ヤマなし、オチなし。萌えなし。
わたしはどうもゼルが好きなようです。
わたしのなかでのゼルのその後の人生の一部分を書きました。
ゼルアメ!な方は見ないほうがいいかもしれません。
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噴水広場に近い飯屋は、混雑時を外れて客もまばらだった。適当に注文して窓の外を眺めていると、通りの向こうから小さな女が弾丸のように駆けてきて、ずがんという音とともに扉が開いた。
「おっちゃーん! ブラウンパン10斤、明日の朝イチで配達してほしいんだけど!」
オレンジの服にクリーム色の前掛けをし、長い髪をくくった彼女は厨房に向かって言う。「なんだリナちゃん、久しぶりじゃないか」
鍋を持った親父が出てきて親しそうにこたえる。「チビちゃんの世話で忙しいのかい」
「まーそんなとこ。マニ海老の美味しいのがたくさん手に入ったから、明日はサンドイッチにしよっかなと思ってるんだけど、ブラウンパンでいいわよね?」
「ああ、だったらブラウンパンだね。明日持ってくよ」
女は、リナはにっこりと笑った。
「よろしくね!」
きびすを返そうとして、ふとこちらに気がついたらしい。みるみる目が丸くなる。「………まさか、ゼル!?」
俺は軽く手を上げた。リナが走ってくる。
「久しぶりじゃない!元気でやってんの?」
「見ての通りだ」
水をすすりながら言うと、リナは勝手に椅子を引っ張ってきて俺の向かいに腰を下ろした。ふわっと甘い匂いがする。ミルクと食べ物の混ざった匂い。所帯じみた匂いだ。
「あんたこそ、面白い格好をしてるな」
「これ?」
花模様の前掛けをつまんでリナはにやっとする。「さては、このあたしの新たな魅力に惚れたわね」
バカを言え、とつぶやいたところで親父が定食を運んできた。湯気のたつパスタを口に運ぶ。なかなかうまい。
リナは頬杖をついてしばらく俺を眺めていたが、「せっかくだしあたしもなんか食べよっかな」
おっちゃーん、と呼んでパスタを3皿注文している。
「子どもはいいのか」
リナと別れて五年は経った。服装や親父との会話から考えて、この町で所帯をもっているのだろう。
「あー、少しくらい平気平気。ガウリイがみてるしね」
「あいつが赤ん坊をみれるのか?」
「それがけっこううまいのよ。抱っこすると泣きやむし、意外と器用なのかもね」
「想像がつかんな」
きのこのパスタをたいらげるリナを見ながらつぶやくと、「じゃあ見に来れば?」
あっさりと言う。「それとも急いでる?」
いや、と返すと話はまとまった。
二階建ての小ぢんまりとした家だった。青い芝生に木製の馬やブランコが置かれているのを見て、俺はますます変な気分になる。戦いのなかで血にまみれていたリナとガウリイが、こんな家で赤ん坊と暮らしているなんて冗談だろうと思う。
「ただいまー!」
廊下の奥から赤ん坊特有の甲高い声が聞こえ、ゆっくりとした足音とともに、二人は現れた。
「ゼルじゃないか」
シャツにズボン、長剣に赤ん坊を抱いて驚いた顔のガウリイに、俺は肩をすくめて返す。「そこの飯屋で捕まったのさ」
まじまじと見るが、旦那は何も変わっていない。五年前に別れた時のまま、穏やかに俺を見つめのんきそうに赤ん坊を揺すっている。
「んなとこで突っ立ってないで、入って入って!」
くくった髪をシッポのように揺らしてリナは奥に消える。その後を追おうとした時、何かが袖を引っ張るのを感じて俺はそちらに目をやった。
「………」
あー、とガウリイが済まなそうに声を上げる。
金色のひよこみたいな髪、ぱっちりした青い目でこちらを見上げる赤ん坊は、その両親の血を引き継いで食いしん坊らしい。
