ACT 1
2005.10.07 [Fri] 11:39

しんと静まり返った部屋に、カリカリと文字を綴る音だけが響いている。が、しばらくするとぶつぶつと呟く声が聞こえ始め、最後にはそれは絶叫に変わっていた。
「出来るかこんなの!」
「出来るかどうかではなく、せねばならんのだろう?それが貴殿の仕事なのだから」
頭を抱えながらぎゃあぎゃあとわめきたてる青年を、若い女性がその姿におよそ似つかわしくない言葉遣いでそうたしなめる。その言葉に、青年は顔をしかめながら反論した。
「そうは言うけど、適材適所ってもんがあるだろう?俺は計算が死ぬほど苦手だって知ってるくせに」
だからもう無理だって、勘弁してくれと懇願する青年に、女性は柔らかい笑みを浮かべてきっぱりと言い放った。
「自らの得手不得手で職務を放棄できるとお思いか?『領主』殿」
No,mam.
いいえ、できません。できませんとも。
がくりとうなだれて、それでもやればいいんだろと悪態をつきながら。
青年は紙の上に踊る数字との格闘を再開した。


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出会う者 4
2005.10.07 [Fri] 11:37

「俺の名前は、シュルト」


ビクリ、と肩が震えた。

「シュルト」

初めて出会った人。
初めて聞いた名前。
聞いたことのない名前。

なのに、どうして。

「…『SCHULD』」


あたしは、どうしてこの名前を知っているの?


「どう、した?」
何かに怯えたかのように震えた後、少女はぎゅっと自分を抱き締めていた。
少年の名を呼び、どうしてと呟いて。
不意に、顔を上げた。

「知ってる」
「え?」
「きっと生まれる前から知ってた。あたしの名前がそうであるように!あたしは」
傷だらけの自らを抱く腕に一層力を込めて、少女は叫んでいた。


「インサーニア。あたしの名前は、インサーニア…!」




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出会う者 3
2005.10.07 [Fri] 11:34

ブツリ。

何かが目の前に飛び出してきたのと同時に、鈍い音がした。
咄嗟に、槍を持った手でそれを横に薙ぎ払う。
温かくぬるりとした何かが手に触れ、悲鳴が上がる。

(女…?)

薙ぎ払った方を見遣ると、確かにそれは女だった。
それも、小さな。

(『女の子』か…!)

気付いて、慌てて駆け寄る。
騎士道を説くつもりはさらさらないが、女子供を手荒に扱うつもりもなかった。

「おい、大丈夫か?」
そっと肩に触れて、息をしていることに安堵する。
が、それもつかぬ間。
先ほど手に感じたそれを、今度は目で確認することになった。

「お前、血まみれじゃないか…!」



いつの間にか握り締めていたそれを持ったまま、覚悟を決めて飛び出した。
ブツリ、と嫌な音がして。
何かが嫌なものが手に触れて。
脇腹を何かに叩きつけられ、悲鳴を上げて。

そこで、意識が途切れた。


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出会う者 2
2005.10.07 [Fri] 11:33

どうして。

どうして?


あたしは、何もしていないのに!


物心ついた時にはもう、一人だった。
両親の顔を知らない。
そもそも、そんなものが自分にいたのかどうかも分からない。
どうしてこの地にいるのかも、皆目検討がつかない。

ただ何故か、自分の名だけは知っていた。
誰が名付けたのかも分からない。
けれど、これが自分の名であることだけは分かっていた。
誰かが、そう言っていたような気がするから。
それにどんな意味があるのかなど、考えたことがなかった。

だから、簡単に口にした。


「何だって…!」
「『名を持つ者』!何て事!」

『名を持つ者』。
聞いた事のない言葉だった。
色々な町で名乗っても、そう呼ばれた事はなかった。
だから、それが自分に向けられたものだと分からなかった。
手に凶器を携えた人々が、自分を追い回す理由が分からなかった。

「痛いよ、やめて…!」
「『名を持つ者』が世界に現れたなんて!」
「やめて、やめてよ!あたし何もしてないよ!」
「もし今『名を持つ者』が死ねば、唄は成就しない!」
「やめて…!」

痛いよ。

やめてよ。

どんなに叫んでも、無意味な気がした。
でも、叫ばずにはいられなかった。

斬らないで。

痛いよ。

尻尾が、落とされる…!


必死になって森に逃げ込んでも、村人はまだ追って来ていた。
一晩中逃げ続けても、まだ。

(どうすれば、いいの…!)

草むらでカタカタ震えていると、声が聞こえた。
自分を追っている怒号ではない、声。
淡い期待を抱いてそちらを覗き見て、すぐにそれは幻想だと分かる。
自分より少し年上に見えるその少年の手にあったのは、村人たちが手にしていたものとよく似たものだった。
(あの人も、きっと同じ…)
もう逃げ場はなかった。
こうなったらいちかばちか、あの少年の正面を突破するしかない。

そう覚悟を決めて、草むらから飛び出した。
 

出会う者
2005.10.07 [Fri] 11:32

いいかい、決して人と関わってはいけないよ。

どうして?僕らが魔獣だから?

