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2009年02月12日(木) 13時56分
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私海空が作ったいろは歌 第1首~第10首(48文字 重ね字無し) 

2009年02月12日(木) 11時55分
いろは歌第1首(48文字 重ね字無し)
 さくらつきよや むかふしま             あはれ ゆめおい へぬるみに            ほろと なちりそ ゑひもせす            うゐのわたえを けてこねん       (桜月夜や 向島                   あはれ 夢老い 経ぬる身に             ほろと な散りそ 酔ひもせず            有為の腸江を 蹴て捏ねん)  


  ### 「向島(むかふじま)」=むこうじま。東京都墨田区の一地区。もと東京市三十五区の一。隅田川と荒川放水路とに挟まれた江東北部の地。もと東郊の景勝地で、墨堤(ぼくてい)の桜、百花園、三囲(みめぐり)神社・白鬚(しらひげ)神社・長命寺、花街、遊廓など江戸情緒が今に息づいている。 「あはれ」=感動詞。讃嘆、悲哀などのしみじみとした感動をあらわし発する語。ああ。 「経(へ)ぬる」=下二段活用動詞「経(ふ)」{=経(へ)る。}の連用形「経(へ)」+完了の意の助動詞「ぬ」の連体形「ぬる」。時をおくってしまった。生きすごした。 「な散りそ」=「な・・・そ」は、どうぞ・・・してくれるな、の意。 「有為(うゐ)の腸江(わたえ)」=弘法大師空海のいろはうたにみえる‘有為(うゐ)の奥山(おくやま)'とは、無常のこの世を、越すに越されぬ深山、嶮嶽にたとえた。我海空は、腸(はらわた)を蜿(う)ねこねる川流に寄(よそ)えて、断腸、捻腸のおもひ、と援(ひ)いた。 「蹴(け)て」=下一段動詞「蹴る」の連用形+接続助詞。(桜咲き、散るあわれが、はらわたを、胸腔・心腔を)蹴って。


いろは歌第2首(48文字 重ね字無し)
  つきにふね すみたのはるや さくらひと       こそうゑしゆめ ちりなむも             あほせ おろかよ われへゐて            えんまをいけぬ             (月に船 墨田の春や 桜人              去年植ゑし夢 散りなむも              阿呆世 愚か世 我経居て              閻魔を埋けぬ)

### 「墨田(すみだ)」=東京都二十三区の一。隅田川と荒川放水路に挟まれた地。旧本所区と向島区が合併。 「桜人(さくらびと」=隅田公園などに、花見に訪れている人々。 「去年(こぞ)」=昨年。きょねん。 「植ゑし」=ヤ行下二段動詞「植ゆ」{=植える}の連用形+過去の助動詞「き」の連体形「し」。植えた。 「なむも」=「なむ」は、きっと・・・であろう。「も」は、逆接の意の接続助詞。・・・けれども。 「経(へ)」=「経(へ)る」の文語形「経(ふ)」の連用形。生き過ごして。
「閻魔(えんま)」=亡者(もうじゃ)の罪に判決を下すという地獄の王。笏(しゃく)を持ち、中国の道服を着て、怒りの相を表した姿でえがかれる。もとインド神話中の神で、祖霊の王。 「埋(い)けぬ」=「埋(い)く」{=埋(う)める}の連用形+完了の意の助動詞「ぬ」。


いろは歌第3首(48文字 重ね字無し)
よさくらの うしろにはへる やみゆれて       をめきこゑせり ねかたそむ             あふもえぬひと いますつち             おほなゐわけん            (夜桜の 後ろに侍る 闇揺れて           喚き声せり 根方染む                会ふも得ぬ人 坐す土                大地震分けん)


  ### 「侍(はべ)る」={四段動詞}{宴席などで、客の傍にひかえる。あるいは、ラ変動詞「侍(はべ)り」{「這(は)ひあり」の約。神仏、天皇、貴人の御側近くに仕える者は、両手をついて伺候したのによる語。おります。おられる。「喚(をめ)く」=(人の命魂を喰らうという、桜鬼が)声高くさけぶ。わめく。 「せり」=サ変動詞「(す)」の未然形+完了の助動詞「り」・・・している。 根方(ねかた)」=桜の木のねもと。 「染む」=色がつく。そまる。 「会ふも得ぬ人」=死んでしまって、もうこの世では会えないひと。 「坐(いま)す」= 「在る」「居る」の尊敬語。おいでになる。いらっしゃる。 「大地震(おほなゐ)分けん」=桜の木の辺り、地中に眠る人々の御骨たちを、大地震が揺すり別けるであろうか。{「地震(なゐ」=「な」は土地、「ゐ」は居の意という。大地。「揺(よ)る」「(震(ふ)る」を伴って用いられ、地震の意を表すとされる。


いろは歌第4首(48文字 重ね字無し)
はなよしの さくらやうかん いもせみて       すきたるゆめを こひにけり             おろゐへぬれと つまそゑむ             あわちほえねふ             (花吉野 桜羊羹 夫婦見て              過ぎたる夢を 恋ひにけり              雨露居経ぬれど 妻ぞ笑む              泡血吠え老ぶ)



  ### 「桜羊羹(さくらやうかん)」=桜弁を凝(こご)らせた、奈良県吉野の銘菓。「けり」=その事実に初めて気がついたことを詠ずる助動詞。・・・たのだなあ。「雨露居(おろゐ)」=「雨(お)」は雨の一音。 この辛いの、雨風や霜露をしのぶようなふたりの来し方、いとなみ。 「経(へ)ぬれど」=下二段動詞「経(ふ)」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の已然(いぜん)形+逆説の接続助詞「ど」。月日を送ってきたが。生き抜いてきたけれども。 「笑む」=強意の係助詞「ぞ」による係り結びで、連体形である。 「老(ね)ぶ」=バ行上二動詞。盛りを過ぎる。


いろは歌第5首(48文字 重ね字無し)
 おほかはに さくらのとけて ゆめつきよ       いもせたちそひ うまやへり             ろあしえすゑぬ なみをふね             われこむるゐん              (大川に 桜の溶けて 夢月夜             夫婦立ち添ひ 厩(橋)縁              艪脚え据ゑぬ 波小舟                我籠むる院)


  ### 「大川(おほかは)」=東京都を流れる隅田川の、吾妻(あずま)橋より下流を称う。「「厩(うまや)」=隅田川の架橋の一、厩橋のこと。「艪脚(ろあし)」=櫓を漕(こ)ぐ時、艪の水中に浸る部分。櫓箆(ろべら)。 「え・・・ず(ぬ)」=・・・できない。 「波小舟(なみをぶね)」=波にただよう小舟。{この夫と婦のこの世の漾相(ようぞう)を・・・} 「院(ゐん)」=逢瀬(あふせ)の舟が‘院'なのであろうか。



いろは歌第6首(48文字 重ね字無し)
えうていの さくらをるよは むねつふれ       すきにしゆめも ほろとちり             あたなそやまぬ こひゑせん             わかみゐへおけ             (妖体の 桜居る夜は 胸潰れ             過ぎにし夢も ほろと散り              徒名ぞ止まぬ恋怨ぜん                我が身帷へ置け)


### 「妖体(えうてい)」=(枝垂れ桜の)あやしくなまめくさま。 「徒名(あだな)」=男女の関わりについてのうわさ。 「怨(ゑ)ぜん」=「怨(ゑ)ず」{=怨(うら)む}の未然形+推量の助動詞「ん(む)」。うらんでいるのであろう。 「帷(ゐ)」=周囲にめぐらす垂れ幕。とばり。


いろは歌第7首(48文字 重ね字無し)
さくらなきをる むかふしま             こそいぬひとの えたにゑみ             あすはわれやも うちおほゆ             ねめゐてよろけ へつりせん    (桜泣き居る 向島{むこうじま=東京都墨田区)   今夜去ぬ人の 枝に咲み 明日は我やも      打ち覚ゆ 睨め居て蹌踉け 別離せん)
  ### 「向島」=むこうじま。{(隅田川の向こう岸に島のように見えたところからという。}東京都墨田区、隅田川東岸にある地名。郊外の景趣に富み、墨堤の桜、百花園、牛島神社・長命寺などが知られた。 「今夜(こぞ)=こんや。 「去(い)ぬ」=きえてなくなる。しぬ。 「の」=・・が。 「咲(ゑ)む」=咲(さ)く。 「打ち」=下にくる動詞の意味を強めたり、語調をととのえたりする。 「おぼ(おぼ)ゆ」=自動詞ヤ行下二段動詞自然にそうおもわれる。・・・と感じられる。 「睨(ね)め居(ゐ)て」=(人の命魂を喰ってさくのであろう桜を)睨(にら)んで(たたずんで)おり。 「蹌踉(よろ)け」=カ行下二動詞「蹌踉(よろ)く」{「よろよろ」の「よろ」の動詞化。}の連用形。よろよろして。 



いろは歌第8首(48文字 重ね字無し)
 つきのけはひて さくらいろ             われをやゑする まなこゐに             うそとりもほゆ よしふみせ             えんたちあへぬ おめかねむ       (月の化粧ひて 桜色                 我をや怨ずる 眼居に          鷽鳥も吠ゆ 余執見せ                縁絶ち敢へぬ 御妾睨む) 

  ### 「の」=主格の助詞。が。 「化粧(けは)ふ」=化粧をする。 「我(われ)をや怨(ゑ)ずる」=私を怨(うら)んでいるのだろうか。「怨(ゑ)ず」は、「ゑんず」の「ん」の無表記。うらむ。うらみごとをいう。 「眼居(まなこゐ)」=まなざし。 「鷽(うそ)」=アトリ科の鳥。 「余執(よしゅう)」=仏語。心をとらえて離れない執着(しゅうちゃく)。「・・・敢(あ)ふ」=・・・しつくす。 「御妾(おめか)」=めかけ。「睨(ね)む」=睨(にら)む。


いろは歌第9首(48文字 重ね字無し)
せとうちに さくらたひみる よあけかな       おきつこしまへ ふねやりて             いめゆれゑはむ すもほえぬ             そのわろをゐん              (瀬戸内に 桜鯛見る 夜明けかな           沖つ小島へ 舟遣りて                夢揺れ酔はむ 洲も吠えぬ              祖の我を率ん)   


  ### 「桜鯛(さくらだひ」=桜の花の盛りの頃、産卵のため内湾の浅瀬にみられるタイ。花見鯛。ちなみに、作者の亡父は、讃岐(香川県)丸亀の生。 「つ」は、「の」。 「夢(いめ)」={「寝(い)の目」の意。}「ゆめ」の古形。 「酔(ゑ)はむ」=酔(よ)っているのだろうか。 「洲(す)」=海などの底に土砂が堆積し水面上に現れたもの。 「吠(ほ)えぬ」=「ぬ」は完了の意の助動詞。ほえている。 「祖(そ)」=本首にて、作者海空の先祖、はらから。 「の」は、主格。が。


いろは歌第10首(48文字 重ね字無し)
そめゐよしのと いふをみな             さくらはけたり にせかえん             うきおほやまも あすへこゆ             ちゑひつるむわ ねろぬれて       (染井よし乃 と云ふ女                桜化けたり 二世が縁                憂き大山も 明日へ越ゆ         血酔ひ交むわ 嶺ろ濡れて)

  ### 「染井よし乃(そめいよしの)」=ソメイヨシノは、江戸末期、染井の植木職人が広めた吉野桜に由来。本首にては、それを擬人化し、作者由来の
天命麗女に肖せた。 「女」=「をみな」。「おみな」は嫗・媼(老女。おうな。)。 「二世(にせ)」=現世と来世。この世とあの世。 「憂き大山」=弘法大師空海のいろはうたの{有為(うゐ)の奥山}に掛けてみた語。常無く憂いおお(多)き、脱するに難きこの世を深山、峻嶮(しゅんけん)たる山々と、たとえる。 「血酔(ゑ)ひ交(つる)むわ」=「酔(ゑ)ふ」は、「酔(よ)う」の古語。 「つるむ」は、つるぶ、つがふ、とも。重意。「わ」=詠嘆、感動の終助詞。 「嶺(ね)ろ」=上代の東国方言。峰(みね)。ね。

