ソウル・マスター 三話「冒険の始まり」B 

April 07 [Tue], 2009, 21:47
 テットさんとアイラさんがカウンターで注文をお願いして戻ってきたとき、アイラさんは手に地図を持っていた。
「このあたりの地図ですか?」
 注文の定食が来るまでは、可愛いお仕着せの店員が運んできた紅茶をテーブルまで運んできて、味わいながら聞くと、アイラさんは「ええ」と頷いた。
「なんかさ、紅茶のランクが三段階あってさ、それによって、耳寄り情報の内容が違うらしいぜ?」
 テッドさんは、アイラさんが紅茶を三人分注文していたときに、それを聞いたのか、僕にそれを教えてくれた。
「・・・・・・それって、情報料のかわりなのでしょうか?」
「紅茶一杯飲むだけで、その地域の噂話を教えてくれるんなら、安いものじゃないかな?」
「もう二杯、飲める猛者が居るなら、試してむるのも手だけどな」
 じゃあ・・・今度、三人全員違うランクの紅茶を頼めばいいってことですね?」
 互いに顔を見合わせ笑う。
「さきほど、定食を三人分注文している時、マスターからこのあたりは初めてだろっていわれちゃって、特別サービスだって、地図を貰ったんだけど・・・・・・」
 そういって、テーブルの真ん中に両手を広げたより少し広めの紙をアイラさんは広げて見せてくれたけど、僕とテッドさんはご承知の通り、文字が読めない。アイラさんはそれに気付いて、現在地とその周辺の名称をそれぞれ読み上げて言ってくれたが・・・・・・非常に怪しい名称のところが多かった。

ソウル・マスター 三話「冒険の始まり」A 

November 10 [Sat], 2007, 21:37
  アイラさんとテッドさんと僕の三人は、冒険者登録が完了した後、休憩の意味で冒険者ギルドの隣にある、酒場に入った。時間で言えば、そろそろ太陽が右45度ほど・・・つまり、昼食をとるには少し遅いが、それでもまだぱらぱらと店に客が残っている。
 ミイスから出てここにたどり着くまで携帯用の干し肉や乾パンといったもので済ませていたから、折角大きな都市に着たんだ。ちゃんとした食事を取りたい。
「食事するんなら、やはり酒場ですね? 兄さんが言っていました」
「・・・・・・日の高いうちから酒場?」
 僕と同じ疑問を持ったテッドさんの問いに、アイラさんは小さく笑って答えてくれた。
「酒場といっても、お酒を飲むだけのお店っていうのは少ないんですよ? 食事を専門に扱った食堂なんていうのは無くて、日の高い昼間は軽食を、日が落ちた後は酒場をという感じで、かなり長い間店を開けているようです。それでも治安のせいか、真夜中を越すような店は開いていませんけども。兄さんの話では、その町で色々な種類の人が集まる場所でもあるから、様々な情報を得るには、酒場へ足を運ぶといいといっていました」
 テッドさんは納得した様子で頷いて、僕を見る。
「だってさ。とりあえず、食事して、ついでだから今後のことを話そうぜ」
「そうですね、冒険者登録を済ませたのなら、仕事もできるようになるって事でしょう?」
 テッドさんの問いに答えるようにして僕はアイラさんを見た。
「はい。でも、多分わたしたちのような初心者が出来ることは限られていますから、最初は配達など簡単なものしか出来ないと思いますよ?」
 アイラさんのその言葉に、テッドさんはからりと笑った。
「いじゃん、それで。初めから無理な仕事をして怪我するより、配達という名目で様々な場所へ赴いて知ることが出来るならそれに越したことは無いし」
 テットさんの言い分に僕は同意する。
「僕たちは世界をしらなくちゃね。 初めの一歩となる仕事があるかどうか、あとで三人でギルドに見に行こう?」
 アイラさんは大きく頷くと「はい」と答えた。さて・・・まずは、食事だ。