いいや。姿を人に似せることなど、お前にとて造作もない事だろう?

じゃあ、どうして?

それはね。


お前が、お前だからだよ。



嫌な夢を見た。
目が覚めて最初に思ったのはそれだった。

(今更へこむような事でもねぇけど)

長はただそれだけを言い聞かせた。
拒絶のしようがなかった。
自分が自分であるが故と言われれば、他にどうしようもなかった。
それでも、それが本当であるかを知りたくて。
12の時に、里を出た。

身寄りがなかったから、後ろ髪を引くものもなかった。
引き止める者もいなかった。
ただ長だけが、決して人と関わるなと繰り返していた。

あれから3年。
人里に下りたところで、何も起こらなかった。
大きな町では、姿を変える必要すらなかった。
(結局、長は何を恐れていたんだろう)
『恐れ』という言葉を決して口にはしなかったが、長が何かに怯えていることは子供の目にも明らかだった。
里に戻る気などさらさらない今では、もはやそれを知る術もないのだが。


「さて、と」
今日の夕飯代までくらいは稼がないとな。
そうひとりごちながら槍を振る。


幼い頃に死んだ父から唯一学んだのが槍術だった。センスがいいと頭を撫でられた記憶しかないが、それが今の自分が生きる術になっている。
(これがなければ、里を出ることすら出来なかった)
この世界で、身を守る術は不可欠だ。それが出来なければ、一人で町の外を歩くこともままならない。その術を今は亡き父から学んだのだと思うと、何となく嬉しかった。

誰も引き止めることのなかったあの里を出ることを、父が後押ししてくれたような気がしたから。


かさり、と草の鳴る音がして我に返る。
いくら場慣れしているとはいえ、四方を木々が埋め尽くす森の中でぼんやりしているのは危険だ。退治しに来たはずの妖精に逆にやられてしまうようでは、仕事を請けた意味がない。
(物思いにふける事自体、らしくねぇし)
槍を握る手に力を込め、音のした方へと向き直る。
がさがさと大きな音を立て始めたそこへと槍を向けた瞬間。

「…っ!」

声にならない悲鳴と共に、何かが飛び出した。
 

選ばれる者
2005.10.07 [Fri] 01:32

『それ』は、使い手を選ぶという。

(こちらが選んでも、選ばれなければ駄目というわけか)

まるで恋愛か何かのよう。
そう例えてから、即座に否定した。

(違うわ。そんな対等なものじゃなくて、これは)

『それ』に群がる人々を冷ややかな目で見つめながら、毒づく。


(選ばれれば、それで決まるのよ)


こちらが選ばなくても、『それ』に選ばれれば決定してしまうのだ。

運命や、宿命という名に置き換えられて。


(拒否権は、ない)


それは、自分と同じ。
『名を持つ者』がそうであるのと。


(選ばれるのは、『人の子』)


「なあ、あんた」
不意に声を掛けられ、振り向いた。
見覚えのない青年が立っている。
何か、と尋ねる前に、彼が口を開いた。


「あんたが、『TEAR』?」


そう。

選ばれるのは、『人の子』。
 

2005.10.07 [Fri] 01:30

すべての始まりは
すべての終わりを抱えたまま
流れ続ける時の終わりを
ただただ
待ちわびて


これは夢だ。
聞こえる歌声が母のものだから。
もう聞くことができないはずのものだから。
ぼんやりとした頭で、そう思う。

「母さん、歌が」

傍らにいる母の袖を引く。
柔らかく微笑んで、母は頭を撫でた。

「起こしてしまったかしら。母さんが歌っていたのよ」

それは、村に伝わる歌の一つだった。
あまり明るい歌ではないけれどねと言いながら、母が好んで歌っているものだった。

「違うよ、母さん。違うんだ」


これは夢だ。
母の歌声を聞いているから。
聞こえるものを聞いているから。


だって、俺があの時本当に聞いていたのは。


「皆が歌ってるのは、その歌じゃない」


…の果てに
…を悔い
…を流せ

人の子よ
 

伝承
2005.10.07 [Fri] 01:27

昔神は、この地を創った。

この世界の住民なら、必ず一度は聞かされている話。

昔、神はこの地を創った。
山を創り、谷を創った。
川を創り、海を創った。
深い森を、一面に広がる砂漠を、溶けることのない氷河を創った。
そしてその地を、生き物たちに与えた。
空は鳥に、海は魚に、そして大地はその他の動物たちへ。
すべてを創ると、神は最後に二つのものを創った。
一つは神の棲む土地、そしてもう一つは『オメガ』という滅びの力…
この世界のどこにいても見える、一筋の光の柱。
その中にある土地こそが神の住む地―アルカディアなのだ。
人々は言った。神は我々を見ているのだ。
神の創ったこの地に相応しい生き物かどうかを見定める為に。
そのために神はオメガを残したのだと…
 

オリジSS。
2005.10.07 [Fri] 01:24

FC2からこっちに移行しました。相変わらずちまちまとろとろペースだとは思いますが色々書けたらいいなと。