世界でひとつのプレイブック

February 20 [Wed], 2013, 17:20
『世界でひとつのプレイブック』

【邦題】世界にひとつのプレイブック
【原題】SilverLiningsPlaybook
デヴィッド・O・ラッセル
ブラッドリー・クーパー/ジェニファー・ローレンス/ロバート・デニーロ/ジャッキー・ウィーバー/クリス・タッカー
【脚本】デヴィッド・O・ラッセル
【原作者】マシュー・クイック
【製作者】ブルース・コーエン/ブラッドリー・クーパー
122分
アメリカ

STORY

妻の浮気が原因で心のバランスを崩したパットは、家も仕事も妻も、
すべてを失くしてしまう。今は実家で両親と暮らしながら、社会復帰を
目指してリハビリ中だ。そんな時出会ったのが、近所に住むティファニー。
愛らしい姿からは想像もつかない、過激な発言と突飛な行動を繰り出す
彼女に、振り回されるパット。実は彼女も事故で夫を亡くし、心に傷を抱えていた。
ティファニーは立ち直るためにダンスコンテストへの出場を決意、パットを強引に
パートナーに任命する。人生の希望の光を取り戻すための、ふたりの挑戦が始まった──!



(2013年1月のジャパンプレミア。ブラッドリー・クーパーと黒木メイサ)

知人が既にジャパンプレミアを見ており、ブラッドリー・クーパーの舞台挨拶抜きでも、もう一度見たい、と絶賛していたので、知人からのお誘いは、とても嬉しかったです



病院の集団ミーティングのシーン、退院時にパットの母親ドロレス(ジャッキー・ウィーバー)が車で迎えにくるところから、引き込まれる会話の絶妙なセンス。

法学博士、と後に呼ばれるタッカー(ダニー・ウィーバー)が車に乗り込んできて、戸惑うドロレス。
巻き込まれ型の映画かな?と思ったら、本当にそれぞれの登場人物のキャラクターが濃く、戸惑いながらも引き込まれるインパクトと導入部も見事だと思う。



前の妻の浮気に激怒し、8ヶ月拘束されてもまだ彼女と縒りを戻したがるパットの執念は、本当に元妻を諦めきれない妄執そのもので、接近禁止令をものともしない、パワフルなこだわりぶりが、「躁うつ病」と診断されてしまうのは分かる気がした。

パットを演じるブラッドリー・クーパーが二枚目で女性受けする役ばかりだった今までのイメージを覆し、惨めなまでに、過去にとらわれてしまう男を演じきっているのに、まずは驚かされた。

それだけ、魂がこもった演技は、脇を固める名俳優との共演で、個性を争う演技での水面下の戦いを感じさせるほど、芸達者な役者ばかり。

今年のアカデミー賞で、主演男優・助演男優、主演女優・助演女優賞に4人がノミネートされているのも頷ける布陣と、さらにその脇を固める俳優・女優陣の演技もレベルが高く、久々に満足いく演技を見せていただいた。

(友人の妻がジュリア・スタイルズ、兄がシェー・ウィガム、主治医がアヌパム・カー)



友人(ブレア・ビー?)夫婦に招待されたディナーパーティーで、友人の妻の妹、義妹を紹介される。
一目会った時から、マニキュアの黒、胸元に輝く十字架…(もしかして、ゴス趣味?)
個性的で魅力的な女性、ティファニー。

ディナーで向精神薬やADDの治療薬と思われる薬の話で盛り上がる二人。
すごいマニアックな会話を初対面からする、というのも驚いたが、その後の展開は…(映画で見てください

パットは、セラピーに通いながら最愛の妻から裏切られ、ストーカー扱いを受けている現実をなかなか受け入れられないが、ティファニーはパットと会っている時に

「私は過去を含めて今の自分が好きよ」

と堂々と話す。

特にこのセリフには、心を打たれた。



ある条件を飲む代わりに、ダンスのコンテスト大会に出場することを提案するティファニー。

二人が、最愛の異性を生別・死別問わず別れてしまったのは事実だけど、現実の時間は過ぎていく。

パットが浮気された時に流れていた「My Seryy Amour」が流れると、動揺のあまりセラピーの受付でスピーカーを壊そうとしたり、結婚式のDVDを深夜に探し、「8ヶ月も妻の姿を見てない」と暴れるパットを、身体を張って制止する父親(ロバート・デニーロ)は、真摯に息子に向き合う。



「兄と違って、お前とは一緒に過ごす時間が短かったから(こんなことになったのかな)…」
と心を病んでしまった息子に、すまない、という気持ちと「だから今、出来るだけ一緒にいたい」と打ち明けるシーンは、個人的に泣きそうになった。