私海空が作ったいろは歌 第11首~第30首(48文字 重ね字無し) 

2009年02月11日(水) 21時57分
いろは歌第11首(48文字 重ね字無し)
さくらのいろに ゆきそふる             おもひかやまを たとりてむ             われうちこえし あゐねゑみ             はんけつせめぬ なほよへす       (桜の色に 雪ぞ降る                 思ひケ山を 辿りてむ                我打ち越えし 藍峰笑み               半月責めぬ なほ酔へず)

  ### 「思(おも)ひケ(が)山(やま)={思ひ川=思いが深く絶えないことを、川にたとえていう語。例:思ひが淵(ふち)、有為の奥山(他出)}などに掛けた作者の言葉。 「辿(たど)りてむ」=「てむ」は、完了の助動詞「つ」の未然形+推量の助動詞「む」。必ず・・・しよう。 「半月(はんげつ)」=弦月。弓張り月。 
                                                                                                                                        いろは歌第12首(48文字 重ね字無し)
つるきあめ むかれしさくら とろになり       よみちへいぬや ほえうせん             わてふゑはのけ ねをゐひす             こそもまたおゆ
  (剣雨 剝かれし桜 泥になり          黄泉路へ去ぬや 吠え失せん            吾てふ餌ば除け 声を萎靡す             今夜も又老ゆ)



  ### 「剣雨(つるぎあめ)=あたかも、桜の花びら(=化現した人々)の顔膚を剝(は)ぎ取るかのごとくに降り寄せる烈雨。 黄泉路(よみぢ)」=黄泉{死後、魂が行くとされている地下の界。}へ行くみち。 「吾(わ)てふ餌(ゑ)ば除(の)け」=「てふ」は、‘ちょう'と読み、・・・というの意。 餌ばは、「餌食(ゑば)み」の略形。鳥や獣魚のえさ。 私という(花弁にするための)えさ、を獲り逃がして。 「萎靡(ゐび)」=おとろえしおれること。 「今夜(こぞ)」=こんや。 「老(お)ゆ」=(上二段動詞)年よる。年とる。おいる。

いろは歌第13首 (48文字 重ね字無し)
うへのやま さくらむれゐて あなおとろ       ゆめふるきをり そこゑたち             ほによひもせし いはんねす             わかえみつけぬ             (上野山 桜群れ居て あなおどろ           夢降る木居り 素声(=こえ)立ち          本に酔ひもせじ 五晩寝ず              我が枝見つけぬ) 

  ### 「上野山(うえのやま)=東京都台東区西部にある桜の名所。 「あな」=感動詞。ああ。 「おどろ」=「おどろし」の語幹。感動の意を表す場合、感動詞とともに用いる。 「夢降(ふ)る木」=花びらが、一場一場の夢うつろう、花弁に化現した人のホログラフィーの如く散り降る桜木。「素声(そごゑ)」=実に声という、声。実声。 「立ち」=(声が)おこり。して。 「本(ほ)に」=本当に。「見付けぬ」=下二段活用「見付(みつ)く」の連用形+完了の助動詞「ぬ」。(
                                                                    いろは歌第14首(48文字 重ね字無し)
ひさくらといて おにかけり             えんまこほろき つふしぬる             そのゑをゆめみ なれたやす             わもゐねちあへ はようせむ       (緋桜溶いて 鬼描けり                閻魔蟋蟀 潰し塗る                 その絵を夢見 汝絶やす              吾も胃捻ぢ敢へ 早失せむ)

  ###  「緋桜(ひざくら)」=ヒカンザクラなどのことではなく、当首にて、‘緋のいろの桜'てふ意。「鬼(おに)描(か)けり」=(桜の花びらの汁で)鬼の絵姿を描いた。 「汝(なれ)」=汝(なれ)。おまえ。 「吾(わ)」=代名詞。われ。わたし。 「敢(あ)へ」=「敢(あ)ふ}(下二段)の連用形。すっかり・・・して。 早(はよ)=「はよう」の転。はやく。 「失(う)せむ」=きえてなくなるだろう。


いろは歌第15 (48文字 重ね字無し)
さくらよつ あかいとゆはへ てふたちぬ       にせをまひなむ えんのやみ             ほねもすりめる そこゑきけ             うゐおろしわれ             (桜四つ 赤糸結はへ 蝶立ちぬ            二世を舞ひなむ 縁の闇               骨も磨り減る 素声聞け          有為颪破れ )


  ### 「桜四つ」=散ってしまった桜の花びら四枚。 「赤糸」=縁(えにし)の赤いいと、きずな。 「結(ゆ)はふ」=下二段動詞。むすぶ。 {桜四つ…蝶立ちぬ」=縁でむすばれた花弁が蝶に姿を変化(へんげ)して、ぱっと飛び現れた。} 「二世(にせ」=現世と来世。 「なむ」=連語。・・・にちがいない。 「磨(す)り減(め)る」=「磨(す)る」は、こする。すりへらす。「減(め)る」は、へる。おとろえる。 「素声(そごゑ)」=声と聞きつかめる、実に、声という声。 「有為颪(うゐおろし)破(わ)れ」=有為の奥山(弘法大師空海のいろはうた参照)より吹きおろす風も尽き、、。


いろは歌第16 (48文字 重ね字無し)
さくらもち あかひてわふる なきおやの       はしへにたつを まゐりえぬ             よむゑんろみゆ ことねけす             いめほそれうせ             (桜餅 購ひて侘ぶる 亡き親の            橋方に立つを 参り得ぬ              誦む円顱(=剃髪した頭。僧。)        見ゆ 琴音消す 夢穂(=夢の先        の部分)逸れ失せ) 

### 桜餅(さくらもち)=和菓子の一。小麦粉を練って作った焼皮に、餡(あん)を入れて塩漬けの桜の葉で包む。当歌では、作者の生地・向島、長命寺門前の店製。 「購(あか)ふ」=「あがふ」とも。買い求める。 「侘(わ)ぶ」=さびしくおもう。「亡(な)き親」=作者の亡父。 「橋方(はしへ)」=「方(へ)」は、あたり。ほとり。 「参(まゐ)り得(え)ぬ」=(かなしばりにあったように)進み行くことができない。 「誦(よ)む」=経文(きょうもん)を読誦(どくじゅ)する。 「円顱(ゑんろ)」=剃髪(ていはつ)した頭。僧のこと。 「見ゆ」=見える。 「琴音(ことね)」=それまで界隈の遊廓あたりから聞こえていた奏琴の音。 「夢穂(いめほ)」={「夢(いめ)」は上代語。「寝目(いめ)」の意。}夢の先の部分、端尾。夢から現つ(うつつ)への変わりぎわ、か。 「逸(そ)れ」=「逸(そ)れる」の文語形「逸(そ)る」(ラ行下二段活用)の連用形。方向からはずれて。別のほうへ向かい。 


いろは歌第17首 (48文字 重ね字無し)
さくらそみぬる わかちしほ             はなゑむおとに いろあせて             うゐのゆめやま けふをえす             へよりつねもれ きひたんこ        (桜染みぬる 我が血潮                花咲む音に 色褪せて                有為の夢山 今日を得ず               屁より常漏れ きび団子)



### 「染(そ)みぬる」=「染(そ)む」{=色がしみこむ。感化される。そまる。}の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連体形。 「咲(ゑ)む」=咲(さ)く。 有為の夢山=弘法大師空海の作とされるいろはうたにある「有為(うゐ)の奥山(おくやま)」{=無常な(常(つね)無き)この世を脱することの難しさを、道もなき深山にたとえた語。}へ、作者海空が洒落たことば。 「常(つね」=「無常」の対。「きび団子(だんご)」=キビの実の粉で製しただんご。きなこ(黄な粉)などまぶして食べる。


いろは歌第18首 (48文字 重ね字無し)
おとろしや ひうのさくらを きるよかな       あまねゆすりつ こゑたてぬ             わへほえゐれは ふみもせん             いけちにそめむ             (おどろしや 飛雨の桜を 斬る夜かな         雨音揺すりつ 声立てぬ               吾へ吠え居れば 踏みもせん             池血に染めむ)
               ### おどろし=恐るべきようすである。おどろおどろし。「や」は、感動・詠嘆の助詞。「飛雨(ひう)」=風まじりの烈しい雨。「の」=主格。(飛雨)が。「吾(わ)へ吠え居(ゐ)れば」=私にむかって吠えているので。


いろは歌第19首 (48文字 重ね字無し)
さくらやま えにしのをぬへ とめゆけは       ゑんゐふすねろ うたつきて             こひかいほあれ ちみもわせ             よるそおりなむ            (桜山 縁の小沼へ 尋め行けば            円位伏す嶺ろ 歌尽きて              恋ケ庵荒れ 魑魅も座せ              夜ぞ降りなむ)



### 桜山=本首にて、奈良の吉野山。 円位=歌人西行の法名。 嶺ろ=「ろ」は接尾語。峰。 魑魅=魑は化け物、魅は物の怪(け)の類。座(わ)す=「おわす」の音変化。いらっしゃる。 なむ=強意。


いろは歌第20首 (48文字 重ね字無し)
しろみのゆにて さくらめつ             われへまひよる あをきとり             たなうちふむも えんやおす             ほこゑはせいぬ そねゐかけ       (城見の湯にて 桜愛づ                我へ舞ひ寄る 青き鳥                掌踏むも縁や押す                 百声馳せ去ぬ 十峰居掛け)


# # # 城見の湯=兵庫県姫路なる。掌=たなうら。手のひら。縁や押す=えにしをおしえているのだろうか。十峰居=「居」は、すわる意。十の峰のある地。本首にて、兵庫県、姫路の某域。


いろは歌第21首 (48文字 重ね字無し)
はなまとに さくらのかけそ たつねをる       やれふうりんも ゆめこひて             しほみちぬへき わろおいす             あゐえよせゑむ            (花窓に 桜の影ぞ 訪ね居る             破れ風鈴も 夢恋ひて                汐満ちぬべき 我老いす               藍衣寄せ笑む)




いろは歌第22首 (48文字 重ね字無し)
さくらのち かよふをとめも いろあせて       ひつきへぬれは やまおんな             ほゆるねこゑそ えにしけり
        ゐむうみわたす           (桜の血 通ふ乙女も 色褪せて            日月経ぬれば 山嫗                 吠ゆる寝声ぞ 縁蹴り                違夢産み渡す)


### 経(へ)ぬれば=ハ行下二動詞「(ふ)」の連用形「経(へ)」+完了の助動詞「「ぬ」の已然形「ぬれ」+接続助詞。幾歳月 経(た)ってしまったから。 「嫗(おんな)」={「おみな」の転}老女。おうな。 


いろは歌第23首 (48文字 重ね字無し)
さくらめてあき おにたつね             なんちみそむる よしのとふ             やまはうこかす われもせぬ             ほろえへいをゐ ゑひゆけり      (桜愛で飽き 鬼尋ね                 汝見初むる 吉野訪ふ                山は動かず 割れもせぬ               襤褸衣(ぼろえ)病を率              酔ひ行けり)


# # # 襤褸衣=ぼろぬのの衣服。乞食(こつじき)としての身。病(へい)=漢音。「びょう」は呉音。 率(ゐ)=ワ行上一段動詞「率(ゐ)る」の連用形。つれて。


いろは歌第24首 (48文字 重ね字無し)
さくらかすみの やまへきて             あひよふとりそ つれわたる             こんせなしえぬ ゆめゑはむ             をろちねおにも ほいうけゐ
    
(桜霞の 山辺来て                  相呼ぶ鳥ぞ 連れ渡る                今世成し得ぬ 夢餌食む               遠呂智峰 鬼も本意承け居)


