あいころ

September 21 [Mon], 2015, 14:13
 拝啓 〇〇嬢
 
 そもそもだ、君はまず挨拶の作法を覚えた方がいい。君の挨拶はひどく黄ばんでいて、虚言癖のある灰色の男たちのようだ。なぜあなたの挨拶がそんな腐卵臭に満ちているのかは明白だ。君は挨拶をするとき、自分のことを被害者だと思っているだろう。そして乳児期から今にかけて「あたしは負けで稼ぎたい」と豪語する坊主頭の女が夢に出てきたことがあるだろう。もし覚えがないならば無意識の中に刷り込まれたに違いない。であるなら、君のせいではない。とかく、よく覚えておくがいい。被害者意識を脳髄から垂れ流す奴らはことごとく挨拶ができないということを。挨拶は加害の賜物である。君の身体にまとわりついた精霊を、相手の精霊にすり合わせる作業なのだ。挨拶がキチンとできない人間は相手の精霊に擦り寄ることすらできない。そして君も、その一人だ。
 なぜ冒頭から挨拶の話をしているのか、不思議がっていたかもしれないがこれで、分かるだろう。加害の賜物である挨拶を使いこなせない者に加害の儀式である殺生行為ができるはずもなく君のラブ理論はプロローグから破綻していた、ということだ。愛する者を殺す以前の問題である。いまの無礼な君ではいかなる人も殺せまい。殺しの作法に酔いしれる前に、まずは挨拶から学びたまえ。挨拶はひどく慇懃に、卑屈と定義されうる程度にまで懇切丁寧に行う方がいい。一般的に、自分の精霊を操れる人間などごく少数に過ぎない。精霊を寄せておけば相手の方から自然と体を傾けてくるさ。相手の精霊を味方につけられたなら、あとは如何様にもなる。
 ただし、ただしだ、私がいま「一般的に」と前置きをした事実の上に勿忘草を飾っておいてほしい。ごく少数だが、精霊を手なずけ、意のままに操る者がいる。彼らは挨拶程度ではビクともしない。無論、こちらの戦略を熟知しているからだ。彼らをまとめて定義するのは困難を極めるが、ここでは「魔術師」と呼んでおこう。
 もしも君の愛する者が魔術師であったなら、挨拶の次の手が重要だ。まずは自分の置かれた環境を理解することから始めねばなるまい。魔術師に自らの精霊を引き込まれた可能性があるからだ。そう、逆に魔術師に殺されるリスクが生じている可能性があるのだ。愛する者に殺されることも殺したものと同義とするのなら、止めはしないが。
 そして、リスクを理解したら次には、リスクを回避することが必要となる。精霊を奪い返す、もしくは奪われないための方法は何か。単純明快。君自身が精霊になればいいのだ。精霊というものは意思もなく、シロやクロなどの感情もない。ただ人の現在の心を煽動する悪意か、魔術師の善悪を増幅させる装置である。今は魔術師についての話であるから、君は後者になる必要がある。と言うより、そもそも悪意と化した場合はもう君に目的は達成できない。当然だ。愛は純粋極まりない善意。圧倒的でときに攻撃的ともいえる善意の神格である。愛するものを殺すには、殺しそのものに愛が必要である。殺しを愛せない者に人を殺す資格など与えられない。黙って天国に行くといい。
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