宮沢賢治

February 23 [Mon], 2009, 15:13
ホモイは急〔いそ〕いで岸〔きし〕にかけよって、じっと待〔ま〕ちかまへました。

 流〔なが〕されるのは、たしかに瘠〔や〕せたひばりの子供〔こども〕です。ホモイはいきなり水〔みづ〕の中〔なか〕に飛〔と〕び込〔こ〕んで、前〔まへ〕あしでしっかりそれを捉〔つか〕まへました。

 するとそのひばりの子供〔こども〕は、いよいよびっくりして、黄色〔きいろ〕なくちばしを大〔おほ〕きくあけて、まるでホモイのお耳〔みゝ〕もつんぼになる位〔くらゐ〕鳴〔な〕くのです。

 ホモイはあわてゝ一生〔いっしゃう〕けん命〔めい〕、あとあしで水〔みづ〕をけりました。そして「大丈夫〔だいじやうぶ〕さ、大丈夫〔だいじやうぶ〕さ。」と云〔い〕ひながら、その子〔こ〕の顔〔かほ〕を見〔み〕ますと、ホモイはぎょっとして危〔あぶ〕なく手〔て〕をはなしさうになりました。それは顔中〔かほぢう〕しわだらけで、くちばしが大〔おほ〕きくて、おまけにどこかとかげに似〔に〕ているのです。

 けれどもこの強〔つよ〕い兎〔うさぎ〕の子〔こ〕は、決〔けっ〕してその手〔て〕をはなしませんでした。怖〔おそ〕ろしさに口〔くち〕をへの字〔じ〕にしながらも、それをしっかりおさへて、高〔たか〕く水〔みづ〕の上〔うへ〕にさしあげたのです。

 そして二人〔ふたり〕は、どんどん流〔なが〕されました。ホモイは二度〔にど〕ほど波〔なみ〕をかぶったので、水〔みづ〕を余程〔よほど〕呑〔の〕みました。それでもその鳥〔とり〕の子〔こ〕ははなしませんでした。


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