  ### 餌食(えば)む=マ行四段動詞。鳥や獣がえさを食う。峰(ね)=嶺。山の頂上。みね。 例:「真白き富士の・・」。 本意(ほい)=「ほんい」の撥音無表記。ほんとうのおもい。 承(う)く=カ行下二動詞。うけとめる。


いろは歌第25首 (48文字 重ね字無し)
 さくらへにひき ゆりかもめ             おほはしわたる そうつこふ             ゑんせいやます なみとよむ             あゐをのねちけ ろえぬれて       (桜紅引き 百合鷗                  大橋渡る 僧都恋ふ                 婉声止まず 波響む                 藍緒の拗け 絽衣濡れて)


  ### 百合鷗=古来うたわれる「みやこどり」は、この種をいう。くちばしと脚が赤い。 僧都(そうず)=僧綱(そうごう)の一。僧正の次位。 響(とよ)む=ひびく。 藍緒=藍色の鼻緒。 拗け=カ行下二段動詞「拗(ねぢ)く」の連用形。 絽=からみ織りの一。



いろは歌第26首 (48文字 重ね字無し)
こんしきの さくらたつねて いそちなる       われゆめをとす おにやはむ             へよりほゑうみ まひあけぬ             ろかせふもえゐ            (金色の 桜訪ねて 五十路なる            我夢を吐す 鬼や食む                屁より火絵産み 舞ひ上げぬ             魯迦葉燃え居)






### 鬼や食む=(吐いた夢を)鬼が喰ってしまうのだろうか。火絵=ほのお、でつくる絵すがた。 迦葉(かしょう)=釈迦(しゃか)十大弟子の一人。  



いろは歌第27首 (48文字 重ね字無し)
さくらうまれて ひとのしに             ちいろおふるや すみたかは             あへなきゆめを ぬりそむわ             こけつもほえゐ よねゑせん
  (桜生れて 人の死に                 血色帯ぶるや 隅田川                敢へ無き夢を 塗り染むわ              孤月も吠え居 夜音怨ぜん)




### 敢へ無し=もろくはかない。 孤月=さびしげにみえる月。 怨(ゑ)ず=サ行変格活用動詞。「ゑんず」の「ん」を表記しない形。うらむ。うらみごとをいう。




いろは歌第28首 (48文字 重ね字無し)
さくらのかけに あしはまれ             ころひてみゆる おんきやうそ            なゐねふりよせ めつをわへ             いもすゑむと ほえたちぬ       (桜の影に 足食まれ                 転びて見ゆる 鬼形ぞ          大地舐(ねぶ)り寄せ 馬頭(めず)を吾へ      婦据ゑむと 吠え立ちぬ)
  ###  なゐ=「な」は土地の意。地。転じて、地震。 舐(ねぶ)る=なめる。しゃぶる。   据ゑむ=「据う」(ワ行下二段)の未然形+意志を表す助動詞「む」。(鬼のもとに)とどめはべらせる。



いろは歌第29首 (48文字 重ね字無し)
さくらにほへし きみかはた             いろこそうつれ ちもあせて             ゑひぬるゆめの すえなむわ             おんねとまゐり やふをよけ     (桜匂へし 君が肌                  色こそ移れ 血も褪せて               酔ひぬる夢の 饐えなむわ              御寝所参り 藪を避け)


### 匂ふ=下二段動詞。「匂へ」は、連用形。美しく色をそめて。色こそ移れ=「色移り」の係り結び。「こそ」は、強意の係助詞で、この助詞が受ける語を特に取り立てる。係る活用語を已然形で結ぶ。(「移り」→「移れ」)。「饐え」=下二段動詞
「饐(す)ゆ」の連用形。(飲食物が腐って)すっぱくなって。「なむ」=完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」に、推量の助動詞「む」の付いた形。動詞の連用形に接続して未来の推量などの意を表す。・・・てしまうだろう。きっと・・・するだろう。「わ」=詠嘆・感動の終助詞。


いろは歌第30首 (48文字 重ね字無し)
みることいのち きえうせて             あたかさくらに なりぬれは             ゑむもおそまし ねよめつす             ゐをんやほろふ ひわへゆけ
  (見る毎命 消え失せて                仇が桜に なりぬれば                咲むもおぞまし 根枝滅す              遺怨や滅ぶ 日輪へ行け)


### 仇=かたき。 咲(ゑ)む=マ行四(五)段動詞。花がさきはじめる。 おぞまし=ぞっとするほど、いとわしい。 枝(よ)=えだ。一説に、花びらとも。 や=係助詞。名詞、活用語の連用形・連体形、副詞・助詞などに付く。疑問・反語等を表す。・・・(だろう)か。・・・だろうか(いや、そうではない)。日輪=太陽の異称。

私海空が作ったいろは歌 第31首~第50首(48文字 重ね字無し) 

2009年02月06日(金) 0時28分
いろは歌第31首 (48文字 重ね字無し)
さくらにそんて おいぬるを             うゐのたろやま こえもせす             わかよつねなき ゆめけふり             ほとみちあれは ひゑむへし      (桜に染んで 老いぬるを               有為の多漏山 越えもせず              我が世常無き 夢煙                 仏道有れば 陽笑むべし)


###  染んで=「染みて」の撥音化。 を=逆接の接続助詞。・・・けれども。有為=仏教で、因果関係によってこの世に生じたり滅したりする、すべての存在や現象。例:「有為の奥山=無常の現世を深山にたとえた語」。 「漏(ろ)」=仏語。漏(も)れでるけがれ、煩悩(ぼんのう)をいう。 「仏」=「ほと」は「仏」の転、(「け」は「気」の意か)。 べし=可能の意の助動詞。・・・できるはずである。


いろは歌第32首 (48文字 重ね字無し)
えんにちや さくらわたあめ ねふりゐて       なきひとこへは よるもゆれ             せいけつのゑみ かほぬすむ             をうまおそろし
   (縁日や 桜綿飴 舐り居て              亡き人恋へば 夜も揺れ               清月の笑み 顔盗む                 滃魔恐ろし)


### 桜綿飴=桜色のわたあめ。 舐り=なめて。顔盗む=(亡き人の)顔にみえることだ。「滃(おう)」=雲霧の気の盛んなさま。



いろは歌第33首 (48文字 重ね字無し)
さくらやまめす ひとのはる             いろこそうつれ あきたけて             よゑせむふゆに ちりぬへし             みもねわかなを おんほえゐ
   (桜山召す 人の春
      色こそ移れ 秋長けて                世怨ぜむ冬に 散りぬべし              身も寝 我が名を 鬼叫え居)


### 召す=「飲む」「食べる」意の尊敬語。こそ=意を強める係助詞。文末の活用語尾を已然(いぜん)形{うつり→うつれ}で結ぶ。 怨(ゑ)ず=うらみ言をいう。 鬼(おん)=おん(隠)の音変化という。


いろは歌第34首 (48文字 重ね字無し)
ふるさくら へうたんいけの かめとりぬ       あをもこきませ ゆれゑなす             みつにひやしろ おちはえて             ほわそよねゐむ            (降る桜 瓢箪池の 亀取りぬ             青藻扱き混ぜ 揺れ絵成す              水に緋社 落ち映えて                火輪ぞ夜音率む)



### 瓢箪池=東京都墨田区・隅田公園にある牛嶋神社社殿前の池。 亀取りぬ=主語は亀である。「降る桜を、瓢箪池の亀が取っている」。 扱き混ぜ=下一段動詞「扱(こ)き混(ま)ず」の連用形。かきまぜて。 揺れ絵=水面につくる花藻のもよう。 火輪=水面に映る逆景の燈火。「率(ゐ)む」=「率(ゐ)る」{ひきいる}の未然形「率(ゐ)」+意志の助動詞「む」。



いろは歌第35首 (48文字 重ね字無し)
とほきさくらの けむりやま             おにかふてなる いろゑみゆ             はよちこそぬれ へんうすし             わもゐえをたせ あひねつめ      (遠き桜の 煙り山                  鬼が筆なる 色絵見ゆ                早血こそ塗れ 弁淡し                吾も率 枝を足せ 相根摘め)


### 鬼が筆なる色絵見ゆ=鬼が描いたとおもわれる色遣いの桜景色がみられることだよ。 早(はよ)=「はよう」の音変化。はやく。 血こそ塗れ=(私の)血を塗り加えよ。弁淡(うす)し=花びらの色がうすい(から)。「率(ゐ)」=「率(ゐ)る」{=つれていく}の連用形。「相」=は、ともの、の意。



いろは歌第36首 (48文字 重ね字無し)
さくらいちりの ゆめつきよ
    かはふねやるも なれゑひて
      おにあまたわす とこそほけ
        へみしろうせむ ぬえをゐん
   (桜一里の 夢月夜
      川舟遣るも 汝酔ひて
        鬼数多座す とこそ惚け
          蛇し弄せむ 鵺を率ん)



### 遣る=漕いで進める。 も=逆接の意の助詞。・・・けれども。汝=代名詞。二人称。おまえ。 酔(ゑ)ひ=ハ行四段動詞「酔(ゑ)ふ」の連用形。酔って。  数多(あまた)=多数。「こそ」=強意の係助詞。文末の活用語尾を已然(いぜん) 形{惚(ほ)く=知覚が鈍化する。ぼんやりする。⇒惚け}で結ぶ。 座(わ)す=「おわす」の音変化。いらっしゃる。「し」=上の語を強意する副助詞。 弄す=サ変動詞。もてあそぶ。「せむ」は、「弄す」の未然形の活用語尾+話し手の意志や決意を表す助動詞「む」。 「鵺(ぬえ)」=とらつぐみ(虎鶫)の異名。 率(ゐ)ん=ひき連れて行こうとする。






いろは歌第37首 (48文字 重ね字無し)
さくらちる あはれをしのふ みやことり
    ゆめかきよせて ひにそまむ             おほなゐもゑす うろねたえ             けつわんへいぬ            (桜散る あはれを忍ぶ 都鳥             夢掻き寄せて 緋に染まむ              大地震も怨ず 虚声絶え               血湾へ去ぬ)


### 都鳥=ユリカモメの異称。 緋=茜(あかね)で染めた色。あけ。また、火色。 染まむ=「染む」の未然形+推量の助動詞「む」。 地震(なゐ)=「な」は地、「ゐ」は居の意。地盤。大地。転じて、地震。 怨(ゑ)ず=「ゑんず」の撥音無表記。「怨ずる」に同じ。うらむ。 虚声=うつろな鳴
きごえ。湾、は江戸湾である。



いろは歌第38首 (48文字 重ね字無し)
さくらかり よそちふみわけ えにしぬま       あひてうきねの いもせはな
      をろゐたへむや ほとつれん             おめこすゑゆる            (桜狩 四十路踏み分け 縁沼             会ひて浮き寝の夫婦花                悪露居耐へむや 仏連れん              御目 木末揺る)



### 桜狩=桜の花を訪ね歩いて賞美すること。四十路=よそじ。縁沼(えにしぬま)=いろは歌第十九参照。 浮き寝=定まった宿もないままに眠ること。 耐へむ=「む」は推量の意の助動詞。・・・であろう。や=疑問の意の助詞。仏=「ほとけ」は、仏(ぶつ)の音変化「ほと」に、目に見える形の意の「け」の付いた語。 御目=仏のまなざし。



        


いろは歌第39首 (48文字 重ね字無し)
さくらかやみよ つきこめて             せんりのいもそ おほろなる             にしたちぬれと えゆひあふ             ねゐまうけすは わへゑむを     (桜蚊帳三夜 月籠めて                千里の婦ぞ 朧ろなる
       西風(にし)立ちぬれど 枝結ひ合ふ
         寝藺設けずば 吾へ笑むを)


### 千里=はるか遠き。寝藺=敷いて寝るための花むしろ。ずば=打消しの順接仮定条件を表す。もし・・・なかったら。笑むを=「を」は、逆接の確定条件を表す接続助詞。・・・けれども。・・・のに。




いろは歌第40首 (48文字 重ね字無し)
さくらうれしや おほかはの             みつにゑむよも いろそます             ゆめせきあへぬ けふひなり             こちえんをゐる わたねとて       (桜うれしや 大川の
      水に咲む夜も 色ぞ増す
        夢塞き敢へぬ 今日日なり              東風縁を率る 曲音とて)


