夕ご飯

April 19 [Mon], 2010, 23:00

 時刻は間もなく17時。そろそろ夕食を作らないといけない時刻。リビングのソファーでのんびり雑誌を読んでいた彼にたずねてみた。
「今日の夕飯何がいい?」
「んー?んー・・・・・・んー・・・・・・・・・」
 聞いたはいいが一向にまともなリクエストが返ってこない。唸るばかりの彼に青年が「あーもう」と呆れたように見る。
「そんなに悩むことじゃないでしょ。好きなものとか食べたいものでいいのに」
「だってさ。キミのレパートリーとか作れるもの考えたらものすごーく範囲が狭くなって」
「!〜〜〜だって仕方ないじゃん!料理作るの面白いなって思うようになったの最近なんだから」
 怒ったように言うと彼は「そうだよね」とわかったような顔をして。
「はじめて俺にハンバーグ作ってくれて、美味しいって言ったから料理に目覚めたんだもんね」
「!」
 あっさりと事実を言いのける肉体系イケメンな彼。それは確かにそうだ。事実だがそこまで言ってくるとは思わなく、青年は一瞬にして顔を紅く染めた。それはもう耳まで真っ赤。慌てて後ろを向いてももう遅い。ふふふと笑みを浮かべて彼が背中から抱き込んでくる。
「!離せってば」
「えーやだ。キミのそういうとこ可愛すぎなんだもん」
「だもんとか・・・・・・言うなっ」
 彼よりも若干背も低いしやや細身な青年は持ち前の負けず嫌いで真っ赤になりつつも反抗。といっても顔は決して見せないように掌で隠しているけれど。
「ね」
 そんな青年に彼がそっと耳元に囁く。
 ――――こっち向いて?
 職業柄声はいい。それは恋人である青年もだけれど。
 普段のからっとしたトーンから2人だけの、青年を甘やかす時に聴かせるトーンに変わると。
 びくっとその細身の身体を震わせた。耳朶を甘噛みされるのはとても弱い。
「それやだ・・・っ」
 真っ赤だった顔のことも忘れて正面に向き直る。甘噛みされた方の耳に手を当てながら、睨みつけてくる。とはいえそれすらも彼には可愛いとしか言えないけれど。
「笑うな!ばかっ」
「笑ってないって。やっとこっち向いてくれたから嬉しいだけ」
「〜〜〜俺を怒らせたのはお前だろー!?」
「さっきの?でもホントのことでしょ。俺、すっげー嬉しかったよ。ずっと不摂生してたキミがさ俺のために考えてくれるようになったから」
 仕事の忙しさはハッキリ言って青年の方が大変で、そんな中色々頑張ってくれている健気な姿が彼は嬉しくて。実際のところは緩やかにスケジュールを取っている彼の方が食事を作ることが多くてもオフになると彼のために何か作ってくれようとしてくれる。
 おいで。
 彼がそう言って青年の手を引っ張ると。不可抗力でその身体は彼の座る膝の上に。
「ちょ・・・!」
 恥ずかしがる青年に彼は構わず片手でその腰をしっかりと抱いて空いたもう一方の手で男にしては長めの髪に指を絡ませた。
「久々に2人揃ってのオフだよ。どっかに食べに行くとかは?」
「・・・・・・・・・オフはずっと家でのんびりしようって言った」
 彼からの提案は却下される。普段なかなかゆっくり過ごせないのにどうしてわざわざ外に行くの?とでも言うような目。
「ん。じゃあさデリバリーとかは?」
 また提案すると青年の表情が曇っていく。それはだんだんと泣きそうな顔にもなって。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺の作るご飯、いやなの?」
 拗ねている表情とも違う。悲しそうな眼をして彼を見つめた。
 彼はそんな恋人に「違うよ」と優しく笑う。
「ま、きっとそう言ってくるかなとは思ったけどね。ダメ元で言ったんだ。―――ね、たまにはさ、一緒にご飯作ろう」
「え?」
「せっかくの一緒のオフだよ。何も一人だけで作ることもないでしょ」
「そう、だけど・・・・・・・・・、でもここんとこずっとご飯作ってくれるのは」
「俺だね。だけどそれは好きでやってる。次の舞台はまだ先だけど番組レギュラーは無理ない程度だし、おかげで思い切り稽古できるし仕事が不規則がちな可愛い恋人に料理も作ってやれる」
 ラジオのDJに声の仕事。特にラジオでは生放送もある。かけ持ちの多い仕事量だから家のことはあまりできないのは仕方のないこと。
「一緒に暮らし始めた頃に約束したでしょ。お互い無理はしないでそれぞれのペースを持ちながら歩んでいこうって」
「うん・・・・・・」
「ワーカーホリック気味なところがある点はすぐに直せって言っても無理だろうしね。料理を趣味にするのはいいと思うけどそれが義務感になったら疲れるだけだよ」
「俺、義務なんて」
「うん。今はそう思ってないかも。でもそのうちにキミは思うようになるかもしれない。オフの時には作らなきゃって。せっかくゆっくり休める時間を削ってでも俺に何か作ろうと―――作らなきゃと」
「――――――」
「俺の杞憂かもしれないけどね。でも、2人揃ってのオフの時くらいは一緒にご飯作りもいいんじゃない?」
 膝の上に乗せている彼が身動ぎする。彼の腕から離れようとしたわけじゃない。みっともない顔を見せたくないから彼の肩に顔を埋めた。
 ごめん。
 そんなか細い声。彼の言うことに反論できなかった。このままいったらきっと彼の思う通りになっていたかもしれないと思うから。
「どうして俺ってこう空回りしてんだろ・・・・・・」
「何落ち込んでんの。たいしたことじゃないよ。俺のためにしてくれようって気持ちから始まったことでしょ」
「でも、やっぱバカだ。もーやだ・・・・・・」
「ああもう、落ち込むんじゃないの。こんなことくらいで嘆いてたら先月の俺はもっとどん底だって」
 青年の肩をぽんぽんと子供にするようにあやすようにたたいて。
「ほら。せっかくのオフだよ。俺の好きなのキミに教えてあげるから」
 顔あげてよ、ハニー?
 また彼からの耳元への甘い囁き。ちゅっと小さなキスも耳朶に落として。いつもの青年ならさっきみたいにすぐに真っ赤に怒鳴りあげるところだけれど。さすがにそれは叶わない。優しくぽんぽんとあやしてくれる手の温かさと彼の胸の心地よさにしばらく浸っていたくなってしまったから。耳元へ落ちてくる甘い言葉も恥ずかしくなんて、なくて。それどころかもっと囁いて欲しいだなんて。
 やれやれ。
 彼は困ったように―――――しかし幸せな思いで腕の中の青年を見つめた。今、恋人が何を思っているかも当然見抜いていて、普段はなかなか積極的に甘えてくれないだけにますます愛しさが募る。
「ま。オフだしね」
 夕飯は後回しと参りますかね。
 普段はツンデレ気味の負けず嫌いの恋人。こんな風に全開で甘えてくれる姿は自分の前だけだと思うと顔がにやけてしまってしょうがない。それに早い段階で話をすることもできたのは何よりだった。


「愛してるよ」


 これからもずっと一緒に歩いて年を重ねていきたいから。ささいなことでも無理はさせたくなくて。でも自分のために作ってくれる料理はやっぱり食べたいからそのうち恋人の仕事が落ち着いたら言ってみるつもりだ。とりあえずそれまでは恋人の手料理はお預け。不器用な恋人のためにもオフが一緒の時は色々教えてあげることにしよう―――――。









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