ソウル・マスター 三話「冒険の始まり」@ 

September 02 [Sun], 2007, 20:29
  ディンガル帝国「エンシャント」。僕とテッドさん、アイラさんにセラさんの三人が、ミイスの村を出て初めてたどり着いた場所がそこだった。
 僕とテッドさんにとって異世界の国の首都に初めて足を踏み入れたことになるが、アイラさんにとっても、僕たちと変わらないもの珍しい表情での・・・つまり、周囲をキョロキョロと見渡す行為。
 アイラさんは、ミイスの村から殆ど出たことがなかったから、ここまで多くの人が行き交い様々な店が立ち並ぶ様子は珍しくて仕方がないのだから、お互いに指摘しあって笑ってしまう。が、そんな三人の様子に頓着することなく、さっさとエンシャントの見上げるような城砦を潜ったセラさんは、冷ややかな目で僕たちを一瞥すると「ついてこい」とばかりに、一軒の店の扉を押し開けて入っていった。
 看板の文字は…読めない。
「なんて書いてあるんだ?」
 テッドさんが傍らのアイラさんに聞く。
「冒険者ギルド、って書いてあります。・・・・・・あ、たしか、色々な依頼を受けて仕事をしていくには、登録が必須なんですよ。行きましょう!」
「登録に何か必要なものとかあるのかな?」
 登録にお金が必要なら、もしかしたがあのセラさんに借金しなくてはならなくなる。テッドさんが売り捌いてもらった骨董品でどうにか当座の生活費と旅費は確保したものの、三人分の登録料が賄えるか甚だ不安になる。
「どうだろう、アイラは知っているか?」
「・・・・・・いえ、私もはじめてだからなんとも・・・・・・」
 そんなことを話していると、先に店に入っていたセラさんが顔を出して三人をねめつけた。
「何をぐずぐずしているっ、さっさとしろ」
 言われて僕たちは慌てて店の扉を潜った。

ソウル・マスター 二話「始まりは炎と共に」J 

August 14 [Tue], 2007, 20:22
  あれから僕たちはミイスの村の大まかな掃除に奔走した。ダディアス司祭は自分に構うことなく旅に出るように言ったけど、そうなれば、外へ避難した村人たちがここに帰ってくるまでたった一人で村の復興に従事することになる。
 魔人たちの復活は、世界にとって大きな意味を持っていて、その魁が、この先起こるだろうと思われる動乱を予測させた竜神の咆哮なのだろう。
 旅を再開させたい様子のセラさんに、僕たちは無理を言って、時間を二日貰った。
 魔人・アーギルシャイアは容赦なく村に火を放ち、ことごとく破壊しつくしたけれど、幸いなことに村の一番奥にある神殿と、その神殿に隣接する代々神官たちが受け継いできた住居は無事に残り、村の様子を見に帰ってきた村人たちが、そこを拠点として村の復興に参加した。
 イライラとした様子でありながら復興に手を貸していたセラさんに、僕たちは無理強いしないから旅を再開しても構わないと言ったけど、僕たちとアイラさんがまるっきりの旅の初心者ということを知っていたから、不機嫌ながらも宣言した二日は付き合ってくれて、そうして僕たちはダディアス司祭と戻ってきた村人たちに見送られて未知の旅を始めることとなったんだ。
 アイラさんは父親であるダディアス司祭に、ロイさんのことを聞いたのだろう。顔を強張らせながらも、悲壮な覚悟を胸に抱えていた。それは、どこかセラさんと同種のもののような気がする。
 アーギルシャイアという名の魔人がセラさんの大事なものを奪い、今度はいなくなったアイラさんのお兄さんであるロイさんの手がかりを持っている。
 この二人に付き合いながら旅をするとなるならば、魔人との戦いを想定しなければならない。

