうかな?僕の漫画。少しはよくなってきたかな?
 みんなは僕のこと、天才だなんだっていうけれど、そういうのは手塚先生みたいな人を言うんだよ。僕は天才なんかじゃない。現に僕は今、自分の漫画にとうてい自信を持てない。

 姉さん、僕の漫画が好きだって言ってくれたよね。おもしろいって。僕の絵が好きだって言ってくれたよね?かわいいって。でもね、違ったんだ。あれは全部僕の漫画じゃなかった。あれは手塚先生の漫画だったんだ。
 みんなが僕を持ち上げてるとき、姉さんだけはどこか冷静だった。僕をほめてはくれたけど、天才だなんだとは言わなかった。姉さん。姉さんは僕の一番の読者だから、きっとわかってたんだね。
 僕の漫画は全部、手塚先生の模倣だったんだ。自分の漫画が、どれも手塚先輩の三流模倣品に見えてくる。描いても描いても、出口が見えない。

 僕の漫画の何がよかったのか、手塚先生は僕をこうしてトキワ荘に呼んでくれた。まだ高校もあと2年も残ってるけど、こうして休みは通って来ようと思っているんだ。とても充実してる。でも、漫画のことを知るにつけ、僕は自分が漫画で何がしたかったのか、だんだんわからなくなってきたんだ。
 手塚先生の近く、トキワ荘でこうして漫画を書いているとどんどん煮詰まってくる。
 ねぇ姉さん、僕の一番の読者さん。姉さんにとって、僕の漫画は今でもおもしろいかしら。自信がない。

 なんだか愚痴ってしまいましたね。姉さんのことだから、またぞろ心配してるんじゃないですか?少し感傷的になっただけなので、心配しないでください。

 東京に来たのは、本当によかったんだよ。間違いじゃなかった。トキワ荘の人たちはみんないい人たちだし、まず漫画に対して真剣そのものなのがいい。また彼らの漫画自身も創意工夫に満ち、それ以上にやる気と希望に満ちている。
 そりゃセンスはない、つたない、書くのが遅い、お話も何もあったもんじゃないさ。とるに足らない。児戯に等しいさ。
でも僕は、ただがむしゃらに漫画を描く彼らにいわれのない恐怖を抱く。

 それでは姉さん、手紙をこれで終わります。
 くれぐれも体には気をつけて。



 姉さん、弱音を吐いたみたいになってしまったこと、どうかみんなには言わないでください。
 僕と姉さんのひみつです。


石ノ森 章太郎 拝

石ノ森くん
2007.03.08 [Thu] 02:30

悩める天才少年



代表作は「サイボーグ009」「仮面ライダー」他。緩い癖っ毛。細面の美少年。

幼い頃より周囲から天才漫画少年の呼び声高く育つ。
高校在学中請われて手塚の漫画をアシスタントする等、漫神(まんがみ=手塚治虫)に早くから見出だされていた。既にデビュー済。
現在トキワ荘にて手塚を手伝ったり、手塚の編集者から仕事を受けたりと、順調な滑り出しで同居人達と差を開いている。

目下「自分の漫画は手塚の模倣にすぎないのでは」というジレンマと格闘中。
手塚のようになりたい気持ちと、準手塚で終わりたくはない気持ちとに心乱す毎日。

A&Fとは以前漫画甲子園で出会い大差で圧勝した事がある。
貴公子然としているが姉の前では甘ったれ。

F
2007.03.08 [Thu] 02:29

大空覗きの不思議少年


代表作は「ドラえもん」「パーマン」など。

高校卒業と同時に雪深い富山から家出してきた。
性格は純真無垢。幼馴染みで親友のAと一緒に漫画家になるのが夢。
夢見がちで空想力はピカイチ。
ぼんやりと青い空のポケットを見上げて少し不思議なことを考えているのが一番好き。