個性的な家族で、真っ当な母親がなんとか巻き込まれないよう、絶妙な距離を置いてフォローし、かつまとめている感じ。一つの目標に向かったり、同じ趣味を楽しむ時の結束力は素晴らしかった。

地元や旧チームのファンで、ノミ屋をやっている父親は、「お前は幸運の種だ」と彼を可愛がって大切にする。

日本は世間の目を気にするから、罪を犯して実家に帰ってきた息子に対して、なかなか出来ることじゃないのではないかなぁ。居場所があるだけでなく、周りに受け入れてもらえる安心感は、かなり大きいと思う。

少し変わっているけれど、家族の絆がしっかりしていて、息子が妻の浮気相手を殴って裁判沙汰になっても、受け容れられる器の大きさ。アメリカでも、体裁を気にする家庭もあるから、このままを受け止める、というご両親は本当に素晴らしいと思う。

この家族と、面白い友人達と、何よりティファニーに支えられながら、彼は回復への道をゆっくり歩んでいく。

身体を鍛え、新しいことに挑戦し、規則正しい生活をする。

そして、自分の居場所があって、それを大切に守ってくれる大切な人たちに思いやりを持って接してもらえている。

こんな話はめったにないよ、と思うほど、奇跡的なことなのかもしれない。

だけど、思い切って周りの人たちに心を開いたり、本当に自分が求めているもの、愛すべきものに気付けば、人生はそう悪くないんじゃないか。

家も結婚も仕事も失っても、こうやって周りの人に支えられ、見守られながら、自らも再び力をつけて、前向きに人生を切り開いていくことができたなら、新しい世界と、大切なものに出会えるのではないか。

そんな希望を抱ける、人が再生していくのに必要なことをユーモラスに、テンポ良く描いてくれる、良い映画でした。



中でも、私はティファニーが言ったもう一つのセリフ、

「私はいつも人に尽くしていたけれど、すべてを捧げても(見返りを求めているのとは違うのに)、姉(主導権を取ってやさしい人と結婚している)とは正反対」

の言葉に惹かれた。同性として、幸せになってほしい、と共感しうるセリフ。



たまたまティファニーは、最愛の夫をなくして自暴自棄になっていたけれど、得意のダンスに打ち込んでからは、パットを素晴らしい機転で助けたり、縁起をかつぐノミ屋のシニア・パットにすら、野球データを持ち出して、数字と統計で論理的に説得したりする。

そして、彼のためにつく思いやりからの嘘。

その切なさが、この作品を女性にも、男性にも共感できる映画にしているのだと思う。

精神疾患と言われる人は、私達が本当はしてみたいけど、社会からはみだしたり批判されたり、周りの人の迷惑を考えて、「出来ない」と思っていることをやすやすとやってのけ、時に驚いて巻き込まれる。

けれど、それは純粋で繊細で感受性がとても鋭い、頭の良い人が、現実に起きたハプニングや不条理な出来事、理不尽な現実などに追い詰められて、心や神経を病んでしまうケースがあると思う。

他罰的でなく、自分の人生の責任を取ろうとしながらも、辛い出来事にうまく向き合えない時、一時期落ち込んだり、うつ状態になったりするのは変なことじゃない。近年、やっと鬱病も、誰もがかかる可能性がある病気として認識されてきた。



自己開示し、友達がほしい、という気持ちを素直に出すティファニーに、私は個人的に幸せになってほしい、と願っていた。

また、地元のアメフトチーム、フィラデルフィア・イーグルスを皆応援することで、男性陣が一つにまとまるのも、自分もご贔屓のサッカーチームがあるので、父親を思い出して懐かしく、久々にスタジアムに応援に行きたい、と思いました。



また、ダンスのシーンも素晴らしかったです。トリッキーな構成なのに、二人ともきちんとトレーニングを受けてきたんだなぁ、と思える、選曲も演出も巧いダンスになっていました。

音楽のジョークも個人的にはツボで、アメリカの典型的なタフな主婦(ティファニーの姉)に対応する、やさしいパットの友人のストレス解消法は、映画の中で一番笑えました。

個人的に、スポーツ観賞・ダンスは家族で経験をしていたので、私の中にも、自分を変える何かがあるとしたら、きっとこういう過程を経てやっていけるんじゃないか?と、希望を持てる内容でした。

笑って、時には泣けて、共感して…。感情が久々に揺さぶられた映画でした。

もし、ご興味ある方は2/22の金曜日から公開するので、ご覧になってください。

長くなりましたが、今回は 知人女性が東京独女スタイルさんからご招待されて、この映画を見る機会を得ました。
東京独女スタイルさん、本当にありがとうございましたm(_ _)m