餓死寸前

July 19 [Fri], 2013, 10:13
ベツネックはこの谷間で死を迎えることを覚悟していた。
遠くにインスブルックを見書かす谷間の峠に来たとき、祖
国に帰ってきたという感激と安心感で、突然気を失って倒
れてしまった。行進の足音が遠ざかっていくのを、ペツネ
ックはかすかに覚えているだけだった。
一方、四月二十九日にはダッハウ収容所に、ついに待ち
のぞんでいた米国軍が突入した。監視塔のドイツ兵は抵抗
したが、すぐ掃討された。ドイツ兵たちは意外にあっさり
と自旗をかかげ、降伏した。
米軍が目にしたものは、身の毛のよだつようなおそろし
第二部 晩 秋
い光景であった。餓死寸前の骨と皮ばかりの人たちが、鉄
格子によりかかり、日に涙を浮かべて異様なうめき声を上
げながら、じっと彼らを見つめていた。収容所のあちこち
にころがっている死体の山からは、腐臭がにおっていた。
少しでも歩ける人たちは、それぞれの国の言葉でかすれた
声で万歳を叫び、涙を流しながら米軍兵士を迎えた。みな
生き地獄から紙一重で助かったのである。
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