富山にいる間はネクラ漫画少年と見なされ、地味な印象だったが、ここトキワ荘にきてからは夢に向かっての努力を惜しまない頑張り屋な一面を発揮する。

親友のAに置いていかれないように頑張らなくてはいけないと思っているが、本当のところ、Fの純粋な熱意に圧倒されているのはAの方。

A
2007.03.08 [Thu] 02:28

やんちゃくれ家出少年


代表作は「笑ゥせぇるすまん」「怪物君」など。

Fと共に故郷を捨てて上京してきた。
向こう見ずな性格で、富山ではFの兄貴分だった。
実家は貧しく乱暴な父にうんざりしており、また転校がちだった事もあって、そういった環境がAと漫画とを出会わせた。

赤塚先輩の男らしさに心酔しており、よからぬ事に荷担させられることもしばしば。

常にFを庇護する立場であると自認して来たが、逆に頑固で優しいFがどれだけ自分の救いとなっていたか、今はまだ気付いていない。
彼がそれに気づくとき、二人の少年は親友からライバルへと変化する。

だじろう
2007.03.08 [Thu] 02:27

謎だらけの霊感少年


代表作は「恐怖新聞」「うしろの百太郎」など。

いつのまにかトキワ荘に住んでいた謎の青年。
常に和装。一言で言って「陰気に陽気」。
暗がりから現れて手招きをするなど、同居人たちをドッキリさせることが多い。

作風は劇画タッチの恐怖物。
霊感が強く、壁の染みと会話をしたりするエキセントリックな問題児。
これでなかなかAと気が合い、よく二人で赤塚先輩の誘いに乗ってしまう。

勘が鋭いこともあり、人物の心情の機微に敏感だが、常に不真面目に謎めいているので何の役にも立たない。

異常に惚れっぽく、恋をしては失恋を繰り返す。
正反対の性格のソウルファンキーな歌手(つのだ☆ひろ)が実の弟。

手塚先輩
2007.03.08 [Thu] 02:24

神は漫画と相思相愛


漫画の神、略して漫神と呼ばれるゴッドオブ漫画。
後の日本に漫画大国という冠を献上することとなる、漫画青春期の母。

すでに多くの連載を抱えており超多忙。
妻子のいる神戸と雑誌社のある東京とを頻繁に行き来し、常に締切りに終われている。

トキワ荘の若者たちに慕われ絶大な影響力を持っているが、正直漫画以外の事はどうでもいい。メンタルケアは一切を放任し、「ついて来れない人は来なくてもヨロシイ」という態度を見せる。

普段は「ぼかぁ」「〜ですね」「よしなさい」など穏やかな喋り方だが、興奮すると「あて」「〜でおま」「〜やでしかし」など、こてこての関西弁が口をつく。

赤塚先輩
2007.03.08 [Thu] 02:23

バカボンド兄貴


代表作は「バカボンのパパ」「ひみつのアッコちゃん」など。

満州生まれのタフガイ。 もてもて。
他に類を見ない斬新なギャグセンスで早々と自分の作風を開花させたもう一人の巨匠。
がっちりした顔つきの男前で、漫画以外の世間を知らないチェリーな後輩たちに様々なアソビを教える兄貴分。
手塚と違って面倒見がいい一方、あらゆる手段で編集をまいて逃げる反面教師でもある。

アルコールが大好きで、丸ペンよりも酒瓶の方が手に馴染む生活。
かなりアバウトな性格で、ちょっとぐらいのいい加減は「これでいいのだ」の一言で完結してしまう。

トキワ荘で手塚にタメ口がきけるのは彼だけ。

英子
2007.03.08 [Thu] 02:21

恋に恋する漫画少女


代表作は「ファイヤー!」「ハニー・ハニーのすてきな冒険」など。

トキワ荘に住む唯一の女の子。
冒険したい年頃で、トキワ荘の漫画の王子様たちのなにげない一挙一動に、まだ知らない男子の真髄を発見してはときめく。

どじっこあわてんぼうでトンボのメガネがトレードマーク。
口には出さないがいつか王子様が迎えに来てくれると信じている。

乙女心の右にファンタジー、左にリアリズムを持ち合わせ、男子たちの採点基準はかなりきびしめ。
P R
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