ソウル・マスター 二話「始まりは炎と共に」I 

July 15 [Sun], 2007, 21:11
  元凶が去ったことで、僕とダディアス司祭は肩の力を抜いた。だが、油断は出来ない。
「・・・村の様子が心配です」
 テッドさんも買出しに向かったまま、帰ってこない。と、神殿の外が騒ぎになっていることに気付き、僕と司祭は驚いて共に外へ出た。
 そこには、破壊しつくされた機械仕掛けの化け物の残骸と、奇妙な仮面をかぶった・・・・・・。
「……ロイ、さん?」
「ロイ!!」
 戸惑うように声をかけた僕と、悲鳴のような声を上げたダディアス司祭。
「・・・・・・なんて、ことを! その仮面は……っ!!」
「……父上・・・・・・村を、ひいてはアイラを守るためには・・・・・・この方法しか……ぐあああっ!!」
 うめくように頭を抱えて叫んだ後、急に静かになる。
「ア・・・ギル・・・シャイア様……」
 その名は先ほどまで居た妖艶な女の名。ロイさんはその名を呟いた後、姿を消す。
「ロ、ロイ……」
 崩れ落ちるように座り込んだダディアス司祭。やがて…そんな僕たちのところへ、テッドとアイラさん、そして見知らぬ剣士が駆けつけてきた。
 僕は驚いたようにその剣士を見つめる。何故なら、アーギルシャイアと名乗った魔人の女性に良く似た面立ちをしていたからだ。
「聖樹、どうなっているんだ、こちらは!!」
「・・・・・・一難は去りました。ですが、ロイさんが……」
 僕は座り込んでしまったダディアス司祭に手を貸して立ち上がらせると、起きたこと全て語る。アーギルシャイアの話になった途端、見知らぬ剣士の顔色が変わった。
「……くそ、またしても取り逃したということだ……っ!」
 僕は少しその言葉を気にした。だけどその前に、ダディアス司祭を伺う。
「これからどうされるのですか?」
 テッドさんろアイラさんの話によると、村の中も散々な様子だという。張られていた結界も破れて今はうっすらと小物避けぐらいだ。
「外に避難した村人たちが帰ってくるまで、ここを支えることにします。だが、これで魔人たちが動き出したことも確かです。……アイラ」
 呼ばれてアイラさんは兄のことに動揺していたが、気持ちを切り替え、父親のほうへ向き直った。
「当初の予定通り、修行の旅に出なさい」
「ですが、父上、ミイスの村のことは!!」
「大丈夫、私がここで見ている。……テッド殿、聖樹殿、アイラをよろしくお願いします」

ソウル・マスター 二話「始まりは炎と共に」H 

March 15 [Thu], 2007, 21:04
 僕は思わず舌打ちすると、村の中心部に買出しに出たテッドさんの無事を祈りながら目の前の女性を睨みつけた。女性の言葉と、先ほどダディアス司祭がアイラさんやロイさんたちに話していた事……それを脳裏で反復する。
(この村は結界で守られた村だと言っていた。竜の咆哮……十二人の円卓の騎士、魔人……か。つまり、ここに守られている闇の神器は「忘却の仮面」だということか)
「ダディアス司祭、目の前の女性が、十二人の闇の円卓の騎士の一人、と、いうことでしょうか?」
「……聖樹殿、ここは私に任せなさい。そして、この村に魔人が入り込んだことを、ロイとアイラに伝えてください」
 僕は思わず、ダディアス司祭を振り返り、その目を見た。僕を安心させようとする優しい目だが、覚悟を決めている目でもあった。僕は一つ苦笑すると首を横に振る。
「駄目ですよ、ダディアス司祭。僕が、何故ここに来たと思っているのですか? ここに来なくちゃ駄目だと思ったからです。……あなたをここに残せない」
 僕は再び正面を見た。
「僕は諦めない。……そして、諦めないで挑む限り、運命は目の前に新しい道を作るんです」
 僕は、トンファを構えたまま、女性の出方を見る。
「ダディアス司祭は『知らない』そうです。お帰りください」
「何を馬鹿なことをいっているのかしら、坊や」
「自分の意見が通らないからといって、簡単に暴力に出る人に、何を話せというんですか?」
 僕の動じない様子が気に食わなかったのか、整った端正な容貌が不満げに歪んだ。
「…………生意気な子ね! いいわ、きれいに二人とも殺してあげる! その後で情報は死体からきけばいいんだもの!!」
 女性は、軽い足取りで地を蹴ると、中空に留まり、僕とダディアス司祭に向かって両手を突き出した。途端、炎の本流が、僕たちを襲う。だが、僕は凍りついたように立ち尽くしたダディアス司祭を背に庇ったまま、中空の女性を見据えて笑った。
 僕たちのところまで炎が迫ったとき、前もってかけておいた大地の紋章の、守りの天蓋が発動し、光り輝く幻の蔦が、僕とダディアス司祭を包み込んで炎から守り通した。

