Criminal-暗殺者- 

April 22 [Thu], 2010, 23:40

「……無となりし魂よ」

大きく開いた窓から吹き込む風に、付属のカーテンが大きな動きを見せて靡く。

「天の闇に今還れ」

辺りは静けさに包まれた世界。
ただ、それだけの世界だった。

そんな中、少女の静かな、しかし凛と部屋に響き渡る声が反響して空気に微かな波紋を広げる。

「闇より暗いこの地より」

月明かりの下で紡がれるこの詩(ウタ)は、彼女自身の為のものではない。
この少女の声の主は、白い仮面を顔に付けた人物だった。
彼女はただ、その場に立ったままで目前に視線を落としている。

『仮面』の言葉は、今目の前に在るモノへのレクイエムだった。

「清らかな光となって……」

彼女はそこで言葉を終えると、ゆっくりと息を吐く。


『仮面』の表情は、着けている仮面で隠されてしまっていて全く分からない。
闇の中に響いたその声にも、人が本来話す時に無意識にそうなってしまう声の抑揚が見られず、その心情を感じ取ることは難しかった。

ただひとつ確かなのは、『仮面』が追悼の詩を口にしたという事だけ。
そしてまるでそんな『仮面』の言葉に答えるかのように、闇の中に一筋の輝きが宿る。

窓からは淡い月明かりが落とされている。
そしてその光は、彼女の手元で反射したのだった。

『仮面』が片手に持っているのは、闇に紛れる漆黒の柄とは対照的な、白に似た輝きを放つ物。
細く薄く繊細ながらも、どこか強さを思わせる一振りの刀である。
その刀は、まるで己の存在を誇示するかの様に“銀の殺気”を携えていた。

『仮面』の目の前には、いつもと何ら変わりのない日常の光景が広がっている。
漆黒の闇と淡い光のコントラストの中、濃い紅色を携えた液体が床に膜を張り、月明かりに照らし出されている。
その水面は僅かに流れる室内の空気に微かな波を立て、緩やかな波紋を広げていた。

独特な薫りが風に乗って『仮面』の鼻を掠める。
そしてその湖の中心にそれをこの場に具現させたそもそもの原因が力無く転がっているのを、彼女は仮面の裏側に隠された瞳でしっかりと捉えていた。

『仮面』がその手に握りしめている刃、その切っ先からは鮮やかな深紅がヒタヒタと音を立てながら零れ落ちている。
そしてその直下には、既に彼女の視界の紅い湖と同じ色の、小さな水溜まりが出来ていた。


詩の声が消えると、落ちる赤い雫以外に、音を奏でるものは無くなった。
そしてその沈黙を埋めるかの様に、白いレースカーテンが視界の端で、一度だけフワリと靡く。
それは聴覚には作用せず、視覚でのみその存在を訴えていた。
しかしこの空間には、それを気にする者は誰ひとりとして居ない。

「……行くぞ、ノクターン」

低い男の声が、『仮面』に言葉を投げかけた。
『仮面』はその声に反応し、しかし驚きの様子は見せずにゆっくりとそちらへ視線を流す。
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趣味の範囲ですが、本人はとても楽しんで書いてますので、良かったら閲覧していってくださいw

内容としては恋愛ベースのファンタジーダークSF学生ものとなっています。
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