### 塞き敢へぬ=おさえて我慢できない。



いろは歌第41首 (48文字 重ね字無し)
さくらおに ひとをはみたる ふせいなり       かうへあつめて ちのやまそ             ぬゐねむきころ                  ほけしえすゑよ わもゆれん       (桜鬼 人を食みたる 風情なり            首蒐めて 血の山ぞ                 野猪眠き頃                     惚けし枝末よ 吾も揺れん)


### 食(は)む=動物などが、食べ物をかむ、また、飲み込む。「たる」=動作・作用の継続・進行を表す助動詞「たり」の連体形。・・・ている。 野猪=野生のいのしし。「野(ぬ)」=「の(野)」の上代東国方言。また、(現在「の」の甲類音を表す万葉仮名とされる「怒」や「努」などを、後世、特に江戸期「ぬ」と訓んだところから生じた語)=の(野)。「惚けし」=カ行下二段動詞「惚(ほ)く」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。ほつれ乱れた。揺れん=桜木に咲く花びらとなって枝に・・        



いろは歌第42首 (48文字 重ね字無し)
さくらえひかふ はなまちの             おとよこけたり にいぬほゆ             めしろむれゐて へみもせる             わそうきやんす あをねつゑ      (桜海老買ふ 花街の                 お豊転けたり 丹犬吠ゆ               目白群れ居て 蛇も競る               和僧来やんす 青根杖)


### 桜海老=海産のエビ。食用。花街={かがい(花街)の訓読み}遊郭。いろまち。当歌では、作者の生地、東京・向島とする。 お豊=町娘の名。 「転(こ)け」=下二段動詞{転(こ)く」の連用形。ころび。 丹犬=あか芝。 目白=メジロ科の
鳥。目の周囲に白いふち取りがある。「へみ(蛇)」=「へび(蛇)」の古形。 競る=互いに勝ちを得ようとしてあらそう。和僧=僧侶に対して、親しみ、または軽んじ卑しめる気持ちで用いる語。和院。 「やんす」=助動詞。活用語の連用形に付き、尊敬などの意を表す。 青根=青根山。奈良県吉野の金峰山(きんぷ(ぶ)せん=修験道の根本道場という)の北東にある。


いろは歌第43首 (48文字 重ね字無し)
ふりしさくらを きぬにつめ             むちんゆへとも やみのうろ             まよひゐあかす われなえて             ほねゑるおそけ こたいはせ      (降りし桜を 絹に詰め                夢枕結へども 闇の洞                迷ひ居明かす 我萎えて               骨抉る怖気 五体爆ぜ)



### 夢枕=福夢を見られるというまくら。居明かす=寝ずに夜を明かす。「抉(ゑ)る」=えぐる。怖気→おぞけ。「爆(は)ぜ」=ザ行下二段動詞「爆(は)ず」の連用形。われて、とび散って。




いろは歌第44首 (48文字 重ね字無し)
さくらかや ゑみひろこりて つきぬへは       うすちにそまむ あめのした             えをれねもゆる けいんとふ             おほなゐわせよ             (桜蚊帳 咲み広ごりて 月縫へば           薄血に染まむ 天の下                枝折れ根も揺る 怪音訪ふ              大地震和せよ)


### 「咲(ゑ)む」=さく。広ごる=「広がる」に同じ。訪(と)ふ=おとずれる。 和せよ=サ変動詞「和す」の命令形。和すは、ある音響や調子{=怪音}が、他の音響や調子{=地震の轟音}と調和する。



いろは歌第45首 (48文字 重ね字無し)
さくらたつねて むかふしま             おきやのゐへに こほれぬる             はなみそをゑひ ちいろあせ             ゆめともえけり わようんす      (桜訪ねて 向島                   置屋の井辺に 零れぬる               花溝を酔ひ 血色褪せ                夢と燃えけり 汚世倦ず)



### 向島=作者生誕の地。遊郭の名残り、粋筋の界区。置屋=芸者、遊女らをかかえる家。 井辺(ゐべ)=井戸のあるあたり。 「花溝を」=花が、みぞ(側溝)を。 「倦(うん)ず」=うんざりする。


いろは歌第46首 (48文字 重ね字無し)
さくらかひ こそのすまほて われうけし       あきたちぬるや いろはおつ             ふみをせむめり ゑもんなゆ             えとへにゐねよ            (桜貝 去年の須磨浦で 我受けし           秋立ちぬるや 色は落つ               文を責むめり 絵紋萎ゆ               江戸辺に率寝よ)


### 桜貝=海産の貝。色彩・形が桜の花弁に似ている。須磨=神戸市西部、須磨区南部の地域。 「は」=ある事柄を他と対比、強意する係助詞。 絵紋=桜貝にあらわれた図柄。「萎ゆ」=「萎える」の文語形。「率寝(ゐね)よ」=ナ行下二段動詞「率寝(ゐぬ)=終止形」の命令形。 連れて行き共寝をせよ。



                                         

いろは歌第47首 (48文字 重ね字なし)
さくらいれすみ ぬりゑける             わかむねとふや あをきたつ             まよひこそはめ えにしおへ             ほんちのろうて ゐゆもなせ      (桜刺青 塗り絵着る                 我が胸飛ぶや 青き龍                迷ひこそ食め 縁追へ                奔馳の漏討て 慰癒も為せ)



### 着(け)る=ラ行変格活用動詞「着(け)り」の連体形。着ている。奔馳=かけ走ること。奔走。 漏(ろ)=煩悩(ぼんのう)。 慰癒=なぐさめいやすこと。 


いろは歌第48首 (48文字 重ね字無し)
 みやことり さくらふすまへ しつむかな       おほろよのえん たけぬるに             われねゐをはひ せめいそき             あてゑうちもゆ            (都鳥 桜衾へ 沈むかな               朧ろ夜の宴 闌けぬるに               我寝藺を這ひ 攻め急ぎ               艶絵打ち燃ゆ)

  ### 都鳥=ユリカモメのこと。 衾=寝る折に、体に掛ける夜具。 闌(た)く=盛りの状態になる。「ぬるに」=完了の「ぬ」の連体形+動作のきっかけの意の格助詞。 寝藺=イグサの花むしろ。 艶絵(あでゑ)=いろめいてなまめかしいありさま。 「打ち」=接頭語。後の動詞{この場合、「燃ゆ」}の意を強める。



いろは歌第49首 (48文字 重ね字無し)
あつまはし わたるおんなの さくらそて       ふねうちみやり ゑむかほに             よひもきえいぬ せめゆけす             ことへゐろをれ            (吾妻橋 渡る女の 桜袖               舟打ち見遣り 笑む顔に               酔ひも消え去ぬ 責め行けず             言舳為艫折れ)




### 吾妻橋=隅田川の架橋の一。 桜袖=桜模様の袖。「打ち」=接頭語。動詞{この場合、「見遣る」}に付き、その動作を強意する。 「去(い)ぬ」=さる。 「責(せ)む」=積極的にはたらきかける。 「舳(へ)」=船の先端部。へさき。 「艫(ろ)」=船の後尾部。とも。「言」および「為」に「言行」を配意、とした。


いろは歌第50首 (48文字 重ね字なし)
なにはのさくら つきそめて             やみひいろたる むかふしま             ちもうれ えねぬ ほとりゆゑ            あんゐをわけす へおこせよ      (浪花の桜 月染めて                 闇緋色たる 向島                  血も熟れ え寝ぬ 熱りゆゑ             安位を綰げず 瓮遣せよ)




### 向島(むこうじま)=東京都墨田区の地名。作者出生の地。隅田川東岸に位置し、百花園・長命寺等がある。 「浪花の…・向島」=(君も大阪で眺めている)月を桜の色が染めて、(こちら東京・
向島は)夜の闇がその色を映して緋の色に染まっている、の意とする。 「え(得){寝ぬ」=「え」は副詞{動詞「う(得)」の連用形から}。下に否定の表現を伴って、不可能の意を表す。・・・できない。ねむれない。「寝ぬ}=「寝(ぬ)」の未然形「寝(ね)」+「ぬ=打ち消しの助動詞「ず」の連体形「ぬ」が終止形にももちいられるようになったもの」。 熱(ほと)り=あつくなること。熱気をおび
ること。 安位=執着などを離れた無心、自由な境地。 「綰(わ)ぐ」=ガ行下二段動詞。{「わ(輪)」の動詞化で、輪にする、曲げるが原義か}たわめまげる。 「瓮(へ)」=酒などをいれる器。 「遣(おこ)せよ」=サ行下二「遣(おこ)す」の命令形。こちらにおくってこい。よこせ。

天界池園 

2009年02月02日(月) 10時29分

御訪問桜 

2009年02月02日(月) 10時08分

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私海空が作ったいろは歌 第51首~第75首(48文字 重ね字無し) 

2009年02月02日(月) 9時46分
いろは歌第51首 (48文字 重ね字無し)
てんにさくらそ むかふしま             おいのみよへぬ ゆめはなひ             ほねやれうする こゑもきけ             わろちあせたり つとゐをえ      (天に桜ぞ 向島                   老いの身酔へぬ 夢花火               骨破れ失する 声も聞け               我ろ血褪せたり つと畏悪得)



###  花火=本首にて、隅田川花火大会。 破(や)れ=下二段動詞「破(や)る」の連用形。裂ける。こわれる。 失(う)する=下二段動詞「失(う)す」の連体形。なくなる。 声(こゑ)=花火の音(あるいは、その背後の・・・・・)。 「我(わ)ろ」=自称の代名詞。「われ(我)」の上代東国方言か。一説に、代名詞「わ」に接尾語「ろ」の付いたものとも。 「褪(あ)せたり」=「褪(あ)す」は、色がさめる。容色、情熱などが衰退する(天に桜が咲いたので・・・・・・・)。 「つと」=副詞。さっと。ふと。 急に。 「畏悪(ゐを)=おそれ、と悪寒(をかん)。「得(ゑ)」=ア行下二段動詞「う(得)」の連用形。得て。あたえられて。




いろは歌第52首 (48文字 重ね字無し)
さくらもや こまかたはしに みをるなり       ゆめちそひゐて つきのふね             あほせけぬれと うろよへす             おんえいゑむわ            (桜靄 駒形橋に 見居るなり             夢路添ひ居て 月の船                阿呆世消ぬれど 有漏酔へず             鬼影笑むわ)



### 桜靄=(遠方からの)靄(もや)のように見えるさくら景色。 駒形橋=隅田川に架かる橋。吉原遊廓への船着場があった。 夢路(ゆめぢ)=夢の中で行き通うみち。 月の船=月下にゆく花見船。 「消(け)ぬれど」=下二段動詞「消(く)」の連用形「消(け)」+完了の助動詞「ぬ」の已然形「ぬれ」+逆意の「ど」{・・・けれども}。 有漏(うろ)=「漏(ろ)」は煩悩(ぼんのう)の意。仏教語。迷いや執着があること。また、その人。⇔無
漏(むろ)。 「鬼影」=「鬼」は、「おん(隠)」が変化したものといわれ、人の目に見えないものの意という。「わ」=終助詞。文末の活用語の終止形を受けて感動を表す。   





いろは歌第53首 (48文字 重ね字なし)
さくらをにそみ はるうつり             われふしぬへき のねとかな             ゆめもよろほひ すちこせん             またゐやあけて おいえゑむ     (桜緒に染み 春移り                 我臥しぬべき 野寝所かな              夢も蹌踉ひ 筋濾せん                又畏夜明けて 老い枝笑む)



### 緒(を)=魂をつなぐもの。いのち。玉の緒。「染み」=マ行四段動詞「染む」の連用形。そまって。 臥(ふ)す=やまいにふせる。「ぬべし」=推量の意を添える連語。きっと・・・してしまうだろう。蹌踉(よろぼ)ふ{古くは「よろほふ」}=よろめく。たおれかかる。筋=夢の、あらすじ。すじみち。 濾(こ)す=濾過(ろか)する。畏夜=おそろしいよる。 笑む=咲く。




