いるべき場所

April 14 [Sat], 2007, 0:22



地球、日本国−

自分が育てていた息子のような存在の「彼」を眞魔国へと送ったあと、ボブは小さく息を吐いて公園のベンチへと腰を下ろした。

恐らく、もうすでに自分の出生の秘密を向こうの世界の皆によって話されているだろう。

『カズキ』という名前を思いついたのはウェラー卿が次代魔王を『太陽となりますように』と願っていたこと、そしてロドリゲスが双黒の大賢者を『月となりますように』と願ったことを聞いたからだ。

まだ、赤ん坊だった「彼」を腕に抱きながら願った。

「広い心ですべてを見通し優しい心で全てを包み込む−月と太陽と常に共にある存在。『空』となるように。」

どこまでも透き通るような真っ青な空を見上げボブは小さくその名前を呼んだ。

「一騎・・・−」



「あれ?神谷は?」

眞魔国、血盟城。

昼食の時間、今日は皆で外で食べよう!という話になって中庭に出ていた俺−渋谷有利原宿不利・・・−は、今朝、その正体を聞いたばかりの神谷の姿が見えないことに気がつき辺りを見回す。

それに苦笑いしながら答えたのは村田だった。

「彼なら来ないよ」

「え、なんでだよ?」

「しばらく1人にして欲しいそうですよ。」

俺のその疑問には中庭に設置したテーブルにレースのテーブルクロスをかけながらサヤさんが答える。

「しょうがないよね、いきなり別の世界に連れてこられて実は貴方の世界はここで貴方の両親はここで命を落として・・・何ていわれたら誰だってショックだろうしね」

「そりゃ、そうかもしれないけどさ・・・」

確かにいきなりこっちに呼ばれて実は貴方がいるべき世界はここで、何ていわれたら驚くよな。
その気持ちは俺自身が身をもって体験済みだし・・。

「陛下だって最初この国に来たときには夢オチを希望していたじゃないですか」

いつも通りに爽やかな笑みを浮かべながらコンラッドが俺に話しかけてくる。

「う・・・っ・・、そ・・そりゃぁ、いきなり『貴方は魔王です』なんていわれたらさぁ・・!」

痛いところを突かれしどろもどろになっていると追い打ちをかけるように「やはり、お前はへなちょこだな」とフォンビーレフェルト卿ヴォルフラムに言われてしまった。

う〜・・・しょうがねぇじゃん!!あの時は本当にそう思ったんだよ!

でも・・・。

ちらりと皿を並べているウェラー卿を見ると俺の視線に気がついたコンラッドが俺の方を見つめる。

・・・俺には、コンラッドがいたから。

俺が初めてこっちの世界に来たとき、助けてくれたのはコンラッドで・・・それからずっとそばにいてくれて、俺のために毒味までしてくれたし・・・。

『だけど、ここがあなたの世界だ。−おかえりなさい、陛下。あなたの魂のあるべき場所へ』

あの言葉で何となく納得しちゃったのも事実で・・・。

「あの、ユーリ・・・。そんなに見つめられると少し照れるんですが・・」

俺の視線に少しだけコンラッドが苦笑いを浮かべた。

「あ・・ご、ごめんっ!!」

俺、そんなに見つめていたのか・・。
いや、なんか目が離せなくなったというか・・・。

「いやぁ、本当にお熱いね、お2人さん」

サヤさんと一緒にいつの間にかフォークなどを並べていた村田がウィンクしながら言ってくる。

「む、村田!!」

顔が一気に熱くなるのを感じて思わず大声で叫んでしまう。
・・・なんか、俺、村田には頭があがらないようになっているのかも・・。

おそるべき、ダイケンジャー・・・。

「・・・そう言えば、フォンヴォルテール卿の姿も見えないけど」

思わず遠い目をしていると村田がふと気がついたように辺りを見回している。
言われてみれば・・・。

「グウェンダルなら、あの双黒の少年に食事を運んでいきましたよ。折角、この私めが持っていくといったのにも関わらず・・・」

バスケットにたっぷりのパンを運びながらフォンクライスト卿ギュンターが熱い溜息をついた。

「・・・フォンクライスト卿に任せて汁まみれになるとまずいから私がグウェンダルに頼んだのよ。」

そんなギュンターをばっさりとサヤさんが切り捨てる。
あーあ・・・ギュンター、落ち込んじゃったよ・・・(汗)

「それにしても、よく兄上が承諾したな。その双黒はユーリやそこの大賢者とは違って特別な存在でもないのに・・・」

「・・・確かに陛下や猊下ほど特別な存在ではないけど・・・彼には彼の『役目』があってこの国に来たんだから。それに、彼は『小動物系で可愛い』タイプだしね」

「あ〜・・確かに神谷はかなり人気があるね、男に」

「そっか、グウェンダルの好みって確か・・・」


−誰もいないフォンヴォルテール卿の部屋の中、一騎はさきほどメイドに手渡された学ランタイプの服を着込んだままベッドの上で膝を抱えていた。
外から聞こえてくる有利たちの笑い声にさえ顔を上げる気がしないのか膝の間に頭を入れたまま何度も溜息を繰り返す。

