この間テレビを見ていたらびっくりした。ミュージシャンの卵を特集する番組なんだけど、制作会社の社員がデスクの上に山になったアマチュアのデモテープを3秒ぐらい聴いてすぐゴミ箱にぽいってするのである。「いやーイントロで僕は堕天使だったって言われてもねぇ」と笑っていたが、いくらなんでもそれはひどいんじゃないの。たしかに「僕は堕天使だった」って言われても知らんがなという気持ちはわかるが、だからといって3秒でゴミ箱行きはあまりにも非人間的すぎるでしょ。 「堕天使だったー」って過去形で言ってるんだからせめて今どうなってんのか知ってやれよ。本人だってそこが一番言いたかったと思うよ。だがその編集、送り手のそんな心情などお構いなしに、ほとんどのデモテープ三秒ぐらいでゴミ箱にぽいしちゃうのである。酷い奴である。きっと友達もいないだろう。しかし、これは音楽業界に限ったことではない。小説の新人賞だって下読みの編集者も、こんな血も涙もないことを平然とやってのけるのだ。僕はちゃんと原稿100枚丹念に読んでるよ、なんてあんなもん嘘である。実際は最初の数ページ、ヘタをしたら最初の数行でおもんなかったらポイ、である。それがもし物凄く歴史に残る名作だったらどうするんじゃコラと罵りたくなるが、彼らの言い分としては冒頭で惹きつけられないようなものは、たいてい先を読んでもたいしたことないというのだ。それはまぁ、わかる。それはわかるけどなぁー。アマチュアが寝る間を惜しんで、しこしこと書きあげた涙の結晶を、お前、お前のさじ加減でよぉ、お前の勝手な判断でよぉ、わずか1ページで、シャッターガラガラガッシャ―ンって下ろされる身にもなってみろよ。「サディスト!」「はげ!」「ケダモノ!」どんな罵り方をしても、納得できるもんではないぞ。
そこで俺は痛感した。少なくとも、小説や音楽も、赤の他人の目を惹くにはイントロ、書き出しが重要なのだということを。そこで今回は俺が個人的に好きな書き出しを列挙する。これを見て、プロがどれだけ書き出しにこだわっているか実感してほしい。と、同時に個人的にダメだとも思う書き出しも同じく列挙するので、自作を振りかえってみてほしい(なんでこんな偉そうなんだ)
・老人と海
かれは年をとっていた。
なんちゅーシンプルな書き出し。肩の力がまったく入ってない。何か奇をてらってやろうとか、読者を驚かせたろうとか、そんな野心いっさいなし。なんか良さげな表現をしてまどろっこしくなるよりは、もうこれだけでいいってことか。
・野火
私は頬を打たれた。
このあと分隊長にめっちゃ怒られる有名な書き出し。しかしいきなり、殴られるところで始まるこのセンス。いい。
・異邦人
きょう、ママンが死んだ。もしかすると、昨日かもしれないが、私にはわからない
母親が死んだときぐらい覚えとけ。
・地下室の手記
ぼくは病んだ人間だ・・・ぼくは意地の悪い人間だ。およそ人好きのしない男だ。ぼくの考えではこれは肝臓が悪いんだと思う。
ルソーの「孤独の散歩者の夢想」における『わたしは地上でたったひとりになってしまった』みたいな、ネガティブな自分の境遇をはっきりと包み隠さず言っちゃうような冒頭。センスは感じないが、ものすごく好き。
・惜夜記
背中が痒いと思ったら、夜が少しばかり食い込んでいるのだった。
読んだ瞬間、「むむっ!?」と前のめりになりそうな冒頭。おいおい最初のイメージだけでさらっと書いちゃってこのあとどうすんだよ、と他人事ながら心配してしまった。
・アメリカひじき
炎天に、一点の白がわきいで、あれよと見守るうち、それは円となり、円のまんなか、振子のようにかすかに揺れうごく核がみえ、一直線にわが頭上をめざし、まごう方なきあれは落下傘、にしてもそのわきいでた空に、飛行機の姿も音もなく、はて面妖なと疑うより先きに、落下傘は優雅な物腰で、枇杷、白樺、柿、椎、さるすべり、紫陽花と気まぐれなとり合わせの、びっしり植えこまれた庭先へ、枝にかかわず葉も散らさず、ふわりと降り立ち、「ハロー・ハウア―ユー」痩せた外人、そうパーシバル将軍に似た毛唐が、にこやかに行った。
長げぇ! 一行が長すぎる。そして・・・言い回しがうざい。『まごう方なきあれは落下傘・・・』くせになって何度とつぶやいたことか・・・ ヘミングウェイに添削されてみろ。たぶん『空からパラシュートで降りたった外人はハローと言った』で終わるぞ。
・平成マシンガンズ
喧嘩と仲直りの規則的な羅列が句点も読点もなくノンストップでただつらつらと続いていくような、そういうお付き合いだった。
説明不要。センスを感じて。
・塩壺の匙
今年の夏は、私は七年ぶりに狂人の父に逢いに行った。
会いにいくなぁ!! そんな親父に会いにいくなぁぁ!!
・ほんたにちゃん
生まれついてこのかた、何よりもかっこいいものが好きだ。ものっつうか、自分? そう、私、かっこいい自分が大、好き、だ。
普通自意識とか、自己愛みたいなもんは作品になるべく出さないようにするもんだ。なるべく客観的に、自己陶酔を見せないために、こっちは色々と苦心惨憺してんのに、その苦労を一瞬にして吹き飛ばすこの冒頭。負けた。この女肝が据わってやがる。もうこの路線を貫いてくれ。
・ダメな書き出し
次はダメな方である。俺が思う個人的にダメな冒頭は「どうでもええわ」となる書き出しである。「昼下がりの海辺は真夏だった」とか「彼の瞳は美しかった」とか「カーテンが揺れている」とか、なんかその先にまったく期待が持てない、どうでもええわってなるような冒頭は、それだけで読む気がしぼんでいく。とくに情景描写。これはやばいぞ。冒頭で情景描写はよほどのことがない限りやめた方がいい。「夏が、汗ぐませた世界もろともに崩れていった」みたいな抽象的な言葉ならなおさら。上を見てもらってもわかるように情景描写はほとんどない(野坂先生の場合、その特殊な文体で上げているが)
書き出しでいいのは、たぶん、どちらからというとネガティブな印象をもってくる冒頭にしたほうが興味を引くと思う。ポジティブなイメージを連想する「綺麗」さとか「好き」だとか「美しい」みたいな言葉がくると、それだけで、なんだがもういいやって気持ちになる。ならない? 俺はなるの。だからようじんしよう。
- ストーリー創作術 |
- URL |
- Comment [0] |