いろは歌第54首 (48文字 重ね字無し)
しにもせす さくらとんたふ こちのよひ       おほかはへいて つきみやる             えねぬうまをり なれゑむわ             めそけ ゐろあゆ          (死にもせず 桜丼食ぶ 東風の宵           大川へ出で 月見遣る                え寝ぬ馬居り 馴れ笑むわ              目削げ 遺漏落ゆ)





### 桜丼(さくらどん)=馬肉のどんぶり物。 東風(こち)=春、ひがしから吹いてくるかぜ。 大川=隅田川の吾妻橋付近から下流の通称。 「え寝ぬ」=どうしても眠れぬ。 「馴れ笑むわ」=(獣・
鳥などが人に対して)警戒心や敵愾心をもたなくなって、笑っておるわい。 「目削(そ)げ」=眼窩がえぐれて。 遺漏(ゐろ)=煩悩(ぼんのう)の遺(のこ)り。 落(あ)ゆ=零(あ)ゆ。(汗や血などが)したたりながれる。


いろは歌第55首 (48文字 重ね字なし)
  むかふしま さくらほりぬる おにのゐて       よわきをたすけ あいとなへ             ちえうみ ろつれ ゑひもせん            そはやねめこゆ           (向島 桜彫りぬる 鬼の居て             弱きを助け 愛唱へ                 血枝生み 漏連れ 酔ひもせん            蕎麦屋睨め越ゆ)



### 向島=作者の生地。 彫りぬる=彫り物をしている。 血枝(ちえ)=桜枝。 漏=煩悩(ぼんのう)のこと。睨(ね)む=にらむ。蕎麦屋(そばや)=旧寺島町にあった作者ゆかりの店。 越ゆ
=(またぎ)越える。




いろは歌第56首 (48文字 重ね字無し)
まんけつに ゑさくらみむと こもりゐる       かしのいほすて たひへうせ             えなれぬゆめそ ねわきおふ             あはや よろちを          (満月に 絵桜見むと 籠もり居る           河岸の庵捨て 旅へ失せ               え熟れぬ夢ぞ 峰分き追ふ              あはや 蹌踉路を)



###  河岸(かし)=本首にて、日本橋浜町河岸。 庵(いほ)=草木、竹などでつくった(満月の夜に絵のような桜景色をみるための) こや。 「え」=得。下に打ち消しの語を伴い、・・・できないの意。 「熟(な)る」=味がよくなる。うれる。 峰分(ねわ)き=峰々をおしわけて。 あはや=感動詞。驚いたときや、危ういときなどに発する語。 蹌踉(そうろう)=ふらふらとよろめくさま。「よろぢ」は、「よろめき」と「四十路(よそぢ)」、「五十路(いそぢ)」、六十、七十・・・・、としゃれた。 「を」=間投助詞。文末にあって、活用語の連体形または体言を受け、詠嘆をこめる。 


いろは歌第57首 (57文字 重ね字なし)

  さくらちり やなきそひをる ゆふつかた       あめのしろはみ よすいこね             えんほけぬれと おまへゑむ             うゐせもわにて           (桜散り 柳添ひ居る 夕つ方             雨の白ばみ 淤水捏ね                縁惚けぬれど お前笑む               有為世も和にて)





### 夕つ方=「つ」は「の」の意の格助詞。ゆうがた。白ばむ=しろっぽくなる。しらばむ。 淤水=どろみず。 「惚(ほ)く」=はっきりしない状態になる。「有為」=仏教で、因果関係によってこの世に生じたりしたりする、すべての存在や現象。{有為の奥山=無常の現世を深山にたとえた語。} 和=ここでは、よりをもどすこと。仲直り。「捏(こ)ね」=土などに水を加えて練り。 惚(ほ)く=はっきりしない状態







いろは歌第58首 (48文字 重ね字なし)
あをおにの さくらしつかい はまむとす       われたちこえん ゆめみやよ
      ゑひてなほうき ゐろそふる
        ねへもりけせぬ            (青鬼の 桜悉皆 食まむとす             我絶ち越えん 夢君よ
    
    酔ひてなほ憂き 遺漏ぞ降る             寝屁漏り消せぬ)



### 悉皆=残らず。食(は)まむとす=喰おうとする。君(みや)=遊女のことか。なほ=なお。 漏(ろ)=仏語。漏(も)れ出るけがれ・・・、煩悩(ぼんのう)をいう。 寝屁(ねべ)…消せぬ= 夢の闇に降る浮世の漏の遺(あまり)は、寝屁の数となりもしょう。


いろは歌第59首 (48文字 重ね字なし)
  さくらなきそむ すみたかは             あのよへまゐる ちおひいつ             ゆめとけゑせん てふもほえ             われにこをぬり ろうやねし
   (桜泣き染む 隅田川                 あの世へ参る 血帯出づ
        夢解け怨ぜん 蝶も吠え
          我に粉を塗り 朧夜熱し)


### 隅田川=東京都東域を貫流する荒川の下流をいう。勝鬨(かちどき)橋から千住大橋まで十六の橋が架かる。 「怨(ゑ)ぜん」=サ変動詞「怨ず」の未然形+助動詞「ん」{推量の意の「む」の音変化。うらむのであろう。 粉(こ)=(本歌にて、揚羽蝶の鱗粉(りんぷん)。 朧夜=おぼろづきよ。 「熱(ね)す」=サ変動詞。「ねっす」の促音無表記。ねっする。


いろは歌第60首 (48文字 重ね字無し)
さくらはひ てふになりぬる あたしよや       つきかこゑみゆ いけのおも
   そうめをとちゐ ねほれます
     むろへせわえん
  (桜這ひ 蝶になりぬる 徒し夜や
     月が声見ゆ 池の面
       僧目を閉ぢ居 寝惚れ坐す
         無漏へ世話得ん)




### 「這ひ」=四つんばい、腹ばいになって。「ぬる」=完了の助動詞「ぬ」の連体形。 徒(あだ)し=名詞の上に付き、むなしい、の意を加える。 「が」=格助詞。「の」に同じ。 「寝惚れ」=下二段「寝惚る」の連用形。ねぼけて。 坐(ま)す=在(ま)す。おいでになる。 「無漏(むろ)」→第五十二歌を参照。


いろは歌第61首 (48文字 重ね字無し)
さくらのてふに なりぬるよ              うすきえんとそ たちあへむ
      ゆめやみをはひ つゑもほし
        わかれおろけゐ いまこねせ
   (桜の蝶に 成りぬる夜
      薄き縁とぞ 絶ち敢へむ
        夢闇を這ひ 杖も欲し
          別れおろけ居 今妓寝せ)




 ### 「の」=格助詞。が。 ぬる=完了の助動詞。「敢(あ)へむ」=「敢(あ)ふ」は他の動詞の連用形に付き、すっかり・・・するの意。 「おろく」=カ行下二段動詞。{「おろか」の「おろ」を動詞化}こころがうつろになる。「居(ゐ)」=ワ行上一動詞「居(ゐ)る」の連用形。・・・いて。 「寝せ」=「寝す」(サ行下二動詞)の連用形。 寝かせて。


いろは歌第62首 (48文字 重ね字無し)
ひんけつに さくらのまなこ みしともふ       わかれゑするや ねめはへぬ
   きりたち よほえ うろそせむ
     おいゐて をあゆ
 (旻月に 桜の眼 見しと思ふ
   別れ怨ずるや 睨め延へぬ
     霧立ち 夜吠え 雨露ぞ攻む
       老い居て 緒零ゆ)






### 見し=「し」は、過去の助動詞「き」の連体形。見た。 思(も)ふ=動詞ハ行四段。「おもふ」の「お」が脱落した形。おもう。怨(ゑ)ずる=うらむ。 や=疑問の意の助詞。 睨(ね)め=にらみ。 延(は)ふ=ハ行下二段動詞。思いを相手に届かせる。 緒=魂をつなぐもの。 いのち。玉の緒。 零(あ)ゆ=動詞ヤ下二。したたりおちる。 旻月(びんげつ)=秋天の月。



いろは歌第63首 (48文字 重ね字無し)
  あをゆきて たんこにとまる さくらはな
    つむしかせけり われへそひ
      おいみえすゑぬ ふねのうち
        ほろゐやもめよ
  (青行きて 団糞に止まる 桜花
     旋風蹴り 我へ添ひ
       老い身え据ゑぬ 舟の内
         襤褸居鰥よ)



###「青」=青みがかった黒い毛色の馬。また、馬一般についてもいう。 団糞=「団」はまるいこと。馬糞(ばふん)。 添ふ=離れずに、そばにつきしたがう。 「蹴り」=(つむじ風が)舞い上げ。 え・・・ぬ=・・・できない。 襤褸居(ぼろゐ)=ぼろ家(舟住まいの)。 鰥=やもめ。




いろは歌第64首 (48文字 重ね字無し)
  さくらもちあり ひとてなし
    えゑみおこせぬ へんやねむ
      はをつけきるに かたうます
        ゆめゐよろほふ そいのわれ
  (桜餅在り 人で無し
     え咲み起こせぬ 瓣や寝む
       歯を付け切るに 佳朶生まず
         夢居よろぼふ 素意の割れ)




### 桜餅=・菓子の一。享保二年に江戸向島長命寺門前で売り出されたという。 人で無し=人ではないもの。本歌にては、人(の命)を喰うという桜鬼。 {え・・・ず(ぬ)」=どうしても・・・できない。 (人ではなく、餅族子なので)花を咲(ゑ)ますことができなという意。 瓣や寝む=瓣(べん=花びら)は眠っているのだろうか。 「歯を・・・生まず」=桜鬼が、桜餅に歯牙をあて喰いちぎっても、佳朶(美しい花枝)が生まれない。 夢居=居(ゐ)は、すわるの意。夢のあるところ。夢の中。この世ともするか。 よろぼふ=(蹌踉う) よろよろゆく。 素意=かねてからの考え。 「割れ」=ラ行下二「割る」の連用形。 あれやこれやと思い心が乱れて。


いろは歌第65首 (48文字 重ね字無し)
さくらのいろに おゆるひと
    はなうちすきて つやみけし
      たまこゑあせぬ ほねもめり
        かむへよそふわ えんをれゐ
  (桜の色に 老ゆる人
     花うち過ぎて 艶身消し
       玉声褪せぬ 骨も減り
         醸む屁装ふわ 縁折れ居)


いろは歌第66首 (48文字 重ね字無し)
  とほりぬけ たなうちにみる さくらこの
    かんはせもゑふ ゆめつきよ
      あひえておそし われやむを
        いねすへまゐろ
  (通り抜け 手中に見る 桜子の
     顔も酔ふ 夢月夜
       会ひ得て遅し 我病むを
         斎寝巣へ参ろ)




### 通り抜け=大阪、造幣局の観桜会にて。 手中(たなうち)=手のひら。「たなうら」に同じ。 「を」=間投助詞。文中・文末で、詠嘆・強調を表す (だ)なあ。 斎寝巣=「斎」は接頭語。名詞に、付き、忌み清めた、清浄な等の添意。



いろは歌第67首 (48文字 重ね字無し)
  よしのやま おになきをりて ゑひもせす
    さくらえはゆれ かほうみぬ
      わろちけあつむ たねとこそ
        いめゐふるへん
  (吉野山 鬼鳴き居りて 酔ひもせず
     桜枝は揺れ 顔生みぬ
       悪霊骨圭集む 種とこそ
         夢居降る瓣)




