汗ばむ海 

2005年11月23日(水) 22時59分
6月の海は曖昧な表情で見つめている
たとえば砂まみれの新聞紙だとか、傷だらけの女だとかを


彼女は泣いていた


両足を抱えて
ただひたすらそこに座り
去り行く恋人と来る夏に
涙が止まらないらしい


今にも砂に沈みそうだった


くしゃくしゃの心に
くしゃくしゃの存在


さよならだけが人生なのだと割り切ってしまえば楽なんだけど、
どうにも難しいものだね。人を愛するというのはわざわざ自分から
悩みを増やすような行為かもしれないけれど、
それを補って余りあるほど楽しいから、仕方ない。そう仕方ないんだ。


伝えたいけれど伝えられない


もどかしさに海は白波をたてる


6月の海は汗ばむしかなかった。

ギブス 

2005年11月22日(火) 10時36分
拓ちゃんが右の手首を全治2ヶ月の骨折をしたのは3日前の事だった。

「骨が折れたっていうかね、こう、骨と骨の繋がってる部分が
ずれちゃったんだって。」

そう言って拓ちゃんは両手のげんこつ同士をくっつけて
説明してくれる。げんこつが骨の繋がってるところ。
右手はギブスをしているから指先しか見えない。
説明にあまり興味がもてなくて、イスに座ったまま机の向こう側に座っている
彼の白くてザラザラしたギブスを身を乗り出してなでた。

放課後の教室はもう誰もいない。
部活の人達は着替えて出て行ってしまったし、残って勉強する人達は
それ専用の教室が用意してある。2階の理科室の隣だ。
冬は備え付けの暖房の他に電気ストーブが置かれるから、
この学校では校長室と職員室の次に暖かい教室になる。

努力して頑張る人はやっぱり優遇されるよね。

前にあたしがそう言うと、拓ちゃんは少しだけ笑って
そうだね、と言った。
努力して結果が出なくても、努力した事だけでも認めてもらえれば
次に頑張る気持ちに繋がるからね、とも。

拓ちゃんはいっつも先生みたいなことばっかり言う。
黒い短い髪の毛。制服も黒。鞄も黒。
ギブスだけ白い。真っ白で、固くて冷たい。

拓ちゃんは運動部じゃない。ましてやエースで四番でもないし、
右利きじゃなくて左利きだから、そんなに困らなくて良かったね。

黒いカバンに教科書を詰める拓ちゃんの背中に向かってそう呟くと、
また少しだけ笑って そうだね、と答えた。
教科書をきちんと毎日家に持って帰る姿を見ていると、
拓ちゃんも優遇される方の人だと思う。

自分のほとんど空の鞄を肩にかけて、重たい黒い鞄を持ち上げた。

「今日だけあたしが持ってあげる。」

いいよ、利き手は空いてるんだからと言う拓ちゃんを置いて、先に教室を出た。
乾いた冷たい空気。日差しが強くて、夕方なのに朝みたい。
長い廊下の端にあたしたちが居る。
無機質なギブスを首から吊り下げた、隣に拓ちゃんがいる。
ギブスの内側には、ずれて互いにそっぽを向いた骨がある。
白いザラザラの中で彼らは2ヶ月の時間をかけてゆっくり戻っていくのか。

「治る頃には18歳になってるね。」

鞄の重さの分だけ、拓ちゃんの誠実さとか優しさが詰まっている気がして、
なんだか嬉しい。2人で一歩一歩長い廊下を歩く。

もうすぐ季節は冬になる。

煙突 

2005年11月20日(日) 23時26分

「自分の中のルールを守っているなら、好きじゃない人としても問題は無い。」


と、大学で同じ専攻をとっている洋子は言った。
ルールは人それぞれあると思う。
避妊や病気に気をつけるとか、彼女の居る人とはしないとか。

今わたしの隣には彼女がいない男の人がハンドルを握っている。
助手席に座っているわたしも彼氏がいない。
わたしの中のルールでは、まったく問題が無い2人。


昼前の太陽がコンクリートを照らす。進行方向の、ずっと向こう。
赤と白のしましまの煙突が見える。
小さい頃に住んでいた家の窓からもこの煙突は見えた。
背伸びしないと見えない窓から、いつも見ていた。
ぐんぐん空へ向かって行く白い煙。
あと10分くらいこのまま真っ直ぐ走れば、わたし達は煙突の真横を
通り過ぎる。でもそれはできない。
煙突に辿り着く前にホテルに着いてしまうからだ。


2人がこうして会うのは初めてじゃない。
わたしも彼を好きじゃなくて、彼もわたしを好きじゃなくて、
(本当に。ひとかけらも。)
そんな関係の中でする恋人同士の真似事みたいな時間が
すごく愛しいのだ。
頭を撫でるのも抱きしめることも、それ自体は嘘じゃない。
嘘じゃないけれどそこに想う気持ちが絡まっていないだけで
まったく別のものになる。


「窓開けてもいい?」


彼の暑いからといってすぐクーラーに頼らないところが良いと思う。
わたしの髪が風で乱れるのを気にして、
開ける前にきちんと確認してくれるところも。


「うん、いいよ」


走り続ける2人にしましまの煙突はぐんぐん近づいていく。
白い煙はまるであの頃から途切れることなく生まれているみたい。


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