ソウル・マスター 二話「始まりは炎と共に」G 

February 21 [Wed], 2007, 20:47
 僕が神殿に入ると、ダディアス司祭は神の偶像に祈りを捧げているところだった。
 僕は、その姿を見てホッとする。だが、気は抜けない……デュナン統一戦争で何度も危機一髪に遭遇し、切り抜けてきた僕は、多分その経験から「直感」だけはやたらと磨かれていた。その直感が言うのだ。まだ、油断は出来ないと。
 僕が神殿に入った事に気付いたダディアス司祭は、振り返った。
「おや、どうしたのかな、聖樹どの」
 僕はダディアス司祭の傍に注意深く近寄りながら、周囲を見渡した。
「可笑しいと笑ってくださって構いません」
 僕の言いように、ダディアス司祭は不思議そうに、瞬いた。
「聖樹どの?」
 僕は、ダディアス司祭を背にしながら、僕は左の紋章を掲げると、左手の甲が淡く輝く。世界が違い、使えなくても可笑しくないのに、こうやって紋章の魔術が使えるのは、世界の創造に関わった紋章を右手に宿しているからだろうか? 理由は後で考えるべきだろう。
「一応、念のために防御の術を張らせていただきます。『守りの天蓋』」
 驚くダディアス司祭と僕の周囲に、淡く輝く蔦のような植物が、ぐるりと囲んでふわりと消えた。
「……今のは?」
「大地の力を借りた防御障壁です。……僕の世界での魔法のようなものなのですが……っ」
 その時、天上付近の割れたガラス窓から一つの影が落ちてきた。
「あら、また邪魔者ね?」
 際どい衣装をまとった一人の女性が、怪しげに笑う。
「私は私の管理すべきものがここにあると聞いてきたのよ? 渡してくれないかしら」

ソウル・マスター 二話「始まりは炎と共に」F 

November 23 [Thu], 2006, 18:00
「……動乱、ですか……」
 思わず僕はため息をつくと、与えられた宿泊している部屋で思わずそう零した。
「さすがに、な。いまいちピンとはこねぇけど」
 僕のつぶやきに答えるようにして、テッドさんは窓の外の景色を眺める。
 穏やかな景色が、切り取られた窓枠の向こう側に広がっていた。
 先ほどの地震が嘘のような、そんな光景が広がっていて、談笑する近隣の村人たちやら、傍で遊んでいる子供たちを見ていると、司祭の言葉を笑って流せそうな気もする。
 と、僕とテッドさんの視線の先に、軽装とはいえ剣を所持してどこかに出かけるアイラさんとロイさんの姿があった。
 少し緊張している様子ながらも、迷うような足取りはしていない。
「そういえば、村の警護もしているんだったな?」
「今から向かうのでしょうか」
「だろうな、あの様子だと」
 僕は視界から二人が見えなくなるまでその背を見送っていたが、ふとザワリといやな予感を覚え、部屋の隅に置いてある僕の武器のトンファを手にした。
 テッドさんはおどろいた様子で、僕を見る。
「おい?」
「嫌な予感がします……」
 僕の言葉に、テッドさんは理解できないとばかりに首をかしげた。
「……どうした」
「予感だけで、ハッキリ、コレと言えないのですが、落ち着かないんですよ?!」
 無意識のうちに二の腕に鳥肌が立っていた。
「一応、ダディアス司祭に僕は会いに行きますが、テッドさんはどうされますか?」
 テッドさんは真顔で僕を見つめた後、ひとつため息をついた。
「冗談ではないみたいだな? 虫の知らせってやつかも知れねぇぜ? ……俺は、そうだな? 旅をするんだろ? どうせ。なら早めに準備しておいたほうがいいと思うから、道具屋で何かを仕入れ…あ、お金がねぇぞ」
 テッドさんの言葉に僕は笑うと、僕の荷物があるほうへ視線を向けた。そこには、ここに飛ばされたときに共にきた荷物がある。僕は元々城を出て、天山の峠に行くつもりだった。そこは約束の地で、分かたれてしまった親友・ジョウイと再会を硬く誓った場所だ。
 その天山の峠に行くには徒歩だけでも数日かかる。一応携帯食や薬などをその袋に纏めて入れてあるが、戦争中の様々な場所へ赴いたときに手に入れた交易品も小振りなものは入れていた。
 気に入っているんだけど……まぁ、戻ればまったく手に入れることが出来ないとはいえないものだしね?
 そう思って、僕はその袋から和皿や置物やらを数点取り出すと、目を丸くするテッドさんに手渡した。
「これ、道具屋で売り払ってその売上金で、薬やらその他必要なものは揃えてきてください」
「……いいのか?」
 遠慮が見えるテッドさんに、僕は承諾する意味で頷くと答えた。
「先立つものはあるにこしたことはありません」
 テッドさんは一度断りを入れると、大きく頷いて部屋を飛び出した。