### 吉野山=奈良県中央部の山。 古来、桜の名所。修験道の地。酔(ゑ)ふ=酔(よ)う。 桜枝=さくらのえだ。 顔(かほ)生みぬ=人の顔になっている花を生じさせている。悪霊(わろち)=「わろ」は形容詞「わろし」の語幹。わる。「霊(ち)」は、複合語として、自然物の霊力・威力をあらわす語。例、「いかずち(雷)」など。 「け(骨圭)」は、獣畜の頭のほね。 「わろちが、けを・・・」の意。 とこそ=・・・ということだ。 夢居(いめゐ)=「夢(いめ)」(=ゆめ。上代語。「寝(い)目(め)」で、眠っていてみるものの意という。)の居(ゐ)るところの意で、夢の中。 瓣(べん)=はなびら。


いろは歌第68首 (48文字 重ね字無し)
  さくらなかむる こつしきの
    そてやふれたり すみゑもゆ
      はけよろほへと うちまひぬ
        わおにゐねせめ あいをえん
   (桜眺むる 乞食の
      袖破れたり 墨絵燃ゆ
        禿げ蹌踉へど うち舞ひぬ
          和鬼率寝責め 愛を得ん)





### 乞食(こつじき)=僧が修行で、人家の前で食をこい求めること、また、その僧。 墨絵(すみゑ)=彫り物。膚絵。 「袖・・・燃ゆ」=(袖が破れていて、彫り物が見えて・・(桜の絵柄が現れ、炎が)燃える(ようである)。 蹌踉(よろぼ)ふ=(老いて)よろよろする。 「ど」=逆接の助詞。・・・が。 「うち」=下の動詞(={舞ひ})の意を強める接頭語。 和鬼(わおに)=「和(・吾・我)」は、接頭語で、名詞、代名詞に付けて、親愛・軽侮の意を表す。 「率寝(ゐね)」=ナ行下二段動詞「率寝(ゐぬ)」の連用形。連れて行って一緒に寝て。




いろは歌第69首 (48文字 重ね字無し)
  よさくらそまむ やみわひし
    はなかこゑせり おにもをる
      すへんつときえ てふたちぬ
        あうめいのゆれ ねろほけゐ
  (夜桜染まむ 闇侘し
     花が声せり 鬼も居る
       数弁つと消え 蝶立ちぬ
         桜鳴の揺れ 嶺ろ暈け居)




###  染まむ=四段動詞「染む」の未然形「染ま」+推量の助動詞「む」。(闇の色が)染み込んでゆくだろう。「花が声」=花の話し声。「せり」=サ変動詞「す」の未然形+完了の助動詞「り」の終止形。・・・している。 数弁(すべん)=花びらの幾枚。つと=副詞。さっと。 立ちぬ=(蝶々が。ぱっと)あらわれた。桜鳴(あうめい)=桜の鳴き声。 嶺(ね)ろ={上代東国方言。「ろ」は接尾語}みね。ね。峰。{例:「足柄(あしがり)の箱根の --のにこ草の/万葉集三三七〇}。 「暈(ぼ)け居」=カ行下二動詞「暈(ぼ)く」の連用形+ワ行上一動詞「居る」の連用形「居」。色や形がはっきりしなくなって。ぼやけて。



いろは歌第70首 (48文字 重ね字無し)
  さくらちりぬる あはれゆゑ
    おにのふきよせ ひとかへす
      こそけしみつも ろめいえて
        ほねをたわむや なゐうまん
  (桜散りぬる あはれゆゑ
     鬼の吹き寄せ 人還す
       去年消し美津も 露命得て
         骨を撓むや 地震生まん)






### あはれ=悲哀。さびしさ。「鬼の吹きよせ 人還す」=(あわれにおもう)鬼が、(散ってしまった桜の花弁=死んだ(鬼が喰った)人々を)息を吹いて寄せ集め、(花弁を)人の姿にしてこの世にもどす。 去年(こぞ)=昨年。 「消し」=カ行下二動詞「消(く)」の連用形「消(け)」+過去の助動詞「き」の連体形「し」。亡くなった。 美津=某嬢の名。 露命得て=露のように消えやすくはかない、この世のいのちを与えられて(生きかえり)。 「骨を撓(たわ)むや 地震(なゐ)生まん」=(ずっと地中にあった)骨をしなやかにするからであろうか、地震を起こすのだろう。


いろは歌第71首 (48文字 重ね字無し)
  さくらにつかれ うめおひて
    こはむとするも えんそなき
      またみをやりゐ ちいろあせ
        ほねぬけよふわ へのしゆゑ
   (桜に疲れ 梅追ひて
      恋はむとするも 縁ぞ無き
        又身を破り居 血色褪せ
          骨抜け酔ふわ への字ゆゑ)
### への字=「御部屋様」の「へ」から、符丁のようにいった語。正妻のこと。 「めの字」は、めかけ。


いろは歌第72首 (48文字 重ね字無し)
  むかふしま さくらもおいて すみそめの
    うゐせよひあへ つねとれぬ
      はなにゑをやる ころきたり
        えほゆ ちわけん
   (向島 桜も老いて 墨染めの
      有為世酔ひ敢へ 常取れぬ
        花に餌を遣る 期来り
          枝吠ゆ 血分けん)



###  向島=向島(むこうじま)。東京都墨田区の一地区。もと東京市三十五区の一。隅田川と荒川放水路にはさまれた江東北部の地。東郊の景勝地で、墨堤(ぼくてい)の桜、百花園、長命寺、三囲(みめぐり)神社などがある。作者海空の生地。「墨染(すみぞ)め」=墨田、僧衣、文身など、掛ける。 有為世(うゐせ)=「うゐ」は、様々の因縁によって生じた現象、また、その存在。絶えず生滅して無常なことを特色とする。{参考:有為の奥山=無常な世を脱することのむずかしさを深山にたとえていう言葉} 「酔ひ敢(あ)へ」=酔いつくし。 「常(つね)」=有為(転変)にあらざる。 「期(ころ)」=時分(じぶん)。「餌(ゑ)」=(花が咲くための、養分)えさ。人なのである。「吠ゆ」=ほえる。 血分けん=血を分け合おうではないか。



いろは歌第73首 (48文字 重ね字無し)
  あきさくら かはやのうちを みつめたり
    ひるにまよふも なんとせむ
      へえしそこねて わゑいれぬけす
        ゐろおほゆ
   (秋桜 廁の内を 見つめたり
      放るに迷ふも 何とせむ
        屁えし損ねて 汚穢入れ抜けず
          遺漏覚ゆ



###  秋桜=コスモスのこと。廁(かわや)=便所。「放(ひ)る」=大小便をする。ひりだす。 「何とせむ」=どうしたものか。「屁え」=屁(へ)の関西なまり。 汚穢(わゑ)=おわい。糞尿。「遺漏(ゐろ)」=「漏(ろ)」は、煩悩(ぼんのう)の意、・・・その(こころ)のこり。 「覚(おぼ)ゆ」=覚えるの文語。(体や心で)感じる。・・・とおもわれる。





いろは歌第74首 (48文字 重ね字無し)
  たひにやみ さくらふるよの はなきんか
    うろせこえすて むゐをとめ
      あいへつけちぬ われもおゆ
        ほねゑしそまり
   (旅に病み 桜降る夜の 花銀河
      有漏世越え捨て 無為を求め
        愛別消ちぬ 我も老ゆ
          骨壊死染まり)







### 花銀河=幾万弁の花びらの散り降るさまを、天空の星河にたとえた。 有漏世(うろせ)=漏(ろ){=煩悩(ぼんのう)}に満ちたこの世。「無為(むゐ)」=仏教語。因果関係に支配される世を超えて、生滅・変化することのないもの。すなわち、涅槃(ねはん)、真如(しんにょ)といった絶対的真理のこと。ぶい。⇔有為(うゐ)。 「求(と)め」=もとめて。たずねて。 愛別=「愛別離苦」は、仏教で、八苦の一。親、姉弟、妻子など愛するものたちと別れる苦しみ。 「消ちぬ」={「消つ」はタ行四段動詞}なくした。「老ゆ」=ヤ行上二段動詞。老いる。 「壊死(ゑし)」=冷・熱・毒物・血流障害・打撲などにより人体の組織または細胞が部分的に死ぬこと。 







       


いろは歌第75首 (48文字 重ね字)
  きにやみて さくらあをしと おもふよは
    なれゆめへたち ほけまろひ
      うせぬるえんの すゑかこつ
        ゐいわりそねむ
   (気に病みて 桜青しと 思ふ夜は
      汝夢へ立ち 呆け転び
        失せぬる縁の 末託つ
          遺意割り嫉む)





###  汝(なれ)=なんじ。おまえ「呆(ほ)け転(まろ)び」=「呆(ほ)く」(下二)は、ぼんやりする、知覚がにぶくなるの意。「転(まろ)ぶ」は、たおれる、ころがる。 「ぬる」=完了の助動詞「ぬ」の連体形。・・・てしまった。 末(すゑ)=ゆくすえ。結末。 託(かこ)つ=おもいわびて、なげき言う。 遺意(ゐい)=おもいのこし。 「割る」=わけをくわしく説明する。 「嫉(そね)む」=嫉妬(しっと)する。


私海空が作ったいろは歌 第76首~第100首(48文字 重ね字無し) 

2009年02月01日(日) 20時42分
いろは歌第76首 (48文字 重ね字無し)
  よへのさくらを あしためつ
    わおにねふれは ほとひなえ
      いろかもうせて ゑみまけぬ
        こちそきすむや ゐりんゆる
   (昨夜の桜を 朝愛づ
      和鬼舐れば 潤び萎え
        色香も失せて 咲み歪げぬ
          東風退き清むや 萎輪揺る)




### 「昨夜(よべ)」=ゆうべ。「朝(あした)」=あさ。 「愛(め)づ」=いとおしみ、あじわう。「和鬼」=「和」は、親愛の情を添える接頭語。「舐(ねぶ)れば」=舐(な)めるので。「潤(ほと)び萎(な)え」=ふやけてしおれて。 「咲(ゑ)む」=花をひらく。「歪(ま)ぐ」=まげ、おりたわめる。 「ぬ」は、完了の助動詞。東風(こち)=春風。 「退(そ)く」=遠く(吹き)はなれる。「清(す)む」=清(きよ)くなる。 萎輪(ゐりん)=なえしおれた花びら。



いろは歌第77首 (48文字 重ね字無し)
  さくらふきおる はしのもと
    にそうやみをり よろほひて
      あいえんかこち むゐたつぬ
        われへゑまなけ ゆめねせす
   (桜吹き降る 橋の下
      尼僧病み居り 蹌踉ひて
        愛縁託ち 無為尋ぬ
          我へ絵馬投げ 夢寝せず)
        


### 「降(お)る」=上二段動詞。おりる。 尼僧(にそう)=出家した女。びくに。 「蹌踉(よろぼ)ふ」=よろよろとあるく。 「託つ」=うらみごとをいう。 「無為(むゐ)」=仏教語。因果関係に支配される世界を超越し、生滅・変化することがないもの。ぶい。尋(たづ)ぬ=(わたしに)たずねる。 絵馬(ゑま)=祈願又は報謝のため神社や寺に奉納する板絵・額。





いろは歌第78首 (48文字 重ね字無し)
  もちつきに さくらあたしや われえみぬ
    ひをへ とかまのほふるめり
      なはいろうせて こけむゆゑ
        およそねんゐす
  (望月に 桜徒しや 我え見ぬ
     日を経 利鎌の屠るめり
       汝は色失せて 痩けむゆゑ
         凡そ念委す) 




### 望月(もちづき)=陰暦十五夜の満月。  徒(あだ)しや=むなしいことであるなあ。 「え・・・ぬ」=「え」は、「得」。能。下に打ち消しの語を伴い、どうしても・・・できないの意。「経(へ)」=「経(へ)る」の文語形「経(ふ)」{←終止形}の連用形。(日が)経(た)って。 「利鎌(とがま)=切れ味のよい鎌。「屠(ほふ)る」=(ここでは、桜の)体をきりさき、散らす。「めり」=推定の助動詞。・・・とおもわれる。・・・とみえる。 「汝(な)」=なんじ。おまえ。 「痩(こ)く=痩(や)せ細る。 ゆゑ=(やせてゆくだろう)から。 凡(およ)そ=そもそも。「委(ゐ)す」=なりゆきを諦観(ていかん=つまびらかにみること。また、あきらめること。