「だめだぞ、ほら」
俺の服を口いっぱいに頬張って、意思の強い目がじっと見ている。
何やってんのー、とリナの声がして、
「こいつお前さんのこと気に入ったみたいだぜ、ゼル」
「………将来有望な赤ん坊だな」
俺はまた肩をすくめた。
リナが作った飯を食い、一晩泊まって俺はその家を後にした。
「また来てね!」
「ああ、そのうちに」
歯型のついた服からミルクの匂いが何日も取れなかった。
噴水広場の飯屋はなくなっていた。
かわりに焼き菓子を売る屋台が出ている。
あの日教えられた道を通って雑草まみれの小道を行くと、見覚えのある赤い屋根が見えた。
「………」
木馬とブランコはなかった。
俺が玄関の戸を叩こうとした時、背後から声がかけられる。
「ガブリエフさんなら引っ越したよ」
頭巾をかぶった婆さんが、果物籠を片手にこちらを見ている。
「引っ越した?」
「ちびちゃんが大きくなったから、なんとかの街に行くとか言ってね」
「いつ頃だ?」
「半年くらい前かねえ………」
婆さんは広場のほうへ歩いて行った。
その後姿が見えなくなると、俺は振り返って扉に手をかけた。
鍵はかかっていない。
「………」
ギィ、ときしんだ音をたてて家は俺を迎え入れる。
がらんどうになった室内は、以前の面影もなかった。
太陽の光が差し込む居間で、あの日リナと茶を飲んだ。ソファでガウリイが赤ん坊をあやして笑っていた。手縫いのキルトがかかったベッドで目覚めると、庭の黄色い花に朝露が溜まって輝いていた。
「………」
ここには何も残っていない。
『ゼル』
不意に、声が聞こえた気がした。辺りを見回すが誰もいない。
「空耳か」
つぶやいた時、ふと視界の端に白いものがよぎった。
「………」
造り付けの台の上に、封筒が載っている。手に取って埃を払うと、懐かしい文字で俺の名が記されていた。
『ゼルへ』
封筒の中には一枚の羊皮紙が収められていた。
『久しぶりね、元気でやってるの?
ちびも大きくなったし、あたしたちはまた旅暮らしに戻ることにしました。
いつかどこかの街で、また会いましょう。
リナ』
あの手紙は今も、荷袋の底にしまってある。
訪れた町の飯屋で、街道の木の下で、すれ違う女にリナの面影を無意識に探している。
「………かあさん、この花!」
朝方の澄んだ空気を残した夏の日だった。
人もまばらな街道を、俺は黙々と進んでいた。ふと耳についた明るい声に目をむけると、道の端に旅装をした少女がしゃがんで、雑草のあいだに咲いた黄色い花をいじっている。「これ、うちの庭に咲いてた花でしょ?」
何て花だっけ、と言いかけて、俺の視線に気づいたのかぱっとこちらを振り返る。
癖のある柔らかそうな金髪が広がった。額に黒いバンダナ、空色の大きな目を見開いて、誰かさんそっくりな表情で俺を見る。
初めて会った時の彼女よりはいくらか幼そうだ。
「ランタナでしょ?オレンジっぽい………」
少し先を歩く栗色の頭が揺れている。
隣の金髪が振り返って俺を認め、破顔した。
胸に温かいものが広がった。
俺は十年ぶりにその名を呼ぶ。
「リナ」
栗色の髪が夏の陽に広がった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ランタナの花言葉は『互いを忘れない』。
わたしはゼルって、リナへの関心を捨てきれずにずっと行くのではないかと思っているのです。
恋ではないかもしれないけど。
出会った時からリナにはガウリイがいたので、恋は最初から意識してない。
でも女のなかではリナが1番気をひかれる存在で、何年たってもそれは変わらない。
そんなわたしのゼル観でした。
読んで下さりありがとうございました。