ソウル・マスター 二話「始まりは炎と共に」E 

September 18 [Mon], 2006, 21:55
 ダディアス司祭とアイラさん、そしてロイさんと今後のことを話そうとしたとき、世界が大きく揺れた。
「な、なんだっ!?」
「地震ですか?!」
 窓に嵌められていたガラスが砕け、僕達は動揺して声をあげる。アイラさんも戸惑った様子でこけない様に体制を維持して頭を庇っていた。
 どこかで鋭い獣の咆哮を聞いた気がする。
 その地震は長く続くことがなかったが、地震が収まり、顔を上げるとロイさんとダディアス司祭が深刻な表情で話し合っているようだった。
「……父上、もしかして今のが……?」
「ああ、そうだ。あれが竜王の目覚めだ」
 僕達の隣で聞いていたアイラさんは、その言葉を聴いて顔を蒼白にした。
「アイラさん、今の地震って意味があるのか?」
 アイラさんは初めは兄であるロイさんと父であるダディアス司祭の話に気を取られていたようだったが、この世界の事情を知らない僕達が困惑しているのに気がつくと「はい」と答えて囁くように教えてくれた。その間にも、ロイさんとダディアス司祭の話は続いている。
「この世界に残された神は竜の姿を取っています。邪竜と聖竜、そしてその竜たちを纏め上げる竜王を含めて七匹。特に神の代理人とも言われる竜王は、普段は深く眠っていますが、口伝によれば世界の平穏を乱す存在が現れ、動乱の時代に突入しようとしたとき、覚醒すると言われています」

ソウル・マスター 二話「始まりは炎と共に」D 

June 11 [Sun], 2006, 8:08
  ダディアス司祭の眼差しと言葉。何より自分たちの成長を願い信じる心を受けて、僕とテッドさんは互いを見て頷いた。テッドさんの手は決意を新たにするかのように硬く拳を作り、振り返った僕をしっかりと見返し頷く。次に僕たちを見守るように見つめるアイラさんとそのお兄さんであるロイさんを見た。アイラさんは自分も当事者なこともあり、声に出さず「がんばりましょう」と言葉を作った。
 ロイさんは妹であるアイラさんを暖かな眼差しで見つめ、次に僕たちの視線を受けて「信じている」とでも言わないばかりに大きく頷いてくれた。
「聖樹」
「ん?」
「俺たちは、帰るんだ」
「はい」
「でも……さ。どうせならここという世界に関わったことを糧にしたい」
 僕はテッドさんを見て笑った。
「そうですね? ……帰った時に、笑ってこの世界を話せるように、成長もしたいですね」
 前向きな僕の言葉に、テッドさんはからりと笑った。
「一人でこんなわからねぇ場所に放り込まれたんなら、今頃途方にくれている。でも、俺とお前は場所は違っても……もしかしたら、生きていた時間さえ異なっていたとしても、同じ世界から来たんだ。それはとても心強いことだし、何より完全な孤立や孤独からは無縁だということだ」
 同意できる言葉だった。
「何より、あれだ。……向こうとの柵から一時でも解放されるわけだろ? ……俺も、まぁ……ちょっと抜き差しならねぇ状況に陥っていたから、どうせならこちらで経験したことが、少しでも帰った時に打破できる力となっていたら、と、考えるとな? 猶予を貰えた感じで気合も入る」
「そうですね? 僕もそういう意味ででしたら、こちらの生活も目標が帰る以外にも持てて頑張ろうという気になります」
 僕たちは互いに手を差し出し硬く手を握った。
「親友は、あの世界に居るから、親友とはよべねぇけどな?」
 テッドさんの言葉に僕は笑った。
「僕もあの世界に親友が居ます。ですから、お互い様ですよ」
「じゃあ、親友でもなく、友達という枠組みの中に入れられるくらいの現在の状況が変化したときまでに、俺と聖樹の関係に名前をつけるとか」
「……友達でいいんじゃないですか?」
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  • アイコン画像 ニックネーム:abura
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 九州出身、妖怪で言えばカッパの生息地が詳細な住処。ご近所には三大怨霊の一人を祭った天満宮がある。(※非常に地元では慕われているが関東圏では未だに恐れられている某雷神様)妖怪を含めた和物全般に愛を注ぐ。・・・・現在は導かれたように鶴の恩返しのような職業についている(伝統工芸)が、両親は陶芸家の道に進めたかったらしいことが少し前に判明。
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