いろは歌第79首 (48文字 重ね字無し)
  さくらあめきて けんゐます
    よひぬるわれへ ほねはふり
      みつこをなせと やおにゑむ
        しちそうのたえ かいろもゆ
   (桜叫きて 幻異増す
      酔ひぬる我へ 骨放り
        水子を作せと 八鬼笑む
          七僧の絶え 崖廬燃ゆ)




### 「叫(あめ)く」=「あ」は擬声、「めく」は接尾語。さけぶ。「幻異」=妖怪変化。あやかし、異形(いぎょう)の化け物ども。 「放(はふ)り」=ほうり。投げて。 水子(みづご)=流産した胎児。八鬼(やおに)=八体の鬼。 笑(ゑ)む=わらう。 七僧=旅僧七人。 「の」=主格の格助詞。 が。 「絶(た)え」=「絶(た)ゆ」(下二動詞)の連用形。死んで。 「崖廬(がいろ)」=崖(がけ)の上の廬(いおり){=草や木をむすぶなどしてつくった粗末な家。隠遁(いんとん)者の仮住居など。



いろは歌第80首 (48文字 重ね字無し)
  さくらかえもて つるきなし       
    やみはふおにを こりうちぬ
      ゆめよすとあけ ひのゑまむ  
        われほねたへゐ いろそせん
  (桜が枝もて 剣作し
     闇這ふ鬼を 嘖り討ちぬ
       夢夜数度明け 日の笑まむ
         我骨食べ居 情色ぞせん)


###  桜が枝(さくらがえ)=桜のえだ。 「もて」=「持ちて」の音変化。手段・材料を示す。・・・で。 這(は)ふ=(獣、虫などが、伝うよう にして前へすすむ。うろつきまわる。 「嘖(こ)る」=叱(しか)る。数度(すど)=すうど。すたび。たびたび。「日の笑まむ」=(夢の中で幾度も夜が明けて、陽光が差そうとする。「我骨食べ居」
 =私が、骨をたべていて。 情色(いろ)=(主に男女間の)情事恋愛。 ぞ=係助詞。 主に文中にある場合、文末の活用語は連体形で結ぶきまり。{「ぞ」→「せん」(「せ」はサ変動詞「す」の未然形「せ」、「ん」は、意志の助動詞「ん」の連体形)






いろは歌第81首 (48文字 重ね字無し)
  さくらのゑちつ かきゐたり
    しゆうをわけて えんとめぬ  
      やみよにはなす むねもそへ 
        おいほれまろひ こせあふる
   (桜の絵地図 描き居たり
      雌雄を分けて 縁留めぬ
        闇夜に話す 旨も添へ
          老い惚れ転び 後世煽る)



### 「描(か)き居(ゐ)たり」=「居(ゐ)たり」は、ワ行上一動詞「居(ゐ)る」の連用形「居(ゐ)」+完了の助動詞「たり」。描(か)いている。 雌雄(しゆう)=桜の性別。 「縁留めぬ」=(絵地図上に各々の桜との因縁などをかきとめている。 旨(むね)=意味、主旨、おもむき。 添へ=(かき)添えて。「老い惚(ぼ)れ」=ラ行下二動詞「老い惚(ぼ)る」の連用形。年をとってぼけて。「転(まろ)び」=ころび、たおれ。 「後世(ごせ)」=死後の世界。来世(での安楽)。 「煽(あふ)る」=刺激して、感情を燃えたたせたり、行動にかりたてたりする。




いろは歌第82首 (48文字 重ね字無し)
  きにやみて さくらあをしと おもふよそ
    こけつのひかり ちいろます
      ゆめほえゐれは むねうせなん
        わたへぬるゑ
   (気に病みて 桜青しと 思ふ夜ぞ
      孤月の光 血色増す
        夢吠え居れば 胸失せなん
          腸経ぬる蛙)




### 孤月(こげつ)=さびしげに見える月。 「血色」=血のように見える色の月。 増す=段々濃くなる。 「夢吠え居れば 胸失せなん」=夢が吠えているので、胸がやぶれ散る(ような苦しみを感じる)ようになるであろう。{「なん(なむ)」=連語。完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」に推量の助動詞「む」。動作・状態の実現すること。・・・するようになるだろう。「腸(わた)経ぬる蛙(ゑ)」=経(へ)は、ハ行下二動詞「経(ふ)」の連用形「経(へ)」+完了の助動詞「ぬ」の連体形「ぬる」。 蛙(ゑ)は、かえる。かわず。 腸江(はらわたという川)をくだる蛙、の意で、いわゆる‘断腸の思い‘のことか。 いろは歌第一首参照。







いろは歌第83首 (48文字 重ね字無し)
  こはるひや さくらちよかみ きりぬいて
    あまたのゆめを うけにとつ
      われえもねせす しろへなん
        ゑむほゐおそふ
   (小春日や 桜千代紙 切り抜いて
      数多の夢を 筌に閉づ
        我えも熱せず 死路へなん
          咲む暮帷襲ふ)




###  小春日=小春({暖かで春に似ているからという})のころのうららかな日。また、その日差し。 桜千代紙(さくらちよがみ)=桜花文様を刷ったもの。本首にて、東京、鳥越神社門前の紙店謹製。「数多(あまた)の・・・閉づ」=たくさんの(お前とふたりで見たこの世の夢を筌(魚をとる道具)にしまう。えも・・・ず={副詞「え(得)」に係助詞「も」が付いた語}(打ち消しの語を伴って)どうにも・・・できない。 「熱(ね)す」は、「ねっす」の「つ」の無表記。 (色々の煩悩、夢々に熱中する。死路(しろ)=死にゆく、余生。 「なん」=「なむ」とも。 上の事柄を強意、余情を添える。 「笑(ゑ)む・・・襲ふ」=「暮帷(ぼゐ)」{「帷」は、とばり}は、夕暮れの、桜色の景情。



いろは歌第84首 (48文字 重ね字無し)



  さくらにかよふ ゆりいけて
    はるをやむみへ そめおきぬ
      なのたまもあえ うせんとす
        われちつゑほし ゐろこひね
   (桜に通ふ 百合活けて
      春を病む身へ 染め置きぬ
        汝の魂も零え 失せんとす
          我千杖欲し 遺漏恋ひ寝)



### 「通(かよ)ふ」=似かよう。「活(い)ける」=生花をする。「春を病む身」=桜ぐるひの身。 「汝(な)」=汝(なんじ)。お前。「魂(たま)」=たましい。いのち。 「零(あ)え」=「零(あ)ゆ」(下二段動詞)の連用形。こぼれおちて。 失せんとす=なくなろうとしている。 千杖(ちづゑ)=千の杖(つえ)。 落胆のささえのたとえ。 欲(ほ)し=シク活用の形容詞。ほしい。 「遺漏」
=煩悩(ぼんのう)ののこり。





いろは歌第85首 (48文字 重ね字無し)
  いちやうをは ふゆのさくらと もひそむる 
    わかみにゑまん こけしなれ
      あほよたつねて おへぬめり
        ろえきゐせす
   (銀杏をば 冬の桜と 思ひ初むる
      我が身に咲まん 焦げし汝
        阿呆世訪ねて 追へぬめり
          漏液慰せず)



### 「思(も)ふ」=ハ行四段動詞。「おもふ」の音変化。「初(そ)む」=動詞の連用形に付き、・・・しはじめるの意。 「焦(こ)げし汝(なれ)」=こげてしまったお前。 「阿呆世」=あの世から来たこの世、の意。 「めり」=・・・のようだ。 「漏」は、煩悩(ぼんのう)のある状態。 「慰(ゐ)す」=サ変動詞。なぐさめる。



いろは歌第86首 (48文字 重ね字無し)
  さくらのえたに かへるひは 
    てんちいろぬり つきすほめ 
      ふしやまをけせ おなゐわれ
        あそゑむねにゆ とうもこよ
     桜の枝に 帰る日は
       天血色塗り 月窄め
         富士山を消せ 御大地割れ
          吾ぞ咲む峰見ゆ 杜宇も来よ)



### 「吾(あ)ぞ咲(ゑ)む峰(ね)見ゆ」=自分が花弁となって咲く桜木の植わる峰が見えることだわい。 「杜宇(とう)」=ホトトギスの異称。 「来(こ)よ」=カ変動詞「来(く)」の命令形。




いろは歌第87首 (48文字 重ね字無し)
  いしやまの ひさくらかけに おうなゐて
    えたゆりねむる こちつきよ
      われゑをとへは もろめふせ
        みそほんぬあす
   (石山の 緋桜陰に 媼居て
      枝揺り睨むる 東風月夜
        我故を問へば 双眼伏せ
          身ぞ奔怒填す)


### 石山(いしやま)=東京・向島(むこうじま){=作者海空(かいくう)の出生地}花街の石材商の置き囲い。 緋桜(ひざくら)=ここでは、緋寒桜、薩摩緋桜などではなく、「緋」の色の桜の意。媼(おうな)=年のいったおんな。 「睨(ね)むる」=「睨(ね)む」の連体形。にらむ。きっと見る。 東風月夜(こちづきよ)=春風の月夜。 「故(ゑ)」=(その女の尋常ではない様子の)わけ。双眼(もろめ)=両方の眼(め)。 奔怒(ほんぬ)=ひどく憤(いきどお)ること。 「填(あ)す」=みたす。





いろは歌第88首 (48文字 重ね字無し)


  さくらにふれて ひつきへぬ
    おいたるみのち はなうけん
      ゆめこそすえね わろをゑり
        かせもやまむと あゐよほし
   (桜に狂れて 日月経ぬ
      老いたる身の血 花受けん
        夢こそ饐えね 我を抉り
          風も病まむと 藍夜歩し)




### 「饐(す)え}=「饐(す)える」の文語形「饐(す)ゆ」の連用形。元意は、腐って、酸っぱくなって。「こそ→活用語の已然形(いぜんけい)」の係り結びの形式。(私とお前とで見たこの世の夢が・・・)。 抉(ゑ)り=(二人の心と身を)えぐって。「風も病まむと」=(吹きしきるこの世の)風までも病んでゆくだろうと(おもいながら)。 「藍よ(あゐよ)」=月も見えない藍色の暗夜(の残生)。 「歩(ほ)す」=サ変動詞。あるく。 あゆむ。



いろは歌第89首 (48文字 重ね字無し)
  さくらよや ゆみはりのつき にしまとひ
    こそたれをいん ゑへもせす
      なうちねめゐて おろかけむ
        あほえ わふる
   (桜夜や 弓張りの月 虹纏ひ
      今夜誰を射ん 酔へもせず
        汝うち睨め居て おろ欠けむ
          怒鴉吠え 吾震る)



### 弓張りの月=上弦、また下弦月。 纏(まと)ひ=着て。よそおって(いるように見えて)。 今夜(こぞ)=こんや。 「射(い)ん」=(今夜、だれ(だれの命)を目当てて)弦月(げんげつ)の弓から矢を放つのであろうか。 「酔(ゑ)へもせず」=「酔(ゑ)ふ」は、「酔(よ)ふ」の古語。 (そんなことを考えると)酔えもしない。汝(な)=お前。君。 うち=接頭語。動詞に付けてその意を強め、または音調を整える。{例:「打ち興ずる」「打ち続く」}「睨(ね)む}=にらむ。「おろ」=疎。接頭語。わずかに、ぼんやりなどの添意。「欠けむ」=影がうすくなってゆきそうだよ。
「怒鴉(ぬあ)=憤怒(ふんぬ)の形相のからす。 吠え=たけり鳴き。 「吾(わ)」=我(わ)。一人称の代名詞。私。 「震(ふ)る」=ラ行四段活用。ふるえる。