「・・・なんなんだよ、これ。夢じゃないんだよな・・・。・・・なんでこんな事になったんだよ」

自問するようにそう呟いているとドアがとんとん、とノックされた。

「・・・はい」

小さな声で返事を返すとドアが開けられ眉間に皺を寄せたグウェンダルが銀のお盆をもって入ってくる。

「貴様の分の昼食だ。今朝から何も口にしていないだろう、少しは何か口に入れろ」

カチャン、とお盆を机の上に置きながらグウェンダルがベッドで膝を抱えている少年に声をかけた。

「・・・食べたく、ない」

一騎は俯いたまま、そう答える。

その瞳には光が宿っていなかった。

「何をそんなに悩む必要がある。」

その様子を見てグウェンダルは溜息をつくといい匂いをさせているスープの入ったカップを片手にベッドに腰かける。

「貴様の魂のあるべき場所はこの眞魔国だ。ただそれだけだろう。あの魔王陛下や大賢者ほどではないが、地球とやらから貴様がここに来たと言うことは貴様にも何かしら『意味』があるということだ。この世界へやってきた『意味』がな」

「・・・貴方には分からない。・・・俺はずっと自分が人間だと言われて育ってきたんだ、それがいきなり実は貴方の両親は魔族で・・なんて信じられるわけないだろ・・・っ!」

拳を握りしめながら裕哉が思わずばっと顔をあげた途端、グウェンダルは一騎を無理矢理自分の方へ引き寄せる。

そして・・・−−。

「落ち着いたようだな」

口の中に優しくて温かいスープの味が広がりそれをこくりと飲み込みながら一騎はぽかーんと相手の顔を見つめていた。

(え・・・ってか・・今、俺何された?)

ぐいっと引き寄せられ顎を掴まれた場所までは分かる。
そのあとは・・そのあとは・・!?

「−−−っ!!」

段々思考が追いついてくると同時に一騎の顔がかぁあああっと赤く染まった。
唇にはまだ柔らかな感覚が残っていて・・・

それはつまり・・−

(え・・っ・・・え・・えぇええええ!?)

完全にパニックに陥っている一騎の様子にはお構いなしにグウェンダルは立ちあがると棚の方へ向かい、なにやらごそごそと捜し物をはじめた。

「まだ名前を聞いていなかったな」

「え・・あ・・・神谷一騎です。」

真っ赤に頬を染めながら答えるとグウェンダルは何かを大切そうに抱えながらベッドへと戻ってくる。

「カズキか・・・いい名だ。・・手を出せ」

「え・・?」

言われたとおりに手を出すとその掌に何かをそっと置かれた。

それは・・・

「・・・えと、犬の・・編みぐるみ?」

真っ白な犬らしき編みぐるみを見てそう尋ねるがグウェンダルは聞こえないほど小さな声で呟いた。

「それはネコちゃんだ」

「ネ・・・っ!?」

その言葉に編みぐるみをもったまま一騎は言葉に詰まった。

(え・・ネコちゃん・・ネコちゃんって事は・・・猫、猫なのか!?いわれてみれば猫だけど・・猫だけど・・!!)

一騎はグウェンダルの中身と外見のギャップにどう反応していいか分からず「・・・確かにネコちゃんですね」と曖昧に相づちを打つ。

結局、彼が自分のファーストキスをグウェンダルに奪われたと気がついたのは数時間後だった。

  • URL:http://yaplog.jp/alicon/archive/62
Comment
小文字 太字 斜体 下線 取り消し線 左寄せ 中央揃え 右寄せ テキストカラー 絵文字 プレビューON/OFF

不正な自動コメント投稿を防ぐため、チェックボックスにチェックをしてください。

利用規約に同意
 X 
禁止事項とご注意
※本名・メールアドレス・住所・電話番号など、個人が特定できる情報の入力は行わないでください。
「ヤプログ!利用規約 第9条 禁止事項」に該当するコメントは禁止します。
「ヤプログ!利用規約」に同意の上、コメントを送信してください。
プロフィール
  • アイコン画像 ニックネーム:冬夜 羅雪
  • アイコン画像 性別:女性
  • アイコン画像 誕生日:1991年10月8日
  • アイコン画像 現住所:東京都
  • アイコン画像 職業:小中高生
  • アイコン画像 趣味:
    ・読書-もちろんアニメ、漫画関係以外読みません。
読者になる
*職業(?)*
蟻枢神破新の総編集長兼販売係という名の自己中心的な(多分)ツッコミ担当というか大声暴走担当。
ツッコむときは相手がどうなろうとかまいません。(というか、相手の生死は関わりません。)(←鬼だ!!)

*特技*
隠蔽工作《?!》どんなもんだろうと隠しとうす自信はあるゼ。
2007年04月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
最新コメント
アイコン画像汁ーんwwwwww
» main (2009年06月14日)
アイコン画像こあぁぱおっふwww
» main (2009年05月12日)
アイコン画像へ?
» main (2009年05月06日)
アイコン画像こけし
» main (2008年10月18日)
アイコン画像じゃぶ
» main (2008年10月04日)
アイコン画像よしと
» main (2008年09月30日)
アイコン画像酢だこ
» main (2008年09月26日)
アイコン画像隙間男
» main (2008年09月25日)
アイコン画像50t
» main (2008年09月23日)
アイコン画像嬉々
» main (2007年08月23日)
Yapme!一覧
読者になる