いろは歌第90首 (48文字 重ね字無し)
  にちりんいつる さくらやま
    なとわへひしき そめてもゆ
      よのねけこせぬ みをうれふ
        かむゐえあはす ゑたおほろ
   (日輪出づる 桜山
      汝と吾へ緋色 染めて燃ゆ
        世の峰蹴越せぬ 身を憂ふ
          神居え会はず 会朶朧ろ)



### 日輪(にちりん)=太陽。 汝(な)と吾(わ)=お前と私。「緋色(ひじき)」=ひいろ。深紅色。スカーレット。「世の峰(ね)」=世間を、越すに越せない険峻な峰脈にたとえた。憂(うれ)ふ=憂(うれ)える。つらく、くるしみおもう。 「神居(かむゐ)=「かむ」は、神との複合語に現れる音形。「居(ゐ)」は、「雲居」の「居」で、あるところ。おられる場所。え会はず」どうしても会えぬ。たどり着けない。「会朶(ゑだ)」=二人連(なら)んで咲くことになろう、桜木の枝。「朧(おぼ)ろ」=さだかではないさま。ぼうっとかすむさま。              




いろは歌第91首 (48文字 重ね字無し)
  かけんのつきや さくらねむ
    ひとはみしゆゑ もろえたを
      うちほふるめり にこそぬれ
        わおいあせゐて なまよへす
   (下弦の月や 桜睨む
      人食みしゆゑ 諸枝を
        討ち屠るめり 丹こそ塗れ
          吾老い褪せ居て 生酔へず)



### 下弦の月=弦の部分は刃(やいば)であろうか。「睨(ね)む」=(月が、食人鬼たる桜を)にらむ。 諸枝(もろえだ)=名詞の上に付いて、「両方の」 「多くの」 「共にする」などの意を表す。 「屠(ほふ)る」=切り裂き、また、切り殺す。「丹(に)こそ塗(ぬ)れ」=これは、「こそ」による係り結びである。元形は、「丹(に)塗(ぬ)る」{=(斬られた諸枝たちの返り血で、下弦の月が)、あかく染まる。 「生(なま)」=副詞として、なんとなく。



いろは歌第92首 (48文字 重ね字無し)
  やまさくらはな ひにもえて
    おいするわれを むかふめり
      ゑとのうろみそ けちぬへき
        ゐこんつゆほせ あしたねよ
   (山桜花 陽に燃えて
     老いする我を 迎ふめり
       穢土の有漏身ぞ 消ちぬべき
         遺恨露干せ 明日寝よ)



### 「老(お)いす」=サ変動詞。老(お)いる。「めり」=推量の助動詞。・・・のようだ。 「穢土(ゑど)」=仏教語。迷いから抜けられぬ、けがれるこの世。 ⇔浄土(じょうど)。 「有漏身(うろみ)」=「漏(ろ)」は煩悩(ぼんのう)のこと。 「消ちぬべき」=「消(け)ち」は、「消(け)す」の古形「消(け)つ」{四段動詞}の連用形。 「ぬべし」は、連語。・・・にちがいないの意。 係り結びの法則から、{「ぞ(係助詞)」→「ぬべき」(連体形)}となる。 「遺恨(ゐこん」=この世のうらみつらみ。 「露(つゆ)干(ほ)せ」=露は涙。涙をかわかすとよい。 



2008年10月12日
いろは歌第93首 (48文字 重ね字無し)
  さくらかたまそ みいれぬる  
    わろうきよすて ゐんこもり
      えにしのちはな ゑむゆめけ
        ひとつねやおふ あほせをへ
   (桜が魂ぞ 魅入れぬる
      我浮世捨て 院籠り
        縁の血花 咲む夢蹴
          一つ寝屋覆ふ 阿呆世終へ)




###  「桜が魂(たま)」=桜のいのち。 「魅入(みい)れぬる」={「ぞ」 →「ぬる」(連体形)、係り結びの法則。}「魅入る」=執念をかけて、(魔性などが)とりつく。 みいられてしまったことだ。 「我 (わろ)」=上代東国方言の代名詞。われ。 「院(ゐん)=ここでは、(ふたりの?)‘隠れ宿’などとか。 「縁(えにし)」={もと「し」は、強意の助詞。}えん。ゆかり。 「咲(ゑ)む」=咲(さ) く。 「蹴(け)」=下一段動詞「蹴(け)る」の連用形。蹴って。 「寝屋(ねや)」=ねま。寝所。 「阿呆世(あほせ)」=おろかなこの世、世間。 「終(を)へ」=終えて。おしまいにして。




いろは歌第94首 (48文字 重ね字無し)
  にこりみつ はゆるさくらそ おとろしき
    うすちのもえて ふねかまむ
      たれやよをゐん せへいけぬ
        あわなほゑひめ
   (濁り水 映ゆる桜ぞ おどろしき
      薄血の燃えて 舟噛まむ
        誰や余を率ん 瀬へ行けぬ
          泡なほ故秘め) 



###  「映(は)ゆる」=「映(は)える」の文語形「映(は)ゆ」の連体形。 うつる。 「おどろし」=おそろしいようすである。おどろおどろし。 {桜ぞ・・・き}→係り結び。 「薄血(うすち)の燃えて」=(濁り水に映ったソメイヨシノたちの)淡い血像が燃え立って。 「舟噛(か)まむ」=舟べりを噛もうとする。 「誰や・・・ん」=だれか(川瀬と反対の方向へ)私を連れていこうとしているのだろうか。 「余(よ)」=我。 「なほ」=さらに。でさえも。いっそう。 「故(ゑ)」=「ゆゑ」の音変化。わけ。




いろは歌第95首 (48文字 重ね字無し)
  さくらのこへん ぬきをりて
    よろつかそふる なれやまひ
      みもおにとけし ちはたうせ
        めねすゑほえむ ゐわいあゆ
   (桜の五弁 抜き居りて
      万数ふる 汝病ひ
        身も鬼と化し 血肌失せ
          目根据ゑ吠えむ 遺穢零ゆ)



### 「万(よろづ」=散った桜の花びらの幾万枚。 「汝(なれ)」=なんじ。お前。 「病(やま)ひ」=ハ行四段動詞「病(やま)ふ」の連用形。病気になって。 「数(かぞ)ふる」=ハ行下二段動詞「数(かぞ)ふ」の連体形。かぞえる。 「化(け)し」=サ変動詞「化(け)す」の連用形。変化して。 「目根(めね)据(す)ゑ」=厳しい視線をおく意の{目を据える}を強意した。 「む」は意志の助動詞。 「遺穢(ゐわい)」=伏意。 「零(あ)ゆ」=したたりながれる。




いろは歌第96首 (48文字 重ね字無し)
  さくらきやはむ わかたまを
    おいもすえぬる うろみこそ
      ちあせほねめれ しとゆへり
        ゑんけつよひゐて なにのふ
   (桜木や食む 我が魂緒
      老いも饐えぬる 有漏身こそ
        血褪せ骨減れ 死処結へり
          円月呼び居て 何宣ぶ)



### 「桜木(さくらぎ)や食む 我が魂緒(たまを)」=桜木が私の命(魂(たま)の緒(を))を喰ってしまうのだろうか。 「饐(す)えぬる」=くさってすっぱくなってしまった。 「有漏身(うろみ)」 =「漏(ろ)」は煩悩(ぼんのう)。煩悩有る身。 「減(め)れ」 =「減(め)る」{おとろえる。よわる。へる。}の已然(いぜん) 形。前出の「こそ」による係り結びの強意。 「死処(しど)」= 死に場所。 「結(ゆ)へり」=「結(ゆ)ふ」{もうける。つくる。} の命令形+完了の助動詞「り」。 円月(ゑんげつ)=満月。 「宣(の)ぶ」=のべる。




いろは歌第97首 (48文字 重ね字無し)
  としわすれなり おほみそか
    ひつきのさくら あけやるに
      ちむろはねへえ こゑたてぬ
        めんもうせをゆ ゐいまよふ
  (年忘れなり 大晦日
     棺の桜 開け遣るに
       血室は寝屁え 声立てぬ
         面も失せ瘁ゆ 遺意迷ふ) 



### 「棺(ひつぎ)の桜」=年ごとに散った桜弁を己れの棺桶(かんおけ)に敷きためて、あの世への舟とすること。 開け遣るに=棺桶の蓋をあけのけると。 「血室(ちむろ)」=血すなわち桜弁、人のいのちを貯めてある部屋。{例:氷室(ひむろ)、麹室(こうじむろ)など} 「寝屁(ねべ)え」=腐朽し饐(す)えきった花びらの醸(かも)す酷臭。 「声立てぬ」=放屁してとりすましている意。 「面」=桜弁または人であったあいだの美しかった面貌。 「瘁(を)ゆ」=病みおとろえ、よわる。 「遺意(ゐい)」=桜の花につつまれてあの世へ旅立ちたいという遺言。




         




いろは歌第98首 (48文字 重ね字無し)
  あのよにも さくらゑまふや こへんなる
    すかためてむと われほつし
      うせぬきみおひ ゐろね ちえそけ
        をはりいゆ
   (あの世にも 桜咲まふや 五弁なる
      姿愛でむと 我欲し
        失せぬ君追ひ 遺漏寝 血枝削げ
          終はり癒ゆ) 




###  「あの世にも・・・五弁なる」=「あの世にも五弁なる桜咲まふや」 の倒置。あの世でも、花弁が五枚の桜は咲いているのだろうか。 「愛(め)でむ」=「愛(め)づ」は賞賛する、おもいしたう。「む」は意志の助動詞。 欲(ほっ)し=・・・したいとおもい。「遺漏(ゐろ)」=「漏(ろ)」は煩悩(ぼんのう)。煩悩ののこり。 「寝(ね)」=ナ行下二動詞「寝(ぬ)←終止形」の連用形。寝て。 「血枝(ちえ)」=血の流れるえだ、の意で上肢下肢、腕も脚も。 「削(そ)げ」=削(けず)り取られたように痩せこけて。 「終(を)はり」=最期。臨終。 「癒(い)ゆ」=「癒(い)える」の文語形。




いろは歌第99首 (48文字 重ね字無し)
  わかおもひ さくらによする いろはうた
    ゆめこそゑまへ ちやあせむ
      ほねみをけつり えんのふて
        きゐなしとれぬ
   (我が思ひ 桜に寄する いろは歌
      夢こそ咲まへ 血や褪せむ
        骨身を削り 厭の筆
          鬼為生し取れぬ)



### 「夢こそ咲(ゑ)まへ」=(「こそ」による「夢咲(ゑ)まひ」の係り結び。)「笑(ゑ)まふ」は連語で、「笑(ゑ)む=咲(ゑ)む」に継続の助動詞「ふ」の付いたもの。夢の花が咲いたものだなあ。「血や褪(あ)せむ」=(桜にいのちを吸われてしまって)血が淡(うす)くなるのだろうか。 「厭(えん)」=いとうこと。 「鬼為(きゐ)」=この世のものとも思われぬ仕事、偉業。 「生 (な)す」={「なす(成・為)」と同源}産む。




いろは歌第100首 (48文字 重ね字無し)
  こうほふとのに みちひかれ
    さくらゑまする いろはもし
      よえんたつねて ぬきあめり
        ゐをけやせなゆ へそおむわ
  (弘法殿に 導かれ
     桜咲まする いろは文字
       余縁尋ねて 抜き編めり
         胃桶痩せ萎ゆ 臍怖むわ)



### 弘法殿(こうぼふどの)=弘法大師空海。(「海空(かいくう)」戯称のこと御容赦。) 「咲(ゑ)まする」=「咲(ゑ)ます」{「す」は使役の助動詞。咲かせる。}の連体形。 「余縁(よえん)」=わたくしの縁象。 「抜き編めり」=えらびととのえた。 「胃桶(ゐをけ)」=胃袋という桶(おけ)。 「萎(な)ゆ」=下二段動詞。ぐったり(、うんざり)する。萎(な)える。 「臍(へそ)怖(お)むわ」=「怖(お)む」は、マ行下二段動詞。 (自分作のいろは歌が、まさか百首も出来るものかと)気おくれしたりひるんだりするものだわい。